真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白衣の生下着 太股ねぶり」(1995/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:井戸田秀行・北村聰一郎/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:里中未来・桃井良子・青木こずえ・樹かず・真央はじめ・荒木太郎・山本竜二)。
 ハイテンポな劇伴起動、局部―パンティは着用―にスポットを当てる画に乗せてクレジットが走り、出揃ふと暗転してタイトル・イン。床に伏せる男を白衣の看護婦が検温するのを、旧旦々舎の庭から抜く。軽い脳梗塞を起こした実業家の辰巳剛(山本)は、友人が院長の病院から通はせる劇中用語で付き添ひ看護婦の小谷か古谷綾子(里中)に、私はもう長くない的な泣き落としから最終的には押し倒して、幼少時親に見付かり中断されたお医者さんごつこの続きを求める。“特別看護料”もちらつかされ傷口がパックリと開いてだ腫れを消毒だと攻守が交替する愉快な事後、辰巳邸を辞す綾子は辰巳の長男・タカユキ(荒木)と擦れ違ふが、陰鬱といふ訳ではないにせよ非人間的スレスレに冷淡なタカユキは、父親に全く関心がない態度を露にする。妻・マリ(桃井)との会話もそこそこに、弟・ヒロユキ(樹)が美味しさうに夕食を摂る食卓にもつかずにタカユキは就寝。ヒロユキは兄に蔑ろにされるマリに言ひ寄るも、ここは固く拒まれる。翌日だか後日、綾子にタカユキとの疎遠に関して話を振られた辰巳は、自らがタカユキの幼少時にも、お医者さんごつこを必要以上に叱責してしまつた過去を告白する。
 配役残り真央はじめは綾子の彼氏、要は男優部濡れ場要員ながら、家族はバラバラで患者は矢鱈元気と、綾子の愚痴を聞く形で辰巳家の外堀を埋める作業に側面的に参加する。ファースト・カットから挑戦的に中盤の火蓋を切る青木こずえは、昏倒の報を聞きつけ辰巳邸に乗り込む、辰巳の愛人・ユカ。閉塞した辰巳家を揺さぶる動因を果たすと同時に、一流のバランス感覚で華麗に飛び回る。
 最後の最後で豪快に卓袱台が引つ繰り返るのも通り越し吹き飛ぶ、浜野佐知1995年ピンク映画第十作。因みにこの年はピンクが全十二作と、薔薇族が更にもう一本。量産型娯楽映画は、現に量産してこそ花よ。次男には自分達よりも長生きするとすら呆れられる、怪物的な家長が支配する一家。父親に距離をとる長男は心を閉ざし、放置された兄嫁は次男坊は拒絶しつつも、家長には普通に手をつけられてゐたりもする。そこに家長の愛人が飛び込んで来ていよいよ収拾がつかなくなる中、外から家に入るヒロインは兄嫁の不遇を慮る。里中未来もエクセスライクな覚束なさを感じさせることもなく、てんこ盛りの女の裸込みで頑丈に出来上がつた桃色のホーム・ドラマにあつて、舞ひ降りた白衣の天使―当該件では私服だけど―が荒木太郎の決定力で綺麗に形を成すタカユキの屈折を解き解すハイライトの強度は、文句なく素晴らしい。綾子に背中を押されたタカユキがマリとの夫婦仲を修復し、一人濡れ場の蚊帳の外に置かれたヒロユキを、青木こずえが持ち前のフットワークの軽さで救済する展開も磐石。となるとここは、全員に家を出られた辰巳がこれまでの傍若無人が祟つた“そして誰もゐなくなつた”孤独に叩き込まれる因果応報が流れに沿つた順当にして磐石な着地点。かと思ひきや、堂々とバレてのけるがよもや締めの濡れ場に綾子が辰巳との二度目の、劇中通算三度目となるお医者さんごつこを受け容れるとはまさか思はなんだ。辰巳を篭絡した綾子が、財産の独り占めを狙ふとでもいふ腹ですらなく、綺麗に繋がつた、繋がつてゐた筈の物語の流れが、ものの見事に水泡に帰すラストには本当に吃驚した。確かに、あるいはある意味でのいはゆる“衝撃の結末”。里中未来と荒木太郎の絡みで棹を立てる前に心洗はれた、俺のエモーションを返して呉れ。量産型娯楽映画は量産するのが花と先に述べたが、下手な鉄砲が当たるは当たるにせよ当たり処が悪かつたかのやうな一作である。


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