真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳事務員 しやぶれ!」(2014/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/脚本・監督:後藤大輔/プロデューサー:池島ゆたか/原題:『夢と同じ物』/撮影:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/タイミング:安斎公一/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宇野寛之・佐藤光、もう一名/編集助手:鷹野朋子/現場応援:中川大資/出演:麻宮ももえ・松井理子・衣緒菜・なかみつせいじ・津田篤・大場一魅・ジャコぱす太・小関裕次郎)。出演者中、小関裕次郎は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、チャンチャチャンチャチャンと御馴染みのテーマをパクッた劇伴起動。パーティーグッズの安物のヅラを被り、銭形平次気取りで帰宅した加藤伸輔(なかみつ)を、妻の静江(松井)もお静気取りで迎へる。今回―も―時雨ではなく静江である所以は、平次とお静の夫婦(めをと)を成立させる為のギミックか。それはさて措き少し目を放した隙に松井理子が首から上含め完全にオバチャン体型で、特定のツボの持ち主以外には正直辛からう。台所にて夫婦生活がオッ始まるのは、伸輔の夢で一旦オトす。零細印刷会社「うざきや印刷」社長である伸輔が、自宅から直行したのか朝つぱらから営業してゐるSMクラブ「夜の女王様」(女王様は大場一魅、不完全消去法で奴隷は小関裕次郎)にチラシを納品。ところが女王様の注文は二千枚にも関らず実際刷つたのは二万枚と、枚数が一桁違つてゐた、とんだ五万節ならぬ二万節。出社した伸輔は、巨乳事務員・宮沢萌(松宮)を叱責する。ここで配役残りジャコぱす太は、技術職を方便に他の業務の一切を渋る「うざきや印刷」従業員・後藤。ジャコぱす太などと変名感がオネストな名義の正体は、ピンク映画界の小沢仁志こと後藤大輔その人である、因みに和義は工藤正典。伸輔に帰らされた萌が帰宅すると、カメラマンの同棲相手・清顕(津田)はアラビアンな扮装のケイ(衣緒菜)を家に連れ込んでゐた。萌が家出したり一晩で戻つたり、妊娠してゐるかも知れなかつたり知れなくなかつたり、萌と伸輔が何となく距離を近付けてみたりする中、萌は清顕と浜辺にポートレートの撮影に行く。出し抜けに愛の消失を告げた萌と、清顕は派手に痴話喧嘩。功成し名を遂げた清顕と矢尽き刀折れた萌だけでなく、この人も写真を志してゐた伸輔が、同じ海岸に引つ張り出したマミヤの中判カメラを抱へて撮影に来てゐた。二人の争ひに巻き込まれた格好の、伸輔はギックリ腰を爆発させ活動停止。伸輔を―伸輔の車で―長く一人の加藤家に担ぎ込んだ萌は、その場の勢ひといふか何といふかそのまゝ転がり込む。
 総じては粒の小さな、後藤大輔2014年第一作。寡暮らしの中年男に、オッパイが大きくて可愛い若い彼女が出来る。主要客層の琴線に延髄斬りを叩き込む非現実的もといドリーミンな大筋そのものに対しては、突つ込むのが寧ろ野暮といふもの。クラスタ同士でデキた萌と清顕は兎も角として、伸輔までもな写真好きばかりの工夫を欠いた劇中世界の狭さに関しては、一手間履歴書のエクスキューズを設けた以上、ひとまづ仕方なく等閑視することに。尤も、後藤大輔は女房に大病を患はせないとドラマが書けないのか、伸輔と静江の物語は脆弱なキャスティングに足を引かれ、なかみつせいじの片翼飛行を強ひられる。夢とやらが何時の間にか偶さかな色恋沙汰に変る、萌のアタシ臭い物語もオジサンにはハッキリいつてどうでもいい。但し、あるいは只々。「目なんか醒まさない!」、映画トータルの腰の弱さにも連動して基本心許ない主演女優が、突発的な決定力でエクストリームな名台詞を撃ち抜くハイライトには久々のテンションで吃驚した。おとなしくフィニッシュ・ブローを振り抜けばいいものを、余計な色気を出して衣緒菜(ex.吉瀬リナ)の濡れ場を再び盛り込んでみたりと以降も依然漫然としなくもないものの、午睡の夢であつたとて、よしんば過ちであつたとて。事ここに至るまで中途半端な表情を浮かべ続けたヒロインが決然と自らの人生を選び取る瞬間に、くたびれた体勢の客席からバキッと背筋が伸びる勢ひで感動した。一点突破で十分だ、残りは全て瑣末と忘れてしまへ。一撃必殺、何よりその言葉が似合ふエモーショナルな一作である。

 ところでこの映画の何処がもしくは何がテンペストなのか?そんなこと俺が知るか。


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