真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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めぞん美熟女 ぬるぬる下宿
荒木太郎
/
2015年03月27日
「
めぞん美熟女 ぬるぬる下宿
」(2014/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:海津真也/編集:酒井正次/音楽:日野サウンズ/主題歌:『未来には希望しかない』作詩:荒木太郎 作曲:安達ひでや 唄:河瀬純アニキ&ノムさん 演奏:安達ひでや/撮影・照明助手:矢澤直子・榮穣・広瀬寛巳/助監督:三上紗恵子・光永淳/総製作:佐藤選人/ポスター:本田あきら/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/車両:小林徹哉/出演:竹内紗里奈・愛田奈々・松すみれ・野村貴浩・那波隆史《特別出演》・河内哲二郎・ダーリン石川・佐々木基子・牧村耕次)。最近多呂プロのカンパニー・ロゴを観てゐない御無沙汰に、機を失して気づいた、何時からだ?
チャンチャカチャンな主題歌起動、白の日傘×白のワンピース×白いハイヒールで楚々と土手道を歩くヒロインと、喜八(牧村)と次郎(野村)。義兄弟の毎読新聞勧誘員コンビの賑々しい顔見せにクレジットが併走、タイトルで朗々と締めるワン・コーラス歌ひ上げてタイトル・イン。片肌脱ぐと右の二の腕には南無妙法蓮華経の彫物も鮮やかな、春江(佐々木)が女将の未亡人下宿「日野荘」。下宿人の喜八と次郎が、同じく下宿人で、眠るデリヘル嬢のジャネット(松)に夜這ひを仕掛ける、昼間だけど。ところが、といふか当然ジャネットは途中で目を覚まし、喜八と次郎に、天井裏から愛を込めずに覗いてゐた医学生(荒木)も金を取られる。喜八の妹分でこの人も店子の明美(愛田)が、昔の男(
ダーリン
)に体よく弄ばれたショックで淺川橋から飛び込む飛び込まない騒いでゐるところに、アバンの白尽くめ女が通りがかり、喜八はポップに一目惚れする。日野荘に手伝ひといふ形でやつて来た、春江の姪・一乃(竹内)と再会した喜八は驚喜する一方、一乃が実は既婚者であるものの、夫は七年前に失踪してゐた。
配役残り河内哲二郎は、人気の少ない夜の路上で手売りと、まるで、あるいは丸つきりパン女のメソッドで自作詩集を売る一乃に、絡む酔つ払ひ。話を戻して淺川橋の件では、未だ自立には至らないのか相変らず御子を背負つた三上紗恵子と、小林徹哉に小谷香織も見切れる。那波隆史は水車小屋にて七年ぶりに一乃と待ち合はせる、真二君もとい伸介君。
一昨々年から一昨年にかけて一時的に復調の兆しを見せかけながら、以降は力なく迷走する荒木太郎の2014年第三作。ともに天下を取るほどの戦果も未だ挙げてゐない上で、荒木太郎と国沢実がある意味順調に萎んでゐるのは困つたものだ、この二人に限つた話でもないのかも知れないが。一本骨の通つたドラマを構築する体力は失つたとて、キャラクターを描く小手先は仮に手癖に過ぎずとも衰へてゐないらしく、日野荘に棲息する飛び道具揃ひの面々は騒々しく魅力的。日野といふと確か荒木太郎の居住地である筈の、日野荘の猥雑なロケーションも文句なく素晴らしい。尤も、それは要は映画美術といへば映画美術で、単なる生活環境といへば生活環境。その辺りの生活と映画の直結具合に、否応なく感じさせる限界の所以が逆説的に照射されてゐるやうに映らなくもない。兎も角、愛田奈々や佐々木基子が暮らす大所帯を掃き溜めと称するつもりは毛頭ないが、そこに一羽の鶴が舞ひ下りる手堅い構成は磐石。七転八倒するまでの明美の便秘を救つた医学生に体で対価を払ふのが、何故かジャネットであつたりする辺りには巨大な疑問符が拭ひ難くもありつつ、非日常的に弾けた日野荘の日常は勢ひでザクザク見させる。関根和美の向かうを張るかの如く、主演女優の濡れ場らしい濡れ場を全て妄想か夢オチで賄つてみせる潔いか威勢のいゝ態度も清々しい。反面、一乃が蒸発した亭主と再会する本来ならばクライマックスに際しては、生半可に生真面目にならざるを得ないだけに若干の失速感も否めないともいへ、幹はこの際等閑視、枝葉のフリーダムさを楽しむ軽演劇と割り切るべき、映画だけど。観終つた後に何も残らないのは優れた娯楽映画である一つの証左と捉へるならば、最早下手に一本の物語を紡ぐ能力にも乏しい、昨今の荒木太郎にとつてひとつの突破口たり得る可能性をも秘めた一作。己で与太を吹いておいて何だが、南なのか北なのか、風が何処から吹いて来るのか判らない。
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