真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態妻 肉仕込み」(1992『若奥様 変態仕込み』の1998年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:木俣瑠美/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/音楽:映像音律/美術:衣恭介/編集:井上和夫/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:一の樹愛・秋川典子・佐伯麗子・野澤明弘・牧村耕治・羽田勝博)。出演者中、野澤明弘がポスターには野澤明宏。それ以前に木俣瑠美が、ポスターでは珠瑠美に。美術の衣恭介は、珠瑠美の夫・木俣堯喬の変名。
 エクセス提供とプロ鷹画面とで二十秒を費やしタイトル・イン、のつけから珠瑠美的には絶好調。一の樹愛が手錠で両手を吊られたり床に大きく体を伸ばして横たはる、エクストリームなショットに乗せクレジットが走る。音楽クレジットの下手な多様性も珠瑠美映画―木俣堯喬譲りなのかも知れないが―の特色のひとつに数へ得ようが、映像音律といふのは初めて見た。
 自宅仕事のファッションデザイナー・早坂純二(野澤)が、仕事もせずに不自然な座り位置でアダルトビデオに現を抜かしてゐると、この人は外で働いてゐるのか、妻のマチ子(一の樹)が帰宅する。風呂場から寝室に移動する夫婦生活は全然中途で翌朝のマンション外観、会話から窺ふに、純二はクライアントとの商談に出向く。ところが純二は大学時代の友人・鈴木健一(羽田)とバッタリ再会、旧交を温める。え、時間大丈夫?正体不明の鈴木が「どうだちよつと捻くれ者の俺の仕事場覘いてみないか」と純二を連れ出したのは、あらうことかホテル街。どうやら鈴木の名刺にある「スカイプレーコーポレーション」とは高級デートクラブらしく、嬢(佐伯)と一流宣伝会社―劇中用語ママ、広告代理店といひたいのか―「MKクリエイティブ」専務・松田(牧村)の部屋に、純二は要は男根要員として鈴木に向かはされる。主人公が明後日に明後日に転がり続ける兎にも角にもハードコアな一夜を経て、松田に気に入られた純二は、MKクリエイティブの企画部に招かれる、何だこのへべれけなサクセス・ストーリー。出演者残り秋川典子は松田の愛人、ある意味配役に全く隙がない。
 一の樹愛のオッパイお目当てで選んだ、木俣名義の珠瑠美1992年第四作。随所で特徴的な長尺フェードと、主に牧村耕治の一人舞台で同じく独特の無闇矢鱈と勿体ぶる割に、意味は特にない長講釈で映画のリズムを寸断しつつも、そもそも、だからその日純二は本来どういふ用件で外出したのか。劇中最大にして序盤で完全に通り過ぎられる大疑問をさて措けば、鈴木経由で松田と出会つた純二が、マチ子共々性の饗宴だか狂宴に誘(いざな)はれる。右往左往に終始した末に支離滅裂に砕け散るでもなく、ひとまづ一応とりあへず一本の物語が真直ぐ進行してゐるだけで、珠瑠美にしては驚異的。褒めてゐるのか貶してゐるのかよく判らない点に関しては、お気になさらないで欲しい。その上で、一の樹愛の絶対巨乳を執拗に責めるシークエンスが見られない失望は三本柱の粒の揃ひぶりと相殺するとして、特筆すべきは純二が開巻こそ浅底の亭主関白風を吹かせながら、鈴木にも松田にも完全に押された挙句に、ラストに至つては出し抜けにサディズムに開眼したマチ子にいいやうに弄(なぶ)られる。我等がノジーこと野澤明弘の斯くも防戦一方の姿といふのは、滅多にお目にかゝれない気がする。一切の思想的バックボーン―と極々一般的な脈略―をスッ飛ばして、あの珠瑠美がまるで浜野佐知の如き着地点に藪から棒に辿り着いた、素頓狂な風情も微笑ましい。


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