真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女と不倫 すがりつく肉体」(1998『未亡人の下半身 濡れつぱなし』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:武田浩介/企画:福俵満/撮影:柳田友貴/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:栗原淳一郎/撮影助手:荒谷通広/撮影協力:広瀬寛巳/出演:吉行由実・麻生みゅう・相沢知美・熊谷孝文・杉本まこと・神戸顕一・佐々木恭輔)。
 タイトル開巻から風に戦ぐ木の暗いショット、季節外れの熱風の中父が突然家を出て行つたことを、妹・母・兄のリレーで掻い摘む。大学助教授の曾我部(後に抜かれる写真は誰だこれ)が行方を晦まし一ヶ月、にも関らず浪人生の息子・ケイジ(熊谷)は曾我部の研究室の大学院生・マユコ(相沢)と、高校生の娘・シズ(麻生)は同級生の西村カズオ(佐々木)を自宅に連れ込んでお盛んに励み、一方妻のミユキ(吉行)もミユキで、曾我部とも共通の大学時代の同級生・工藤シンスケ(杉本)と心配がてらイイ感じに旧交を温める。案外平然とした家族の姿に、マユコは逆に距離を覚える。神戸顕一は、家庭訪問するシズの担任・馬野。
 父親が蒸発した、その事実を何となく受け容れる家族を、父親の教へ子との対照も通して描く。そしてやがて明かされる、意外な真実。ざつとさういふ風情のナイーブなホーム・ドラマ、といつた辺りに狙ひはあるのであらうが、正直なところ如何に攻めたものやら途方に暮れさせられる深町章1998年全七作中第五作。南酒々井の一軒家から殆ど外に出ない省力設計は、淡々としたのもある意味エクストリームに通り越し、展開の手数と盛り上がりの欠如に直結する。曾我部が家族に遺した嘘も甚だパンチ力不足、肉を食はうが野菜を食はうが、要は不倫は家族には当然内緒の出来事である以上、個人的な他愛ない変身願望程度に過ぎまい。そして激しくちぐはぐなのが、これは純然たる全くの素人考へだが武田浩介の企図を深町章が積極的にか無作為に酌まなかつたのか、艶笑譚を撮る際の丸つきり何時も通りの、馬野の田吾作造形。そもそも馬野て、あるいはそこに、深町章の態度を見るべきなのか。シリアスな筈の物語に頬の赤い神戸顕一が闖入して来た瞬間には、あまりにも鮮やかな木に竹を接ぎぶりに逆の意味で感心した。尤も本筋が覚束ないゆゑ、どつちが木で竹か最早よく判らない。

 一点目についた、多分神は宿さない細部。シズの部屋に、イングヴェイ・マルムスティーンのポスターが。1998年といふともう十五年も前にせよ、それにしても平成の女子高生の部屋にインギはねえだろといふ話である。これが無造作なツッコミ処なのか、時代背景を表す小道具のつもりなのか判断に苦しむ。


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