真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新任女刑務官 禁じられた関係」(1999『女刑務官 美肉狩り』の2013年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:坂本太/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/照明助手:藤塚正人・高橋理之/助監督:羽生研司・元如宏・村上宣敬/製作担当:真弓学/ヘアーメイク:成田幸子/編集:金子尚樹《フィルム・クラフト》/効果:東京スクリーンサービス/出演:牧原美穂・佐倉萌・佐々木基子・久須美欽一・竹本泰史・吉田祐健)。
 本物の刑務所の外観を押さへた、南関東女子刑務所。所内を地下に設けられた特別棟に進む特別棟主任刑務官・黒田京香(牧原)の姿に、京香と、婚約者で保護観察官の緒方道夫(竹本)との、在りし日の婚前交渉が併走する。結婚式に同僚で京香とも高校の同級生である江住サキ(佐倉)を呼ばうとする緒方の問ひかけを、京香が冷淡に拒んだところでタイトル・イン。京香が辿り着いたのは半裸の上右足を吊られた片足立ちの状態で、足下に置かれた洗面器に放尿、には未だ至らないサキの独房。京香は粘着質の関西弁を駆使するサキの担当刑務官・三上伸二(吉田)に自身の身を捧げ篭絡、緒方を殺害したサキに対しジャンル的な要請に忠実に応へる虐待を加へてゐた。
 佐々木基子は、売春防止法で摘発されたとの緒方の発言をみるに、多分いはゆる5号観察中の篠原怜子。完成された悪代官ぶりが寧ろ清々しい久須美欽一は、そんな怜子に売春させた金を巻き上げる悪徳保護観察官・金原源一郎。緒方の上司であつた金原は京香に接触、緒方が残した対象者に関する資料の提供を求める。一応突つ込んでおくと、何でさういふマキシマムにデリケートな代物が、職員の自宅にあるんだよ。
 性懲りもないやうだがピンク映画版「ガルシアの首」こと「マル秘性犯罪 女銀行員集団レイプ」(表主演:平沙織/本主演:吉田祐健)に先立ち、キャスト・スタッフの多くを共有する坂本太1999年第一作。PG誌の訃報記事に於いて代表作のひとつに挙げられることもあり、丹精な語り口を通して濡れ場を積み重ねつつ、婚約者殺しと扇情的な復讐といふ表面的にも過激な物語の影に隠された、闇に徐々に徐々に迫つて行く作劇には力強い充実が漲る。京香が全てを失つてなほ、残された“一番大切なもの”に辿り着く悲愴にして美しい結末も、女の裸と素面といふ意味での裸の劇映画としての鮮烈さとを両立する。俳優部も百戦錬磨の重鎮・久須美欽一を扇の要に甘さと苦さを併せ持つ色男の竹本泰史と、変質的な飛び道具役で弾ける吉田祐健。攻守磐石な男優部に加へ、女優部も佐倉萌に佐々木基子と、ピンク界の誇る芝居巧者が頑丈に脇を固める。となると坂本太一撃必殺のマスターピース、と手放しで行きたいところ、なのだが。肉付きも口跡もともにレス・ザン・シャープネスな牧原美穂のエクセスライクが、今作の致命傷ないしは御愛嬌。乳の太さだけは買へるものの、天は二物を与へなかつた、あるいは与へ過ぎ賜ふた。主演女優が真の傑作への道を閉ざすといふのがある意味実にエクセスらしく、そしてさういふエクセスを一筋に戦ひ抜いた坂本太にとつては、背負ひし十字架にも似た一作。エクセス・クロス!かういふと何かカッコいい?


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )