真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「尻軽浮気妻 バイブ地獄」(1996/製作:関根プロダクション?/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・加藤義一/撮影:三原好男/照明:秋山和夫/助監督:加藤義一/音楽:リハビリテーションズ/編集:㈲フィルム・クラフト/監督助手:小谷内郁代/撮影助手:伊藤琢也・末吉真/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/スチール:津田一郎/出演:小川真実・田中ゆうき《新人》・林由美香・杉本まこと・樹かず・平賀勘一)。
 山際時枝(小川)が床の中で溜息をひとつつき、隣の布団で眠る耕司(平賀)に夫婦生活を求める。この前したの何時だ?忘れただのとらしくないアンニュイな遣り取りを経て一通りこなすも、耕司は達してゐない。もう自分ではイカなくなつたのかと時枝の絶望的な自問に乗せて、闇雲にオットロシイ劇伴とともに南酒々井の一軒家のテローンとした外観に被さるタイトル・イン。明白に険悪ではないにせよ、結婚十年、擦れ違ひ感は隠せない朝食の風景。時枝は、耕司と部下の涼子(林)の浮気の現場を目撃してゐた。夫を送り出し一晩寝かせておいたのか郵便受けを探ると、時枝宛に南洋大学同窓会の案内が。小川真実の単騎模擬戦と、林由美香と平勘の一戦噛ませて、時枝は同窓会幹事で元恋人の、高見沢浩(杉本)に連絡を取る。時枝と事前に二人で会ふことを快諾する浩ではあつたが、電話を切ると部屋にはシャワーを浴びてゐたまりえ(田中)の姿が。“ダーリン”と称する吉永賢一(樹)との二股に満足するまりえと、浩が結婚を本気で希望してゐることを知らず、加藤義一がバーテンの店で浩と再会した時枝はサクサク焼けぼつくひに火を点けるや、いきなりもう後戻り出来ないだなどと前のめりによろめいて行く。
 特にこれといつたお目当てなりテーマがあるでもなく、次は何を見るべえかと適当に見繕ふ。豊かなのか貧しいのかよく判らない月額動画の愉しみは、さて措き番組頼りの小屋に於ける本戦とはまた全く別種の趣もあるのではなからうかと、改めて漫然と思ふDMM荒野篇。そんなこんなで1996年関根和美作、小川真実も林由美香も杉本まことも煌くやうに若いが、樹かずと平賀勘一は、意味合は異なれど然程変らない。樹かず(現:樹カズ)は、この人の細胞は我々とは違ふのではあるまいかと思へるほど歳をとるといふことを知らず、平賀勘一は、この時点で既に完成形のオッサン。ところで田中ゆうきは、アクティブでボーイッシュな容貌と、若干詰めもの臭くなくもないが伸びやかでグラマラスな肢体は悪くないどころかかなり素晴らしいとはいへ、結構どころでなく声が悪い。どうせ新顔であるゆゑ、潔くアテレコといふ選択肢もあつたのではないか。映画の中身に話を戻すと、倦怠期に煮詰まる人妻が、フとした弾みで再会した昔の恋人に入れ揚げる。時枝の焦燥、まりえに対する浩の執心。そして小川真実と杉本まことの絶妙な名演が笑かせる、どうかした勢ひで突つ込んで来る時枝と、対照的に地雷を踏んだ後悔に慄く浩。シークエンス単位では、個々の心情描写にそこそこの深みも窺はせる。尤も質的にも量的にも濡れ場に関して―だけ―は貪欲である反面、物語の進行は清々しく遅い。モッサリモッサリ女の裸を積み重ねた末に、耕司が時枝の不貞を知り―己のことは棚に上げた上で―第一次修羅場が開戦するのが中盤もとうに通り越した終盤。起承転結のバランスは完全に崩壊しつつ、急旋回に次ぐ急旋回の場当たり的な展開の果て残り三分で辿り着く、“バイブ地獄”―正確にはここで使用するのはローターだが―のまさかよもやの真相には度肝を抜かれた。直截にいへば何がどう転んだらさう着地するのか皆目予測不可能な、木にオリハルコンを接いだある意味オーパーツのやうなトンデモ結末でしかないものの、兎にも角にも衝撃度は掛け値なし、この際ベクトルの正否など問ふな。挙句にその際には大仰な音声処理まで施しておいて、クレジット時のエンド・テーマの長閑さは鮮やかに拍子を抜く。何処までもツッコませる過積載ぶりが堪らない、過激な一作。途中といふか八捨二入でもマッタリした裸映画でしかなかつただけに、なほ一層チャーミングである。


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