真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢覗き魔 和服妻いぢり泣き」(1998/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:清水正二・郷田有/照明:伊和手健/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/助監督:高田宝重・佐藤吏/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:葉月螢・工藤翔子・西藤尚・杉本まこと・樹かず・平賀勘一)。セカンド助監督の佐藤吏の史の字が、クレジット上正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 タイトル開巻、ズンドコ節と写真と爆音のSEとで、時代背景の外堀を埋める。昭和二十三年、本郷の角倉邸。先に眠る主税(杉本)の隣に遅れて床に入つた千尋(葉月)は、夫の求めを拒む。当人は悪びれもせぬ三ヶ月前、主税が女中の定か貞(西藤)を手篭めにするのを、千尋は目撃してゐた。役人として敗戦国の復興に奔走する主税は三日間京都に出張、ビルマで戦死した平井太郎(本物の戦時スナップ)の写真に涙を落とす千尋に、定が差出人不明の手紙を届けに来る。主税にも、部屋に運ばせた大きな箱の荷物が。平勘の声で突然の非礼を詫びる手紙の主は、千尋の友人の奥寺桂(工藤)が大麻を吸つてゐること、色男の間男(樹)と密通してゐることを告発する。翌日、桂から劇中台詞ママでパーテーに誘はれた千尋は、手紙の影響もあつてか淫夢挿んで断りの電話を入れる。その夜千尋は愕然とする、その年制定されたばかりの大麻取締法に触れ、桂がパーティー出席者ごと逮捕されたといふのだ。
 深町章1998年第一作にして、必ずしもブランドを冠されてはゐなくとも同趣向のものまで含めると足かけ八年に亘り計七作連なる、鍵穴シリーズの記念すべき第一作。因みに2001年新題が、VHS題にローマ数字を付け足した「鍵穴Ⅰ 和服妻痴漢覗き」。鍵穴シリーズの沿革に関しては、自リンクを参照されたし。映画単体に話を戻すと、猟奇要素は比較的どころでもなく薄めの展開が、中盤で箱男の秘密を割つてみせるある意味気前のよさには仰天しかけたが、驚くのは些か早い。不具者と不遇の和服妻とのそれはそれとして切なく美しいラブ・ストーリーに大胆に移行するかと思はせて、更に破天荒な梶ならぬメガホン捌き。一日予定を早め帰宅したススムもとい主税大ショックと、平勘の絶叫エンドで尺を六十分にも四分余しズバッと切り抜ける衝撃のラストは、幕引き際の魔道師・深町章の面目躍如。と手短に纏めかけて、更なる驚天動地に思ひ至つた。製作当時の今作に厳密には何の罪もないとはいへ、真の、そして全く予想外にして史上空前のツッコミ処は、箱男が箱の中から女の前には頑として姿を現さない以上“覗き”は兎も角“痴漢”要素の欠如、ではない。そのやうなことは、新田栄その他の痴漢と覗きシリーズに於いては茶飯事である。実は男が潜む箱には鍵など取りつけられてをらず、“痴漢”以前にそもそも“鍵穴”が存在しないよもやの羊頭狗肉。謀つたな、新東宝!


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