真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「小林ひとみの快楽熟女とろける」(1997/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:五代暁子/撮影:柳田友貴/照明:S&Mink/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/スチール:大崎正浩/助監督:掘禎一・佐藤吏/音楽:東京BGM/タイトル:ハセガワプロ/現像:東映化学㈱/出演:小林ひとみ・葉月蛍・風間今日子・坂入正三・河合純・中川日吉丸・港雄一)。葉月蛍の略字は、本篇クレジットまま。
 殆ど昼に近い朝、ベッドの中の小林ひとみと、サカショーの濡れ場で開巻。編集者の南雲恭子(小林)宅に、妻には締め切り前の缶詰と偽つたフリーライターの大沢明弘(坂入)が不倫のお泊り。マッタリと五分絡みを見せてタイトル・イン、都合数曲使用される、妙なクオリティの外人女性ヴォーカルのトラックはこれは何?
 刹那的な享楽主義者、といふか要はサカショニックに場当たり的な女好きの大沢に対し、結婚二年・セックスレス早くも半年となる妻の真奈美(葉月)は、とうに夫の不貞を察知してゐた。あれ、これだけか?いやこれだけだ。
 配役残り、港雄一は呑気な編集長。以前には既婚者ハンターの恭子と不倫関係にあり、今でもものの弾み―自堕落な便宜性ともいふ―で関係を持つ。河合純は真奈美がテレクラで漁る大学院生、問題が、如何にも穿つた名義の中川日吉丸がそれらしき登場人物から見当たらない。真奈美と河合純の待ち合せ場所に見切れるもう二人は、手前で目立つ方が佐藤吏なので、さうなると限りなく風景に埋没する方は掘禎一ではないかと思はれるのだが。
 裸稼業に限らずとも長いキャリアと商業映画の公開タイトルにその名を冠す天下の金看板ぶりを誇りながら、終ぞ抜けることはなかつた棒口跡。その意味で愛染恭子と綺麗に双璧を成すそれはさて措き大女優・小林ひとみを、大蔵映画を代表して迎へ撃つのはピンク・ゴッド小林悟。ダブル小林の醸し出すキナ臭さが半端ない、小林悟1997年第二作。ウッスラ残る大昔に故福岡オークラで観た記憶はオーラスの無造作さしか印象に残つてゐなかつたのか、ルーチンワークが紙一重を超え損なふ御大仕事・オブ・御大仕事といふものであつた。そんなものを何を好き好んで再見するのだといふ話にしかなりかねないものの、さうはいへ百顧も一見に如かず、見てみるもんだ。改めて見返してみたところ、確かに作劇は大雑把で裸の見せ方から漫然としたへべれけな一作ではありつつ、案外見るべき点もなくはなかつた。快晴の空の如く―白夜かも―物語らしい物語は澄み渡る中、図式的な通り一辺倒ともいへ、愛人と本妻、恭子と真奈美の心情なり立場を結構丁寧に描いてゐることには素直に感心した。至極当たり前のことでしかないではないかと呆れる勿れ、敵は大御大・小林悟、ここは有難く驚くべきだ。加へて、遂に恭子が真奈美を自宅に急襲したことによつて、大沢の底の浅いアリバイ工作が露呈する展開は流れとして手堅く、そしてそれが尺の残り四分の一以降といふタイミングが地味に磐石。何より素晴らしいのは、何処まで出し惜しんで木に竹を接ぐつもりなのかと本気で心配した、風間今日子を五十分も跨ぎ正しく満を持して投入。三番手濡れ場要員の、“第三の女”ぶりは裸映画的にも劇映画としても掛け値なく完璧。ただここで画期的に残念なのは、亜美(風間)の声が甚だ無個性なアテレコである点。そこだけを捕まへて、画竜点晴を欠くとまで称するのは流石に褒め過ぎか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )