真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女修道院 バイブ折檻」(1999/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/録音:杉山篤/効果:渡辺健一《東洋音響カモメ》/助監督:松岡誠・増田正吾/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:大川大作/スチール:岡崎一隆/現像:東映化学/協力:日活撮影所/出演:紺野沙織・河野綾子・村上ゆう・杉本まこと・やまきよ・荒木太郎・柳東史)。
 鐘の音の鳴る教会ビルに、どギツいフォントで被さるタイトル開巻。玄関口に出て来た二人の修道女、香苗(紺野)は詩織(河野)に別れを告げる。少し時制が遡り、教会内にて詩織が自慰に耽る場に現れた香苗は、ステンドグラスを背負ひ裸身を晒す。いきなり、このショットの強さが尋常ではない。「我は、天より下りし生けるパン也」、「人このパンを食べれば、永遠に生きるべし」と聖書の一説を引き香苗が詩織と咲かせる百合は、カット跨ぎハイキーな照明に捉へられたイメージ風の画に移行するや、効果的な劇伴の力―エンディング・テーマは堂々と「アヴェ・マリア」!―も借り扇情的にして宗教的な正体不明の光芒を放つ。紺野沙織の濡れ場毎に全篇を通して踏襲されるこの正しく奇跡こそ、当たりの主演女優と必殺の撮影部とが生み出す今作の決戦兵器。在野での救済活動を志し雑踏を進む香苗が向かつた先は、円山町のホテル街。非常識にも五千円を提示する男(松岡誠か増田正吾?)を遣り過ごした街娼の潤子(村上)に香苗は接触、藪から棒に仲間に入れることを申し出、潤子の目を丸くさせる。詩織も香苗を追ひ町に分け入る中、潤子はホームレスの健太郎(荒木)に引き合はせた香苗が、実際にその身を任せる姿に衝撃を受ける。一方、二万五千円で潤子と寝た劇中氏名不詳の風俗ライター(柳)から香苗の噂を聞きつけた、界隈のホテトルを牛耳る相馬(杉本)はポップな邪欲を滾らせる。
 配役残りやまきよ(a.k.a.山本清彦)は、名の通つた性病持ちといふ造形が正直よく判らない立花正樹。立花が性病科の江口医院から出て来る初登場シーン、立花を追ひ駆け忘れたお薬を手渡す看護婦は、クレジットには等閑視されるも麻生みゅう。

 先般、浜野佐知がオーピー映画と決裂し、旦々舎がピンク映画から撤退する衝撃的な情報が御両人のツイッターを通して発表された。どうせ楳図かずおと小学館の類の、直接には思慮の浅い担当者の不用意な言動に端を発す、双方諸々ひつくるめて仕方のない話にさうゐない。そもそも、騒動の具体的な仔細―それとも、フィルム云々?―を一切与り知らない床屋なり丘の上から単なる一ファンとして平然と与太を吹くと、あれやこれや思ふところや積もり積もつたものもあるのであらうが、それにしても惜しい。これこそ正しく覆水が盆には返るまいが、どうしやうもなく惜しい。ことは浜野佐知に止(とど)まらない、浜野佐知が退けば、当然山邦紀も追随する。更にそれだけではない、もしも仮に万が一、近い未来。最後のピンク映画を撮つたのが、女の監督であつたとしたら。商品化した女の性を、品性下劣な男客に供する商業娯楽映画のラスト・スタンディングが、抗ひ続けた逆風で鍛へた絶対のタフネスを誇る、女の監督であつたとしたら。実に痛快ではないか、世界の映画史に残るぞ。そしてそれは、決して底の抜けた夢想ではない。良くも悪くも、現実的に狙つて狙へなくはないひとつの可能性であるのだ。ひとつの可能性で、“あつた”といはねばならないのだとしたら、返す返す惜しい。とまれ、死んだ親の歳を数へてみても始まらない。残された機会を、観られるだけ見られるだけ観るだけのこと見るだけのこと。早とちりして貰つては困る、何もこれで、せえので全てが終つてしまつた訳ではない。

 さてと映画に話を戻すか、清浄な教会を捨て汚濁に塗れた娑婆に降り立つた修道女が、全ての疲れた人重荷を背負ふ人に休息を与へんとプリップリの美身を捧ぐ。一般映画第一作「尾崎翠を探して 第七官界彷徨」の公開を経ての、浜野佐知1999年ピンク映画第一作は気力の充実の継続を窺はせ、後作を持ち出すと“遠くから来て遠くへ行く”女が悲しい男や寂しい男、苦しい男を慰め癒す「乱痴女 美脚フェロモン」(2004/主演:北川明花)にも連なる、エモーショナルな桃色御伽噺。今でいふアヒル口がトレード・マークの紺野沙織は、表情は然程豊かではなく地から足の浮いた口跡も御愛嬌なものの、タップンタップンなオッパイが堪らない、裸の魅力を通り越した威力はエクストリーム。脇を固めるは爆乳の破壊力と硬質の美貌を誇る河野綾子と、南山不落な安定性で山邦紀の奇矯な世界を器用かつ強靭に固定し得る、風間今日子と並ぶ旦々舎影の看板女優・村上ゆう(a.k.a.青木こずえ)。細瑕の欠片も見当たらぬ手慣れた男優部と、布陣は全く大磐石。お腹と胸一杯の女の裸を通して弱者をドリーミングに回復させ、帰す刀で悪党は手厳しくやつゝける、娯楽映画としての構成も鉄板。その上で満を持して撃ち抜かれる、新時代の救世主を女に据ゑた大胆なメッセージ。ガッチガチにエロくて十二分に面白くて、なほかつ全身全霊を込めて思想的。忘れるな、これが旦々舎だ。首から上も腰から下も大満足の一作、かういふ映画を何百本と量産して来た偉大な軌跡こそが、当サイトが浜野佐知をして世界最強の女流監督と推す所以である。


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