真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「派遣の人妻秘書 やりつ放し」(1999『人妻秘書  熟れ頃下半身』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/メーク:桜春美/助監督:竹桐哲也/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/出演:高橋奈津美・林由美香・佐々木基子・久須美欽一・杉本まこと・竹本泰史・丘尚輝)。出演者中、丘尚輝は本篇クレジットのみ。
 劇中一度しか呼称されないのであまり自信がないが、ダイチュー商事専務室。専務の湯川典夫(杉本)は秘書の青木まどか(高橋)にその日の予定を確認させた後、夫も居るといふのに抵抗する素振りも見せないまどかを抱く。挨拶代りにといふか御挨拶にとでもいへばいいのか、兎に角開巻を飾つた事後、湯川に電話越しの声も聞かせない常務から、社長急死の報が入る。破廉恥は社風なのか、社長の佐々木ケンゾー(一切登場しない)が愛人宅にて腹上死、しかも、次期社長の座は湯川に回つて来るといふのだ。大丈夫かダイチュー商事、二代続くと流石にマズいぞ。腹の上で死ぬならせめて本妻にしろよ、湯川。閑話休題その夜の青木家、まどかは夫の勇作(竹本)に、社長秘書に昇進することを報告。夫婦生活がてら、業績不振の中小で苦労する勇作は人脈作りに、佐々木の社葬に色気を出す。そんなこんなで式の仔細は華麗にスッ飛ばした社葬当日、忙しい一日を終へ用を足しながら一息ついたまどかは、個室を覗く久須美欽一に悲鳴を上げる。ほどなく、島田技研社長・島田潤一との会食だといふので、湯川とは別行動で神楽坂の割烹「みよし」に向かつたまどかは驚く。島田こそが先日の出歯亀氏で、挙句にその場に湯川は現れない。即ち、事実上湯川に売られた格好のまどかは、さりとてさして悲壮感を漂はせることもなく島田にやんはりと手篭めにされる。後日、まどかに島田秘書就任の話が飛び込んで来る。条件もよく受けるまどかではあつたが、同時に湯川のことが心残りでなくもない。とはいへ何のことはない、湯川の新秘書には、島田の秘書であつた徳山美加(林)が納まるのであつた。佐々木基子は、勇作の勤務先・(株)後藤企画を、父親から継いだ女社長・後藤亜弓。後藤企画には男女各一名の社員要員(二人とも不明)が見切れるが、特に正面を向きよく映り込む方の女の、何も仕事をしてなさぶりが凄まじい。演者の資質を問ふつもりはないが、演出にはさうは問屋が卸さぬ、頼むから少しは演技指導といふものを施すべきだ。配役一応残り丘尚輝(=岡輝男)は、黙してロイヤルサルーンを回すだけの湯川運転手。
 とりたてて美人といふこともなければ格段にお芝居が上手いといふ訳でもないのだが、兎も角、ヒロインに体型と容貌が普通の若い女が座る。たつたそれだけのことで、エクセスの惨劇は幸にも回避したとわざわざ言祝げる新田栄1999年第三作は、企図したものか偶々の結果かは甚だ微妙ながら、といふか恐らくはどうせ後者ではなからうかとも思ふが、さて措きまるでオムニバス作かのやうに、前半と後半とで綺麗に全く別の物語を、各々四人づつで回すといふ構成を採用した一作。前半部分は、勇作と亜弓も顔見せ程度には出て来るものの、主眼はまどか×湯川と島田×美加による、オチが鮮烈な夫婦ならぬ秘書交換コメディ、そこまではそれなりに磐石であつた。問題の後半が、まどかを間に挟んだ島田と勇作に、勇作とのみ亜弓が絡んで来る形での、後藤企画の起死回生に必要な島田技研の技術供与を軸に据ゑた、ベタの強度は有さない在り来りなビジネス人情譚。ひとまづ最後まで観通した上で、由美香は百歩譲れなくもないが、スワップが成立するや杉本まことが完全に退場したまま映画が終つてしまふことには正直驚かされた。端的に苦しいのは、着地点のユニークさがピシャリと決まる第一パートに対し、第二パートは捻らうとする意思すら感じさせない展開が清々しいほどに平板ゆゑ、どうしてもといふかどうしやうもなく退屈に見劣るきらひは拭ひ難い。加へて、共に要は三番手ポジションの林由美香と佐々木基子に関してはイーブンとしても、杉本まこと(現:なかみつせいじ)とこの時期の、依然色男的にも未完成の竹本泰史(現:竹本泰志)とでは、如何せん竹本泰史に分が悪い。お話の中身自体と布陣、名実ともに前半分が後ろ半分に勝る。今作を簡潔に評するならば、正しく竜頭蛇尾といふ一言が最も相応しいのではないか。
 
 ところで、事ここに至ると最早清々しささへ感じられなくもないのは、特にも何も、まどかが“派遣”されてゐることを示す描写は日本晴の青空の雲の如く、一欠片たりとて見当たらない。いいか、これが、これぞエクセス仕事だ!


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