真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美脚秘書 締めつける股間で」(1991『女秘書の生下着 剥ぎとる』の2012年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二/照明:秋山和夫・金田満/音楽:薮中博章/助監督:広瀬寛巳・山村幸司/編集:金子編集室/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:藤峰豊子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:憂花かすみ・山本なつき・大沢恵里加・池島ゆたか・久須美欽一・芳田正浩)。
 社長秘書の辻蓮美(憂花)が自室にて、電話越しの双子の妹・蓮根に愛も語らふ大胆な自慰を一頻り見せた上でのタイトル・イン。明けて「健島設計株式会社」、社長室の割には蓮美のボスである健島昭一(池島)以下、社長室長の汐見克彦(久須美)、更には若い社員要員(ひろぽんではないゆゑ山村幸司?)までもが同室する。適当にその日の予定を掻い摘み健島は蓮美と外出、当時完成直後の東京都新都庁舎―“新都庁”といふ用語自体が既に死語か―に蓮美が欲情する呼び水で、二人はホテルに入る、のでなく蓮美宅での昼下がりの情事。蓮美と健島は、さういふ間柄にあつた。こゝで、蓮根同様ラバー製の下着を愛用する嗜好とともに、蓮美の性的に顕著な特徴を示す建設現場属性は、如何にも山﨑邦紀が好んで盛り込みさうなモチーフとも思へつつ、結果的にはこの件で一度通り過ぎるかのやうに触れられるのみ。それは兎も角、今作最大のチャーム・ポイントが、何はともあれ主演女優。開巻では色も白い抜群のプロポーションに見惚れ気づかなかつたが、素のお芝居を通して今の目で見てみると、まあ感動的に城島健司に瓜二つの女である。城島健司は1994年の福岡ダイエーホークスドラフト一位につき、この時点では憂花かすみにとつて全く与り知らぬ話でしかないのだが。閑話休題、黒のラバー下着を着用する姉とは対照的に、白ラバーの蓮根(当然憂花かすみの二役)と彼氏・木和田是生(芳田)の一戦挿んで、半ば強引に蓮美とエレベーターに乗り合はせた汐見は、健島との不倫を出汁に、自身も蓮美に関係を強要する。
 配役残り山本なつきは、昭一の妻・歌子。未だ80年代の残滓を色濃く引き摺る、時代を超え得ないショート・カットにも足を引かれた魅力の乏しさは直截に苦しいが、昭一が婿養子である立ち位置と、現会長である歌子父親から健島建築設計を継いだ旨とを意地悪げにイントロダクションするのは、それはそれでそれなりの好演ともいへようか。大沢恵里加は、汐見の彼女・久美田香織。三本柱の中では一番首から上下の総合的にバランスが取れてゐる反面、却つて残る印象は河豚の刺身よりも薄い。完全無欠の三番手濡れ場要員とはいへ、汐見に臨時収入の希望的観測がある皮算用を絡みを通して語る段取りには、ピンク映画として何気に一流の論理と誠意とが透けて見える。
 手をつけた秘書を体よく処理する、卑劣な姦計に囚はれた穏当な姉の窮地を前に、藪から棒に攻撃的な双子の妹が活躍も通り越した大暴れ。混乱にも出鼻を挫かれた男達は、忽ち翻弄される。浜野佐知1991年第五作は、1+1が1のまゝのサイコ・サスペンス。今回の浜野佐知は丁寧にトリックを積み重ねることに終始し、蓮美は兎も角蓮根といふお誂へ向きなアクティブ・ヒロインを擁しながらも、平素の苛烈な女性主義は、展開の流れを逸脱するほどではなく概ね影を潜める。蓮美宅に乗り込んだ健島が、決して二股といふ訳ではない木和田と鉢合ふクライマックス。半ば真相に辿り着いた健島に対し、依然善意の第三者である木和田が室内の電話を手に取る件では、予想通りのロジックがもたらす、パズルに最後のピースがピシャリと合はさる安定感を伴つた快感を味はへる。正味な話が新味には欠いたいはゆる“意外な結末”ではありながら、オープニングに連動した、徒に現し世に復帰しはせず夜の夢の真の中で幸福に微睡み続ける蓮美の一人で二人遊びが、一時間の裸映画を磐石の強度で締め括る。最終的には城島健司主演の衝撃にほぼ大半を持つて行かれるともいへ、総じてはこぢんまりとした仕上がりまで含め、肯定的な意味合に於いて水準的な一作である。

 本篇クレジットにも載らないが、始終の鍵を握る配役がもう一人。劇中唯一真実を最初から知る、才賀メンタルクリニックを開業する精神科医の才賀邦彦は、旦々舎の隠し球・山崎邦紀。束の間の出演ではあれど、僅かな尺にオチを押し込む正しく立て板に水の台詞回しを披露する。


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