真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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女真剣師 色仕掛け乱れ指
た行
/
2012年07月25日
「
女真剣師 色仕掛け乱れ指
」(2011/製作:旦々舎・ラボアブロス/提供:オーピー映画/脚本・監督:田中康文/プロデューサー:浜野佐知/撮影:飯岡聖英/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:與語一平/助監督:金沢勇大/監督助手:江尻大/撮影助手:宇野寛之/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/応援:小林徹哉・小川隆史・秋戸香澄/協力:セメントマッチ・オフィス吉行/出演:管野しずか・佐々木基子・山口真里・なかみつせいじ・那波隆史・牧村耕次・荒木太郎・太田始・小林節彦・池島ゆたか/Special Thanks:将棋観戦のみなさま)。出演者中、荒木太郎・太田始・小林節彦は本篇クレジットのみ。
将棋を賭博として行ひ身を立てる者、とする“真剣師”の紹介テロップ噛ませて、老真剣師・中村鶴一(牧村)が、女子高生の夏服姿の養女・真希(菅野)と対局する。形勢の不利な真希が長考に入ると、鶴一は背後に回り体を弄る。カードや麻雀であれば、それ以前に許されない行為ではある。とまれその刺激に触発され、真希は妙手に辿り着く。「この感覚は、でも後に私の戦ひ方になる」、管野しずかの拙いナレーションに一旦は頭を抱へかけるが、映画に引き込まれるにつれ、以降は次第に全く気にならなくなる。数年後、盤上を捉へた大型液晶を前に真剣師が対戦し、それを大勢の賭客が観戦する闇カジノ。戦闘服の和装の真希が、これは石動三六か?九十八連勝目の相手に勝利する。真希に賭けた者の携帯の液晶には“WIN”の字が躍り、沸く場内、「勝者、真希!」の勝ち名乗りに合はせてタイトル・イン。
金を受け取つた真希は、その足で闇カジノの元締で凄腕真剣師、本名不詳通称ダルマ(池島)の屋敷に向かふ。ドーラン感全開の、ドス黒いダルマの造形と貫禄に度肝を抜かれる。自身の2011年第三作「
婚前生だし 未熟な腰つき
」(脚本:五代暁子/主演:夏海碧)を観た際にも感じたことだが、声質の軽さを克服出来れば、池島ゆたかは本気で港雄一のセンを狙へるのではなからうか。死んだ鶴一が不審な借金を遺したダルマに、真希は一旦挑むも敗退。目下ダルマへの再挑戦を懸け、真剣の百人斬りを目指してゐる最中であつた。昼間は荒木太郎と太田始が盤を挟んで油を売る、「東十条将棋道場」の心ここにあらずな看板娘としてぼんやり過ごし、夜は侘しい自室で自慰なり将棋の勉強に耽る真希の日常を挿んで、再び真剣。元プロ棋士の沢村(なかみつ)と対局した真希は、守りの堅い沢村の陣形に苦戦しつつも、沢村との情事をイマジンするや俄に将棋勘起動。沢村を倒し、百人斬りに後一人と迫る。逆襲に転じる真希、ギャラリーの加藤義一が「沢村の穴熊が崩れる!」と叫ぶ瞬間の、娯楽映画的な興奮が堪らない。一勝負終へ、何時ものやうに闇カジノを静かに立ち去らうとした真希は刃物を持つた山口真里に襲はれるが、凄腕然とした初登場をかます那波隆史に助けられる。ここの対沢村戦、“将棋観戦のみなさま”の中に、色華昇子が見切れてゐたやうな気がしたのだが、個別のクレジットは施されないゆゑ未確認。
佐々木基子は、女流名人目前の表のプロ棋士であつたものが、ダルマとの関係が発覚し将棋界を追はれた女真剣師・祥子。正妻か情婦かは不明なれど、ダルマとは男女の仲にある。後述する敬一を髣髴とさせる超高速の棋風で、百人目として真希の前に立ち塞がる。関西弁が混入した広島弁を話す那波隆史は、広島の佐山組からの客人真剣師・敬一。小林節彦はダルマ邸にて、真希に敗れた結果命を落とした真剣師の情婦であつた、山口真里を陵辱する男。グラサンで目を隠してはゐるが、ダルマの最も近くに控へる子分は、多分田中康文。
青い硬さを色濃く残す処女作「
裸の三姉妹 淫交
」(2006/脚本:内藤忠司・田中康文・福原彰=福俵満/主演:麻田真夕・薫桜子・淡島小鞠)、本格娯楽映画の萌芽を感じさせる第二作「
裸の女王 天使のハメ心地
」(2007/脚本:福原彰/主演:青山えりな・結城リナ)に続く、田中康文新東宝からオーピーに越境しての四年ぶり第三作。性的なエモーションに直結した戦法を駆使する女真剣師が、最強の敵目指して修羅の道を進む。女の裸に直通道路を通した主力ギミックはピンク映画的にこの上なく麗しく、穴のない魅力的なキャラクター陣にも彩られたバトル系映画鉄板のストーリー・ラインは磐石の一言、グイグイ観させる。全盛期の梶芽衣子にすら匹敵する、とまでいふのは些かならず褒め過ぎか、とまれ抜群の目力で外連味タップリの物語を堂々と支へ抜く超攻撃型クール・ビューティーを主演に擁し、終始緊張感を維持する田中康文の演出に、歴戦の名カメラマン・飯岡聖英は冴え渡る硬質のショットで応へる。対局が過熱するや、スイングし始める與語一平の劇伴もスタイリッシュ且つ的確に場面場面を加速・補強。等々と言ひ募ると、あたかも決定的な大傑作かとも思ひ込みかねないが、絶妙にさうでもないのが、「裸の女王 天使のハメ心地」よりは前に進みながらも、なほ田中康文が壁を越えきれないよくいへば余力を残す点。窮地に立たされた真希が、直截に淫らな妄想で自身の裸身を銀幕に載せると同時に、“将棋を感じ”形勢を大逆転する。完成形とさへ称へ得よう論理的な名シークエンスでは確かにあるものの、都合三度ほぼ全く同じ段取りを繰り返すのは、流石に如何せん芸に欠かう。山登りに譬へるならば、八合目辺りまで一息に駆け上つておいて、そこから先は平行移動してしまつたが如き印象は残る。とはいへ、それでも十二分に面白い。もう一度でも二度でも観たい、田中康文の次の映画が観たい、と強く思はせるに足る一作。賛否の分かれるクライマックスではあるやうだが、ダルマが実は案外イイ人になつてしまふ過去の因縁の回想パートは、個人的には牧村耕次と池島ゆたかの激突が素直に見応へがあつた。
ダルマは不在の屋敷にて、真希は敬一と“遊びで”一局交へる。ところが“何時ものやうに感じ”ることが出来ず、敗退する。この件、敬一がゲイ乃至はインポといふオチに繋がるものかと勘繰つたのは、すつかりピンク色に脳を煮染められた、小生の明々後日な岡読みであつた。
以下は再見時の付記< 「沢村の穴熊が崩れる!」の主が加藤義一か否かは微妙ながら、沢村を倒した真希を両手の親指を立てて祝福する、色華昇子は確かに見切れてゐる。
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