真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「老舗旅館の仲居たち 不倫混浴風呂」(2000『人妻混浴温泉 不倫盛り』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:和田正宏/効果:中村半次郎/出演:翔見磨子・林由美香・葉月螢・岡田謙一郎・隆西凌・杉本まこと)。
 展望風呂を満喫する二人の人妻、都立校国語教師の神崎早紀(翔見)と、悪友の野村かのり(林)は、こちらは専業主婦かも。二人は早紀の不倫旅行にかのりがついて来る形で当地を訪ねたことと、早紀の高校時代恩師からの“不倫は人を成長させる恋”なる有難い教へが、女の裸を見せ見せ手短に語られる。何といふこともないが、何気に完璧なイントロダクションではある。繰り返すが、淫らに新田栄を過小評価する悪弊から、我々はいい加減免れるべきではなからうか。タイトルとクレジットを経て、改めて実名登場熱川温泉「一柳閣」、丘尚輝(=岡輝男)が回す送迎車が、妙にウキウキの加藤義一を下ろす。後に、丘尚輝は早紀とかのりのチェック・アウト時にはフロント係で再登場。但しその際には、初めて観たケースだが声は別人によるアテレコ。都合がつかなかつたか、大風邪でもひいてゐたのか。閑話休題、早紀は不倫相手で、一柳閣支配人の船橋聖治(岡田)を急襲。迂闊にも一柳閣に早紀が宿泊してゐることを把握してなかつたのか、完全に不意を突かれた格好の船橋は浜辺の岩場に一旦避難。早紀の、「会ひたかつたのよ、抱いて」だなどとショート・レンジ過ぎる求めに応じその場で一戦交へるも、事後流石に辟易した船橋は別れを告げる。一柳閣の「野菊の間」から、早紀とかのりは気を取り直した付近散策に出る。湯掛辨財天と射的遊技場を巡つた後(のち)に、二人は埠頭から釣り糸を垂れる大貫浩一(隆西凌/a.k.a.稲葉凌一)をロック・オン。大貫も一柳閣に宿を取つてゐたことから、三人は忽ち意気投合する。一方、野菊の間左隣の「山茶花の間」には、糖尿から来る不能の湯治に訪れた、作家の蕗谷春泥(杉本)が入る。糖尿の割には、飲み食ひはほぼノーガードにも見えるのだが。蕗谷の顔を見知つてゐた、船橋の妻で女将の加寿子(葉月)は、作中に登場させ一柳閣の名前を広めては貰へぬかと色気を出す。そんな最中、野菊の間ではフルスイングの乱痴気騒ぎ。ウトウトしてゐたならば目を覚ませ、今作の白眉はここからだ。大貫は既に泥酔状態、太股で挟んでのビール瓶リレーに早紀が負ければ、気軽に全裸にヒン剥きワカメ酒。次は口での綱もとい海苔引きに大貫が負けると、女体ならぬ

 男体盛り敢行

 男に盛るだけでも随分なのに、業界屈指の渋い二枚目を捕まへた、斯様な羽目外しが拝めやうとはよもや思はなかつた。実際のところ矢張り気持ちがいいものではないのか、苦悶の表情を浮かべる大貫に対し、驚喜する早紀とかのりは舌鼓を打つのもそこそこに、華麗なる巴戦に突入。とりあへず残りはさて措き、この件の愉快な衝撃で木戸銭の元は十五分くらゐまで取れるぜ。
 新田栄の、記念しようと思へば記念すべき2000年第一作。かういふ後ろ向きな物言ひは決して好むところではないのだが、長く浸かれる温めの湯加減にも似た、のんべんだらりとした仕上がりも今となつては懐かしくなくもない、実に新田栄らしい温泉映画。自堕落に筆を滑らせると、“温泉映画”といつた時のなだらかな言葉の響きは、如何にも新田栄に相応しく聞こえはしまいか。ある意味当然ともいへるのか、エクストリームな中盤の枝葉を超えるインパクトに、後半辿り着くことは別にない。件のあらぬ教へを早紀に残した“恩師”が、誰あらう蕗谷であつた―ついでに、蕗谷は早紀との淫行の果てに教職を追はれる―ことから膨らむ以降ではあるものの、最大限の過大評価を試みたところで順当以上には半歩たりとて踏み出でるものではない。そもそも、理想的なプロポーションには反して、ルックスは十人並に曲がつた主演女優のエクセスライクにも、当然の如くエンジンブレーキをかけられる。ここのところは寧ろ、心許ない四番の後ろで健気に最強の五番打者を務める、林由美香の仕事ぶりをこそ心豊かに味はふのが正解といへるのかも知れないが。そんな中地味なれど確実に光るのは、感動的にスマートな三番手戦。早紀と混浴風呂にて思はぬ再会を果たした蕗谷は、早紀の―船橋との―有体にいふと不倫体験告白を基にした新作の執筆に着手する。俄に触発され筆の乗る中、呼ばれもせぬのに一柳閣の宣伝に下心を抱いた、加寿子が山茶花の間に現れる。執筆中の作家先生に邪険に追ひ払はれるかと思ひきや、顔色を変へた蕗谷が「女将、これを見て呉れ」と自らの股間を指で示すと、一柳閣の湯が効いたのか見事な屹立。すると加寿子は、「このままだと気が散つて書けないでせう」、「私が鎮めて差し上げますわ」。一見、水の如く低きに流れるばかりのシークエンスにも見えかねないが、折角丹念に築き上げた作品世界を、三番手の濡れ場の出鱈目な挿入の仕方でしばしば無体に卓袱台を引つ繰り返してみせる、三上紗江子との心中路線以降の荒木太郎よりは、裸映画の論理として実は数段上等なのではないかと小生には思へる。声を大にして主張するほどの、蛮勇は持ち合はせぬが。早紀が宿泊を一日伸ばす点には強力な無理も残しつつ、最終的には出し抜けにラブ・ストーリー的な擦れ違ひも経ての、早紀と蕗谷の温泉戦でそれなりに磐石に締め括る。改めて繰り返すと、良くも悪くも、実に新田栄らしい温泉映画である。何処が良かつたのかはよく判らないやうな気もするものの、細かいことは心の垢と一緒に湯に流してしまへ。

 ところでええと、“たち”どころか一人も仲居なんて出て来ない件につき。何かもう、清々しいまでにエクセスだ。


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