真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 車内で一発」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:片岡修二/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:吉角荘介/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:橋口卓明/撮影助手:片山浩/照明助手:伊藤保/出演:星野マリ・織本かおる・竹村祐佳・池島ゆたか・ルパン鈴木・常井浩・郷田和彦・劇団レオ・滝川真子《友情出演》・大杉漣・螢雪次朗)。出演者中、劇団レオ―当然、獅子プロの内トラ部隊であらう―とカメオ枠の滝川真子は本篇クレジットのみ。製作の伊能竜は、向井寛の変名。
 竹田会の鉄砲玉が山内組四代目組長(以降通り過ぎる配役は全員不明)を射殺、両暴力団の分裂抗争は瞬間沸騰で激化する。ところが山内浩二(大杉)が五代目を継いだ山内組からは、竹田会を恐れ大半の組員がトンズラ。窮地に立たされた浩二は、竹田会会長・竹田欣三郎(池島)の殺害を、終始声しか聞かせない“局長”指揮する犯罪組織に依頼。組織のヒットマン“ゴルゴ17”ことジョーク東郷(螢)に下された指令が、自動消滅、しない「スパイ大作戦」のパロディを経てタイトル・イン。“車内で一発”の“で”の字が弾を吐くピストルになる、オリジナルをそのまゝ使用した本篇タイトルが画期的にイカしてゐる。それとジョーク東郷が、もみあげ×髭×浅黒い肌と役を作り込み過ぎで、結構螢雪次朗に見えない。
 衆人環視の下ならばさうさう襲撃も受けまい、とかいふ鮮やかな方便にて、懐刀・サブ(常井浩?)と、一応藤純子の耕牡丹博徒のやうな造形の情婦兼用心棒・アキコ(織本)を伴なひ、欣三郎は電車移動。挙句に欣三郎がアキコと電車痴漢プレイに戯れる、力技の論理性が堪らない。東郷は車掌に扮して接近を試みるが、本物の車掌と勘違ひした女子高生・ジュリエ(星野)に捕まり機を逃す。因みに電車パートは当たり前のやうに実車輌撮影、その後、仕事を仕損じた東郷が車掌姿で改札を突破するカットは、時代の大らかさも感じさせる。一方、実は欣三郎の娘であるジュリエの部屋に、犬の夜鳴きを装ひトミオ(郷田)が夜這ひ。二人が人目を忍ぶのは何もジュリエが未成年であるゆゑだけでなく、トミオもトミオで、浩二の息子であつた。欣三郎を撃つた弾が、たまたま飛び出して来た銀行強盗を仕留め、東郷は一躍いはゆる“勇敢な市民”として脚光を浴びる。日本の“市民”が何で銃を持つてるんだよといふのは、いはずもがな通り越して、釣られてみせるのも一興といふ奴だ。一向に指令を実行しない東郷に業を煮やした“局長”は、第二の刺客に竹村祐佳を戦線投入。東郷と竹村祐佳のファースト・コンタクトは相変らず―痴漢―電車の車中、互ひの体を指で突くモールス信号で交信するのは感動的に洒落てゐるが、これ要は、叩くのは別に局部でなくて構はんよね。そんな中、新聞で顔写真を見たジュリエは再会した東郷に接触すると、山内組に命を狙はれる欣三郎の保護を依頼。小娘に鼻の下を伸ばした、東郷はジレンマに囚はれる。
 螢雪次朗の盟友・ルパン鈴木は、JIN TV局のヒムセルフ、電車内で銃撃戦を展開する竹田会と山内組を直撃取材。世論の猛反発を受けた欣三郎と浩二は、雌雄をクイズで決するべく、ルパン司会の「クイズ天国と地獄」に於いて激突する。友情出演ながら、透け透けレオタードで乳も気前よく全見せの滝川真子は、番組のアシスタント・レディーと少し遡つて、東郷がジュリエの話を聞くラーメン屋の看板娘も兼務。滝川アシスタントに話を戻すと、欣三郎と浩二が執拗に誤答し続ける度に、磔にされた二人の子分―竹田側はサブ―にダーツを、投げる瞬間鬼の形相に豹変し激投する。最終的には茶の間の笑ひを誘ひ、コント・グループ「山内君と竹田君」を結成するに至る親分二人に対し、憐れ蜂の巣にされた子分二人が無体な死に様を遂げるドライな前段のオチの、無邪気な残虐性が笑かせる。
 小生常日頃、“昔は良かつた”類の、クズでもいへる物言ひは断じて好むところでも自らに許すところでもない。ものの、正しく間断なく撃ち込まれ倒す何れも有効打の大ネタ小ネタの弾幕を前には、斯くも豊潤か、滝田痴漢電車。と、圧倒にも近い強い感嘆を覚えた。敵対組織同士に生まれた子女が許されぬ恋路に燃える、改めていふまでもなからうトミオとジュリエは、ライオネスな髪型といひ下膨れしたルックスといひ、全日本女子の練習生くらゐにしか見えない星野マリと、ある意味お似合ひにボサッとした郷田和彦が共倒れることから些か弱くも思へたが、犬の鳴き真似をトミオに誤解された東郷が、ジュリエに岡惚れする方向で見事に回復。結局ジュリエとトミオの仲を知つた東郷が、強い逆光の中をトボトボと歩くショットを頂点に、極大の情報量を、ベタな画とシークエンスの強さとで次々に捌いて行く手腕は鉄壁。唯一の難点を強ひてあげつらふとするならば、三本柱の弱さもあり、強靭な娯楽性に完全に押し切られた格好の、女の裸要素の相対的な弱さ程度か。尤も、現代ピンクにとつて、決して越えられぬ壁では無論ある訳がない。松岡邦彦は失速したまゝ未だ復活しない現況なれど、帰還と量産態勢前提で友松直之か、ゴールデン・エイジの第二章を飄々と駆け抜け続ける渡邊元嗣がゐるではないか。

 東郷が最初に欣三郎狙撃に失敗する件、弾みで倒されゴロンゴロン転がる東郷が潜んだドラム缶の、後方では子供達がゲラゲラ大喜び。大人の映画で子供がギャグの一部に使はれるのが、今の目からは新鮮に映る。


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