真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情学園 やりたい年頃」(2001『痴漢ハレンチ学園 制服娘の本気汁』の2012年旧作改題版/製作:T・M・Project/配給:新東宝映画/監督:上田吾六/脚本:松岡誠/企画:福俵満/撮影:前井一作・横田彰司・真船毅士/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/スチール:佐藤初太郎/助監督:佐藤吏・小川隆史/撮影機材:日本映機/現像:東映化学/フィルム:愛光/協力:株式会社 旦々舎・横井有紀・増田庄吾/出演:西尾直子・河村栞・風間今日子・和田智・佐藤幹雄・麻生みゅう・千葉誠樹・吉行由実・なかみつせいじ)。出演者中、麻生みゅうは本篇クレジットのみ。m@stervision大哥のサイトには、上田吾六と松岡誠が同一人物であるとする記述が見られる。今回別ソースでの確認を試みたが、辿り着けなかつた。
 土手をブルマー姿でホテホテ走る女子高生二人の背景鉄橋に、左からフレーム・インする電車を押さへてタイトル・イン。込み合ふ電車の車中、明和学園陸上部顧問の大沼秀行(千葉)が、麻生みゅうの尻に手を這はす。最初は尻だけ撫でてゐたものが、次第に襟口からオッパイにも手を捻じ込み、ムッハーと天を仰ぎヒートアップした大沼は隣の男にホールドアップ。明和学園陸上部女子部員―共学校であるにも関らず、男子部員は登場しない―の斉藤美樹(西尾)と大森沙織(河村)が、朝連(あされん)から校内に戻る。部室に入り着替へつつ、二人が目指す全国高校マラソン大会までの日めくりを沙織が一枚捲り17日としたところに、マネージャーの原島圭介(和田)が血相を変へ飛び込んで来る、新聞で大沼の逮捕を知つたからだ。校長室、当惑する三人に詰め寄られた明和学園学校長・森川健次郎(なかみつ)は、気色ばむ生徒をはぐらかすかのやうな終始半笑ひの態度で、事を荒立てたくないゆゑの陸上部廃部を匂はせる。動揺する陸上部、なほも頑強に練習を続ける腹の美樹に対し、一旦心の折れた沙織は、悪い佐藤幹雄が憎々しいスケコマシをそれはその限りに於いて好演する、元カレの高林賢治に転ぶ。マラソン熱に反対する母・美土里(吉行)と衝突した美樹が夜ジョギングに飛び出す中、沙織は高林の部屋で抱かれてゐるのが、今作の本格的な艶場初戦。翌日、即ちマラソン大会までは十六日。一週間前が期限の、校長と―現状空位となる―顧問の名前が必須の大会エントリーを巡り、校長室にて二度目の押問答。三人と入れ替りに、森川の懐刀、兼愛人のセクシーな女教師・岸洋子(風間)が校長室に入る。そのまま一戦、森川は洋子を陸上部の新顧問に据ゑた上での廃部を目論むが、一方怪しい気配を察知した圭介は二人の情事の模様を写真に収め、卑劣な姦計への逆襲に備へる。
 大人の粗相と事情で目標の大舞台への途を閉ざされかける高校陸上部、不屈のヒロインと、ドロップアウトする親友。親友を信じ黙して背中で待つヒロインに、マネージャーは放置するのかと対立する。迫るタイム・リミット、果たしてヒロイン達の夢の行方や如何に。瑣末な難癖をつけることなど憚られるほどの、綺麗な綺麗な青春映画。他方、更衣時の下着と、シャワー・シーンが一度設けられるのみで、オーラスまで美樹を出し惜しむ。沙織に関しては物語上、どうしても辛気臭さも免れないところで、洋子が畳み込む重量級の濡れ場で頑丈に繋ぐ、煽情性の論理はピンク映画的にも鉄板。美土里から美樹の、夭逝した矢張りランナーの父親(遺影スナップが一度見切れるが、遠く小さすぎて特定能はず)譲りの走ることへの情熱を聞いた洋子が、次のカットで本屋に消える、展開の要諦をさりげなく占める件の繋ぎも完璧。ただ逆に、これは編集ミスではないかと思へなくもないのは、袋から覗くマラソン専門書を抜くのは、事後の一度きりでいいのではなからうか。尤も最終的にはどうにも苦しいのが、新東宝の癖にエクセスライクな主演女優。積極的に不細工といふほどではなく、女子高生には到底見えない、といふ訳でも必ずしもない。不器用に走り続ける女子陸上部員にはある意味ハマリ役でもあるのだが、西尾直子のルックスの華のなさとプロポーションの普通さは如何ともし難い。そのため美樹の、クライマックスまで溜めに溜めた圭介との絡みが、どうしても一撃必殺の決定力を有し得ない。折角圭介には、洋子の色仕掛けにも敢然と踏み止まらせたといふのに。他の全ては概ね揃つてゐるだけにビリングの頭に開いた穴が重ね重ね惜しい、そのことが判官贔屓の下駄を履かせたと寧ろいへるのかも知れない一作である。

 ところで今回は八年ぶり二度目の新版公開で、2004年最初の旧作改題時新題が、「むれむれ学園 汗ばむ肉体」。“痴漢ハレンチ学園”に“むれむれ学園”に“発情学園”、“制服娘の本気汁”に“汗ばむ肉体”に“やりたい年頃”。三題が実にほぼ等価といふ、実は結構な離れ業をやつてのけてもゐる。所与の用語のみで「痴漢ハレンチ学園 汗ばむ肉体」、「痴漢ハレンチ学園 やりたい年頃」、「むれむれ学園 やりたい年頃」、「むれむれ学園 制服娘の本気汁」、「発情学園 制服娘の本気汁」、「発情学園 汗ばむ肉体」と、更にもう六回何の違和感もなく戦へる。だからどうしたとかいふ情け容赦ないツッコミは、後生だからいはないで。


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