真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女訪問販売 和服みだれ濡れ」(2010/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:近藤力/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:與語一平/助監督:竹洞♀哲也/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人・高橋舞・瀬名波尚太/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/出演:青山愛・合沢萌・しじみ・津田篤・柳東史・平川直大・広瀬寛巳・岡田智宏・なかみつせいじ)。脚本の近藤力は、小松公典の変名。
 柳生美加(青山)率ゐる不良グループ「犯行忌、」の、回想顔見せで開巻。総勢四名からなるメンバーは、美加の妹分・菅田晃子(合沢)と、彼氏の友成陽介(柳)。それぞれ晃子の右胸には“犯”、友成の左腕には“行”の入墨。ヤンキー役に超絶ジャスト・フィットする合沢萌は加へて、柳東史に並んでカッコよく単車を駆る雄姿ならぬ雌姿も披露する。もう一人は、バイカー・スタイルをハクく決めた三人に対し、一人三の線のヒッピー然とした剛田竜也(なかみつ)。果し合ひ相手の人数の多さに、怖気づいた剛田の尻を蹴飛ばした美加が、カメラ目線で蹴りを呉れたところでタイトル・イン。徐々に明らかとなる点として、美加の右太股に“忌”、そして剛田は右尻に“、”の矢張り入墨を施してゐる。“、”て、「黒子ぢやないですか」とは、後述する津田篤の全くその通りとしかいひやうのないツッコミ。
 現在、美加は“低所得者”Tシャツを着用した江戸昭雄(広瀬)宅での、若干お色気も利かせた低反発枕の訪問販売を経て帰社。枕の開発者、兼社長の剛田が、トップ・セールスウーマンの美加を迎へる。ここで津田篤が、もう一人―きり―の同僚セールスマン・安藤力。最終的には絡みの恩恵に与るでなければ、後半の「犯行忌、」再結成にも一切噛まない津田篤は、実は何しに出て来たのかよく判らないと片付ければ判らない。親の遺産で渡英しパンク・レーベルを立ち上げるも失敗する、等々と正体不明の略歴を剛田が長々と自己紹介したりもする、結果的には逆の意味で順調な序盤を豪快に整理すると、武勇を馳せる「犯行忌、」ではあつたが、美加の逮捕を機に解散。父親の死後娑婆に戻つた美加を剛田が要は拾つた格好で、今に至る。一方晃子と友成は、相変らずバイクで全国を放浪してゐた。目下美加が堅気の熟女訪問販売員としてそれなりに奮闘する反面、剛田の会社は、恒常的に資金繰りに窮してゐた。安藤と牛丼を食ひがてら営業会議、といふほどのものでは別になく談義程度を持つた美加は、安藤の安直な提案に乗り、女の武器を活かした営業手法に開眼し一応柳腰を上げる。この辺りで気付いたことだが、どうも誰かに似てゐるやうな気が喉元まで出かゝつてゐた青山愛は、口元がC・イーストウッドに見える。嬉しいのか嬉しくないのかは、判断に苦しむふりをしてしまへ。閑話休題、そこで華麗に登場しては一幕限りを駆け抜けて行く平川直大は、美加の初陣にして劇中唯一の枕営業本戦相手・加納雅。純然たる男優部濡れ場要員ながら、「全ての洋画はAV」とすら豪語する筋金入りの白人偏好を、平川直大一流の突破力を利して披露する。尺八の吹き過ぎで美加が遂にダウンする中、自身も出撃した剛田は法人契約を目論みラブホテルに飛び込むが、何をどう間違つたのか、現れたのは冷酷な闇金業者・大杉善一(岡田)であつた。ここでしじみは、大杉が周囲に侍らせる元々は多重債務者・丸尾理恵。
 さういふ次第で剛田は大杉の仕掛けた地獄にまんまと嵌り、会社には寝耳に水の倒産を告げる大杉子分のマスク男(小松公典、後に子分其の弐で江尻大も登場)が乗り込んで来る。如何にも姐御よろしく、和装に武装した上で美加は大杉邸に乗り込むが、深手を負ひ、なほかつ美加を逃がすため自らその場に止まつた剛田も残して来る。いよいよ腹を括つた美加は晃子を呼び寄せ、預けておいた―正真正銘の、しかも箆棒な―飛び道具を受け取る。純然たる私事でしかないが、先に来た小倉を回避したところ八幡は素通りしてしまつたゆゑ、リアルタイムでは未見の加藤義一2010年第二作は事ここに至つて漸く、開巻時既に萌芽の窺へたピンキー・バイオレンス嗜好が、満を持して本格再起動する。ものの、前述したイントロダクションから迷走する流れも律儀に引き摺つてか、狙ひが明確であることと、以降の始終が一直線に進行する割には結構派手にグダグダする。ところが、満足に動けない主演女優の、別の意味で堪らない不安定極まりないアクションに味つけされた覚束ない展開が、偶さかなその日の気分と体調の問題に過ぎないやうな気もしないではないが、兎も角妙な塩梅で琴線に触れて仕方がない。強ひて過大評価を試みるならば、基本的な枠組自体はそれはそれとして堅固な脚本と、加藤義一の穏当な語り口とが、仕出かすは仕出かすにしてもチャーミングな仕出かしやうに、幸にも辛うじて辿り着き得たとでもいふ寸法か。一般的に面白いだの傑作云々だなどと、度外れた強弁を弄するつもりまでは勿論元よりない。いはゆる“アガる”類ではなく、生温かい目でウダウダと楽しむ分には、もしかすると上手く行けば万が一、楽しめ、るかも知れない一作。柳東史と合沢萌が並んで単車を転がすショットの威力は手放しで尋常ではないので、いつそこの二人―のみ―によるスピンオフ作を希望したいところでもある。

 全篇を通してジャカジャカ鳴る與語一平のバンドサウンドは、個人的には心地良い種類の音楽。但し量産型娯楽映画の劇伴にしては、合ふ合はないの賛否両論も避けられまいか。


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