真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ぐしよ濡れ美容師 すけべな下半身」(1998 夏/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/脚本・監督:女池充/企画:福俵満/プロデューサー:岩田治樹/撮影:長田勇市《J.S.C》/編集:金子尚樹《J.S.E》/音楽:タワーホウムズ/録音:鈴木昭彦/助監督:佃謙介/監督助手:斉藤克康/撮影助手:鏡早智、他一名/タイトル:道川昭/協力:榎本敏郎・女池陽子、BIG MAMA、他多数/出演:佐々木ユメカ・田中要次・川瀬陽太・相沢知美・田嶋謙一・三浦景虎・国沢実・白土翔一、他三名)。出演者中、国沢実以降は本篇クレジットのみ。激しく情報量の多いクレジットに、概ね屈する。
 深夜のラブホテル「プリンシパル」が火事に、元々痛飲し前後不覚の早瀬麻子(佐々木)が、飛び込んで来たフル装備の消防士に救出される。スプリンクラーが起動し、土砂降り状態の室内。麻子のその夜のお相手・山田(川瀬)がベッド下から、何気に見事なアクションで弾けるやうに跳ね起きると、矢張り相変らず正気をなくしたまゝとりあへず服を着て自力で脱出する。もう一人男が居る筈だといふ麻子の声に消防士は部屋に戻るが、誰も見当たらず、携帯電話を拾ひ上げる。「BIG MAMA」で飲んでゐるところまでは一緒であつた美容師の同僚・山崎妙子(相沢)に、病院に担ぎ込まれた麻子から連絡が入る。その時妙子は、夜の美容室で店長の増田(田嶋)と不倫の情事の真最中であつた。妙子はひとまづ事を中断し、一軒家に同居する間柄でもある麻子を回収しに向かふ。麻子は男の顔も名前もおろか、飲み屋での顛末からまるで覚えてゐなかつた。子宮にジンジン来る、感覚の残滓以外には。翌日、ここは実は、それを個人的に所持してゐることに関しては明確な職務規律違反も予想される点は一旦さて措き、消防士・須藤公平(田中要次/下の名前は大絶賛推定の当て字)は自分の番号に電話をかけて来た山田と会ひ、携帯を返す。ところがメモリーが飛んでしまつてゐて、山田も山田で、容貌がウッスラ残つてはゐるものの、麻子の名前も連絡先も判らなくなつてゐた。白土翔一が壇上の国沢実を吊し上げる、「プリンシパル」ホテル火災被害者説明会。何しに来たのかその場に私服で現れた須藤は、麻子と再会する。後藤と呼ばれるホテル側と被害者側にそれぞれ他一名(何れも不明)、即ち麻子と須藤も入れて僅か計六名しか見切れない会場は、流石に閑散とするにもほどがある。話を戻すと、接近した須藤は、麻子に山田の記憶がないのをいいことに、再開を偽り交際をスタートさせる。一方、須藤と山田の交友関係も継続、事の真相は当然露知らず、山田が須藤と麻子の恋路にアドバイスを与へてみたりもする中、山田の勤務先が急に倒産。社宅住まひであつたのか、同時に住居も失つた山田は、煮え切らない懇意に甘えて須藤の部屋に転がり込む。
 好人物風の印象に一見誤魔化されかねないが、人を騙してゐるといふ一箇所を注視するならば、消防士のある意味明白な悪意に上手いこと切り離された、一夜を共にした女と男。女池充第二作は、凝つたプロットを丁寧に形作つた、小洒落た大人の恋愛映画である。そもそも小屋の上映環境が覚束ないことならば忘れたつもりはないが、その他の場面では然程躓くでもないゆゑ、矢張り映画自体の音響設計からの問題ではあるまいかとも思はれる、全く聞き取り難いTVニュースを見た山田は、麻子即ち事件当夜の女の生存に辿り着く。続いて、麻子が招いた須藤と、家に居た妙子とが鉢合はせる。ここで肝心なのは、名前は兎も角、妙子には少なくとも山田の面影を残してゐる点。一人平然とした麻子の傍らで、妙子と、その風情を看て取つた須藤とが順に固まるカットの映画的強度は秀逸。若い川瀬陽太に綺麗に親和する、一旦はほろ苦さも見せるところまで含めて以降の麻子の姿を求め山田が健気に奔走する展開も鉄板。ただオーラスを、そのまま素直に畳みはしない辺りが、良くも悪くも女池充的ともいへるのであらうか。詳細は自重するが、ああいふ形で須藤を放り込むのであれば、絵を引つ剥(ぺ)がした壁にタイトルがバーンと大書されてあるくらゐの、更に一押しの外連も仕掛けてみれば?といふ希望寄りの疑問は残らぬでもない。折角といふか何といふか、原題が“まるで再出発 -(STOP USING) SEX AS A WEAPON + (JUST LIKE) STARTING OVER-”だなどと、無闇に長たらしいものでもあることだし。佐々木ユメカを正しく間に挟んだ、田中要次と川瀬陽太の三本柱は勿論強力だが、その上でも一際目を引いたのは、鎖つきの眼鏡もスタイリッシュに映える相沢知美。ドラマ本筋の進行に拘束されざるも得ない主演女優に代り、うつてつけに取つてつけられた田嶋謙一との絡みで、商品的な煽情性はどちらかといふと相沢知美の方が担保する。

 出演者中残り、三浦景虎は山田の同僚。麻子に髪を触られる、七里圭似の美容院客。麻子の姿を求め、現に川瀬陽太の筆による自作ポスターと定点カメラを頼りに張り込みを開始した山田は、火災現場向かひのラブホテル「フォーラム」をベースに選ぶ。森羅万象似のそこの支配人、テレビでニュース原稿を読む女、の三名は何れも不明。因みに今作、2002年最初の旧作改題時のあんまりな新題が「美容室の情事」で、今回は旧題ママによる、二度目の新版公開に当たる。「美容室の情事」て・・・・確かに佐々木ユメカも相沢知美も、一度づつ披露するとはいふものの。流石にプリミティブに過ぎる、あるいは、やつゝけるにもほどがある。


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