真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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私の調教日記/エロバリ
は行
/
2011年06月15日
「
私の調教日記
」(2010/製作:レジェンド・ピクチャーズ、シグロ/監督:東ヨーイチ/脚本:東ヨーイチ/企画:山上徹二郎・利倉亮/プロデューサー:江尻健司・渡辺栄二/撮影:下元哲/録音:山口勉/助監督:佐藤吏/監督助手:加藤学/撮影助手:高田宝重・榎本靖/メイク:島田万貴子/メイキング:榎本敏郎/音効:藤本淳/EED:桐畑寛/EED助手:竹内宏子/制作協力:セゾンフィルム/出演:亜紗美・速水今日子・澤村清隆・上田亮・古藤真彦・奥村望・竹田朋華・奈良坂篤・諏訪太朗・佐藤幹雄)。
交通量の激しい道路を跨ぐ歩道橋の上、人待ち風情のやさぐれ女・銀杏(亜紗美)に、通りがかつた澤村清隆(役名不明、以下同)が声をかける。他愛もない遣り取りの末、銀杏がわがままニー二発で澤村清隆を轟沈させたところに、感動的に唐突に諏訪太朗も登場。観客にはヒントの欠片すら与へられない段取りを経て、銀杏は諏訪太朗と澤村清隆がコンビを組むペテン師であることを看破、二人が退散するや無造作なトコロテン式に、銀杏が待つ恋人・吾郎(佐藤)が現れる。新作では「
姉妹 淫乱な密戯
」(監督:榎本敏郎/主演:麻田真夕・千川彩菜・佐々木麻由子)以来四年ぶりに観た佐藤幹雄は、驚くほど全然変つてゐなかつた。
吾郎と銀杏を、多分奈良坂篤が運転手のワンボックスが迎へる。車が走り始めると、予め決められてゐたことと吾郎は銀杏を目隠し、軽く乳繰り合ひつつ、二人が入つたのは
ミサトニックな洋館
。時折吾郎に抱かれることも認められてゐるやうな反面、銀杏は所定の一週間の間、館の女主人(速水)が連れて来る一号から三号までの目出し帽の男(後述する)に繰り返し手を替へ品を替へ陵辱される、苛烈な―と、いふことにひとまづしておいて通り過ぎる―調教を受けることに。因みに、速水今日子の相手を佐藤幹雄が務める絡みにて、吾郎がかつては、目出し帽男のポジションに在籍してゐたことも、あるいは“ことは”語られる。
残りの出演者は、ビリング順に上田亮が、館を後に娑婆に戻つた銀杏の前に素顔を晒しても現れる、目出し帽一号。恐らく目元のアップから、古藤真彦が同じく三号。どうやら性別は男らしい、といふ辺りまでしか判然としない奥村望にどうにもかうにも手も足も出しやうがないが、二号か、それとも一度は長台詞も与へられる館のエスコート役の若い男。澤村清隆・上田亮・古藤真彦と同じくレジェンド・アクターズスタジオ所属の竹田朋華は、少なくとも、その姿がフレーム内に捉へられることはない。となると、正直何の意図があるのか激しく腑に落ちない、冒頭の歩道橋の画に被せて中盤妙な尺を割かれ繰り広げられる、痴話喧嘩の女の声か。男の声は、勿論大絶賛不明。
成り立ちのあらましから先に攻めておくと、“障害のある人たちが、エロティックな映画を映画館で楽しめ、体感できる環境を作る”とのコンセプトを謳ひ、副音声と字幕つきの裸映画を製作・上映する略称エロバリこと、エロティック・バリアフリー・ムービーの第一弾である。ポレポレ東中野を始めとする各劇場での上映に当たつては、第一弾もう一本の「ナース夏子の熱い夏」(2010/監督:東ヨーイチ/バリアフリー副音声:速水今日子)主演の、愛泰(ex.薫桜子)が副音声を担当してゐるらしい。“らしい”といふのは、今回小生がプロジェク太上映の地元駅前ロマンにて観戦したのは、レジェンド・ピクチャーズよりリリースされた純然たるVシネ仕様で、副音声・字幕何れもつかず、確かクレジットからなかつた筈だ。因みに、結果論を先走ると出来栄え自体に一見ウッカリ通り過ぎかねないが、監督・脚本の東ヨーイチとは、「もう頬づゑはつかない」(昭和54)や「橋のない川」(1992)等々で広く知られ、かねてから自作のバリアフリー化に尽力する東陽一その人である。実際に今作を観て頂ければ、改めてお断り申し上げるまでもないことではあるが、最初に“エロティックな映画”とはいつたものの、アスペクト比16:9のHDで撮影された、直截には単なるVシネである。なので話を戻すと単館公開に際して、キネコで事に挑んだのか、矢張りプロジェク太で茶を濁したのかは不明。全くの邪推ながら、どうせわざわざフィルムを焼いてなどゐまい。
その上で、作品自体の吟味を一言で片付けてみると、バリアフリーの美名に引き寄せられた善男善女か、もしくは東陽一の名にまんまと釣られたシネフィルは、共々撃沈必至の一作。自堕落に自動的なのみでてんで形になりはしない開巻から、映画といふかVシネといふか、兎も角エロバリがワン・カットたりとて回復することはない。そもそも主眼の銀杏がミサトスタジオで過ごす一週間からが、サドマゾもなければ特にエクストリームな訳でもなく、実質的には凡そ調教も陵辱もへつたくれもない。端的に、生温い濡れ場濡れ場が正しく漫然と連ねられるばかり。一応七日間監禁状態には置かれる特異な状況に関しての、外堀が次第に埋められて行くことも別にも何もほぼない。終盤吾郎と銀杏がスノビッシュに中原中也の「春宵感懐」を輪唱してみせるといふか、より正確には輪唱してしまふ件に顕著な、何とはなくの雰囲気だけで間をもたせ一時間強を見せきるには、兎にも角にも平板極まりなく、平均的な水準から半歩も踏み出でることはないVシネ画質が厳し過ぎる。機材的な問題なのか、下元哲十八番のソフト・フォーカスも不発。オーラスに至つて、藪から棒にとしかいひやうがない銀杏のモノローグにより、件の一週間が“人間改造計画”とかいふイベント―何故か凹み気味の主催者として、再登板した奈良坂篤が見切れる―で、なほかつその本質が、実は“男性改造計画”であつたとする結論が、木に竹すら接ぎ損なふかの如く言明される。諏訪太朗登場時と同様に、唐突に開いたものを更に唐突に畳んだと考へれば、逆の意味で完成された構成とも皮肉としてはいつていへなくもないが、実際のところは良くて狐につままれるか、悪くすると開いた口が塞がらない。それもこれも、寝落ちなければといふ、最も困難なハードルを越え得た場合にのみの話ではある。女の裸の腰から下への訴求力さへ覚束なく、こんなところで名前を持ち出して申し訳ないが、東ヨーイチであらうと陽一であらうと、コーヒーと同じ意味に於いての、レジェンド謎の四番打者・久保寺和人監督作かと見紛ふアメリカンVシネ。個人的にはリアルタイムの佐藤幹雄の健在ぶりを確認出来たことが、唯一の収穫である。
当初は2010年中の第二弾―初弾のロードショーは八月―が予定され、残存する公式サイトには“11月下旬、ポレポレ東中野にて公開決定!”とこの期に臆面もなくあるが、幸か不幸かといふか当然の報ひとでもいふべきか、未だ、第二弾の詳細は有無から清々しくまるで聞かない。下衆が勘繰るに、あるいはないから聞きやうがないのか?
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