真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・痴漢教師4 制服を汚せ」(2001/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/撮影助手:長谷川卓也・岡部雄二/監督助手:長谷川光隆・斎藤勲/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現場応援:小川隆史/現像:東映化学/出演:佐々木麻由子・河村栞・麻生みゅう・なかみつせいじ・北千住ひろし・松木良方・神戸顕一・千葉誠樹・鈴木ぬりえ・浅井康博・樹かず/特別出演:石動三六・小池雪子・山ノ手ぐり子・大場一魅・入江浩治・菱沼美枝子・のろけん・かわさきひろゆき/SPECIAL THANKS:吉永幸一郎・山本幹雄・宮野真一・長谷川耕平・アンタッチャブル林・渡辺武洋・望月海吏・荒川正勝・林有一郎・生方哲・松嶌正樹・柄本倫子・高氏源治・佐々木久志・平田耕二)。出演者中、樹かずは本篇クレジットのみ。
 混み合ふ電車の車内、全篇貫き火を噴くエキセントリックに下卑たニヤケ顔を浮かべ、北千住ひろしが多分小池雪子に痴漢する。背後から女の肉を愉しむ北千住ひろしと弄ばれる小池雪子、更にその前に背中を向けて立つ石動三六が不穏な気配に気づきかけたところで、無体にも北千住ひろしは石動三六に自らの罪の濡れ衣を着せる。あちこち不自然さも甚だしい開巻ではあれ、一応後々の、助走を果たしてゐなくもない。
 明和学院高校、そんな北千住ひろしこと科目は社会科教師の塚本が、己の姿も省みず生徒にソクラテスの思想を説く。天の怒りに触れ、雷にでも打たれてしまへ。劣等生の霧島かおり(麻生)が話も聞かずに携帯を弄り、優等生の渚ゆい(河村)は、右隣の髪型と眼鏡が無闇に野暮い彼氏・岡部(浅井)に消しゴムを貸す。一方校長室、校長(松木)は信頼を置く教師の山村(なかみつ)に、昨今二世議員の石原(千葉)と結託した教頭(神戸)が、金儲け目的で明和学院中等部新設を目論む動きへの警戒を打ち明ける。同調と共闘を山村に求めかけた校長は、心臓の発作に見舞はれ昏倒、その場に、英語教師の三島涼子(佐々木)も居合はせる。そのまゝ校長が入院してしまつた大事も何処吹く風、互ひに家庭を持つにも関らずW不倫の状態にある山村と涼子はホテルにしけ込み、漸く最初の絡みらしい絡みをキメる。因みに、都合三度繰り広げられる電車痴漢は、何れも実車輌での撮影につき、然程深追ひはせず。翌日以降、山村が入院中の雑務を校長から任されたのが、教頭は激しく面白くない。腰巾着で学年主任の塚本経由で招聘したかおりを、教頭は実際の成績からは到底あり得ない大学推薦もちらつかせ3Pでコッテリ堪能した上で、仔細は塚本に委ね無造作なハニー・トラップ発動。再び大雑把なシークエンスを経て、かおりを操り塚本は石動三六に続き山村にも、破廉恥犯の汚名を負はせる。憐れ山村が校内の白眼視に耐へかねる中、勢ひづく教頭と塚本は入念なリサーチを通して初物であるとの確証を得た、ゆいを石原に献上する。石原も石原で、ラリッてでもゐるかのやうにしか見えない、奇矯極まりない演技指導を施される。かつては新田栄が多用した、模型を使つての膣内視点を表現する―そもそも、一体どんな視点なのかといふ話でもあるのだが―特撮に際しては、薄紙でも用ゐたのか膜越しに千葉誠樹の顔をぼやけさせる、珍しいショットを披露する。現実的かどうかはさて措き、アイデアとして視覚的にも判り易く実に素晴らしい。
 登場順に樹かずは、確かに多忙さうであるのは兎も角、特に不仲さも全く窺はせぬどころか寧ろ満更でもない雰囲気の、涼子の夫で映像ディレクターの三島。と、ころで。涼子が差し入れに訪れる三島がビデオを編集中の一室には、35mmのフィルム缶が画面左手前に大量に見切れもする。鈴木ぬりえはヘッドフォンとガムがトレードマークの、かおりと反目する女生徒・野上和代。確執の発端たる、鼻糞が目糞に笑はれる回想に於いて、サイレント映画風に二人の台詞を―しかも乱雑な―手書きテロップで処理するのは、柄にもなく、池島ゆたかは荒木太郎にでも気触れてみせたのか。特出勢中僅かに確認出来たのは、教師役の山ノ手ぐり子(=五代暁子)とかわさきひろゆきと、かおりと仲のいゝ男子役の入江浩治のみ。大場一魅が顔を見れば判る筈なのに、確認能はず。
 節目に改めて整理すると、額面通りの痴漢教師が底の浅い姦計を振り回す、「ザ・痴漢教師 制服狩り」(1997/脚本・監督:北沢幸雄/女優主演:メイファ)。以降池島ゆたかにメガホンが渡り、シリーズ最強の獣欲の権化が大暴れの末見事に破滅する、「ザ・痴漢教師2 脱がされた制服」(1998/女優主演:立川みく)。気弱な痴漢ならぬ正確には盗撮教師が、サイコ・キラーの千葉誠樹に完全に喰はれてしまふ「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/女優主演:里見瑶子)に続く、第三作までは杉本まこと名義のなかみつせいじを主演に据ゑ、前三作のペースと比べると若干間も空いた「ザ・痴漢教師」シリーズ第四作。尤も、山村メインで今作を捉へようとすると、些かならず面喰ふか拍子抜けする羽目になる。教頭&塚本の悪党コンビに力無く撃墜されたまゝの山村の復権に尽力するのは、岡部に捧げる約束の処女を無惨に散らされ、傷心のゆいを保護した―飛躍も大きな―弾みで痴漢疑惑の核心に無理矢理辿り着き、文字通り一肌脱ぐ涼子。塚本に仕掛けた、例によつて場当たり的な逆ハニー・トラップが露見の危機に瀕するや、今度は左右にかおりとゆいを助さん角さんよろしく従へ、黄門感覚で校長復活。俄に蛇に睨まれた蛙の如く、教頭と塚本は何故か色んな段取りもスッ飛ばして止めを刺される。大絶賛他力本願ぶりが最早清々しい山村は、挙句に締めの濡れ場すら関係の清算を決意した涼子からはかはされ、取つてつけた感も迸らせぬではない、ゆいと岡部に譲る始末。少なくとも、山村の扱ひに関しては等閑視するにせよ、映画を畳ませるのであるならば、もう少し岡部にも出番なり描写を割いてあげるべきではとの釈然としなさは残る。これまでの傾向も踏まへ山村に求めると、案外今作の軸を見失ふ。よしんば最後は短絡的に片づけられてしまふとしても、事実上の主役は不倫教師のなかみつせいじではなく矢張り痴漢教師の、北千住ひろしと見るのが妥当ではあるまいか。対涼子戦、対かおり戦、対ゆい戦のそれぞれ一戦のみに止まる順に山村、教頭、石原に比して対かおり戦と、最終的には未遂に終るもののアグレッシブに攻め込む対涼子戦、加へて冒頭とかおりの懇願を受けた和代殲滅戦の、二度の電車痴漢をも展開する塚本の劇中支配率こそが、物理的な尺の長さ以上に何はともあれ兎にも角にも高い。ギョロ目で歯は剥き出し、喚くやうに高笑ふ。主用メソッドは一つきりの鮮やかな一本調子ではありながら、物語を牽引しつつラスト間際まで走り抜き、低劣な好色漢をそれはそれとして快演する北千住ひろしの姿が、表面的なビリングに囚はれなければ最も印象に強い。電車内といふ衆人環視の状況下で、和代を辱めるべくピンクローターを下着の中に忍び込ませ責めた塚本は、「時をかける少女」の節で「バーイブ、入れた少女♪」なる頓珍漢な替へ歌まで歌ひ上げる。だからローターだろ(´・ω・`)、などといふ無粋なツッコミは自粛だ。主演が助演に喰はれた前作に引き続きといふか更に斜め上を行き、実は助演が主演であつたのではなからうか、とさへ思はせるトリッキーなシリーズ最終作である。


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