真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(2010/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:橋本彩子・花村也寸志/照明助手:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協力:田中康文、小川隆史、だいさく、ステージ・ドアー《新宿》/出演:晶エリー・竹下なな・日高ゆりあ・甲斐太郎・野村貴浩・久保田泰也・色華昇子・津田篤・池島ゆたか/SPECIAL THANKS:里見瑤子・倖田李梨・木の実葉・酒井あずさ・ミュウ・月夜野卍・久保新二・竹本泰志・国沢☆実・丘尚輝・永井卓爾・山名和俊・松本格子戸・岡本真一・後藤大輔)。SPECIAL THANKS中、里見瑤子からミュウまで、即ち女湯裸要員はポスターにも記載あり。
 煙を吐く銭湯の煙突―これ、判り辛いけど煙はCGか?―と、寡黙にボイラーを焚く野村貴浩の画を噛ませて、常連客のオザキ(久保)と色華昇子(ハーセルフだかヒムセルフ)が、仲良く喧嘩するやうに連れ立つて下町のオアシス・銭湯「松の湯」を目指す。新作では久し振りに見た―森山茂雄の「好きもの家系 とろけて濡れる」(2008)以来―割には大絶賛相変らずな色華昇子の、久保チンを向かうに一歩も引けを取らない存在感はある意味流石だ。我先に松の湯に辿り着いた二人の、「女将さあん、時間ですよ!」といふシャウトに合はせたタイトル・インの強度は完璧。親子ほど歳の離れた亡夫から継いだ、女将の及川志乃(晶エリー/ex.大沢佑香)が一人で切り盛りする松の湯は、亡夫の友人、兼現在は志乃の相談相手も務める大学教授・谷原(甲斐)の進言に沿つたポイント制のサービスも好評を博し、時流に屈せず賑つてゐた。ここで、抜群に潤沢な銭湯客は甲斐太郎と色華昇子、後述する日高ゆりあと久保田泰也のほかに、SPECIAL THANKS勢中女湯に里見瑤子からミュウまでと、男湯には久保チンから岡本真一まで。余計な方向に筆を滑らせると、木の実葉(ex.麻生みゅう)のよくいへばリアルな裸は正直少々キツい。兎も角、欲情ならぬ浴場の様子に被せて、不格好に今作を貫く窃視者の視線を表す瞳のCGが、横好きに起動する。役得感を爆裂させる、志乃と亡夫・及川(池島)との在りし日の夫婦生活―それにつけても昨今の池島ゆたかの肥えぶりは、まるでマーロン・ブランドのやうだ―をタップリ尺も消費し且つコッテリ回想した上で、及川家に、義理の娘とはいへ志乃より年上の松子(竹下)が、夫とは離婚したと騒々しく出戻つて来る、コッソリ帰つて来られても驚くが。その扱ひを巡り早速諍ひとなつた志乃は松の湯の継続死守と、松子を養ふ旨を果敢に宣言する。志乃が守り抜くと誓ふ、銭湯といふ失はれ行く一つの業態を超えた文化に、ピンク映画の姿をも重ね合はせるのは、センチメンタルな勘繰りであることならば判つてもゐるつもりだ。志乃が松子帰還を谷原や、松の湯の常連客でパブ「ステージ・ドアー」のママ・ゆかり(日高)に零すやうに伝へる中、当の松子はといふと、薮蛇に樹かずが登場するAVでオナッてゐたりなんかもする。一方ステージ・ドアー、学生時代から松子をマドンナ視する矢張り松の湯クラスタ・長田ユースケ(久保田)が、泥酔しゆかりに管を巻く傍らで、松の湯のボイラーマン・滝沢(野村)は、東スポを手に不器用に一人飲みする。ここではSPECIAL THANKS勢から月夜野卍が店の女で、後藤大輔がその他客らしい。もう二人店内に見切れるのは、確認し損ねたが田中康文と小川隆史辺りか。そんなこんなで、ポイント会員限定の松の湯混浴デー。フレーム内に三つ並んだ湯船の内、向かつて左側の湯船には久保チンを先頭に男客、右側の湯船には里見瑤子以下女客が互ひに緊張して固まる中、中央の湯船にはいはば男でも女でもない色華昇子が一人ポツンと浸かる画は、森山茂雄の今度は「痴漢電車大爆破」(2006)開巻を飾る佐野和宏の誤爆痴漢にも繋がらう、到達感さへ煌かせる超絶の名ショット。20ポイントを貯めたゆかりはイケメン三助特典をゲット、水着の志乃の「タッキー、カモーン!」の呼び込みと共に、着流し姿の滝沢が大衆演劇感覚の見得を切りながら華麗に登場。秘かにでもなく滝沢に想ひを寄せるゆかりは三助サービスを猛烈に跨ぎ越えた、殆どどころか完全ないはゆる“逆ソープ”に、次第に固唾を呑む衆人環視を憚るでなく喜悦する。ところで、滝沢が二十代の頃は六本木NO.1ホストであつたとする人物造形には、深読みすれば「ホスト狂ひ 渇かない蜜汁」(2006/主演:たんぽぽおさむ・日高ゆりあ)も踏まへた、裏設定の存在が予想といふか妄想される。
 終盤に至つて漸く登場する津田篤は、かつて志乃を及川に奪はれた元カレ・柏木ヒビキ、詰まるところが窃視者の正体でもある。数度目の松の湯潜入で滝沢に捕らへられ、後に二人きりになれたところで、諦め悪く復縁を迫り志乃に襲ひかかる。とそこに、松子が混浴デー二日目にこちらも目出度く結ばれた、長田と帰宅。再び捕らへられるや、商店街緊急連絡網を通じ召喚された妙にマッシブな色華昇子が来襲、柏木が危ふく喰はれかゝるシークエンスは恐ろしくも抱腹絶倒。
 SPECIAL THANKSに名を連ね、劇中特にこれといつたギミックを披露する訳でもなく一貫しておとなしく風呂を浴びる、国沢☆実の「新・未亡人銭湯 女盛りムンムン」(主演:原ゆきの)以来、七年ぶりの未亡人銭湯。さりげなく特筆すべきは、実は里見瑤子が現時点で今世紀三作何れもオーピーの未亡人銭湯―渡邊元嗣の「未亡人銭湯3 覗いちやつた」(2001/主演:高橋千菜)は、残念無念未見―の全てに、女湯裸要員としてカメオ出演を果たすといふ地味な偉業を何気なく達成してみせてゐる点。時節柄当然予想し得る、銭湯の存続問題は冒頭に於いて既に導入済みの、谷原発案のポイント・サービスにて概ね通り過ぎると、後は要は順々に三番手、二番手、そして主演女優がそれぞれ恋路を成就させ幸せになるだけの、といへばだけの、一本調子の一作でもある。冷静になつてみると展開らしい展開にも乏しいところではありつつ、演者の頭数が増えれば増えるだけキレを取り戻す池島ゆたかの演出は頗る快調、一歩間違へばメイン・キャストよりも豪華なSPECIAL THANKS勢―といふか、この面子で全然一本撮れるぞ―が飾る画面の分厚い賑々しさには、つらつら眺めてゐるだけで胸がワクワクさせられる心地良い豊かさ温かさが溢れる。物語がどうの主題がどうの、手法としてはどうだかうだと野暮はこの際さて措き、正しくいい湯加減の広々とした風呂に身も心も解(ほぐ)されるかの如き映画体験が味はひ深い、肩肘張らないまゝに高水準の、戦闘的ならぬ銭湯的な娯楽映画の良品である。観終つた後には、小屋に置いてあればコーヒー牛乳でもキメてしまへ。無論、仁王立ちで空いた手は腰だ。そんな中、映画を汚すとまでいつてのけるのは些か言葉が過ぎるやも知れないが、一円安くしてしまふもは否めない―昨今は影を潜めた、渡邊元嗣のプリミティブ特撮にも匹敵する悪弊といへよう―コンピューターならぬチープ・グラフィックスも含めると、ビースト・モードの色華昇子に愉快にとつちめられるほかは特段の見所に欠く柏木は、一体何をしに出て来たのか判らないとも一見いへかねない。とはいへ、ここで更に「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本監修:関根和美/主演:愛葉るび)を想起するならば、久保新二と共演すると津田篤が無駄遣ひされる、明後日な法則性も認められぬではない。


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