真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「潮吹き花嫁の性白書」(2010/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:櫻井信太郎/監督助手:エバラマチコ/撮影助手:丸山秀人・高橋舞/制作進行:小山悟/スチール:本田あきら/音楽:與語一平/現像所:東映ラボ・テック/協力:加藤映像工房・Sunset Village/出演:かすみ果穂・倖田李梨・☆LUNA☆・佐藤玄樹・久保田泰也・岡田智宏・毘舎利敬・岩谷健司)。出演者中、☆LUNA☆がポスターでは星抜き、星込みで正式な名義らしい。尤も、昨年の十二月で公式な活動を終了した模様。
 ウエディングドレス姿のかすみ果穂が、新郎目線のカメラに微笑みかける。変な言ひ方だが、信じられないくらゐ美人。かすみ果穂と、倖田李梨・毘舎利敬の達者なイラストが添へられたタイトル・イン。劇中に登場するもの含め、イラストレーションの主に関してはクレジットレス。少なくとも人物画は、何処かで見たやうな気もするのだが。
 平田真美(かすみ)の父親・淳嗣もとい俊司(毘舎利)がベランダでスケッチブックに筆を走らせながら、トマトを手に載せた妻・純(倖田)のポーズに注文をつける。純と俊司、二人揃へばジュンジが完成するな、ガガガ。但し俊司が描いてゐたのは愛妻でなく、トマトだつた。結婚後二十年、依然微笑ましい両親の風情に、真美も目を細める。不動産屋で平田夫婦共通の友人・松田納ならぬ治(岩谷)は、真美にとつては擬似伯父的な相談相手でもあつた。そんなこんなで松田の店の物件は、社長が森角威之の(有)杜方。初見時にはハンサムな幸野賀一にも見えたが、三作目にして竹洞組にも綺麗に馴染んで来た岩谷健司には、戯れにピンク映画界の石橋凌の称号を冠したい。松田は尋常ではない度々新婚新居の下見に訪れる、シネフィルの園田本気(久保田)とハル子改め晴子(☆LUNA☆)のカップルに呆れるのも通り越して悩まされる。真美には、後々実は俊司の弟子筋に当たる旨語られる、イラストレーターの石沢常光ではなくして常吉(佐藤)といふ恋人がゐるものの、なかなか男女の仲に至れずにゐた。現在は社会に出た真美には女学生時代、レイプされた哀しい過去があつた。こゝで、緊迫したカメラ・ワークの中その人と知れる形で捉へられはしない上で、岡田智宏が回想中の憎き破廉恥漢。石沢と手を繋ぐことすら躊躇する真美が寂しげに見やる、二人連れ男女は識別出来ず。
 耐へ難い愛する者との別離と、残された者のなほそこからの克復。重量級のテーマを、巧みにそれとは悟られぬやう軽妙な語り口に包み隠した抑制的な一篇。毘舎利敬と岩谷健司、ビリングのラスト二人が主に牽引する、温かみを失はず嫌味さは感じさせない小粋な遣り取りと、銀幕の中普通に佇むだけで十二分にウットリさせられる主演女優とに概ね満足しつつ、何時まで経つても本格起動する気配を見せず覚束ない本筋に、不安も次第に覚えかけた中盤以降。徐々に徐々に喚起させられる違和感は、やがて悪し様にいへば昨今よく見る驚きの褪せたサプライズに着地する。その、直截に工夫を欠いた在り来りさは兎も角、ヒロインの強姦被害を心の痛みの種として、ミスディレクションの用に持ち出す無神経な悪趣味には流石に首を縦に振り難い。ところが、続く二段構へ、もしくは二連発のどんでん返しにより明らかとなるもう一つの真実には、蛇足と難ずる向きもあるやうだが、全く不意を突かれたのも含め素直にハッとさせられる映画的興奮を覚えた。一方オーラスを文字通り飾る、漸く真美が辿り着き得た石沢との情交に際して、それが遅ればせながら劇中最初で唯一となるかすみ果穂の濡れ場らしい濡れ場である点に関しては個人的に必ずしも躓くものではなかつたが、依然改善されぬ、山田孝之風のそこそこ今時イケメンではある佐藤玄樹の、脱ぐと逆の意味で凄い体の緩みはどうしても目についた。締めの絡みを任せるには、女優を刺身に譬へるとツマのやうな男の裸ではあれ、矢張り些かならず見苦しい。肉体は俳優の言葉であると自他を律する千葉真一御大の立場に、演技者如何を問はず人生観の領域にて全面的に賛同するものである。全体的な求心力は然程強靭ではないまゝに、じわじわ染み入る一作。ただ確かに、胸から上で味はへこそすれ、腰から下を揺すぶる訴求力は決して強くはないとはいへよう。ピンクよりも、明確に映画寄りのピンク映画である。


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