真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「桃尻ハードラブ 絶頂志願」(昭和62/製作:《株》フィルムキッズ/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:内藤忠司/プロデューサー:千葉好二/企画:塩浦茂・東康彦/撮影:仲田善哉/照明:遠藤光弘/編集:鈴木歓/助監督:秋山豊/製作担当者:中村哲也/色彩計測:佐藤和人/音楽:金刺勝治/録音:ニューメグロスタジオ/現像:IMAGICA/ヘアーメイク:庄司真由美/スチール:西本敦夫/監督助手:勝山茂雄・遠藤聖一・柳田剛一/撮影助手:青木克弘/照明助手:田中陽一・郷間英敏/製作進行:井上淳一/撮影協力:Loversinn《池袋》/出演:<ロマン子クラブ>藤崎美都《会員NO 7》・百瀬まりも《会員NO 10》・前原祐子《会員NO 12》・新田恵美《会員NO 1》・小林あい《会員NO 4》・相原久美《会員NO 6》・北原舞子《会員NO 8》・清水舞《会員NO 11》・木村さやか《会員NO 13》・山本伸吾・大山大介・下元史朗)。
 百瀬まりもが吐息を洩らすのは一人寝でなく、太股に男の手が這ふ。去年の夏、概ねハーセルフのまりも(百瀬)が、小学校からの幼馴染であるマリオ(大山)と初体験。痛いだけのロスト・バージンをまりもが振り返つた流れで、軽くティルトする緑の丘に、藪蛇に荘厳なドラムロール鳴らしてタイトル・イン。今年の夏―高校生といふ以上の学年不明―も恋を捕まへ損ねた、ひとみ(藤崎)としづか(前原)にまりもが黄昏る。黄昏る三人を、ローラースケートを転がして来たマリオが揶揄ふ。体躯の貧しさを際立たせる色と形のストレート・ジーンズに、ダッブダブの白Tを華麗に―でなく―タックイン。唸る激越なダサさ以前だか以下に、口を開けば開いたでへべれけな大山大介の口跡に早速頭を抱へさせられる。しづかからマリオとの仲を勘繰られたまりもが、必死に否定して監督クレジット。そし、て。本篇の火蓋を切るのがエヴァンゲリオン量産機の如く、舞ひ降りる形で一挙投入される順に清水舞・小林あいと木村さやか・相原久美・北原舞子のロマン子部隊。一夏のアバンチュールを首尾よく果たした五人に壮絶なマウントを取られ、ひとみらは重ねて消沈する。その夜、悪性の風邪でダウンし三人の日程ないし皮算用を爆砕したひとみが、埋め合はせにと探して来た「そよかぜ高原」の先着二十名無料企画をまりもとしづかに提示。馬鹿デカいウェリントンで一見大人しめに見せる藤崎美都の、腹から出る発声で案外小気味よく弾ける瞬発力が出色。始発バスの待ち合はせに、ひとみが現れない朝。実家の稼業なのかマリオに持ち出させた、「森の花屋さん」の営業車でひとみは現れる。ところで当サイトは昭和から平成を高校時代に跨いでゐるが、昭和末期の高校生て、免許普通に持つてたかな?といふか、些末に囚はれない大雑把、もとい大らかな時代であつたと捉へる方がより適切なのか。
 配役残り、山本伸吾はまりもと喧嘩別れ―の前に三人まとめてマリオの車を降ろされる―したしづかとひとみがジーブを拾ふ、板垣牧場の板垣タイノスケ。にして、そよかぜ高原出身で、ひとみが大ファンの「あの人は今」な元アイドル歌手・南城みちるその人。一方、再びマリオの車に乗るのは頑なに拒むまりもはおパンティを脱いだ上、御スカートも捲る破天荒なヒッチハイクを敢行。車は「おまーん!」のシャウトを残し通過、ガシャンと音効。マリオに手を引かれ、慌ててその場を離脱するまりもが忘れて行つたトランクを、所謂ドリフの爆発オチメイクで拾ふ男が内藤忠司、大破したのか。そして下元史朗は、ひとみともアクシンデンタルに別れたしづかが出会ふ、素敵なオジサマ・峰岸ケンサク。別荘に逗留してゐるとされつつ、浴衣姿で手拭ひを窓の外に干さうとしてゐる初登場は、温泉旅館にでも泊まつてゐるやうにしか映らない。スナップが見切れはする―あと電話越しに嬌声も聞かせる―峰岸夫人は、凡そ判るやうに撮られてはゐない。そし、て。本篇FIN後、豪勢にマウント隊が全員脱ぐ更衣室に、三本柱が飛び込む「P.S.おまけ」。「おまーん!」シャウトで人物の同一性も地味に明示して、内藤忠司が闖入教師役で返り咲き。北海道に自主登校拒否と処理される新田恵美が、実は結局何処にも出て来ない何気な羊頭狗肉。は兎も角、拒否なる行為は、基本自主的なものではなからうかかとも思ふのだが。忘れてた、やつとこさそよかぜ高原に辿り着いたまりもとマリオが、先着最後の十組目を譲る老夫婦―と看板をマニュアル操作する職員―はノンクレジット。
 当時世間を席巻してゐた「おニャン子クラブ」(昭和60~昭和62)に、便乗した日活がAV部を掻き集めた「ロマン子クラブ」(昭和61年~昭和62/木村さやかが最終メンバー)。結構そのまんまな、図々しさが清々しい。一応肝入り企画―の筈―の割に矢張り買取系の、広木隆一(a.k.a.廣木隆一)昭和61年第六作「ロマン子クラブ エッチがいつぱい」(脚本:田辺満)続篇、といふ体に公式になつてはゐる堀内靖博昭和62年第二作、通算第四作。尤も、僅かに呼称される相原久美(ヨーコ)と北原舞子(ユカリ)の役名が「エッチがいつぱい」とは異なつてゐる辺り、シークエルとはいへ多分に無頓着なシークエルである模様。「エッチがいつぱい」もex.DMMで見られるゆゑ、今後目を通してみる。
 最初に結論を先走らせて欲しい、いゝ映画を見た。小屋で観てゐたら滂沱の海に沈んだにさうゐない、素晴らしい映画を見た。カットを割る必要の全くないシークエンスに於いて、不自然にか見苦しくブッツブツ細切れてみたり。御丁寧にも照明の外れた場所に押し倒した挙句、その後何れかの位置を改善しもしない。ひとみと板垣が牧草の上で致す一戦を筆頭だか底に、終盤散見される不用意に暗い濡れ場。粗は決して、そこかしこに目立たなくはない。けれども、凄惨なダサさが容赦なく火を噴く80年代の洗礼をからがら乗り切ると、思ひのほか上手いことひとみ・まりも・しづかを各々別個に動かす秀逸な構成が起動。映画の腰が漸く据わつて来た、その先で。ひとみの近眼を方便に、溜めに溜めてゐた板垣のex.南城みちるをラスト十分近くで満を持して解禁。サインも歌も忘れたと一旦は嘯いてみせた南城みちるが、軽く放心して花火を傾けるひとみの傍ら、遂に代表曲であつた「星に乗つた少年」を弾き語り始める。歌詞の一説に“愛に溢れた不思議な出会ひ”とあるその曲は、さう、「星に乗つた少年」の歌唱こそが、三作前即ち第一回監督作品では不発に終つた、二人ぼつちのマジカル・ラバーズ・コンサートの雪辱を見事に果たす一撃必殺のクライマックス!極大のエモーションに薄くでなく汚れた心を洗はれ、あゝ、いゝ映画を見たとチルりかけるのを、なほも今回の堀内靖博は許さない。マリオへの想ひをまりもが素直に再認識するのに、「星に乗つた少年」のアウトロまで完奏を合はせる。ガッチガチ、あるいはペッキペキに完璧なタイミングで突入する締めの濡れ場を、下手に茶を濁しはせず堂々と完遂。これぞ正攻法、裸映画ならではの磐石な強度。甲乙つけ難いハイライトに恵まれたひとみとまりもに比すと、要は峰岸に弄ばれただけのしづかがドラマ的には大いに弱い反面、浴場でのワンマンショーは腰から下の琴線を激弾きする、女の裸的に大いなる見所。もう一本残してはゐるものの、堀内靖博最高傑作を早とちりしたくなる佳作。しづかと峰岸の絡みに於ける、観音様に模した唇愛撫はひとつの偉大なる発明であると思ふ。もしかしなくとも、先行者がゐるのかも知れないけれど。


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 「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/制作:不写之射プロ/提供:オーピー映画/脚本・編集・監督:古澤健/撮影:山田達也/照明:玉川直人/録音:臼井勝/音響:川口陽一/音楽:宇波拓/ヘアメイク:堀たえこ/スチール:平野敬子/助監督:島崎真人・菊嶌稔章/撮影助手:髙嶋正人・及川玲音/制作協力:高杉孝宏/衣裳協力:纐纈春樹/協力:株式会社バイハート・クリッパーエンターテイメント株式会社・日本照明株式会社・サボロッカ・梅宮不動産・佐川絹子/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:石川雄也・桜木優希音・加藤ツバキ・細川佳央・美園和花・古川博巳・古澤健・馬場誠・島崎真人・菊嶌稔章・及川玲音)。出演者中、古澤健が本篇クレジットのみ。
 黒バックのタイトル開巻、下水道をヘッドライトで探索する画に、クレジットが先行する。明けて矢張り地下の暗がりにて石川雄也と、ピンク映画的には意表を突く三番手が熱い一戦。歯痒さを感じさせるでなく、意外と的確にピンスポが美園和花の爆乳に当たり、寧ろ文字通り全体的に余つた肉を闇に隠す。事こゝに至る顛末を、石川雄也が語り始める、体裁を取りはする。とこ、ろで。石川雄也がダーリンから名義を元に戻したのも、佐々木浩久ピンク映画第三作「好色男女 セックスの季節」(2019/主演:栄川乃亜)から、廣田正興のどうせヒット・アンド・アウェイ作「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/ベビーブーム・マサ名義/今奈良孝行と共同脚本/主演:知花みく)、山内大輔2020年第一作「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(主演:佐倉絆)を経てかれこれ四本目。
 滞納した家賃の苛烈な催促を、村田吾郎(石川)が煙草を燻らしやり過ごす、やり過ごせてゐるとはいつてゐない。窓の下では、アパートの敷地内に村田が並べたゴミに、大家の桑山妙子(加藤)と店子の山田(古澤)が眉を顰める。村田は働きもせず、拾つて来たゴミを売りつけ日銭を稼がうとした結果、山田以外の住人は皆退去。重ねて村田宅にはDV夫から逃げて来た新山千尋(桜木)が居つき、挙句マッチングアプリで客を取り日々訳の判らない人間が出入りしてゐた。多分自分対策と思しき飛び道具的人物を、妙子が招聘する様子を村田は目撃。終に出て行つた山田の部屋に、品田徹(細川)と細川知絵(美園和花)のカップルが越して来る。
 配役残り、多分当たるビリング推定で馬場誠が、桜木優希音の初戦を介錯する劇中一人目の客。最中、チャチい相対性理論みたいな謎トラック―クレジットも素通りする―がしかも歌詞スーパーつきで起動したかと思ふと、桜木優希音と馬場誠が目線をカメラにビッシビシ送り始め腰遣ひより曲のリズムを尊重するPV風演出は、今は亡き荒木太郎に劣るとも勝らない超絶駄意匠。主演女優の絡みナメてんのか、下位番手でも許さんがといふ以前に死んでもゐねえ。つか復権させてやれよ、圧殺したまゝはあんまりだろ。表に出てゐない出せない、荒木太郎側の粗相でもあるのか。たとへばエクセスから逆襲するためのクラファンなら、十万くらゐであれば出す旨当サイトは公言する、リターンは赤いTシャツがいゝな。素で着られるTシャツのセンスを、荒木太郎に求め得るのか否かは知らん。閑話、休題。菊嶌稔章は千尋が家を空けておくやうメールしたにも関らず、村田がゐたため踵を返す二人目の客、当然千尋激おこ。古川博巳は万札を拾つた村田に、「あんたのか?」と下水道から尋ねかける紳士。消去法で及川玲音は千尋と品田が致してゐた筈なのに、玄関から出て来た男が細川佳央ではなかつた三人目の客。それゆゑ字面だけだと絶妙に不鮮明な、性別はエックスワイ。最後に島崎真人が恐々現金を差し出すと、得物の大ぶりなナイフを柄を向け渡して呉れる強盗の癖にジェントルな目出し帽、あるいはエクストリーム押し売り。
 のうのうと、もとい堂々と。“夏の怪談”なる文言で予告の幕が開ける古澤健ピンク映画第二作は、佐々木浩久の第二作「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(2018/主演:浜崎真緒)に続き外様に撮らせた恒例の大蔵怪談。当サイト調べの通算成績は、「変態怪談 し放題され放題」(2019/脚本・監督・編集:山内大輔/主演:星川凛々花)までで二分けがともに山内大輔の一勝五敗二分け。なかなかの死屍累々を晒す看板シリーズに加へ、2019年は角田恭弥の「淫美談 アノコノシタタリ」(主演:なつめ愛莉)と、塩出太志の「童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ!」(主演:戸田真琴)がお化け映画の渋滞を起こし、年を跨いで2020年も今作のみならず、竹洞哲也の「温泉情話 湯船で揉みがへり」(脚本:小松公典/主演:きみと歩実)なり佐藤周の「若妻ナマ配信 見せたがり」(主演:山岸逢花)が、ただでさへ僅かで少ない総制作数の割に目立ちもする。コロニャン禍にも火に油を注がれたこの期・オブ・この期に及んで、何の弾みか誰の因果か、幽霊譚ばかりが量産されてゐるのは何気なリアル怪異。
 さうは、いふものの。何が途轍もなく凄まじいといつて、ポスターでは常にも増して如何にもなドヤ顔をキメる桜木優希音が、何時この人本当は既に死んでゐました展開に突入するものかと思ひきや、思ひきやー。普通に荷物をまとめた千尋は、生きて回春荘(仮名)を離脱。その他人死にこそあれ一人も化けて出て来はしない、即ち、何処が怪談なのかサッパリ判らないのは当たり前、幽霊も妖怪も怪物も出て来ない、そもそも怪談でない盛大な羊頭狗肉には度肝を抜かれた。先に挙げた通算成績に追加するならば、斯様な、鉄道が敷設されてもゐない痴漢電車の如き代物ノーコンテストである。
 兎も角、もクソもない気も否み難いけれど渾身の強ひてで話を進めると、自らのこのこ出撃して映画を詰んだ、前作にしてピンク筆卸作「たわゝな気持ち 全部やつちやはう」(2019/主演:松本菜奈実)に於けるヒロイン同棲相手のモラハラ野郎同様、自身を万事の中心に都合よく操作した―没―道徳を滔々と捏ね繰り回し続ける、自堕落といふ概念を擬人化したかのやうな村田の感情移入に果てしなく遠い造形は、かういふ不快指数の高い―だけの―男が主人公か主要人物の映画を二本続けられては古澤健の娯楽作家としての資質―本人の自覚が仮にさうでなくとも、ピンクの本義は量産型娯楽映画にさうゐない―を疑ふほかないが、タイは巻いてゐたりゐなかつたりなワイシャツの上にツナギを着た更に上に、恐らくオーバーサイズのジャケットを羽織る。真似しようにも素人にはまづ無理な難易度の高いファッションを、石川雄也が流石の役者力で着こなしカッコいゝダメ人間をギリ成立させてのける。裸映画的には桜木優希音は腹は立たない程度、美園和花は乳の暴力で有無をいはさず些末を捻じ伏せる。オッパイは、ジャスティス。果たして本当に脱ぐのか結構本気でハラハラさせられた加藤ツバキは、確かに濡れ場は刹那的にせよ、妙子の海千山千なキャラクターにも増幅された、ただフレームの中にゐて呉れさへすれば濃厚に漂ふ、エッジの効いた色気は最後に今作を救ふ徳俵防衛線。表面的なテイストは全く異なれど、先に挙げた「温泉情話 湯船で揉みがへり」と大体似たやうな構図で飛び込んで来るのが絶好調のその先で驀進する細川佳央。村田のブルータルなふしだらさに、食傷どころで済まなくなりかける中盤。呼び寄せられた品田が、乾いた暴力で村田をやつゝけ始めるや煮詰まりかけてゐた映画が俄かに躍りだし、退散した村田の部屋に、今度は邪気もなくロケット花火を撃ち込む。ストレートに面白可笑しい、猛毒を以て毒を制する件が再加速、臆面もなく村田が助けを求めた妙子のベランダに、品田が現れ二人は軽く乳繰り合ひ始める。のを、村田家屋内の鏡に映り込ませる凝つた画に、昨今その手の手間を費やす本隊がおいそれとは見当たらないのもあり、貧しいといへば貧しい新鮮さを覚えた。再びさうは、いふてもだな。目撃者を捜す村田が大家の家から盗んだ鍵で、品田と知絵宅に忍び込んだ直後のカットで火蓋を切る、小出しされる真実、真実?矢継ぎ早に繰り出されるもしくは虚実で現実的な着地点を朧気に窺はせながらも、最終的にはオッ広げたかトッ散らかした支離滅裂を逆の意味で見事に畳みもせず、始終は虚空に消滅。根本的な牛頭馬肉の果てに、雪崩れ込んではみたサイコサスペンスも釈然としなさしか残さない壮絶な空中分解を遂げる。遂げた自作に関し古澤健はある意味それが一番恐ろしいほど自信満々で、曰く“映画の無意識が作らしめた傑作”につき、“次の20年も俺はいける!”と確信するに足るらしい。論理的ないし技術的な娯楽映画をピンクに求める当サイトの立ち位置からは、“映画の無意識”だとか高邁な理論、もしくは紙一重の独善を振り回されたところで呆れる気力も雲散し、霧消して屁も出ないがこれで腸を煮え繰り返らせもせず、案外ニュートラルな心持ちで小屋を後にしたのも、実は偽らざる感触である。正負のベクトルが上手いこと原点に収束してしまふ、これで稀有な平衡感覚を有した一作ともいへようか、まあゼロはゼロなんだがな。


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 「薄毛の19才」(昭和61/製作:多分にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:村上修/プロデューサー:千葉好二/撮影:森島章雄/照明:高柳清一/録音:小野寺修/美術:沖山真保/編集:冨田功/作画:前田博子・むたこうじ/助監督:明石知幸/選曲:石井ますみ/色彩計測:佐藤徹/現像:IMAGICA/製作担当者:藤田義則/撮影協力:HOTEL エルアンドエル《柏インター際》/出演:杉原光輪子《新人》・志水季里子・橘雪子・坂西良太・金田明夫・小池雄介・夏樹かずみ・内藤忠司・小原孝士)。
 ジングルベ的な鈴の音が先行して着火音、炎をサングラスに映り込ませ、吸へない煙草を燻らせる少女が少女マンガ調の成年コミック(前田博子画)にペン入れする。結論を先走ると、逆に、むたこうじに描かせた―筈の―原稿は結局劇中で使用されない。手引きの凄まじいベタフラッシュかと思ひきや、男の陰毛だつたのは微笑ましい勘違ひ、自分でいふな。暗転カマして男の上になつた、夏樹かずみのボリューミーなオッパイが飛び込んで来る。エロマンガ家・白鳥雪彦の作画担当・鮫島雪彦(金田)が、恐らく編集辺りの香村(夏樹)を抱く。初陣では覚束なかつた、濡れ場の演出は夏樹かずみの肉感的な肢体をガツガツ能動的に捉へ、二年空いた間の成熟を早速窺はせる。鮫島と香村はヤリがてら、原作担当の白鳥や、白鳥雪彦の下に原稿を送つて来たNetscape、もとい根スケ女の噂に話を咲かせる。当の野本幸美(杉原)は群馬の浪人生で、鮫島と共同生活してゐる模様の白鳥平吉(坂西)はといふと二人の傍ら、のほゝんと寝こける。窓の外から抜いた幸美の影が暗転して翌朝、改めて幸美がカーテンを開けクレジット起動。何がしたいのか屋根に上がつた幸美が、棟に腰を下して監督クレジット、背中越しに広がる田園風景にタイトル・イン。天候にはスカーッと恵まれる反面、杉原光輪子の長い黒髪をざんばらに乱す、風が些か強いのは地味に否み難い玉に瑕。
 女手ひとつで幸美―と姉―を育てた母・房江(橘)が営む雑貨屋「野本商店」に、ノンクレの土木作業員三人を連れ現場監督ぽい、房江の情夫・大山大三(小池)が現れる。屋根の上から聞こえるのか、大山相手に油を売る房江が放たらかす電話に、軽くキレ気味で幸美が出てみるとよもやまさか憧れの白鳥先生からのお招き。幸美はバス停にダッシュ、一路東京に向かふ。ところで「野本商店」、房江の対大山で橘雪子も爆乳を豪快に披露。爆乳といふか、体全体爆体なんですが。
 配役残り志水季里子は、浮気した夫と別れるのは頑なに拒みつつ、実家に戻つて来る幸美の姉・文。小原孝士は文を連れ帰るといふよりも、離婚に首を縦に振らせるため群馬までやつて来た夫・赤江耕作。矢張りノンクレの観客要員が二名投入される、映画館での―今のところ―夫婦生活。劇伴聞くにロマポだらうといふ見当はつくものの、客席から抜く銀幕には黒人が映つてゐたりする上映作品には辿り着けず。まだまだ修行が足らぬと恥ぢるべきなのかも知れないが、こんなもの一々見切れてゐたらカルトQ出られるだろ、懐かしいなオイ。そして内藤忠司が、一仕事終へたと思しき白鳥が一時的に身を寄せる石田先輩、何か何処かのボイラーマン。
 正直木に竹を接ぎ気味の端役ながら、遂に、あるいは漸く。デビュー作ではクレジットに載りこそすれ、何処に出演してゐるのだか本当に皆目全然判らなかつた、内藤忠司の若き姿をフレームの中に確認出来る堀内靖博第二作。眼鏡外すと、案外男前。
 堀内靖博が三本目にして、依然ピンと来ず。そもそも、律に阻まれ、見せること能はざる“薄毛”を標題に戴く無防備か無造作な負け戦に関しては、この際さて措く、この際もどの際もないやうな気しかしないが。とまれ“19才”がいはゆる大人の階段を上る、的な物語であらう節ならば酌めるといふか、現にさういふ如何にもありがちなお話である割に、会話に於けるこそあどを意図的に詰めない掴み処を欠いた、寧ろ進んで削り取つたが如き遣り取りには終始もやもやを強ひられる。アバンの火蓋を切るサングラスが、実は軽く驚かされるほど重要な小道具。東京に忘れて来たのを、白鳥が届けに来て呉れた幸美いはく「これかけないとエッチになれないんです」。即ち、不似合ひなグラサンが、幸美にとつてマンガを描くのに不可欠なアイテムであるといふのは、それは流石に、最初でなくとも何れかのタイミングで明示しておくべきなのではアルカイダ、もといあるまいか。結局初体験は済ませた幸美が、マンガはどうするのか受験はどうするのか白鳥との関係は継続するのか。一件を経て、ヒロインの向かふ先がさつぱり覚束ないのは何気に壮絶な着地点。藤原竜也似の主演女優が、黙つてそこに立つてゐるだけでフレームを堂々と支へ得る逸材であるにも関らず、行間ばかりガッバガバ、外堀からてんで埋まらずにゐて、本丸に攻め込める訳がない最終的には漫然とした一作。尺的にはちやうど序盤と中盤の境目、幸美が泣きだし未遂に終つた連れ込みの浴室から、カットひとつで豪快に時空を超え夜の明けた波打ち際。藪から棒であれ何であれ、そこで二人が突入する青姦が締めの絡みに値する強度を偶さか備へてしまつてゐたのが、構成上激しく惜しいちぐはぐ。ついでで、決して神など宿しはしない些末。幸美が新たに持参した原稿を白鳥に見て貰ふのが、超絶適当なビルの屋上とかいふ横着か無作為が不条理にグルッと一周しかけるシークエンスには、「欽也かよ!」と液晶に向かつてツッコまずにはゐられなかつた。


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 「主婦と性生活」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:堀内靖博《第一回監督作品》/脚本:一色伸幸・村上修/プロデューサー:桜井潤一/企画:栗原いそみ/撮影:水野尾信正/照明:内田勝成/録音:小野寺修/美術:金田克美/編集:冨田功/助監督:村上修/選曲:杉山篤/色彩計測:福沢正典/現像:東映化学/製作担当:三浦増博/出演:泉じゅん・水木薫・山路和弘・中丸新将・伊藤公子・大滝かつ美《新人》・花上晃・阿部雅彦・内藤忠司・高瀬将嗣)。出演者中、内藤忠司は本篇クレジットのみ。わざわざ、本篇にのみクレジットしたのに。
 チャックを閉めて貰ふ背中から、泉じゅんが花嫁衣装の身支度。亡姉の婚約者であつた男との結婚に戸惑ひも隠せない、旧姓木下裕子(泉)を友人・幸子(伊東)の声が励ます。「ピッカピカの花嫁になつていゝの」、は軽やかなポジティブ弾ける名台詞。覚悟を極めた裕子がコクンと頷く、ところでは入れずに、裕子と新郎・高野博(山路)がライスシャワーで送り出されての白転タイトル・イン。若干名背景を賑はす参列者の中に、内藤忠司は紛れ込まない。
 仕事ぶりの描写を窺ふに、恐らく建築士辺りと思しき高野が兼仕事場の自宅を構へたのが、都から十万億彼方の埼玉は川越。東武鉄道川越市駅から、歩いてみると更に随分あつた帰途がタイトルバック。トリマーの職を持つ裕子は木金土の三日間、元々東京で開いてゐた「犬の美容室 YOU子の部屋」に通勤、屋号に関しては勘弁してやれ。週三日の営業で、お家賃払へるのといふ素朴な疑問もさて措き、何のプレゼントなのかは通り過ぎる、バークレーのセーターを夫に買つた裕子が東京から帰宅すると、当の高野は酔ひ潰れ轟沈。遊びに来てゐた、高野と亡姉・優美の同級生・田辺文枝(水木)は如何にも事後ぽい風情を窺はせつつ、優美の名を呼びながら、高野が自らを抱いてゐた旨裕子に吹く。
 配役残り、高瀬将嗣は「YOU子の部屋」常連のオカマ、飼ひ犬はステレオタイプな愛玩犬。中丸新将は幸子が裕子を連れて行く、レストラン(屋号不明)の三代目店主・小野寺忠夫、ゾイド好き。レストランにもその後三人で遊びに行くディスコにも、内藤忠司の姿はない。花上晃は文枝の不倫相手、唯一の名無し配役。ナベが心底惚れ込んだ所以が当サイトの節穴には未だ理解に遠い、野暮つたくしかない大滝かつ美は別れたての小野寺前妻・サキ。但しこの辺りが絶妙に不鮮明、既に過去形と思はせる小野寺と幸子なり裕子との遣り取りに対し、小野寺が致してゐるサキ宅に現れるマコト(阿部)の口ぶりによれば、必ずしも離婚は成立してゐない模様。その他在りし日のスナップに加へ、同窓会名簿の物故を記した頁まで博が焼却する件、瞬間的に見切れる優美役は流石に識別能はず。
 小川真実デビュー作でもある第三作「看護女子寮 凌された天使」(昭和62/脚本:加藤正人/主演:瀬川智美)が地元駅前に来た流れで、残り四作全てex.DMMで見られるのを潰して行くか、としたところ。俳優部初仕事の推定ないし可能性が早速潰え、かけたものの、何処に内藤忠司が出てゐたのだかてんで判らない堀内靖博第一回監督作品、日活入社は多分昭和51年。公園のブランコに一人揺られる裕子が見やる、離れたベンチに矢張り一人佇む初老?の男。とかいふ、何がしたかつたのか全く不明な謎のカットがあるにはあれ、背格好が内藤忠司とは異なる、筈。
 折角優美が死んだかと思ひきや、好きな高野君を今度は妹の裕子にカッ浚はれる。執拗に横恋慕を拗らせる文枝の讒言に、振り回される新婚夫婦。捏ね繰り回し続けるアンニュイは泉じゅんの硬質な美貌で最低限形になりはする程度で、最終的には表面的。案外シンプルな物語は終ぞ1mmたりとて悪びれない文枝の清々しさ以外、どうかういふほどのドラマチックにも欠く。火蓋のキスまでで七分と、結構のんびりした初戦の夫婦生活に際してなほ、オッパイを影に沈めてみたりと「凌された天使」では力強く花開いた、裸映画的な馬力は甚だ未成熟。二番手の本格的濡れ場を、木に接ぐ竹も厭はず飛び込んで来ては、一幕限りで潔く駆け抜けて行く。即ち男優部に於ける絡み要員(花上晃)に介錯させる、新人離れした奇襲戦法には軽く吃驚したけれど。出奔した家に裕子が戻つて来たかに見せ、カメラが引くと往来から窓ガラスに映り込ませてゐた!演出上の企図は特段見当たらない、穿つた画作りを唸らせる反面、歩道橋にて黄昏る裕子に、三回反復して寄つてのロングは教科書的な微笑ましさ。日比谷野音に土砂降りを降らせる、特機を何台並べたんだといふ御祝儀的な豪勢さは兎も角、敢てしなかつたか要は直截に叶はなかつたのか、二人ぼつちのマジカル・ラバーズ・コンサートを画として提示出来てゐれば起死回生の一撃たり得たのかも知れない、ある意味含みを残す一作ではある。
 邪気のないミソジニー以前にロマポを見るか観てゐてしばしば躓くのが、兎にも角にも八十年代の迸るダサさが当サイトには暴力的にしんどい。水木薫を台無しにする、壮絶なパーマ頭には悶絶した、ナンシー・アレンかよ。

 付記< 第三作で初めて堀内靖博に触れた際、この人がサラブレッドにしては買取系を撮つてゐる点に関し、間抜けな疑問を呈してゐた、ところが。ロマポ末期の日活では、折角叩き上げた生え抜きが、いざデビューするや社外に放逐されてゐたとのこと。凄まじく周知のやうな気もして羞恥を禁じ得ない


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 「看護女子寮 凌された天使」(昭和62/製作:《株》フィルムキッズ/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:加藤正人/企画:角田豊/プロデューサー:千葉好二/撮影:志賀葉一/照明:金沢正夫/編集:鈴木歓《J.K.S》/助監督:大工原正樹/色彩計測:三浦忠/監督助手:勝山茂雄・田山雅邦/撮影助手:林誠/照明助手:関野高弘/音楽:金刺勝治/スチール:田中欣一・長内昌利/現像:IMAGICA/録音:ニューメグロスタジオ/出演:瀬川智美・小林あい・小川真実・くまもと吉成・下元史朗・長谷川誉・西本健吾)。出演者中、小林あいにポスターではロマン子クラブ No.4特記。あとポスターにのみ、内藤忠司の名前も並ぶ。
 歩道橋越しの仰角で捉へた観覧車にクレジット起動、アスファルトに絵を描く幼女(クレジットなし)と、観覧車を背負ひフレームに入る主演女優。ほてほて歩くロングのタイトル・イン経て、新人看護婦のササノ由加里(瀬川)が辿り着いた先は、白百合総合病院寮「シオンの家」。自室に入り、念願叶つて戴帽した由加里が改めてナース帽を載せてみた鏡の中に、同室の君江(小林)が咥へ煙草のサングラスで映り込んで来る。そんなこんなな実務風景、飯田健治(西本)を健診した由加里のパンティを、ベッドの下に潜り込んで覗く相部屋のサイトー役で、飛び込んで来るのがまさかの内藤忠司。確認出来る資料が見当たらず、もしかすると今回が内藤忠司の俳優部初仕事となるのかも知れない、堀内靖博と何か繋がりでもあるのかな。閑話休題、病院から近いのか、白百合関係の客が無闇に多い下元史朗がマスターの店。君江らが由加里の歓迎会を開いてゐると、腹を開く手術をしてゐた割に、後の台詞では当該患者を指して複雑骨折だとか、脚本がやらかしたか内科なのか外科なのかよく判らないハンサム医師・村岡(くまもと)や、婦長的なポジションにあると思しき小川真実も来店する。君江が寮に男を連れ込み中につき、帰るに帰れず公園で黄昏てゐる由加里を、急患を手伝つた縁の村岡が拾ふ。配役残り、長谷川誉は君江の彼氏くらゐしか役らしい役も見当たらないが、何せ夜這ひを敢行するシークエンスゆゑ殊に男の面相如き闇に沈み、誰であらうと識別出来る形で首から上が抜かれはしない。
 五年後に「8マン すべての寂しい夜のために」(1992)でリム出版に引導を渡す格好となる堀内靖博の、昭和62年第一作にしてロマポ通算五作の第三作。この人日活入社でキャリアをスタートさせたサラブレッドの割に、今作と次作の二本、買取系を撮つてゐたりもする、退社した?その辺り元来専門外のよしなしはこの際さて措き、寧ろより重要なのが、小川真実デビュー作といふ何気でないトピック。
 村岡宅に直行で連れ込まれた由加里はサクサク喰はれた上、ケロッと関係を深めて行く。一方、退院したぽい健治が由加里にラブレターを渡してみたり、結局因縁の内実には欠片たりとて踏み込まないまゝ、村岡から捨てられた小川真実が、由加里に対する横槍を拗らせる。一応深夜の院内に於ける大立回り的一幕も設けられるとはいへ、看護婦と医者とex.入院患者が織り成す3.5角関係―0.5はオガマミ分―が基本娑婆で他愛なく繰り広げられる、白衣要素は案外薄い一作。アバンで幼女が描いた落書きを、特機感の清々しい土砂降りで洗ひ流す。ダサさも微笑ましいラストで一皮剝けた由加里の、いはゆる大人の階段的なプログレスを描く物語は手堅く纏まつてはゐる程度で、面子の中で西本健吾のところに開いた軟弱な穴も否み難く、特段喝采するほど面白くは別にない。反面、由加里と村岡の二戦目を、様々な趣向を尺も費やし入念に展開。ストロングスタイルの素晴らしい濡れ場は、裸映画的に確かなハイライト。たださうなると、徐々に性質の悪い加虐嗜好者の相を露呈する村岡に、若さを弾けさせる小川真実―の絡みは下元史朗が介錯する―がコッ酷く責められる。エクストリームな回想を設けておいて欲しかつた、画竜点睛レスに心を残す。

 とこ、ろで。この映画が小川真実の初陣で、ほんなら引退試合は何かといふと、愛染恭子の脱ぎ納めも兼ねた「奴隷船」(2010/監督:金田敬/福原彰=福俵満と共同脚本)。二十有余年と元号はおろか世紀をも超え、何れにも内藤忠司が紛れ込んでゐる単なる偶然にしてはな奇縁が、そこはかとなく琴線に触れる。


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 「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/制作:ファミリーツリー/提供:オーピー映画/監督・脚本:ベビーブーム・マサ/脚本:今奈良孝行/プロデューサー:榊英雄/音楽:北村太郎/撮影:川口晴彦《PHOTOGRAPHERHAL》/照明:土井立庭/照明助手:堅木直之/録音:木村健太/整音・音響効果:服部俊・中村未来/ヘアメイク:MAKO/仮面制作:小林雄二/タイトルデザイン:佐々木統剛/ガンエフェクト:小暮法大/助監督:三輪江一・飯山嘉幸/美術協力:北山陽二郎/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:木原佑輔・深野光洋・リバーマウス・ニューマタンゴ・WILD JUMBO/出演:知花みく・アベラヒデノブ・篠崎かんな・三浦知之・鈴木義君・前野恵・関幸治・沢村東次・石川雄也・今奈良孝行・石橋侑大・宮川太一・飯山嘉幸・千葉勲・榊英雄・飯島大介)。出演者中、沢村東次と飯山嘉幸・千葉勲は本篇クレジットのみ。
 載せてゐた尻が離れた、アベラヒデノブの恍惚とした横顔に大書で威勢よく叩き込むタイトル・イン。刑事の佐久間(千葉)と大木(榊)が―面相は抜かれない―制服警官もう一人(後述する消去法でセカンド助監督)を伴ひ、アベラヒデノブと三浦知之の死体が転がつた廃工場に入る。佐久間いはく蜂の巣といふ割に二人の遺体には二発づつの銃創があつたが、何時の間に鑑識を済ませたのか、アベラヒデノブの死因は窒息死だつた。一ヶ月前は飛ばして十五年前、新進俳優として脚光を浴びかけてゐた後藤日出男(アベラ、が苗字なんだ)は、共演した大先輩の清十郎(今奈良)から、芸能界御用達とかいふ占師を紹介される、石橋侑大が二人を引き合はせる助監督・ユウタ。日出男が素直に訪ねてみた夏目結衣(篠崎)は、ODZに於いて坂ノ上朝美が繰り出した、今なほ鮮烈な印象を残す爆乳肩揉み式のオッパイ枕と、雷電ドロップばりの顔面騎乗で日出男を籠絡。要は結衣に溺れやがて失踪した日出男と、日出男の同級生で、当時DJといふ設定に大した意味もない川村光司(三浦)が往来にてバッタリ再会。結衣の下に乗り込んだ川村は、“お前のためにやつてやつたよ”と称して結衣を刺殺する。十五年後、日出男の父で有限会社「後藤モータース」社長の裕也(飯島)は、俳優業を引退した日出男が継ぐ予定の後藤モータースに、お勤めを終へ出所した川村を迎へ入れる。
 配役残り、封切り時には既に―事務所―移籍改名してゐたらしい知花みくは、日出男が想ひを寄せる後藤モータース女子社員・小平恵。宮川太一と鈴木義君は、界隈に出没するポン引きのタイチと芦田智幸、時間差の後塵を拝す芦田の方が兄貴分。実生活まんまの役をノーミスのカッコよさで振り抜く石川雄也が、日出男が恵を誘ふ、実名登場するバー「ニューマタンゴ」(渋谷区本町)のマスター。石川雄也がダーリンから名義を戻すのも何時以来かと調べてみたら、佐々木浩久ピンク映画第三作「好色男女 セックスの季節」(2019/脚本・監督:佐々木浩久/主演:栄川乃亜)をケロッと忘れてゐた、忘れるやうな映画なんだけど。三人一遍に登場する前野恵・関幸治・沢村東次は裕也が川村を紹介する、後藤モータースの経理担当・林光子と、工員の楠木哲と中谷真一。社員の頭数が二桁にも満たない零細企業で、恵が何の仕事をしてゐるのかは気にしんさんな。その他芦田が声をかける“お尻のオリンピック”を、愛想笑ひで回避する男がチーフ助監督臭い気もするものの、見切れ具合が速すぎて確証能はず。何れにしても飯山嘉幸ではないのが、後述するとした消去法の所以。
 小癪極まりなくも一般映画版「アブノーマル・ロデオ・ブルース」(80分)は本名義で発表した、廣田正興改めベビーブーム・マサのピンク筆卸作。ベビーブーム・マサといふのは廣田正興が元々使用してゐた筆名だといふが、当サイトにいはせればオーピーもオーピー、斯様なナメた真似を何故許す。脊髄で折り返して廣田正興に腹が立つ返す刀で、最後の牙城といつてはエクセスに失礼ではあれ、量産型裸映画の本丸を担つてゐる自覚が果たしてあるのや否や、大蔵の生温い態度も甚だ嘆かはしい。頭を冷やしてクレジットから如実に窺へる通り、角田恭弥に続き榊英雄が連れて来た外様が、どうも共倒れもとい共々、ワン・ヒット・離脱の賑やかしで終る模様。えゝと、全然冷えてないよね。
 廣田正興が今作の想を得たとする、友人の俳優部が占師にガチで心身を囚はれた実話とやらは、当該俳優部の名前を出せないか出さない以上、あくまでありがちなギミックに止(とど)まる、といふ半ば突き放した扱ひに落ち着かざるを得ない。日出男に対する裏返した劣等感を川村が拗らせてゐるぽい、重たいつもりのドラマは呪文みたいな掴み処のない芸名同様、アベラヒデノブのアベラヒデノブな口跡に逆噴射された結果、ストレートに判り辛い。藪から棒な恵の首絞め願望に劣るとも勝らず、日出男の個展を開くレベルの趣味が仮面作りだなどといふのも、清々しく木に竹も接ぎ損なふ。クライマックスの舞台に、しかもあんな馬鹿デカい藪蛇か逆説的な小道具を持ち込む一見へべれけな無理に関しては、恵に挿す力技の道理に免じて等閑視。尤も、あるいはそもそも。死にすら至る苛烈な性的嗜好を描くにしては廣田正興に旦々舎の馬力なり、殊に山﨑邦紀の甘美であると同時に冷徹な夢幻を望むべくもなく。失速するだけのスピードも終に出ないまゝに、煙滓みたいな情けない龍雲が青空にポケーッと浮かぶ、屁のやうなラスト・ショットの何気に壮絶な破壊力まである意味等速直線運動。我ながらムチャクチャな数式だが、役所広司と深澤和明(ex.暴威)を足して二で割ると案外このくらゐになりさうな―深澤和明の負のベクトルはそこまで大きいのか―三浦知之はまだしも、一切の華といふ華をオミットした、ジミー土田の下位互換的なアベラヒデノブが、一本の劇映画を背負はせるには土台苦しくはなからうか。ビリング上に大穴の開いた致命傷に加へ顕示的な瑕疵が、言葉を換へると画が完全に負けてしまつてゐる、二番手の威圧的な乳尻をも霞ませかねない勢ひでラウドに鳴らす、無駄に前に出過ぎる劇伴、伴へよ。いはにや伝はらないのならいふてやるが、俺達は女の裸を観に来てゐるんだ。他愛ないスコアを、聴きに来た訳ぢやない。男主役をさて措くと―主役につき措けないが―パッと見そこそこ手堅さうな俳優部の面子にも思へ、一旦自身を半殺しにノシた芦田を、日出男がニューマタに連れて行つてのガード下。千鳥足も満足に踏めない大根二本が、無様に右往左往してゐるのはそれは転調ばかりのタップか何かか?反面、所々従来の文法的には不要に映らなくもない粗いカットの跨ぎと、描かないのか描けないのか、頑なに射精もしくは絶頂に至らない至らせない完全未完遂は兎も角、邪魔臭い音に耳を塞げば絡みは質量ともまあまあ。中でも非裸稼業から猛然と飛び込んで来ては、豪快な脱ぎつぷり乱れぶりでゴトモタ肉便器の座をエクストリームに撃ち抜く、前野恵の淫靡なブレイブは大いなる賞賛に値しよう。ピンク継続参加の期待は元より霞よりも薄さうだが、この人の濡れ場が一番クッソどエロかつた。当サイトは結衣の魔性尻よりも、光子にジュッポジュッポ吹いて欲しい、黙れ息すんのやめれ。面白くない詰まらないでいふと話を変へようかといふ仕方のない体たらくにせよ、勃つ勃たないなら意外と満更でもなく戦へるのかも知れない、首の皮一枚繋がつた一作、てなところである。


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 「女子大生 温泉芸者」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:池田正一/製作:樋口弘美/企画:小松裕司/撮影:森勝/照明:田島武志/録音:佐藤富士男/美術:沖山真保/編集:川島章正/助監督:北村武司/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当プロデューサー:香西靖仁/音楽:ジミー時田/協力:熱海温泉 松濤本館/出演:朝吹ケイト・よしのまこと・石井里花・中川みず穂・野上正義・大門春樹・佐竹一男・荻原賢三・森口修・キャベツ・伊藤剛・砂塚英夫・志水季里子)。事実上、配給に関しては“提供:Xces Film”。
 いい塩梅にズンチャカした劇伴が鳴り、丘越しに相模灘を望む。正パンしてタイトル・イン、下の句が赤く発色する。寄つた先はサンルーフのライトバンで、東京から傷心旅行中の女子大生・和美(朝吹)が上方向にハコ乗り。ヒロインのクソよりダサいパーマ頭に、軽くでなく頭を抱へる。さて措き和美の下半身に催した助手席の男(キャベツか伊藤剛)が襲ひかゝり、運転席の相方(伊藤剛かキャベツ)も嗾ける車、と擦れ違つた単車が和美の悲鳴が聞こえたのか、Uターンして追走。車を停め、二人がかりで和美を犯さうとしてゐる場に介入した浩一(大門)は、手傷を負つたり和美自身の逆襲に助けられたりしつつも、兎も角キャベツと伊藤剛を撃退する。「覚えてろよコノヤロー」と判り易すぎる捨て台詞を残し車は走り去るものの、最終的に再登場を果たしもせず、寧ろこの二人が忘却の彼方に消え失せる。その夜、和美がそのまゝ転がり込んだ浩一宅。「抱いて」とか最短距離の据膳を頂戴した浩一がポン引きといふ稼業を隠す一方、和美はお手伝ひ募集の広告を頼りに、温泉旅館「松濤本館」―既に廃墟も解体―の敷居を跨ぐ。ところで、やけにドラマチックな芸名の大門春樹をザックリ評すると、太田始の上位互換。
 配役残り、砂塚英夫は浩一の師匠筋で、今はおでん屋台の大将・順平。今も、屋台を有料紹介所的に運用してゐたりもする。裏の顔を先に見せる志水季里子は、「松濤」女将の影で本番バッリバリのフルコンタクトなピンサロ―劇中用語としては“クラブ”―も営む智子。凄まじいのがその、まるで酒池肉林といふ概念を具現化したかの如き“クラブ”に、全裸で客に跨る女優部が五六人はノンクレで投入される、しかも妙に粒の揃つた。石井里花はエクストリームな花芸を誇る、智子の飛び道具的な懐刀・ルイ。野上正義と中川みず穂は客の前で情を交す、劇中名称で“特別ショー”の演者・久松健三と私生活に於いても情婦の小糸。森口修は、智子とも男女の仲にある松濤番頭格の渉で、よしのまことが智子とは腹違ひの妹・理加。佐竹一男は智子のパトロン・赤峰敏夫、県会議員の座を狙ふ有力者。荻原賢三は、赤峰が熱海に連れて来る国会議員の、中からグレードを上げた大曽根。画に描いたやうなガッハッハぶりが清々しいが、逆からいふと、画に描いたやうな何某かの形質を、きちんと画にしてのけるのがロマポの手堅さなり分厚さ。小見山玉樹らレギュラー脇役部は飛び込んで来ないまゝに、その他主に歓楽街の客要員で、相当な頭数が動員される。
 この期に改めて再認識したのが、首から下の比類ない完成度に比して、首から上が結構出来上がつてはゐない朝吹ケイト―ついでに口跡は葉月螢に地味に似てゐる―を主演に擁した、海女の出て来ない藤浦敦昭和59年第二作。偶さか温泉旅館に草鞋を脱いだ―退学してゐない場合ホントに―女子大生が、肉弾コンパニオンとして奮闘する。まるで、といふかまるきり新田栄温泉映画の器に、案外一途な浩一と和美がついたり離れたりする恋路、父と娘の物語、六芒星の如く交錯する二つの三角関係。諸々盛り込んだ、熱海を舞台に繰り広げられる鉄板娯楽映画。たり得て全くおかしくはなかつたのだが、もう少しでなく、真面目に撮つてゐて呉れさへすれば。赤嶺が和美も伴ひ、大曾根を連れて行く“クラブ”。客席に和美のゐるのを知つた、健三は中折れ戦闘不能に。その場の勢ひで代りに客が盆に上がらうとする流れの中、助けを求める小糸を見かねた和美は、意を決した眼差しで「待つて!」と割つて入る。デカいエモーションに紙一重まで肉薄する局面は、幾つもあつた。それ、なのに。結局理加と渉が駆け落ちするのと、健三と小糸が熱海を離れただけで、単車の踵を返した浩一と和美の再会すら描かないぞんざいな作劇には、最早ある種のストイシズムなのかと吃驚した。大体、浩一の夢とやらは結局何だつたのか。ベタな浪花節を描くのがそんなに気恥づかしいのか癪なのか知らないが、何れにせよそれは別に、賢明な態度にも誠実な姿勢とも思へない。片や手数は徒に潤沢な割に、裸映画的にもおいそれと棹もとい首を縦に振る訳には行かないんだな、これが。奥行きもキッメキメに、恐ろしく丁寧でカッコいいショットを乱打する屋台周りに比して、いざ濡れ場に入るや等閑になられてしまつては流石に救ひやうもない。平然とブッツブツ切る無造作な繋ぎもさることながら、石井里花と荻原賢三の絡みに至つては、別に暗めを狙つた風でなく、明らかにおかしなルックが照明の不足をも感じさせる惨憺たる体たらく。俳優部の面子含めプロダクション自体のポテンシャルは高い筈にしては、却つて、あるいはつくづく残念な一作ではある。


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 「実録桐かおる ‐につぽん一のレスビアン‐」(昭和49/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:宮原和男/プロデューサー:伊地智啓/企画協力:小沢昭一/撮影:安藤庄平/美術:渡辺平八郎/録音:木村瑛二/照明:高島正博/編集:鍋島惇/助監督:高橋芳郎/色彩計測:田中正博/現像:東洋現像所/製作担当者:古川石也/協力:京都・千中ミュージック/出演:桐かおる・中島葵・芹明香・榎木兵衛・吉野あい・浜口竜哉・春日トミ・宮城千春・炎飛鳥・中谷陽・高橋明・森みどり・原田千枝子・庄司三郎・小沢昭一《友情出演》)。出演者中、宮城千春から原田千枝子までは本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ宮城千春と炎飛鳥の代りに、広瀬マリと城千世とかいふ全然違ふ名前が載る、何がどうしたらさうなるのか。。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、実質“提供:Xces Film”。
 “日活株式会社製作”ロゴ時から聞こえて来る場内マイクが、「では皆さんお待ちかね、桐かおる・春日トミ・宮城千春・炎飛鳥豪華メンバーによります大乱交レスビアンの開演で御座います」。ビッグバンド起動、“京都・千中ミュージック”のクレジット。幕が開くかに思へたのは回転して鏡が現れる趣向で、カメラが引くと座長の桐かおる以下ハーセルフの皆さんは既に舞台の上。驚異の全館鏡張り!を誇る―天井とか見る客ゐんのかな―千中ミュージックの壮観自体結構なスペクタクルであるのだが、もう一点看過能はざるのがピンスポで細かく移動する最適ボカシ。“ヤジがとんでもオープンはしないこと”なる支配人名の貼紙も見切れる微笑ましい舞台袖に、一仕事終へた一座が帰還。ストリップ専門誌『ヌード・インテリジェンス』(のち『NU・IN』誌/昭和41~昭和57)編集長の中谷陽(ヒムセルフ)が桐かおるに取材する、といふよりも雑談程度で顔を出す楽屋にrollの方のタイトル・ロール。桐かおるが着流しで夜の町を適当にホッつき歩く、恰幅のいい背中に下の句が先に入るタイトル・イン。
 明けて色彩を失した画面に改めて中谷陽による桐かおると、舞台の上のみならず、私生活に於いても事実上の夫婦生活を営む春日トミの二人に対するインタビューが流れ、“桐かおる(本名.滝口永子)‐昭和10年九州.博多の郊外に銀行員の長女として生まれた。”―実際の表札は瀧口永子なんだけど―云々とイントロダクション的なクレジットが追走。イントロクレで堂々と自宅の住所まで公開してしまふ、昭和の大らかさに軽く度肝を抜かれる。桐かおるが別府でホステスをしてゐたトミを、悶着の末強引に引き抜いたといふか連れて来た挿話から、ガラッと場面は変つて京都のバー「小夜」。ママのおさよ(中島)が桐かおるを寝取られた、新入りのミチ(芹)に激しく詰め寄る修羅場。桐かおるの最早煌びやかなまでの棒口跡が割と全てを無に帰す、ドラマ・パートに捨て身で突入する。
 配役残り、高橋明と原田千枝子は「小夜」のバーテンダーと、ホステス其の壱。各種資料には赤木と青木とされるにしては、榎木兵衛と庄司三郎は会話を窺ふに実の兄弟と思しき托鉢僧。実際血の繋がつた兄貴と弟に見える榎木兵衛(a.k.a.木夏衛)と庄司三郎が、兄弟役を演じる一本に初めて巡り合へた。森みどり(a.k.a.小森道子)は、「小夜」のホステス其の弐。吉野あいはおさよ宅の家政婦、おさよにはあいちやんと呼称される。浜口竜哉が、おさよから家を追ひ出される立場の夫・一郎。そして小沢昭一は、この年木更津に別世界劇場を興した、桐かおるに祝ひの花も送るヒムセルフ。ちなみに別世界の開業が六月頭で、今作封切りは八月末。
 画面に色がつくのはアバンと最後のそれぞれ四分強に、中島葵が支配する中盤の十二分。残り四十五分弱はモノクロの、藤井克彦昭和49年第二作。純粋に濡れ場限定でカラー、といふ訳でも必ずしもない。桐かおるといふと当時一条さゆりと双璧をなすスト界の超大物であつたらしいが、然様なネームバリューなり歴史はストライカーでもない当サイトの知つたことではなく、劇中登場する小太りのオッサンのやうな女に、この期に及んで琴線を爪弾かれは特にしない。桐かおるがトミの目を盗み、寸暇を惜しんで女を抱いてゐたといふ人外の性欲なり、一度は束の間男と暮らしてゐたといつた逸話がリアルタイムには大いなる感興を以て迎へられたのかも知れないが、インタビュー・パートの構成が全般的に漫然としてゐるのもあり、矢張りさしたるインタレストは覚えず。実録と劇映画、天然色と白黒。四つの相反する要素が複雑に絡み合ふ中で、思はぬ輝きを放つのが本来“実録”に主眼をおくものとした場合、木に竹を接ぐ羽目を半ば宿命づけられてもゐたらう劇映画。高橋明と森みどりの二人がゐれば、何気ない遣り取りさへシークエンスに芳醇な香りを漂はせ、写実兄弟に見える榎木兵衛×庄司三郎を向かうに回し、中島葵は裸映画としての一大見せ場を堂々とモノにする。噛み合ひもせず実も蓋もない会話から、浜口竜哉に対し出し抜けな別れを中島葵が切り出す件は抑制的な演出と端整な画が強靭な緊張感を漲らせ、ある意味三番手らしく大概土壇場なタイミングで飛び込んで来る芹明香の濡れ場が、オーラスのステージに道を拓くのも一見地味とはいへ心憎い妙手。これまで節穴にはあまりでなくピンと来なかつた藤井克彦といふ人の映画を、気を入れ直してちやんと追つてみた方がいいのかな?なんてらしくない風も吹かせてみたり。唯一拭ひ難い不満は、最高にいい雰囲気のあとカット一つ跨げばオッ始められるところまで攻め込んでおきながら、吉野あいが何故脱がぬ。


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 「実録・元祖マナ板ショー」(昭和50/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:久保田圭司/プロデューサー:結城良煕/撮影:森勝/照明:高島利隆/録音:福島信雅/編集:山田真司/美術:渡辺平八郎/助監督:飛河三義/色彩計測:水野尾信正/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/協力:浅草ロック座・目黒ホテルエンペラー/出演:夕月マコ・山科ゆり・坂本長利・森みどり・吉野あい・高橋明・風間杜夫・島村謙次・清水国雄・田中美津男・織田俊彦・薛好順・久松洪介・露木護・賀川修嗣・伊豆見英輔・浜カメリア・東美津江・東ひろみ・東美鈴。東マホ・東秀子・宝京子・宝高子・宝洋子/刺青:河野光揚)。出演者中田中美津男と、久松洪介から伊豆見英輔までに、東美津江以降東姓か宝姓の東宝軍団(大仮称)は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、大江ユキ一座。ポスターが斬新なのが本職スト部には括弧特記で各々の演目が併記され、ビリング順に夕月マコ(マナ板ショー・天狗レズ)・薛好順(天狗レズ)・浜カメリア(金髪ベッド)・大江ユキ一座(六人乱交レズ)といつた風になる。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 恐らく実際に上演中の板の上を撮影してゐると思しき、気持ち粗い映像。複数の百合が咲き乱れる壮観(大江ユキ一座の皆さん)に、客席の紳士連が固唾を呑む。画面をろくでもない幅で横断する、ジャミングが凄まじくて正直何が行はれてゐるのだかよく判らないが、一人白人のとんでもない美人がゐる。大入り袋を用意する支配人(久松洪介?)に、グラサンだと前川勝典似にも映る野津(島村)が声をかける。二人が交す遣り取りの推察で支配人に乞はれた、野津の小屋からレンタルした踊り子の延長を、やんはりお断りすると野坂昭如のダイナマイト歌謡「マリリン・モンロー・ノー・リターン」(昭和46)が轟然と起動。オープンショーの模様を軽く見せて、ゐたかと思ふとプツッとタイトル・イン。レス・ザン・作為な繋ぎが、前衛性に跨ぐ敷居の上でせめぎ合ふ。
 明けて「ねえ早く済ませて」といふドスの効いた女の声に、高橋明が答へて「真弓のことか?」。高橋明の、渋味と張りに富んだ発声が素晴らしい。夕月マコ(ハーセルフ)とヒモの熊田(高橋)が一発手短に致した部屋に、マコとコンビを組む真弓(山科)が戻つて来る。黒髪ロングでハクいルックスに釣り合はず、挙句何処なのか謎訛りも駆使してのける夕月マコに、潔くアテレコる選択肢はこの時検討されなかつたのか。兎も角、熊田に対しては敵意も隠さない真弓はマコことお姉さんと一緒にゐたい一心で、天狗の張形を用ゐた新機軸に二つ返事で同意する。ところが真弓の体はマコのハードな責めに耐へきれず、舞台上で出血。評判を買はれ野津の小屋に招聘された頃には、戦へない体になつてゐた。
 配役残り、ガラス張りのゴンドラで観客の頭上を縦断する、金髪ベッドなる途方もない大技を披露する野津の小屋の踊り子・浜カメリア(浜セルフ)のヒモで、庄司三郎が楽屋にノンクレジットで飛び込んで来る不意を打つエモーションが中盤の隠れたハイライト。珍しく裸も見せる森みどりは、同じく古参の明美姐さん。軽いリーゼントのノーヘルで颯爽とカブを駆る清水国雄は、小屋に出入りする来々軒の出前持ち・雪夫。不完全消去法で田中美津男が、雪夫に持つて来させたラーメンを、開演前の盆をテーブルにして食ふ男?かどうかはこの際さて措き、サイコーの食事すぎて勃起する、ウルトラ旨いにさうゐない。伊豆見英輔はラーメン(大絶賛仮名)と同じく開演前から待つ、素のストライカー。ストライカーといふのは、ストリップがライクな人を意味する造語。何でもかんでも何々“オタ”の接尾辞一点張りで済ます、粗雑な風潮には与し難い。かれこれ三十年前、昨今はドルオタだなどと語感から杜撰な括りで片付けられるクラスタに対し、結局何故か定着しはしなかつたものの、アイドリアンといふ深い愛情と豊かな潤ひとに恵まれた、麗しき呼称の存した事実を当サイトは未だこの期に忘れてはゐない。ピンクスを自称するのも、同じ所以である。話を戻して風間杜夫が、真弓が舞台に上がれない穴埋めの奇策に熊田が客を装ふ疑似マナ板ショーを、ラーメンがカッ浚つて行くステージに感銘を受けるセンシティブなストライカー・松村順。正直この辺りゴチャゴチャする吉野あいと露木護は、松村の彼女・ユカリと、ユカリに電車痴漢する男。薛好順と織田俊彦は、真弓の代りにと呼び寄せたマコとは旧知の仲であるアンジェラ・アリスと、そのマネージャー・山内ヨシタカ。川の字式に、五人の布団を並べた寝床。消灯するやオッ始めたアンジェラと山内を、グイーッと引いて一番離れた高橋明の背中越しに据ゑる、映画的なショットにロマポの底力が漲る。坂本長利はプイッと帰つて来た、籍を入れてゐるのか否かは不詳ながら、明美の息子・セイイチ(子役不明)の父親・眉村。その他終盤芸者・ストリーム・アタックをキメるのが、東宝軍団のうち宝隊らしい、東班はもう知らん。それと賀川修嗣が何処に見切れてゐるのか、どうしても見切れなんだ。
 本職ストリッパーを大量動員し、確かに実録要素もそれなりに豊富ではある、藤井克彦昭和50年第一作。諸刃の剣で、劇映画的な求心力は正直後回し気味な漫然さも漂ふ前半を経て、殆ど終盤の坂本長利投入で、漸く展開の足が地に着いた感も否めなくはない。森みどりが覗き込む鏡台に、坂本長利が所在なさげに映り込むカットから完璧。楽屋に云年ぶりかでぽつねんと現れた眉村を、明美が浮気の痕跡を調べると称して布団の中に軟禁。「みんな、ごめんよー」のシャウト一番、自らも布団に潜つてくんづほぐれつ開戦するシークエンスには、昭和スメルのツンデレが煌めく。出奔した真弓を捜しに出たマコは、明美が玉箱を積み重ねるパチンコ屋に。セイイチに好きな景品を選ばせた明美から「あんたも何か貰ひなよ」と促された眉村の、「ぢやハイライト貰はうか」には痺れる。さうだよ、ハイライトはダメ人間が吸ふ煙草なんだ、ダメ人間が吸つててもカッコいい煙草なんだ。選りにも選つて、雪夫をヒモに流れ転んで行く真弓の去就には不安しか見当たらない反面、デフォルトの軋轢が甚だ手数から足りず判り辛いのは兎も角、第二次マコ板で一皮剝けた松村が、ユカリとの関係を若々しい晴れ晴れさで取り戻す着地点は、木にハッピー・エンドを接ぐ強引さも見え隠れしつつ、矢張り鉄板。改めて野坂昭如みたいな男がいはゆる電気アンマで責められるマナ板と、締めのタイトルバックは本職部大量動員。ドキュメントと、劇映画。二兎チェイスを強ひられる窮屈といふか土台無理のある構成を見るにつけ、破天荒にせよよしんば出鱈目であつたとて、アナーキーな反戦思想を無理からブッ込んでみせた大御大・小林悟の魔作劇も最早あゝするしかなかつた、最後に残されたカウンターであつたのかも知れない。もう一点、インストアレンジ込みで歌謡曲の選曲はカッコよく走る反面、畏まつたクラシックは些か煩はしく鼻につく。そこに描かれてある、お新香臭い風土と親和してゐるとは認め難い。


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 「たわゝな気持ち 全部やつちやはう」(2019/制作:不写之射プロ/提供:オーピー映画/脚本・監督:古澤健/企画協力:佐々木浩久/撮影:山田達也/照明:玉川直人・柴田裕哉/録音:臼井勝/音響:川口陽一/音楽:宇波拓/編集:松竹利郎/助監督:島崎真人・菊嶌稔章/ヘアメイク:五十嵐良恵/スチール:平野敬子/合成:金魚事務所/合成・タイトル:古澤健/画面制作:東海林毅/撮影助手:高嶋正人・丸山圭/ヘアメイク助手:木田芙優美/撮影応援:高橋裕美/演出応援:高杉孝宏・綱木謙介/オフラインデスク:蟇田忠雄・土井直樹/仕上げ:東映ラボ・テック株式会社/美術協力:イースト・プレス、辰巳出版株式会社/協力:久保田修・菅原文・立石勝・ドルショック竹下・二村仁・馬場誠・原崇・原吟子・細野牧郎・村山えりか・森平晶・CLOP CLOP・松庵稲荷神社・TWO-WAY・トヤジ・長谷川時計眼鏡店・ユリイカ・株式会社アップサイト・クリッパーエンターテイメント・グンジ印刷株式会社・株式会社テックス・株式会社東宝映像美術・日本照明株式会社・株式会社マービィ/出演:松本菜奈実、あけみみう、川瀬陽太、加藤ツバキ、古澤健、佐藤文吾、春埼めい、佐藤考太郎、後藤ユウミ、加藤紗希、大野大輔、鏡ゆみこ、つかさ、深澤しほ、阿久沢麗加、飯田一広、柏木風子、田歌理恵、タケ、永井ちひろ、魔子、蜜蜂マーヤ、村井健太、もりへー、モリ・マサ、山下桃子、和ルイ子)。出演者中、阿久沢麗加以降は本篇クレジットのみ、このゾーン五十音順だな。
 開巻の開口一番口跡がカミッカミで早速屋号が聞き取れない、ファッションヘルス「出たとこゴニャゴニャ」。佐藤文吾が電話を取る店長の赤城で、左右からアタシアタシと出撃を買つて出る嬢の二人は不明。電話で注文を受ける、そのお店はファッションなのかデリなのか。兎も角その頃別室では風俗ライターの三留綾(松本)が、始終スマホを弄つてゐるノリカ嬢(春埼)にインタビュー。まるでヤル気のないエリカもといノリカが碌に答へても呉れなかつた紹介記事を、綾が自室にて適当に捏ち上げる画にクレジット起動。不毛な仕事に一段落と溜息ついたタイミングで出て来た、贈られたのも忘れてゐた手作りの鉛筆を抜いてタイトル・イン。結論を先走ると、タイトル画にまで使つた割に、後々ワンマンショーで用ゐるのが関の山。結局鉛筆が主モチーフにしては心許なくも機能しない、そこで雌雄が決せられてゐたのかよ。
 鉛筆の贈り主である、会社員の大塚肇(古澤)と綾の同棲生活は、大塚の粘着質な説教癖に綾も毅然とした対応を示せず、徒な長尺を捏ね繰り回すばかりでメタ的にも煮詰まる。出入りするアングラ出版社、芳賀ならぬ「破瓜出版」の編集長・田中一郎(川瀬)から雑誌の休刊を告げられる一方、中略して大塚のジーパンを洗はうとして風俗店のスタンプカードを見つけた綾は、業態が不明な―衣装があるみたいだからイメクラかなあ―「ノモレ」の嬢で大塚贔屓の篠原カレン(あけみ)に、取材を装ひ接触。棹姉妹とでもいつた塩梅からか、二人は何となく仲良くなる。そんな、こんな。藪から棒に映画を撮つてゐるといふカレンは、自作に出てみないかと綾を誘ふ。ところで破瓜出版の編集部には、竹洞哲也2018年第二作「青春のさゝくれ 不器用な舌使ひ」(脚本:深澤浩子/主演:川上奈々美)と、関根和美2015年第四作「特務課の罠 いたぶり牝囚人」(主演:きみと歩実)のポスターが貼つてあつたりする、凄くランダムな二本ではある。
 全部は詰めきれない配役残り、加藤ツバキは、田中と飲みに行き潰れた綾が意識を取り戻すと、田中と致してゐたセフレの篠原マリア。ロケも田中の部屋でなく篠原家、娘は店に出勤中か。後藤ユウミと加藤紗希は、相変らず田中と飲んでゐたところ緊急事態と呼び出した綾を、サプライズの誕生会で迎へる友達の皆川芹那と木下優香。綾が三十になるといふのは、公称を真に受けると結構な逆サバ。大野大輔は、ノモレの店長・星野大輔。蜜蜂マーヤと和ルイ子は綾がカレンも伴ひ取材に行く、SMクラブ―公式にはカミングアウト・サロン―「ユリイカ」の女王様セルフで、鏡ゆみこがママセルフ。その他辿り着けないのが、二人見切れる破瓜要員。通された控室にて、カレンを待ちくたびれた綾が寝落ちてゐるとペットボトルを取りに来るノモレの嬢と、ラバーマスクで吊られる―当然完全に面相は見えない、判る訳がない―ユリイカの奴隷氏。に、綾を多分主演に撮影するカレン組の、見た感じ助監督か制作部・ナベちやん、メガネがエモい。芹那が録音部、優香がレフ板を抱へ、カメラはカレンが8mmを回す。それでもなほ余る頭数ないし名前は、どうせピンクには映つてもゐまい。大事な点ゆゑ繰り返す、どうせピンクには映つてゐまい。
 佐々木浩久が本人の希望を大蔵に繋いだ、古澤健のピンク筆卸作。以降は八月頭に第二作が封切られたのに続き、タスフェスが先行する形で、今作の続篇も情報公開されてゐる。よもや、OPP+のみなどといはないだらうな。それだと何も足してゐないぞ、逆に今まで、何を足してゐたのかも知らんけど。
 幾ら蓼食ふ虫も何とやらとはいへ、迸るほど魅力に欠き、何でまた斯くもクソみたいな男と主演女優が一緒に暮らしてゐるのかが最初から破綻したSF設定ばりに解せない、モラハラ野郎との生活に塞ぐヒロインが新しい友人との出会ひを契機にするまではいいとして、行方不明になつてゐた自分ぽいサムシングを何時の間にか見つける物語。何はともあれ、川瀬陽太相手に、正常位で突かれる下から優位に立つ強靭にして素晴らしい見せ場に恵まれる、加藤ツバキに関しては何の問題もない。といふかこの人、大絶賛現在進行形で加速してゐる。グジャグジャ自堕落に決戦兵器のオッパイを持て余す、対大塚戦はこの際忘れてしまへば、松本菜奈実も、締めの濡れ場を川瀬陽太に介錯して貰ひそれなりの形にはなる。そこで完遂しないさせない、小癪ささへさて措くと。反面、まるで二次元から造形したフィギュアの如き浮世離れたスタイルを誇りながら、二番手のあけみみうが甚だ酷い、女優部は一ッ欠片も悪くない。綾と浸かる狭い風呂を除くと、その直後唯一の絡みとなる大塚との店長・店員プレイを一通りなぞる件が致命的。グッダグダ外堀で矢張り尺を執拗に浪費した挙句、いざとなると古澤健が腰のひとつ満足に触れない無様極まりない体たらく。言語道断、慷慨憤激。苟も小屋に木戸銭を落とした客に、見せて許される代物とは到底断じて皆目認め難い。出し抜けであれ藪蛇であれよしんば木に接いだ竹であれ、松本菜奈実と百合の花を咲かせてゐた方が百京倍マシ。役得監督となると池島ゆたかの以前に、古澤健は荒木太郎の爪の垢でも呑んで来ればいい。二人とも放逐されてゐるではないか、全体何処から連れて来るんだ。自らの倫理観にのみ従ひ、アグレッシブに性を謳歌するマリアに対し、綾がてんで掴み処のない経緯を通して啓かれる蒙が、セックス・ワーカー同様、セックス自体を自身には縁遠いものと特別視してゐたとかいふ、薄らフワーッとした覚束ない方便にも何をこの女と開いた口が塞がらなくなるほかない。荒木太郎の爪の垢を呑んだ次は、古澤健は浜野佐知に地獄突きを叩き込まれて血反吐を吐けばいい。結局、己の登場場面でさんざ無駄な回り道に明け暮れた挙句、綾が答へに辿り着く過程は二足も三足も飛ばす。七十分でまだ足らないやうであれば、素人考へでしかないが正直ピンクは難しい気がする。返す刀で大塚の左頬に気がつくと痣が出来てゐるのは、それは性懲りもなく、タス版を観るか見ないと話が繋がらないナメた寸法なのか?大蔵に改める気がないのは先刻承知の上で、こちらも厭かずに最後までいふ、本末転倒て言葉知らないよね。普段あれだけ淡白に見えた、竹洞哲也ですらあれで絡みの専門性に余程長けてゐたのかと再認識させられる程度の裸映画にせよ、川瀬陽太による最低保証と、ボヨヨンボヨヨン階段を下りるだけでダッダーン!する松本菜奈実が誇る絶対爆乳の威力とで、呆れたり匙を投げないくらゐには観てゐられる。半分どころか、全殺す気満々の得物を手に女達が朗らかに駆ける一応か力技な爽快感の一点突破で、劇映画的にも墜落するでなくラストまでどうにか漕ぎつける。そんな古澤健大蔵上陸作を評して、橋渡しした佐々木浩久いはく“僕のよりよほど真つ当なピンク映画になつてゐます”。

 こ、こんなら(゚Д゚)

 F4級倉庫でガッチンゴッチンに凍らせた豆腐の角で、急所を強打せれ、貫通せれ。どの面提げてもしくは、怒髪冠を衝くとは正しくこのことである。まだまだ、あるいは現代的な別の意味の在り方で、ピンク映画が今なほ熱い。


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 「緊縛縄調教 肉いぢめ」(1992『緊縛縄調教』の2000年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:瀬々敬久/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/撮影助手:中尾正人/照明助手:広瀬寛己/監督助手:原田兼一郎/スチール:佐藤初太郎/緊縛師:唐変木浩/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:一色薫・伊藤清美・大沢えりか・佐野和宏・中川健次)。出演者中、中川健次がポスターには上田耕造。変名の類ではなく、全くの別人。全ッ然違ふ名前がパブに載るストレンジも兎も角、中川健次!?同姓同名でも回避しろよといふレベルではある。気を取り直して寛巳でない、照明助手の広瀬寛己は本篇クレジットまゝ。
 手拭ひで尻を打ち、乳を荒々しく揉み込む。但し、縛りが如何せん甘い。おもむろに佐野和宏が一色薫に後背位、主演女優の素材は悪くないどころか寧ろ素晴らしいにも関らず、逐一エッジが足らん。さて措き、大体完遂して暗転タイトル・イン。旧姓が白鳥なのか、美術評論家の白鳥燿子(一色)がうたた寝してゐると、配偶者から電話がかゝつて来る。燿子の夫で画商の秋山シュージ(中川)は、自らが企画した日本画界の重鎮・若林海山、の娘(大沢えりか/親爺は一切登場せず)の個展の打上げ。秋山とは美大の同期である彫刻家の高井カツミ(佐野)が、エリカ(仮名)のレス・ザン・才能を直截に指摘。凍りつくその場の計五人は見るから内トラ的な面子で、画面奥のボックス席に、田尻裕司もチラッとかシレッと見切れる。その夜秋山家でも軽く暴れた高井は翌日、秋山に電話で非礼を詫びるとともに、燿子をモデルにしたいだとか申し出る。俳優部残り伊藤清美は、燿子がすつかり陥落したタイミングを見計るかの如く高井を訪ねて来る、高井の元嫁。1993年以降に連続しないのは確定で、1991年以前に四本あるピンクは全て未見ゆゑ遡るのか否かは無論不明。さうはいへ少なくとも当年のピンク映画三作では、何れも伊藤清美が佐野和宏の元嫁現嫁。幾ら量産型娯楽映画とはいへ、判で捺したやうな配役といふのは流石にあんまりではなからうか。
 如月しいなの返す刀で、見られるだけ見ておくかとした橋口卓明1992年最終作。無頼派気取りの彫刻家が、創作活動のモデルと称して知己の妻を緊縛縄調教する。正しくありがちな物語とはいへ、ザクザク縄はおろか猿轡まで持ち出し、夜は燿子を檻の中で過ごさせた高井大先生いはく、「俺が君に要求するのは知性なんかぢやない」、「ただの肉体だ」。「お前を精神から解放してやる」、「まだ自分の自我に縛られてゐるやうだな、その自意識を破壊しなきや作品は出来ないんだよ!」云々かんぬん。ビートの利いた佐野ボイスを以てしても他愛ない能書を垂れ倒すに至つては、ただでさへ飛躍の多い展開の底を空理空論が抜く、諸刃の剣による自傷行為が関の山。折角一色薫が覚束ない口跡には耳を塞ぐとルックスは普通に可愛い部類、プリップリのオッパイとおヒップに勝るとも劣らず、キラッキラ艶やかに輝くお乳首様がエクストリームにエモーショナル。の割に、ビリング頭の単騎で乗り切る、前半はどうにもマッタリするのを否めない。尺を折り返して伊藤清美が飛び込んで来るや、俄然映画が映画らしい貌を取り戻すのも束の間、さうなるといよいよどうしやうもなくなつて来てしまふのが、なほ残したスリリングも、既に遅きに失した三番手。一応最低限の道筋をつけようとしたにはせよ、出鱈目に放り込んで粗雑に中途で済ますほか最早なかつた大沢えりかの濡れ場の、フォーマットに対する敗北宣言が寧ろ今作最大のヴィヴィッドネス。甚だにもほどがある、逆説ではあれ。そもそも、如何にも使ひ捨て臭い変名ながら、これで緊縛師がクレジットされるのが凡そ信じ難いくらゐに、終始ユッルユルに緩い縄がグルッと一周して象徴的。全方位的な生温さが、橋口卓明の終に越え得なかつた壁に思へなくもない。銘々が画面左から右に渡るのを、最後燿子が右から左に渡る橋のロングなんて、何かもう技法が牧歌的すぎて見てゐるこつちが恥づかしくなつて来る。


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 「痴漢電車 乗つて快感!」(1992『痴漢電車 乗せて挟んで』の1999年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:柴崎江樹/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/撮影助手:青木佳弘・伊東伸久/照明助手:広瀬寛己/監督助手:国分章弘/スチール:西本敦夫/車輌:水野智之/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:芦川美紀・如月しいな・伊藤清美・南城千秋・川崎浩幸・佐野和宏)。出演者中、川崎浩幸が本篇クレジットのみで、寛巳でない、照明助手の広瀬寛己は本篇クレジットまゝ。
 電車音に獅子プロクレと、タイトル・イン。ベッド上での絡み初戦に直結するのを見るに、帰りの電車か。会社は違ふOLの中谷美佐子(芦川)と恋人である和彦(南城)が、電車痴漢プレイに戯れる。早速―腰から下を捉へた―画が暗すぎるのと、極太眉の主演女優が、南城千秋よりも顔面の面積が全然広いエクセスライク。さて措き、脱げば体はまあまあ綺麗な後背位を完遂した上で、美佐子は週末を約し和彦と別れる。一人で乗る通勤電車、美佐子は佐野和宏の電車痴漢を被弾。上司の川崎浩幸(a.k.a.かわさきひろゆき)も交へ、広告屋との打ち合はせの席。美佐子は別れた女房でイラストレーターのアユミ(伊藤)を伴つた、広告会社社長の麻生か朝生かその辺り(佐野)と再会する。
 配役残り如月しいなは、美佐子の後輩・三崎巴。和彦に対する敬称も先輩である点を見るに、大学か何かからの関係か。佐野の初登場時二人で美佐子を挟撃する形の、ツーブリッジ男が思ひきりピンで抜かれる割に、クレジットもなく不明。美佐子とアユミが屋上で相対する一幕に続いての、手短な正常位で美佐子を抱く小太りの男とかマジのガチで誰なんだ。
 特に琴線に触れた訳でもないが、今上御大作で見た如月しいなをex.DMMで見られるだけ見ておくかとした、橋口卓明1992年ピンク映画第一作、薔薇族込みだと第二作。
 通算三度目のコンタクトを経て、美佐子は麻生とシティホテルに。この布陣だと木に竹しか接がないへべれけなオフィス情事を川崎浩幸と仕出かすのでなければ、如月しいなの濡れ場を巴が和彦を寝取る形で処理するほかないのは理の当然といへ、実際さういふ方向に展開するのは兎も角として、肝心要である筈の、美佐子の感情の流れが如何せん量り辛い。各々のシークエンスが総じて雰囲気だけならば整つてはゐるものの、最終的に、恐らく元々さういふ志向なり嗜好なのであらうが、何がどうしたい物語であつたのかは、最早清々しいほどに霧の彼方に霞む。五代暁子がさういふ行間のみダダッ広い脚本を書くとも思ひ難いゆゑ、となると相当に、橋口卓明のメガホン加減なのか。そもそも、灯りを完全に落とした部屋でも、ノートの液晶だと本当に何も見えない暗さにも火に油を注がれ、頭数が三人以上になるや、途端に誰が誰に痴漢してゐるものやらサッパリ判らなくなる、こなれない電車痴漢が痴漢電車的にはなほさら致命傷。確かに濡れ場には貪欲で、尺全体に占める女の裸比率は低くないどころか明確に高いにしては、漫然とした釈然としなさばかりが残る。専ら性的ではない意味で、モヤモヤさせられる一作である。

 美佐子と麻生の第二戦から、カメラが引くと手前に机に向かふアユミが唐突に大登場。そのまゝ芦川美紀と佐野は影に沈めて、アユミの自宅作業に移行する繋ぎには意表を突かれるのも通り越し、軽く度肝を抜かれた。何れにせよ意図は全く見えないが、伊藤清美に司らせた魔編集が次作に於いて再び火を噴く性懲りもない量産型娯楽映画らしさは、何となく微笑ましい。


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 「SEX予備軍 狂ひ咲き」(昭和49/製作:若松プロダクション/配給:日本シネマ/監督:林静一/脚本:林静一/製作:若松孝二/企画:若松孝二・林静一・富山加津江/撮影:吉岡康弘/照明:磯貝一/音楽:かしわ哲・はちみつぱい/出演:葉山るゐ《新人》・かしわ哲・流龍人・有沢真佐美・市村譲二・千葉末知・山本昌平・赤瀨川原平《特別出演》・荒牧光雄・林節子・中島桂太郎・内藤佳緒利・戸川弁寿郎・勝馬勝・西東捷兵・成海駄作・大西透・安田倉江・渋谷於富/編集:竹村峻司/効果:脇坂孝行/タイトル:長谷川徳男/タイトル作画:佐藤和宏・佐藤昌宏/録音・現像:目黒スタジオ/助監督:斉藤博/演出助手:和光晴生/撮影助手:高間賢治/照明助手:原田正幸/製作主任:富山加津江)。監督と脚本の別立ても兎も角、俳優部が中央に飛び込んで来る斬新なクレジットは、本篇ママ。
 凄い手書きで“'73 若松プロダクション作品”、主題歌のイントロが起動してブルーバックのタイトル・イン。最初に整理しておくと、昭和48年に―今回配信タイトルでもある―原題「夜にほほよせ」として製作したものを、翌年日本シネマが配給した模様。ついでといつては何だが録音と現像を兼ねる“旧”目黒スタジオの正式名称は東京録音現像で、御存知ニューメグロの前身。
 古の麗しき屋上遊園地にて、印刷工の村松オサム(かしわ)と田舎の幼馴染・田島か田嶋か但馬辺りレイコ(葉山)がランデブー。十六年前に田舎を離れたレイコと上京した村松が、如何に再会を果たしたのかに関しては豪快にスッ飛ばす。村松の安アパートの敷居を跨いだレイコは、村松が鼻歌なんぞカマして紅茶を淹れてゐるうちに、無防備にも寝落ちる。そのまゝな流れで一夜を過ごした翌日、村松が通勤電車に乗る間際。レイコは結婚するゆゑ、これきりねと村松に告げる。
 辿り着ける限りの配役残り、村松と仲のいい同僚の池田ノブヒロは、ビリング推定で流龍人か。レイコは村松に、一つの嘘をつく。今後結婚するのでなく、実は既に結婚してゐた。有沢真佐美がレイコの実母で、a.k.a.市村譲の市村譲二が、有沢真佐美の面倒も見るのをバーターにレイコと結婚した小沢か小澤、尾沢辺りかも。小沢の浮気相手は、多分ビリング推定で千葉末知、濡れ場のある女優部は二人のみ。赤瀨川原平は、村松と同じ階に棲息するオカマ。山本昌平はラスト、深夜ホッつき歩くレイコに、児童公園で接触するトレンチの男。
 昨今コロナ禍で瀕死の危機に見舞はれた映画業界の焼け石に水をかけるべく、若松プロダクションがミニシアター応援基金を設立。“新型コロナウイルスが終息するまでの予定”とかいふ、ザックリするにもほどがある期間限定で未DVD化作をオンデマンド配信。売上の半分をミニシアター等映画に携はる施設に寄付するとする建前も兎も角、兎に角古いピンクが見られるぞといふので、まづは『赤色エレジー』で知られる林静一最初で最後の映画監督作。林静一が今作を撮るに至つた、経緯は不明。ところであの―どのだ―若松プロが、本当に寄付するのかといふのは、鈴の音に涎を垂らす下衆なツッコミ処。右から左にスコーレに流れるならまだマシで、ほとぼりの冷めた頃に、新作の製作をシレッと発表しやがつてゐたりしたら笑ふ。尤も、最終的にしぶとく生き残るのは、さういふ殺しても死なない手合であるやうな気もする。
 女にフラれた男が電車に爆弾を仕掛けた、モチーフは横須賀線電車爆破事件と聞くと―単館上映時に語られてゐたらしい―如何にも若松プロらしいアグレッシブな企画にも思へ、結果的に林静一はトピック性を綺麗に等閑視。望まぬ結婚に燻り、結構何だかんだ羽目を外す案外奔放な女と、女に翻弄されるナイーブな青年。キナ臭さなり政治性に振れてみせるでなく、ありがちな話に物語は収斂する。モーション・ピクチャーといふよりも、寧ろ一枚絵的に鮮烈なショットを随所で叩き込みつつ、正直繋ぎは全篇通してガッチャガチャ。何しに出て来たのか連れて来られたのか、カットの隙間を正しく瞬間的に駆け抜けて行く赤瀨川原平は、木に竹すら接ぎ損なふ。腰のひとつ満足に振りもしない絡みには呆れて匙を投げかけつつ、特にナニするでなく、レイコと村松が今の言葉でいふとマッタリ乳繰り合ふシークエンスは、それなりにエロいか幾許かの多幸感が溢れもする。村松の、要はセンシティブと紙一重か諸刃の剣の惰弱さに首を縦に振るか臍を曲げるかに雌雄は大いに左右されようが、現存するプリントの状態は相当悪いやうだが配信の画質は普通によく、この時代の、短いものを長く見せるベルボトムの正しさを再確認出来るだけで、個人的にとりあへずの元は取れる。


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 「SEX配達人 をんな届けます」(2003/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:堀禎一/脚本:奥津正人/企画:朝倉大介/音楽:網元順也/撮影:橋本彩子/照明:安部力/録音:岩丸恒/編集:矢船陽介/監督補:菅沼隆/助監督:永井卓爾/監督助手:吉田修・躰中洋蔵/撮影助手:鶴崎直樹/照明助手:山本浩資・大場弥生・福田裕佐・梅崎健太/照明応援:田宮健彦/ネガ編集:松村由紀/タイトル:道川昭/タイミング:安斎公一/制作応援:朝生賀子・海上操子・榎本敏郎・江利川深夜・坂本礼・田尻裕司・松本唯史・女池充・横井有紀/協力:今泉竜、上井勉、小泉剛、サトウトシキ、城定秀夫、?野みち子、ダーティー工藤、長崎みなみ、成瀬しのぶ、古谷桂、松江哲明、森田一人、森元修一、日本映機、コダック、アスカ照明プランニング、福島音響、フィルムクラフト、東映ラボ・テック、不二技術研究所、?真、VIPハウス/出演:恩田括・ゆき・加藤靖久・佐々木日記・伊藤猛・星野瑠海・上野清貴・涼樹れん・小杉明史・風間今日子・マメ山田)。出演者中、風間今日子は本篇クレジットのみ。画質が低く、所々潰れた文字がどうしても判読能はなかつた。
 駅や噴水と鳩の画を繋いで、同棲するオサム(恩田)と木下美香(ゆき)が商店街をぶらぶら買物帰り。二人の職業はオサムがデリヘルの運転手で、美香はまさかの実名登場「かまどや」のパート。正直腐れて来た縁に結婚を焦らなくもない美香を、オサムはまるで自堕落に取り合はなかつた。そんな最中、美香が働く店舗に決まつて午後三時になると判で捺したやうにイカフライ弁当を買ひに来る、ジャンパーは土方風の青年・小野寺進(加藤)が美香に対する明確な好意を伝へる。ところで一見も何も一貫してナイーブな長髪オーバルの加藤靖久が、土方には凡そ見えないと難じておいでのm@stervision大哥に憚りながらツッコミを入れさせて頂くと、小野寺はゼネコン辺りに就職の決まつた恐らく工学部のセイガクで、現場を知る目的でアルバイトをしてゐる旨、台詞で十全に語られる。ここは演出部・俳優部双方概ね非はない、そもそもブルーカラーではなかつたのだ。
 配役残り星野瑠海は、美香の同僚で人妻の佐々木佳子。一応店長も、瞬間的に見切れるだけ見切れる。涼樹れんはオサムが送迎する嬢のハルナで、上野清貴がナップサック一杯のジョイトイを持ち込み、ハルナを裸でホテルから飛び出させる完全にブッ壊れた客。早くどうにかしないと、こいつ仕出かすよ。佐々木日記とマメ山田は、オサムが働く店―屋号不明―の面接を受ける源氏名・チアキと、ある意味リアル、もしくは元祖こども店長、怒られるぞ。風間今日子は事務員にしては最強にどエロい、兎も角事務所に多分常駐する人、店長の情婦的ポジションにもある模様。小杉明史は、チアキの客の禿。そして伊藤猛が、佳子の夫・タカオ。
 素のDMMでex.DMM(現:FANZA)には入つてゐない国映作を拾つて行く、正調国映大戦。第二十二戦は、小屋で観た覚えはありつつ別館が素通りしてゐた、小林悟や北沢幸雄らの助監督を経ての堀禎一監督デビュー作。「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」(2006/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典)ほかで女優賞とダブルの新人女優賞を受賞する青山えりなの、旧名義でのガチ初陣でもある。ただ最大の謎が、jmdb始め各種資料に於いては尺が六十四分とされてあるにも関らず、今回視聴した動画は六十分。端折られた四分間が存在するのであれば、果たしてそこに何が映されてゐたのか。
 一部シネフィルから神々しく激賞されるのもちらほら見聞きする堀禎一を、例によつてこの節穴ピンクスはこれまで殆ど全く評価も理解もしてをらず、相ッ変らず一ッ欠片たりとてピンと来なかつた。否、主演女優と二番手、あと展開の一部に関してはピンとぐらゐは来た。何はともあれ、一般映画でも客を呼べる見せ場作りにもう少し気合を入れるレベルの、ことごとく極短かつ甚だ中途でブッた切る絡みは不誠実の極みで言語道断。そんなに裸映画を撮るのを潔しとしないのなら、だから撮らなければいい。観るなり見なければいい?観るなり見てみないと中身は判らないし、あるものは全て観るなり見たくなるのがキモオタの、人情通り越した獣道。
 最初に躓くどころか匙を投げたのが、出鱈目通り越して大御大よりもへべれけな、小野寺の無防備な求愛。清算を済まし、美香から商品を手渡された小野寺がなほも口を開いて何をいふのかと思ひきや、「あのう、奥さん今日も綺麗ですね」。待て待て待て待て!たかが弁当屋の常連客風情とパートでそんな途轍もないファンタジー、どうやつたら成立するんだアホンダラ。加藤靖久も決して悪くはないが、せめて生田斗真くらゐ連れて来い。生田斗真でも、普通の女ならドン引くと思ふけど。尤も肉を斬らせて骨を断たうとした形跡は窺へなくもなく、佳子相手の何気な伏線も噛ませての、フラットな会話を通して小野寺と美香の意外な縁が明らかとなるシークエンスは、輝くほどではないにせよ灯る。まるでアテ書きされたとしか思へない名台詞、「今だけアタシのこと愛していいよ」。佐々木日記は持ち前のやさぐれたエモーションを確かな手応へで撃ち抜き、終始生煮えるばかりのオサムに、遂に美香が感情を爆発させる件は、池島ゆたか監督100本記念作品(パート2)こと「超いんらん やればやるほどいい気持ち」(2008/監督:池島ゆたか/脚本:後藤大輔/主演:日高ゆりあ・牧村耕次)に於ける青山えりなと千葉尚之の別離に匹敵する、ゆき(ex.横浜ゆき)一世一代の大芝居。ところがさうなると最終的に詰むのが、結局燻るしか能のないオサムの造形と、雰囲気イケメンにも届かない恩田括の魅力を欠いたエテ面。オサム改めクソ野郎が1mmも変らない以上、ラストはマイナスからゼロにさへ戻り損ねる、甚だ琴線の緩む一作である。


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 「ホールインラブ 草むらの欲情」(昭和54/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:林功/脚本:宮下教雄/プロデューサー:村井良雄/撮影:米田実/照明:野口素胖/録音:佐藤富士男/美術:渡辺平八郎/編集:西村豊治/音楽:本多信介/助監督:鈴木潤一/色彩計測:野田悌男/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/協力:株式会社マツダサービス/出演:山口美也子・宮井えりな・高橋明・市村博・白山英雄・小池雄介・八代康二・織田俊彦・浜口竜哉・木島一郎・影山英俊・緑川せつ・八城夏子・吉沢由起/ゴルフ指導:服部泰子・小林リエ)。正確なビリングは、緑川せつと八城夏子の間にゴルフ指導を挿む。各種資料に見られる企画の進藤貴美男が、本篇クレジットには見当たらない。
 トロフィーや栄光の写真の数々で飾られた、新人杯優勝気鋭の女子プロゴルファー・朝倉真紀子の居室。ベッドの上では真紀子(山口)と、恋人の西沢(影山)が交はつてゐる。開巻主演女優と二人先陣を切る俳優部が、影山英俊である僥倖に早速打ち震へる。西沢が真紀子の体を愛でて、「全く真紀子の体は素晴らしいコースだよ」。クソ以下の文句が、影山英俊の口跡にかゝるやグルッと一周して寧ろ完璧に聞こえる詐術もとい魔術。ダサい台詞をきちんとダサく、あくまでダサいまゝにひとつの形として吐けるのも、ある種の才能だと思ふ。ところが挿れ始めたところで、不意な来訪者が。ノンクレジットの賀川修嗣と小見山玉樹を引き連れた刑事の高山(浜口)が、深夜の家宅捜索に乗り込んで来る。呆然と、捜索を見やる真紀子にタイトル・イン。“女子プロゴルフ界に黒い霧”、“新人杯の朝倉真紀子覚醒剤常習で逮捕”、“プロゴルフ連盟朝倉プロを永久追放”。新聞か雑誌の見出しを連打、基本設定をチャッチャと片付けるタイトルバックが手短に駆け抜けた上で、これ見よがしなケースに入れられた注射器を高山が発見。ベッドに一人留まる西沢を抜き、真紀子に手錠がかけられる。露払ひを務める影英とノンクレで飛び込んで来るコミタマ、アバンで軽くお腹一杯になつた感もなくはない。
 半年後出所した真紀子を、真紀子の妹・玲子(吉沢)と、真紀子が元々キャディーとして働いてゐた、ゴルフ場経営「双葉観光」社長の双葉(八代)が出迎へる。二人の迎へを一旦断つた真紀子は、続けて現れた『ゴルフ通信』記者・陣内(白山)の車に乗る。真紀子を顔の利く練習場との「緑が丘ゴルフクラブ」に連れて行つた陣内は、真紀子を裏世界の賭けゴルファー、劇中呼称で“ハスラー”に勧誘する。
 配役残り宮井えりなは、正体不明の何者かに弄られる、緑が丘ゴルフクラブ囚はれの経営者・マダム蘭子こと海老原蘭子。木島一郎は、陣内が真紀子に引き合はせるハスラー初陣相手・黒川、土建会社社長。真珠どころか、棹にダイヤを埋め込んだ大層な御仁。見えないところに、金をかけるダンディズム。高橋明と小池雄介は、真紀子馴染のスナック「バーディー」マスターの島本と、「バーディー」で日がな一日酔ひ潰れる海老原シュンサク。当時たまたま実際に焼けてゐたのか、藪蛇に真黒な八城夏子は双葉の娘で、とかくライバル視する真紀子に、だけれどもゴルフの腕は適はないルミ子。そして織田俊彦が真紀子に対するリベンジを期する黒川に招聘された、プレイ中に七色のボールを使ひ分ける―当然クッソ反則行為―と謳はれるゴト師の利根山。織田俊彦がイカサマ野郎、さりげなく爆裂する超絶のハマリ役に小躍りした。緑川せつは、利根山のヤサである黒川の第二現場に急行した真紀子と海老原に、邪険に対応する謎の女。胸元が乱れてゐるのが利根山と寝てゐたものかと思ひきや、ワンマンショーの最中であつたとかいふ闇雲な裸要員。a.k.a.五條博の市村博は、最終決戦の代役・梶岡テツヤ。海老原が遂に勝てなかつた、ex.日本チャンピオン。
 へべれけに酔つ払つてゐながら、勝負に完勝した海老原が屠つた真紀子に伝授する、示現流の立木打ちからヒントを得たとかいふオリジナル秘打、その名もダブルスピン。距離を問はずボールを五番アイアンで地面に叩きつけ、画的にはビヨーンビヨーンと短く往復するプリミティブ特撮でボールを的に捻じ込む。マンガみたいな必殺技が清々しい、林功昭和54年最終第三作。緑川せつまで豪華五本柱を擁する割に、一度たりとて絡みを最後まで描かない小癪な姿勢は頂けないものの、所々の大雑把さに目を瞑ると、海老原といふやさぐれたバディも得て、真紀子が次第に姿を明かす真の黒幕との対決に至る展開は、王道中の大王道。病気で片肺を摘出し、過酷なツアーには耐へられないゆゑ引退したにせよ、梶岡は1ラウンドなら今なほ超一流。強敵の攻略に際し、正確無比なショット―と難のあるスタミナ―を狂はせるべく、真紀子が採用した戦略がズバリ色仕掛け。休憩中クラブハウスのロビーにて、真紀子がシャロンシャロンと足を組み換へ梶岡の目を引くカットは笑かせつつ、島本の姑息な工作で五番を失つた真紀子が決死の敢行を挑む、七番ダブルスピンは燃える。これでもう少し、演出に外連があればなあ。

 キャリア後期は関根組で活動してゐた、野口素胖の名前をロマポのクレジットに見かけると改めて感慨深い。目下確認出来る最後の仕事は、六変化しかしない関根和美2005年第一作「女探偵 おねだり七変化」(脚本:吉行良介/主演:出雲ちひろ)。


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