真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生 温泉芸者」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:池田正一/製作:樋口弘美/企画:小松裕司/撮影:森勝/照明:田島武志/録音:佐藤富士男/美術:沖山真保/編集:川島章正/助監督:北村武司/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当プロデューサー:香西靖仁/音楽:ジミー時田/協力:熱海温泉 松濤本館/出演:朝吹ケイト・よしのまこと・石井里花・中川みず穂・野上正義・大門春樹・佐竹一男・荻原賢三・森口修・キャベツ・伊藤剛・砂塚英夫・志水季里子)。事実上、配給に関しては“提供:Xces Film”。
 いい塩梅にズンチャカした劇伴が鳴り、丘越しに相模灘を望む。正パンしてタイトル・イン、下の句が赤く発色する。寄つた先はサンルーフのライトバンで、東京から傷心旅行中の女子大生・和美(朝吹)が上方向にハコ乗り。ヒロインのクソよりダサいパーマ頭に、軽くでなく頭を抱へる。さて措き和美の下半身に催した助手席の男(キャベツか伊藤剛)が襲ひかゝり、運転席の相方(伊藤剛かキャベツ)も嗾ける車、と擦れ違つた単車が和美の悲鳴が聞こえたのか、Uターンして追走。車を停め、二人がかりで和美を犯さうとしてゐる場に介入した浩一(大門)は、手傷を負つたり和美自身の逆襲に助けられたりしつつも、兎も角キャベツと伊藤剛を撃退する。「覚えてろよコノヤロー」と判り易すぎる捨て台詞を残し車は走り去るものの、最終的に再登場を果たしもせず、寧ろこの二人が忘却の彼方に消え失せる。その夜、和美がそのまゝ転がり込んだ浩一宅。「抱いて」とか最短距離の据膳を頂戴した浩一がポン引きといふ稼業を隠す一方、和美はお手伝ひ募集の広告を頼りに、温泉旅館「松濤本館」―既に廃墟も解体―の敷居を跨ぐ。ところで、やけにドラマチックな芸名の大門春樹をザックリ評すると、太田始の上位互換。
 配役残り、砂塚英夫は浩一の師匠筋で、今はおでん屋台の大将・順平。今も、屋台を有料紹介所的に運用してゐたりもする。裏の顔を先に見せる志水季里子は、「松濤」女将の影で本番バッリバリのフルコンタクトなピンサロ―劇中用語としては“クラブ”―も営む智子。凄まじいのがその、まるで酒池肉林といふ概念を具現化したかの如き“クラブ”に、全裸で客に跨る女優部が五六人はノンクレで投入される、しかも妙に粒の揃つた。石井里花はエクストリームな花芸を誇る、智子の飛び道具的な懐刀・ルイ。野上正義と中川みず穂は客の前で情を交す、劇中名称で“特別ショー”の演者・久松健三と私生活に於いても情婦の小糸。森口修は、智子とも男女の仲にある松濤番頭格の渉で、よしのまことが智子とは腹違ひの妹・理加。佐竹一男は智子のパトロン・赤峰敏夫、県会議員の座を狙ふ有力者。荻原賢三は、赤峰が熱海に連れて来る国会議員の、中からグレードを上げた大曽根。画に描いたやうなガッハッハぶりが清々しいが、逆からいふと、画に描いたやうな何某かの形質を、きちんと画にしてのけるのがロマポの手堅さなり分厚さ。小見山玉樹らレギュラー脇役部は飛び込んで来ないまゝに、その他主に歓楽街の客要員で、相当な頭数が動員される。
 この期に改めて再認識したのが、首から下の比類ない完成度に比して、首から上が結構出来上がつてはゐない朝吹ケイト―ついでに口跡は葉月螢に地味に似てゐる―を主演に擁した、海女の出て来ない藤浦敦昭和59年第二作。偶さか温泉旅館に草鞋を脱いだ―退学してゐない場合ホントに―女子大生が、肉弾コンパニオンとして奮闘する。まるで、といふかまるきり新田栄温泉映画の器に、案外一途な浩一と和美がついたり離れたりする恋路、父と娘の物語、六芒星の如く交錯する二つの三角関係。諸々盛り込んだ、熱海を舞台に繰り広げられる鉄板娯楽映画。たり得て全くおかしくはなかつたのだが、もう少しでなく、真面目に撮つてゐて呉れさへすれば。赤嶺が和美も伴ひ、大曾根を連れて行く“クラブ”。客席に和美のゐるのを知つた、健三は中折れ戦闘不能に。その場の勢ひで代りに客が盆に上がらうとする流れの中、助けを求める小糸を見かねた和美は、意を決した眼差しで「待つて!」と割つて入る。デカいエモーションに紙一重まで肉薄する局面は、幾つもあつた。それ、なのに。結局理加と渉が駆け落ちするのと、健三と小糸が熱海を離れただけで、単車の踵を返した浩一と和美の再会すら描かないぞんざいな作劇には、最早ある種のストイシズムなのかと吃驚した。大体、浩一の夢とやらは結局何だつたのか。ベタな浪花節を描くのがそんなに気恥づかしいのか癪なのか知らないが、何れにせよそれは別に、賢明な態度にも誠実な姿勢とも思へない。片や手数は徒に潤沢な割に、裸映画的にもおいそれと棹もとい首を縦に振る訳には行かないんだな、これが。奥行きもキッメキメに、恐ろしく丁寧でカッコいいショットを乱打する屋台周りに比して、いざ濡れ場に入るや等閑になられてしまつては流石に救ひやうもない。平然とブッツブツ切る無造作な繋ぎもさることながら、石井里花と荻原賢三の絡みに至つては、別に暗めを狙つた風でなく、明らかにおかしなルックが照明の不足をも感じさせる惨憺たる体たらく。俳優部の面子含めプロダクション自体のポテンシャルは高い筈にしては、却つて、あるいはつくづく残念な一作ではある。


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