真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「桃尻ハードラブ 絶頂志願」(昭和62/製作:《株》フィルムキッズ/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:内藤忠司/プロデューサー:千葉好二/企画:塩浦茂・東康彦/撮影:仲田善哉/照明:遠藤光弘/編集:鈴木歓/助監督:秋山豊/製作担当者:中村哲也/色彩計測:佐藤和人/音楽:金刺勝治/録音:ニューメグロスタジオ/現像:IMAGICA/ヘアーメイク:庄司真由美/スチール:西本敦夫/監督助手:勝山茂雄・遠藤聖一・柳田剛一/撮影助手:青木克弘/照明助手:田中陽一・郷間英敏/製作進行:井上淳一/撮影協力:Loversinn《池袋》/出演:<ロマン子クラブ>藤崎美都《会員NO 7》・百瀬まりも《会員NO 10》・前原祐子《会員NO 12》・新田恵美《会員NO 1》・小林あい《会員NO 4》・相原久美《会員NO 6》・北原舞子《会員NO 8》・清水舞《会員NO 11》・木村さやか《会員NO 13》・山本伸吾・大山大介・下元史朗)。
 百瀬まりもが吐息を洩らすのは一人寝でなく、太股に男の手が這ふ。去年の夏、概ねハーセルフのまりも(百瀬)が、小学校からの幼馴染であるマリオ(大山)と初体験。痛いだけのロスト・バージンをまりもが振り返つた流れで、軽くティルトする緑の丘に、藪蛇に荘厳なドラムロール鳴らしてタイトル・イン。今年の夏―高校生といふ以上の学年不明―も恋を捕まへ損ねた、ひとみ(藤崎)としづか(前原)にまりもが黄昏る。黄昏る三人を、ローラースケートを転がして来たマリオが揶揄ふ。体躯の貧しさを際立たせる色と形のストレート・ジーンズに、ダッブダブの白Tを華麗に―でなく―タックイン。唸る激越なダサさ以前だか以下に、口を開けば開いたでへべれけな大山大介の口跡に早速頭を抱へさせられる。しづかからマリオとの仲を勘繰られたまりもが、必死に否定して監督クレジット。そし、て。本篇の火蓋を切るのがエヴァンゲリオン量産機の如く、舞ひ降りる形で一挙投入される順に清水舞・小林あいと木村さやか・相原久美・北原舞子のロマン子部隊。一夏のアバンチュールを首尾よく果たした五人に壮絶なマウントを取られ、ひとみらは重ねて消沈する。その夜、悪性の風邪でダウンし三人の日程ないし皮算用を爆砕したひとみが、埋め合はせにと探して来た「そよかぜ高原」の先着二十名無料企画をまりもとしづかに提示。馬鹿デカいウェリントンで一見大人しめに見せる藤崎美都の、腹から出る発声で案外小気味よく弾ける瞬発力が出色。始発バスの待ち合はせに、ひとみが現れない朝。実家の稼業なのかマリオに持ち出させた、「森の花屋さん」の営業車でひとみは現れる。ところで当サイトは昭和から平成を高校時代に跨いでゐるが、昭和末期の高校生て、免許普通に持つてたかな?といふか、些末に囚はれない大雑把、もとい大らかな時代であつたと捉へる方がより適切なのか。
 配役残り、山本伸吾はまりもと喧嘩別れ―の前に三人まとめてマリオの車を降ろされる―したしづかとひとみがジーブを拾ふ、板垣牧場の板垣タイノスケ。にして、そよかぜ高原出身で、ひとみが大ファンの「あの人は今」な元アイドル歌手・南城みちるその人。一方、再びマリオの車に乗るのは頑なに拒むまりもはおパンティを脱いだ上、御スカートも捲る破天荒なヒッチハイクを敢行。車は「おまーん!」のシャウトを残し通過、ガシャンと音効。マリオに手を引かれ、慌ててその場を離脱するまりもが忘れて行つたトランクを、所謂ドリフの爆発オチメイクで拾ふ男が内藤忠司、大破したのか。そして下元史朗は、ひとみともアクシンデンタルに別れたしづかが出会ふ、素敵なオジサマ・峰岸ケンサク。別荘に逗留してゐるとされつつ、浴衣姿で手拭ひを窓の外に干さうとしてゐる初登場は、温泉旅館にでも泊まつてゐるやうにしか映らない。スナップが見切れはする―あと電話越しに嬌声も聞かせる―峰岸夫人は、凡そ判るやうに撮られてはゐない。そし、て。本篇FIN後、豪勢にマウント隊が全員脱ぐ更衣室に、三本柱が飛び込む「P.S.おまけ」。「おまーん!」シャウトで人物の同一性も地味に明示して、内藤忠司が闖入教師役で返り咲き。北海道に自主登校拒否と処理される新田恵美が、実は結局何処にも出て来ない何気な羊頭狗肉。は兎も角、拒否なる行為は、基本自主的なものではなからうかかとも思ふのだが。忘れてた、やつとこさそよかぜ高原に辿り着いたまりもとマリオが、先着最後の十組目を譲る老夫婦―と看板をマニュアル操作する職員―はノンクレジット。
 当時世間を席巻してゐた「おニャン子クラブ」(昭和60~昭和62)に、便乗した日活がAV部を掻き集めた「ロマン子クラブ」(昭和61年~昭和62/木村さやかが最終メンバー)。結構そのまんまな、図々しさが清々しい。一応肝入り企画―の筈―の割に矢張り買取系の、広木隆一(a.k.a.廣木隆一)昭和61年第六作「ロマン子クラブ エッチがいつぱい」(脚本:田辺満)続篇、といふ体に公式になつてはゐる堀内靖博昭和62年第二作、通算第四作。尤も、僅かに呼称される相原久美(ヨーコ)と北原舞子(ユカリ)の役名が「エッチがいつぱい」とは異なつてゐる辺り、シークエルとはいへ多分に無頓着なシークエルである模様。「エッチがいつぱい」もex.DMMで見られるゆゑ、今後目を通してみる。
 最初に結論を先走らせて欲しい、いゝ映画を見た。小屋で観てゐたら滂沱の海に沈んだにさうゐない、素晴らしい映画を見た。カットを割る必要の全くないシークエンスに於いて、不自然にか見苦しくブッツブツ細切れてみたり。御丁寧にも照明の外れた場所に押し倒した挙句、その後何れかの位置を改善しもしない。ひとみと板垣が牧草の上で致す一戦を筆頭だか底に、終盤散見される不用意に暗い濡れ場。粗は決して、そこかしこに目立たなくはない。けれども、凄惨なダサさが容赦なく火を噴く80年代の洗礼をからがら乗り切ると、思ひのほか上手いことひとみ・まりも・しづかを各々別個に動かす秀逸な構成が起動。映画の腰が漸く据わつて来た、その先で。ひとみの近眼を方便に、溜めに溜めてゐた板垣のex.南城みちるをラスト十分近くで満を持して解禁。サインも歌も忘れたと一旦は嘯いてみせた南城みちるが、軽く放心して花火を傾けるひとみの傍ら、遂に代表曲であつた「星に乗つた少年」を弾き語り始める。歌詞の一説に“愛に溢れた不思議な出会ひ”とあるその曲は、さう、「星に乗つた少年」の歌唱こそが、三作前即ち第一回監督作品では不発に終つた、二人ぼつちのマジカル・ラバーズ・コンサートの雪辱を見事に果たす一撃必殺のクライマックス!極大のエモーションに薄くでなく汚れた心を洗はれ、あゝ、いゝ映画を見たとチルりかけるのを、なほも今回の堀内靖博は許さない。マリオへの想ひをまりもが素直に再認識するのに、「星に乗つた少年」のアウトロまで完奏を合はせる。ガッチガチ、あるいはペッキペキに完璧なタイミングで突入する締めの濡れ場を、下手に茶を濁しはせず堂々と完遂。これぞ正攻法、裸映画ならではの磐石な強度。甲乙つけ難いハイライトに恵まれたひとみとまりもに比すと、要は峰岸に弄ばれただけのしづかがドラマ的には大いに弱い反面、浴場でのワンマンショーは腰から下の琴線を激弾きする、女の裸的に大いなる見所。もう一本残してはゐるものの、堀内靖博最高傑作を早とちりしたくなる佳作。しづかと峰岸の絡みに於ける、観音様に模した唇愛撫はひとつの偉大なる発明であると思ふ。もしかしなくとも、先行者がゐるのかも知れないけれど。


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