真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SEX予備軍 狂ひ咲き」(昭和49/製作:若松プロダクション/配給:日本シネマ/監督:林静一/脚本:林静一/製作:若松孝二/企画:若松孝二・林静一・富山加津江/撮影:吉岡康弘/照明:磯貝一/音楽:かしわ哲・はちみつぱい/出演:葉山るゐ《新人》・かしわ哲・流龍人・有沢真佐美・市村譲二・千葉末知・山本昌平・赤瀨川原平《特別出演》・荒牧光雄・林節子・中島桂太郎・内藤佳緒利・戸川弁寿郎・勝馬勝・西東捷兵・成海駄作・大西透・安田倉江・渋谷於富/編集:竹村峻司/効果:脇坂孝行/タイトル:長谷川徳男/タイトル作画:佐藤和宏・佐藤昌宏/録音・現像:目黒スタジオ/助監督:斉藤博/演出助手:和光晴生/撮影助手:高間賢治/照明助手:原田正幸/製作主任:富山加津江)。監督と脚本の別立ても兎も角、俳優部が中央に飛び込んで来る斬新なクレジットは、本篇ママ。
 凄い手書きで“'73 若松プロダクション作品”、主題歌のイントロが起動してブルーバックのタイトル・イン。最初に整理しておくと、昭和48年に―今回配信タイトルでもある―原題「夜にほほよせ」として製作したものを、翌年日本シネマが配給した模様。ついでといつては何だが録音と現像を兼ねる“旧”目黒スタジオの正式名称は東京録音現像で、御存知ニューメグロの前身。
 古の麗しき屋上遊園地にて、印刷工の村松オサム(かしわ)と田舎の幼馴染・田島か田嶋か但馬辺りレイコ(葉山)がランデブー。十六年前に田舎を離れたレイコと上京した村松が、如何に再会を果たしたのかに関しては豪快にスッ飛ばす。村松の安アパートの敷居を跨いだレイコは、村松が鼻歌なんぞカマして紅茶を淹れてゐるうちに、無防備にも寝落ちる。そのまゝな流れで一夜を過ごした翌日、村松が通勤電車に乗る間際。レイコは結婚するゆゑ、これきりねと村松に告げる。
 辿り着ける限りの配役残り、村松と仲のいい同僚の池田ノブヒロは、ビリング推定で流龍人か。レイコは村松に、一つの嘘をつく。今後結婚するのでなく、実は既に結婚してゐた。有沢真佐美がレイコの実母で、a.k.a.市村譲の市村譲二が、有沢真佐美の面倒も見るのをバーターにレイコと結婚した小沢か小澤、尾沢辺りかも。小沢の浮気相手は、多分ビリング推定で千葉末知、濡れ場のある女優部は二人のみ。赤瀨川原平は、村松と同じ階に棲息するオカマ。山本昌平はラスト、深夜ホッつき歩くレイコに、児童公園で接触するトレンチの男。
 昨今コロナ禍で瀕死の危機に見舞はれた映画業界の焼け石に水をかけるべく、若松プロダクションがミニシアター応援基金を設立。“新型コロナウイルスが終息するまでの予定”とかいふ、ザックリするにもほどがある期間限定で未DVD化作をオンデマンド配信。売上の半分をミニシアター等映画に携はる施設に寄付するとする建前も兎も角、兎に角古いピンクが見られるぞといふので、まづは『赤色エレジー』で知られる林静一最初で最後の映画監督作。林静一が今作を撮るに至つた、経緯は不明。ところであの―どのだ―若松プロが、本当に寄付するのかといふのは、鈴の音に涎を垂らす下衆なツッコミ処。右から左にスコーレに流れるならまだマシで、ほとぼりの冷めた頃に、新作の製作をシレッと発表しやがつてゐたりしたら笑ふ。尤も、最終的にしぶとく生き残るのは、さういふ殺しても死なない手合であるやうな気もする。
 女にフラれた男が電車に爆弾を仕掛けた、モチーフは横須賀線電車爆破事件と聞くと―単館上映時に語られてゐたらしい―如何にも若松プロらしいアグレッシブな企画にも思へ、結果的に林静一はトピック性を綺麗に等閑視。望まぬ結婚に燻り、結構何だかんだ羽目を外す案外奔放な女と、女に翻弄されるナイーブな青年。キナ臭さなり政治性に振れてみせるでなく、ありがちな話に物語は収斂する。モーション・ピクチャーといふよりも、寧ろ一枚絵的に鮮烈なショットを随所で叩き込みつつ、正直繋ぎは全篇通してガッチャガチャ。何しに出て来たのか連れて来られたのか、カットの隙間を正しく瞬間的に駆け抜けて行く赤瀨川原平は、木に竹すら接ぎ損なふ。腰のひとつ満足に振りもしない絡みには呆れて匙を投げかけつつ、特にナニするでなく、レイコと村松が今の言葉でいふとマッタリ乳繰り合ふシークエンスは、それなりにエロいか幾許かの多幸感が溢れもする。村松の、要はセンシティブと紙一重か諸刃の剣の惰弱さに首を縦に振るか臍を曲げるかに雌雄は大いに左右されようが、現存するプリントの状態は相当悪いやうだが配信の画質は普通によく、この時代の、短いものを長く見せるベルボトムの正しさを再確認出来るだけで、個人的にとりあへずの元は取れる。


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