真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「愛人妻 あぶない情事」(昭和63/製作・配給:株式会社にっかつ/脚本・監督:片岡修二/プロデューサー:半沢浩・進藤貴美男/企画:塩浦茂/撮影:志村敏雄/照明:斉藤正明/録音:酒匂芳郎/編集:冨田功/助監督:橋口卓明/色彩計測:片山浩/選曲:林大輔/現像:東映化学/製作協力:フィルム・シティ、獅子プロダクション/衣裳協力:ジャスメール/出演:浅間るい・堀河麻里・瀧口裕美・池島ゆたか・清水大敬・外波山文明・長坂しほり・下元史朗)。出演者中、清水大敬がポスターではa.k.a.の石部金吉になつてゐて、長坂しほりには特別出演の括弧特記。
 艶めかしく御々足をストッキングに通す瀧口裕美(ex.藤崎美都/a.k.a.滝口裕美)の、傍らに浅間るいと堀河麻里、のみならず。カメラが更に引くと、ノンクレ女優部が周囲にもう二人ゐたりしてタイトル・イン。必ずしもビリングに囚はれない旨、何気に表明する率直なアバンではある。
 ズンドコ十人弱でエアロビクス、常々拗らせてゐるが当サイトは、80年代を憎悪する、何となればダサいから。とまれエアロビがてら、三本柱のイントロダクション。都会の女を気取る倫子(浅間)は地下への下り口で派手にスッ転び、バニーガールのサエコ(堀河)は給仕する際豪快に粗相。そして自動車整備士のケイ(瀧口)が、四苦八苦弄つてゐた車をボガーン★と黒煙吹かせる。改めて後述するとして、実質先頭を走るトリオ編成ヒロインの一角が自動車整備士とか、何て画期的な映画なんだ。よもやまさかのドリフ爆破に藪から棒も厭はずオトすためだけの、破天荒な造形に震へる。よしんば偶さかであれ何かものの弾みであれ、片岡修二には天賦の才が降つて来る瞬間がある模様。は、さて措き。パッとしない日々にありがちなフラストレーションを燻らせる三人は、スワップ誌に想を得たケイの音頭で、各々の愛人を募集するオーディションを開催する運びに。
 配役残り、三人同時のフレーム・イン、控室的な廊下に居並ぶ池島ゆたかと下元史朗に清水大敬が、栄えある審査合格者。順にサエコの愛人となる、一介の公務員だてらに株で儲けた小金持ちの園山高志―フルネームで名乗る―と三河屋を経営する佐伯に、のち表札が抜かれる青年実業家の野沢俊介。佐伯の履歴書が刹那的に映り込みつつ、画数的に下の名前が恭司ではないぽい。野沢は倫子の愛人、被つたケイが佐伯に身を引く。外波山文明はケイから―毛皮のコートに続き―ダイヤの指輪を強請られ音を上げた佐伯が、半ば泣きつくやうにケイを紹介する宝石店店主の沼田。この人の沼田役に大いなる既視感を覚え、別館を漁つてみたところ昭和61年第二作「SM・倫子のおもらし」(主演:下元史朗・早乙女宏美)のほか、驚く勿れ片岡修二の代表作的シリーズ「地下鉄連続レイプ」の、無印第一作(昭和60/主演:藤村真美)・第二作「OL狩り」(昭和61/主演:北条沙耶)・第三作「制服狩り」(昭和62/主演:速水舞)、驚愕のシリーズ三作連続含む、確定もしくは判明分に限つても四本出て来た。一応お断りしておくと、続く最終第四作「愛人狩り」(昭和63/主演:岸加奈子)にも外波山文明は皆勤してゐるものの、単に役名が判らないだけである。当然、更に相当数の外波文沼田作が存在するのにさうゐない。と、いふ以前に。そもそもそれならば下元史朗の野沢俊介や、池島ゆたかの園山高志はなほ底の抜けた数字になるぞといふ話でしかない。あゝ量産型娯楽映画ならではの、清々しさよ。閑話、休題。枝葉なのか本筋なのかは議論の分れさうな、極大問題の当事者となる長坂しほりは、野沢の本妻・亜紀子。その他エアロビあるいはズンドコ隊と、三人の概要に見切れるイントロ部。選抜応募者ならび劇中それぞれが使ふ飲食店要員に、野沢と亜紀子の息子・俊輔役の正真正銘男児、総勢二十人前後がそこかしこに投入される。その中で、若干の台詞も与へられる福々しい禿の愛人選考落選者が、軽く喉を絞つた外波山文明のアテレコ。それは果たして、与へられてゐるといへるのか。
 買取系かと勝手に思ひ込んでゐたら、フィル街なり獅子プロが製作協力に置かれてゐる点を窺ふに、どうやら本隊ロマポであるらしき片岡修二昭和63年第二作。もしも仮に万が一、現にさうであつた場合片岡修二にとつて、最初で最後の本隊作となる。に、しては。長坂しほりを除き、面子的には矢張り買取風味かも。
 三人の女が三人の男を捕まへて、住めばいゝのに要はヤリ部屋に億ションを買ふ、藪蛇なラブアフェア。ただ、その底の抜けたお気楽さも、昭和の豊かさに拠るがゆゑに成立し得た、この期に及んでは枕を濡らすレガシーであるのやも知れない。古本屋の棚の守り神、もというつむきかげん―桃井かおり著、今でも守つてゐるのかなあ―な繰言は兎も角、倫子とケイの当初希望が、野沢で正面衝突。倫子の提案による、逆に二人の何れかを野沢に選ばせる解決策に対し、脊髄で折り返して倫子に野沢を譲つたケイ曰く、「男に主導権握らせたら意味ないもん」。最初からリーダー的に倫子とサエコを引つ張る能動性に加へ、ケイの瞳には、明確な女性主体の思想が輝いてゐる。全盛期の下元史朗をも擁する、男優部込みでも実は瀧口裕美の眼差しが最も強い。亜紀子の存在に尻尾を巻いて来た倫子に、ケイは野沢に文字通りの二者択一させるやう促した上で、「あんたアタシにはさういつたんですからね」。亜紀子も倫子もものともせず、野沢を奪ふ腹をケイが決め詰め寄る際には、「アタシは気にしません」、「奥さんがゐても、愛人がゐても」。大して通つてもゐない癖に何だが、片岡修二史上屈指とすら思へる名台詞・オブ・名台詞を、三番手の位置から瀧口裕美が撃ち抜くカットが、裸を忘れた裸の劇映画として一撃必殺のハイライト。思ひ起こすに、堀内靖博第四作にして最高傑作「桃尻ハードラブ 絶頂志願」(昭和62/主演:脚本:内藤忠司)に於いても、藤崎美都は二人ぼつちのマジカル・ラバーズ・コンサートの大役を担つてゐる。口跡の激しく覚束ない浅間るいと、タッパから恵まれたスタイルはガチのマジで超絶な堀河麻里。二人と比べて「ロマン子クラブ」会員NO 7の出自を誇りこそすれ、瀧口裕美が藤崎美都時代にいふほど場数を踏んでゐる訳でもない割に、明らかな格の違ひを見せつける。にも、関らず。それまで積み重ねて来た、展開もエモーションも何もかも全部御破算に爆砕。結局亜紀子とは別れた野沢と倫子が目出度くか木に竹を接いで結婚するに至る、月光蝶システムで消滅した卓袱台が、屁となつて雲散霧消するラストには尻子玉を抜かれるかと仰天した。ぞんざいな着地点に硬着陸はおろか墜落するといふよりも寧ろ、飛行機が空中分解した趣き。園山が意外と―セックロスに―弱い以外、さしたるドラマも設けられない、二番手の等閑視ぶりも酷い。そんな、既に大概な何やかやに劣るとも勝らず凄まじいのが、撮影時堀河麻里は何処で遊んでゐたのか、ボディスーツで魅惑的に佇む、左から瀧口裕美・浅間るい・長坂しほりの三人でポスターを飾つておきながら、おきながらー!長坂しほりの出番はといふと、門を挟んで往来の野沢を斬つて捨てた亜紀子が返す刀で、倫子も配偶者の高みから葬る短い一幕・アンド・アウェイ。しかもその件さへ、夜分に野沢家の表まで来てみはした倫子が、突入する意気地はなく踵を返しかけた、ところ。そこに偶々野沢が愛車のBMWで帰宅した挙句、わざわざ俊輔くんを抱き抱へた亜紀子まで何故かその場に顔を出す、壮絶に無造作かプリミティブなシークエンス。頼むよ、プロの撮る商業映画だろ。何れにせよ、下着姿でパブに堂々と載つた女優部が、蓋を開けると靴下一枚脱ぎはしないだなどとといふのは、量産型裸映画的には言語道断の羊頭狗肉。ティザーに登場するカッコいゝガンダムが、実際の本篇で開発もされてゐなかつたら、多分みんなキレるよね。濡れ場自体は隙を感じさせないメイン女優部と、馬鹿にならぬ瀧口裕美の決定力。少なくとも良作たり得た芽の幾らでもあつた物語を、破滅的な作劇で木端微塵にブチ壊した末に、犯罪的な長坂しほりの起用法で止めを刺す地味にキナ臭い一作。長坂しほりは別にも何も、全然悪くないんだけど。

 表層的に一点軽く途方に暮れたのが、ソフト化その他に際しての後処理には見えない、しかもチラチラ動くモザイク。正直2022年目線で触れる分には、最早背面騎乗で跨つてゐるのか、ハモニカを吹かれてゐるのか俄かには判然としない。結構壮絶な有様なのだが、当時は今や失はれたコンテクストが未だ生きてゐて、これで案外、何をどうしてゐるのか読み取れたのであらうか。


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