真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セックスドック 淫らな治療」(昭和60/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:大工原正泰/プロデューサー:岡田裕/撮影:水野尾信正/照明:田島武志/録音:福島信雅/美術:川船夏夫/編集:鍋島惇/音楽:甲斐八郎/助監督:川崎善広/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作進行:桜井潤一/協力:沼津秘宝館/出演:志麻いづみ、渡辺とく子、安西エリ、マリア茉莉、江崎和代、花上晃、藤ひろ子、立川談十郎、鈴木秋夫、橘家二三蔵、ダンディ立川、デニーズ・ヘラー、広瀬優、石塚忠吉、高橋朋子、山地美貴、砂塚英夫、鈴々舎馬風)。出演者中、高橋朋子と山地美貴は本篇クレジットのみ。
 「今の世の中セックスに関して何が異常で何が正常なのか、全く頭の悪い奴には判らんやうになつて来とりますなあ」。立て板に水の第一声で、見るから胡散臭い砂塚英夫が大登場を果たすのは、ABC局の生放送番組「もうお昼でショー」の一幕。複数の患者を合宿形式で一緒くたに面倒見る、集団治療の独自メソッドで人口に膾炙するセックスドックの紫貴夫(砂塚)と、保守的な主婦代表(藤)の討論がその日の企画、広瀬優が司会者の局アナ・渡辺。レスに伴ふ欲求不満を紫から豪快に揶揄された、藤ひろ子が暴れだしてタイトル・イン。後述する赤木一郎の、お母さん役で主婦代表を回収してのける大技の余地も脊髄で折り返しかけたものの、藤ひろ子は不脱のまゝ一幕・アンド・アウェイで駆け抜ける。
 配役残り、花上晃は妻に関する相談で紫のクリニックを訪ねる、銀行の支店長・白山多分薫、読みはカオル。志麻いづみが看護婦の桃谷カオルで、渡辺とく子が十字を見ると前後不覚に発情する、薫の妻でこの人も薫、読みはカオリ。紫がカオリの方の薫を、“典型的なドラキュラー症状”と診断するのは、何か話が根本的に違ふ気も。弱りも死にもせず、点火されてゐるだけである。安西エリと鈴木秋夫はABCの玄関口で出待ちした紫を、最終的には駐車場にて直撃する青木夫妻・ハナ子と竜。キスで子供が出来るだなどと、非現実的に性の知識を欠く。マリア茉莉と、橘家二三蔵は美容院「ビューティーサロンみどり」を営む、緑川ルミと夫の透、二人仲良くオナニー狂。石塚忠吉はカオルが自宅で自慰に耽つてゐると、何時の間にか家の中にゐる新聞の集金・赤木一郎、この子は母親と関係を持つ。一旦軽く診察を受けた赤木と、カオルがクリニックの表に出たところで、助けを求める婦人警官は高橋朋子、婦警に「助けて下さい」いはれても。立川談十郎も制服警察官、高橋朋子と江崎和代の台詞で、巡査と巡査長にブレる黒木弥三郎。江崎和代が弥三郎の妻・はるか、こちらは警部補。ちなみで整理すると、巡査は警官の階級中最下位の第九位。警察法に定めのない、巡査長は大体8.5位。八位の巡査部長挿んで、警部補が第七位。閑話休題、カオリ同様、制服に見境を失くすのが、はるかと弥三郎の致命的な悩み、端から仕事にならんぢやろ。新宿駅西口に集合する、集団治療当日。有難味のない爆乳のデニーズ・ヘラーと、ダンディ立川は都合五組目のカップル参加者。山地美貴も赤木クンと同じく、一人で参加する謎の女子。提携研究調査機関とか称して、一行を乗せたバスは沼津秘宝館に盛大な道草。朗らかな大人物ぶりが堪らない、鈴々舎馬風が浣腸、もとい館長、生命維持の仕方忘れてしまへ。マッチポンプな与太はさて措き、ダンディ立川とデニーズ・ヘラー、山地美貴の三人が皆で風呂には浸かる以外、集団治療の過程に於いて何をしてゐたのかは知らん。
 途方もなく恵まれた肉体的資質と、綺麗もしくはものの見事に反比例した芸才。量産型裸映画史上最大級の終ぞ未完の大器・マリア茉莉出演作を、兎に角見られるだけ追つて行く密やかな映画祭。いよいよ残り弾が尽きて来たのは兎も角、今後発見でもされない限り、どうやら素材が現存しないぽい幻の海女ポ第二作「若後家海女 うづく」(脚本:池田正一/主演:佐々木美子)の、次作にあたる藤浦敦昭和60年第二作。圓朝の名跡を藤浦家で預かり、三遊派宗家を名乗つてゐた藤浦敦の顔を利かせ例によつて、現在落語協会最高顧問の五代目鈴々舎馬風以下、落語立川流代表・十代目土橋亭里う馬の、二つ目時代の高座名である立川談十郎。昨年死去した橘家二三蔵が演芸と映画の小屋間を往き来するほか、ダンディ立川といふのも、藤浦敦監督作にも音楽を提供してゐるカントリー歌手・ジミー時田が、七代目立川談志から貰つた名跡。尤も、ダンディ立川に関してはフレームの中にとりあへずゐるだけで、ほとんど何する訳でもないけれど。と、ころで。落語と芝居とで根本的に勝手が異なるのか、橘家二三蔵の口跡が甚だ心許ないのは御愛嬌。
 性的に様々な問題を抱へる夫婦―単身者も一部含む―を謎施設に放り込んだ上で、集団治療と称して要はスワッピングさせる。もう如何にも商業ポルノらしい、女の裸を見せる目的にのみ従ひ一本の劇映画を捏ち上げたかのやうな、清々しい底の抜け具合ながら。泣かせはしなくとも大人の娯楽映画を、大人しく笑つて勃たせるかといふと、さうも問屋が卸さないのが難しいところ。何処からでもビリング頭を狙へさうな五番手までを主に、噺家と外人部もビリングを賑やかす豪華な俳優部と、堅実な撮影部を尻目に明後日か一昨日を向いた、演出部は漫然とのんびりしてゐる体たらく。基本コメディのテンポが絶望的か壊滅的にトロい火に油を注ぎ、いざ腰を据ゑ濡れ場をオーソドックスに攻めてみせたら攻めてみせたで、土台画期的に中途半端な距離から、梃子でも動かないフィックスが途端にダレて来る映画と裸の共倒れ。紫先生自身が実は性的不能といふ衝撃の告白を起爆剤に、全員救はれる逆転大団円を力任せにカッ飛ばさうと思へば、飛ばせなくも決してなかつたものを。騒々しく走るバスの車中、ネームドの四組八名が各々の元鞘に目出度くか艶やかに納まり、赤木クンまで山地美貴と仲良くなる中、涙目で消沈した紫が唯一人最後尾に取り残される。抜けよ尻子玉とでもいはんばかりに、しみつたれたラストは大抵の感興を全否定。帰京するバスが、画面奥に走り去るラストカット。凡そロケーションを狙つた風情の素粒子ほども窺へぬ、凄まじく変哲か頓着のない最早無常観すら漂はせる画に、そもそもこの御仁、何を思ふて映画を撮つてゐたのだらう。なんて、雲を掴む如き根源的な疑問が胸に去来してみたり。


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