真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「パーフェクト・キス 濡らしてプレイバック」(2023/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/ラインプロデューサー:江尻大/撮影:小山田勝治/録音:大塚学/編集:西山秀明/助監督:河野宗彦/小道具:中津侑久/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:小林義之/撮影助手:ナカネヨシオ/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・小池絵美子・広瀬結香・市川洋・安藤ヒロキオ・野間清史・河野宗彦・吉行由実・森羅万象)。
 一応肩書的には女性学教授の母・山岸綾子(小池)の執拗な干渉を逃れ、念願の一人暮らしを始めた小百合(花音)が実家に荷物を取りに来る。ど初端から結論を先走ると、綾子の木乃伊取りが木乃伊作りに全力で精を出すが如き、チンコの取れたパターナリズムの源なり所以を、結局綺麗にか平然とスッ飛ばしてのける。より直截にはそれで泰然としてゐられる辺りが、浜野佐知とは根本的に異なる吉行由実のレイヤー。あるいは単なる、藪蛇な無頓着。不自然なフェミニズムを、不用意に持ち出す要が何処にも見当たらない。
 本質的かも知れないけれど、閑話休題。この人は娘の意思を尊重して呉れる、義父の武雄(野間)と一緒に山岸家を離脱しようとした小百合が、叶はず綾子に捕まつた流れで、藪から棒なグリッドレイアウトのタイトル・イン。頓珍漢な意匠で木に竹を接ぎ続けるのは、吉行由実にとつて少なくともかつては盟友であつた筈の、清大と三人平成八年組の同期・荒木太郎をフィーチャした戦略では別になからうといふのは、全く以て為に吹く与太。
 配役残り、安藤ヒロキオは綾子が勝手に決めた小百合の婚約者・平川。平川なのに、何故ナオヒーロー当人を連れて来ない。綾子の元部下とかいふ、地味な素性不詳、今は何者なのよ。小百合がロストバージンすら平川で済ませてゐる、苛烈な綾子の支配ぶりは決して地味でない。最初は瞬間的な回想に飛び込んで来る市川洋は、往時家庭教師をしてゐた小百合が唇を奪はれたのが騒動となり、結果―綾子に―教職の夢を断たれた元教へ子の水原弘樹。最終的に武雄ではなかつた、綾子がブルータルな女王様プレイを営む、相手役の奴隷がその時点では不明。二番手一回きり戦を轟然と加速する、広瀬結香と森羅万象は小百合の捌けたメンターを担ふ従姉の瑠美と、齢の離れた夫・達也。達也の造形は、煙草の銘柄風にいへばマイルド鮫島。矢張り多呂プロのみならずダイウッドの想起も狙つた、吉行由実なりの一人同窓会なのか、絶対違ふだろ。さ、て措き。確かに乳は太いにせよ腰周りも太ましい広瀬結香と、森羅万象によるドカーンとした濡れ場が序盤の圧巻、ドカーン。を、クライマックス前で超えてみせようとは、よもや夢にも思はなんだ。綾子に付き合はされるか振り回される買物の最中、小百合はその後進学せず、今はバーのfもとい「promis_9」を開業した水原と再会。河野宗彦と吉行由実は、その格好で家からこゝまで来たの!?と軽く引くレベルの、素頓狂なドレスで小百合が「promis_9」に来店、耳目も憚らず水原に大告白する。凡そ吉行由実以外に撮り得なささうな、無防備シークエンスのカウンター客要員。が、実際にはもう二人ゐて全部で四人。入口から見た背中の並びで、一番左が河野宗彦。右端がEJD、その隣に吉行由実。吉行由実と河野宗彦に挟まれた、既視感を覚えなくもないパーマ頭のグラサンがどうしても判らん。その他小百合と瑠美が艶話に花を咲かせる茶店のウェイターに、小百合に声をかける同性の同僚。「promis_9」最初の来店時、道中で小百合―この時は馬鹿みたいなチークを刷く―をナンパしかける輩三人組等、もう若干名フレーム内に投入される。
 あの小川隆史の最初で最後作「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009)主演を―里見瑤子のアテレコで―務めた、小池絵美子が実に十四年ぶりともなる驚愕の超復活を遂げた吉行由実新作。オフィス吉行次作にも小池絵美子は継戦、最初のAVデビュー(2003年)からだと二十年の節目も通過した、何気な息の長さを誇る。
 邂逅以前から水原が瑠美のセフレであつたりする、ありがちな爆発的か圧倒的な劇中世間の狭さが、作劇に及ぼす吉凶に関してはこの際議論を放棄する。それどころで、ないんだな。箱の中に閉ぢ込められてゐたヒロインが、晴れて籠の外に脱する。普遍性の徳俵を割り陳腐に呆気なく堕す、物語もしくは劇映画が屁より薄い反面、二人とも正真正銘のノーイントロで三番手の絡みを豪快に放り込んでのける、裸映画的にはゴリッゴリに攻撃的である印象を最も強く受けた、一旦は。実は偽装結婚であつた綾子が、武雄とは一切関係を持たない。終盤明かされる秘密で俄かに沸き起こる、ほんならあの犬誰なのよとなる原初的な謎。を足がかりに、吉行由実が遂にか出し抜けに辿り着く、辿り着いてしまつた深町章ばりの一昨日通り越して一昨年なベクトルの老成が、今作を珍作なりチン作の領域に易々と放り込む、絶対値だけは無闇にデカい明後日なハイライト。確かに構成上は、計算し尽くした妙もなくはないけれど。気を取り直しての締めを、キラッキラのガーリーガーリーに撃ち抜けば撃ち抜きれれば、まだしも吉行由実こゝにありを叩き込めたところが。そこで絶妙に攻めきれない、若干力尽きた感の否めない枯れたきらひも、老成と評した所以のひとつ。近年顕著な傾向たる、良くも悪くも円熟味の増す一作である。
 備忘録< 小百合の父親は出生半年後急逝した、綾子不倫相手の教授。あと犬の正体は平川


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 「女まみれ 本番はいります」(2023/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:大久保礼司/照明:ジョニー行方/録音:江原拓也/撮影助手:今野ソフィアン/ポスター:北村純一/助監督:郡司博史/アクション指導:中野剣友会/ガン・エフェクト:木村政人/録音:西山秀明 ㈲スノビッシュ/編集:高円寺・編集スタジオ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:伊東紅蘭・岩沢香代・白鳥すわん・佐々木咲和・長谷川千紗・中村京子・弘前綾香・末田スエ子・紅子・森羅万象・野間清史・市川洋・郡司博史・永井裕久・安藤ヒロキオ・フランキー岡村・なめ茸鶴生・マサトキムラ・松本モト松・銀次郎・橘秀樹・内田もん吉・川上貴史・土門丈・星野周平)。出演者中末田スエ子と紅子、郡司博史と永井裕久、なめ茸鶴生から松本モト松に、内田もん吉以降は本篇クレジットのみ。しかし何といふか、男優部は何でこんなランダムなビリングなんだ。
 回転式を撃つ安藤ヒロキオで上の句、ポンプアクションの伊東紅蘭で下の句。手ぶらの森羅万象も加はつて、全部入れるタイトル開巻。プリミティブな屋号の、便利屋「何でも屋」。映画学校の脚本家コースに通ふ、岡野弘美(白鳥)が執筆中のノートに夢中で出もしない、営業用のスマホを姉の裕子(伊東)が取る。自宅兼事務所なら仕方ないのか、「何でも屋」は裕子が一人で切り盛り。とはいへ妹よ、電話くらゐ出ても別に罰は当たらないだろ。とまれ今回受けた仕事は、鮫島邸の水詰り修理。仕事を終へた裕子が辞すや、夫人の明美(佐々木)は連れ込んでゐた夫の会社の社員で、名札のぞんざいな肩書が“現場主任”の間男・山下治(フランキー)と早速オッ始める。それ、名刺にもさう書いてあるのかな。兎も角事後、明美の皮算用を違へ、鮫島(森羅)がゴルフから予想外に早く帰宅する修羅場の危機を、クスリとも面白くないドタバタでどさくさ切り抜けるのは、大敬オフィス作の通常運行、茶を濁すともいふ。
 一方制作会社の、映画工房「岡野プロジェクト」。配役残り、登場順に銀次郎と野間清史、岩沢香代は、姉妹の父親で映画監督の武男と、大赤字を叩き出した前作に絡んだ未払ひ金を取り立てに来た山川に、岡野プロ経理担当の緋紗子。国沢実2020年第一作「ピンク・ゾーン3 ダッチワイフ慕情」(脚本:切通理作/主演:佐倉絆)以来、久々に飛び込んで来た橘秀樹は、オスカル的なコスプレで飲み放題の看板を持つ裕子と、繁華街にて再会する元カレのショージ、現職はクラブのボーイ。この二人、裕子は今も所属する同じ劇団の俳優部同士といふ仲。安藤ヒロキオは居酒屋以外にレストラン「La Vie」も経営する、飲食系クライアントの中間管理職・大山。も、本来は映画畑の俳優部なんだなこれが。小関組から初外征―その後竹洞哲也や、加藤義一の薔薇族が続く―の市川洋は、弘美の彼氏・健二、この人は演出部。大山から気に入られたのか、裕子がその日はメイド服で「La Vie」駐車場の看板持ち。長谷川千紗はスマホをヒッたくつた暴漢(判らん)を裕子が追跡、格闘の末奪還してあげる映画プロデューサーの高見、下の名前は多分アリサ。大山とは旧知、また狭い世間だな。忘れてた、緋紗子は鮫島のダブル不倫相手で、俳優部廃業後酒に浸つてゐたホステス時代、鮫島との出会ひで救はれた縁。話を戻して、裕子が高見に自分の素性を語る際、格闘技の稽古相手はもしかして清水大敬?弘前綾香は鮫島邸の家政婦、AV部ながら脱ぎこそしないものの、ミニスカの股間を里中智のアンダースローばりの低さから狙はれる。大久保礼司―と宮原かおり―の地を這ふカメラに、何となく安らぎも覚えるのは量産型娯楽映画のさゝやかな醍醐味。手放さない煙管が妖怪感を加速する、中村京子は山川の妻・サユリ。中村京子を介錯するさせられる、野間清史が何気に男―優部としての格―を上げる。撮影初日前夜、武男が語りかける亡妻の遺影は、もう一度もしかしてマサちやん?トンチキな名義の目立つ本クレのみ隊は、主に岡野組のその他皆さん。その中でタイトルバックが教へて呉れるのが、末田スエ子が多分制作部辺りで、紅子が俳優部。何れかは、裕子の撒くチラシを受け取つて呉れる、往来の女も兼ねてゐる筈。あと富野系の、飲食社長は誰なんだろ。
 前回編み出した素敵な造語を、大蔵が早速使つてゐないダイウッド新作。現時点で、誰も継戦してゐない女優部頭四人が全員映画初出演。エクセスも魂消る果敢な布陣―伊東紅蘭と岩沢香代にはVシネ出演歴あり―に畏れ入りつつ、清水大敬の場合大して関係ないやうに思へなくもない。
 本クレのみ隊も含めるとなほさら、登場人口の大半が映画のスタッフか俳優部といふ歪んだ、もとい偏つた世界観の中。「映画は俺の命なんだ」、とか臆面もなく豪語してのける香ばしい親爺に新作を撮らせようと、健気な孝行娘を中心に一同が奮闘する。挙句ホセ・メンドーサと15Rを戦ひでもしたかの如く、撮了と同時に岡野が情死ならぬジョー死を遂げると、来た日には。まるで清水大敬が己を鼓舞か慰撫するために、書いたやうな物語ではある。となると良くて苦笑混りに微笑ましい、悪くすると憤懣やるかたなく、なりかねないところが。如何なる途轍もない横紙であらうと、兎に角破り抜いてみせる箍の外れた圧と熱量が、この御仁の持味、とはいへ。封切当時、清大御齢七十四歳。流石に、もしくは直截に年波が寄つて来たのか。自らのオルター・エゴともいふべき武男役を、銀次郎に譲り演出に専念する。遮二無二な猪突猛進を以て宗とする、平素のドラマツルギーといふよりも寧ろファイト・スタイルからは全くらしからぬ、引き技が逆の意味で見事に諸刃の剣。精々声とガタイがデカい程度で、痛快を痛快たらしめ損なふ銀次郎の役不足にも足を引かれるか火に油を注がれ、無理を通しきれてゐない印象が最も強い。脚本は次女で、主演が長女。その他のキャストも純然たる素人の鮫島を筆頭に、何故か山川まで紛れ込む身内と身近で固め。家内制手工業の様相をも呈する岡野組新作が、クランク・インするのが四十五分前、そもそも早すぎる。そして岡野が稚拙、もとい壮絶な戦死を遂げるのも大体十分後。以降の十五分、睦事をそれなりに畳み込みこそすれ、各々の他愛ない行く末を類型的に描く、冗長なエピローグが割と画期的にダレてしまふのが致命傷。捧げたつもりが確かに一定以上は実際捧げてゐるのであらう、清水大敬が自身の映画愛を豪快に叫ばうとしてみせた、にしては。声が掠れて満足に叫べてゐないやうな、些か心寂しい一作。暫しドンパチと大立回りに尺を割く、撮影現場風景。無防備極まりない銃撃戦なり、ホールドオープンした銃を安藤ヒロキオに平然と構へさせる、凡そ現代映画とは思ひ難いノスタルジックな底の抜け具合は、矢張り清水大敬ならではであるけれど。女の裸的にも、劇中現在時制で固定されたパートナーに必ずしも恵まれなかつた、主演女優に実は弱さも否めないのが如何せん苦しい。三番手の、絵に描いたみたいに弾むプッリプリの美尻で琴線を最も激弾きしつつ、ガチの絡みは2019年第三作「おねだり、たちまち、どスケベ三昧」(主演:愛原れの/犠牲者:折笠慎也)ぶりで、二作前の「未亡人下宿?その4 今昔タマタマ数へ歌」(2020/主演:愛原れの)でも乳は無駄に放り出してゐる。それでも、あるいはまだしも。爆乳は未だ保たれてゐると尊ぶのが正解なのか、こちらは封切当時御齢六十一歳の、中村京子の凄惨な濡れ場を二度に亘り放り込んでのけるに至つては、ピンク云々の領域を超えた、一種の挑戦の趣すら漂ひ始める。チャレンジて、何に。シークエンスの醜悪さか、それとも観客の忍耐力か。


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 「尻肉ライダー ぶつかけて青春」(2021/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:大久保礼司/録音:西山秀明 ㈲スノビッシュ/照明:藤田陽介・ジョニー行方/作曲・振付:花椿桜子/ポスター:中江大助/助監督:郡司博史/制作進行:佐々木狂介/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:ふわり結愛・成宮いろは・松緯理湖・ことり・大山魔子・銀次郎・野間清史・陣場虎次郎・川上貴史・安藤ヒロキオ・佐々木狂介・吉良星明・郡司博史・森羅万象《特別出演》)。出演者中、陣場虎次郎と川上貴史に郡司博史、森羅万象のカメオ特記は本篇クレジットのみ。斬新にも、編集のクレジットが見当たらないのは相変らず。しかし、何かあちこちちぐはぐなビリングだな。
 マジ愛車のホンダCBR400Rを、ふわり結愛が始動させる。素の状態だと薄らぼんやりした、好意的にいふならば正しくふんはりした表情に、捩子の二三本外れた公開題―評価してるつもり―に比すと一層、随分あつさりしたタイトル・イン。アバンは案外こんなものなのか、あの清水大敬にしては淡白、どのだ。
 明けて御馴染歌舞伎町一番街のネオンから、上村錠治と山口幸子の名前が殺風景に並ぶ表札。一番街ネオンが、以降全篇通して繋ぎのカットで執拗に濫用―あと伝統的な画角の、大通り跨ぐ高架ロング―される割に、偶さか主人公宅が其処に存するといふだけで、実は歌舞伎町に特にも何も全く意味はない。劇団「朝日」の俳優・上村錠治(安藤)が、一緒に住む同劇団の研究生で、出勤前の山口幸子(ふわり)に見るから大丈夫ではない苦渋の風情で百万の無心を切り出しつつ、とりあへず挨拶代りのパツイチ。ふわり結愛の童顔×正調美少女素材を考慮し攻め方を変へてみたのか、旦々舎に勝るとも劣らない重量級轟音の煽情性、そして天下無類の即物性を誇る清水大敬が得意のローションも一旦封印。女の裸をただただひたすらエロくでなく、比較的綺麗に捉へるお上品な濡れ場を披露。手数の多さの諸刃の剣、ザックザク切り刻む大雑把な体位移行に際しても、幸子の顔を一拍挿み込むらしくない小技を繰り出してみせる。清水大敬に普通の絡みを撮られると、それもそれで却つて物足りなさを覚えてもしまふのは、ならばどうしろといふ我儘な贅沢。
 配役残り、野間清史は金槌を得物に―借りた金を返さない―上村を襲撃する、本部から派遣された「鮫島金融」の用心棒・金村。昨今、うつかりしてゐると清水大敬より老けて見えかねない佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)と、先に触れた対ふわり結愛とは対照的に、従来の大敬オフィス作を力強く担保する成宮いろはは、幸子が事務員のアルバイトで働く「三原山物産㈱」の、社長の多分三原山とその夫人。同居する母親に気兼ねし自宅ではヤリ辛いとかいふ、一応道理が通つてゐるのか矢張り底が抜けてゐるのか。よく判らない方便で社内夫婦生活に日々勤しむ、仲睦まじいのは仲睦まじいファンキーな栄諧伉儷。要は概ね全員さうなるのだが恐らく額面通りの、公称151cmのふわり結愛と並ぶと矢鱈馬鹿デカく映る銀次郎は、幸子を訪ねて来る山桜高校の恩師・岡野か丘野。美人は美人の割に、色気のない男顔のことり(a.k.a.志摩ことり)は、後述する二人と「鮫島金融」を任される固有名詞不詳、金村とは懇ろな間柄。本クレで三番手に扱ひがひとつ昇格する―ポスターではことり―松緯理湖(ex.松井理子)は、ことり(大絶賛仮名)と姉妹分の堺明美で、大山魔子が明美姉貴分の鳳、即ち三人のリーダー格。国沢実2019年第二作「スペース・エロス 乳からのメッセージ」(高橋祐太と共同脚本/主演:南梨央奈)以来、箆棒に間隔が空いてもゐないが、再びのピンクとなる継戦自体に軽く驚いた吉良星明は、幸子の山桜高校演劇部の先輩・大山健二、岡野が顧問。ちなみにこの人、吉良星までが苗字、目出度えな。ある意味十八番芸ともいへるのかスチール出演の郡司博史は、息子の意に反し酒屋を継がせた健二の父。主役を得る条件のチケットノルマ百枚に窮し、上村が鮫島金融から借りた四十万は、文字通り法外な利子で忽ち百万に膨らむ。返済と引き換へに強ひられた、といふか断れば顔をボコボコにすると鳳らに脅された、ブツを届ける聞くからイリーガルな仕事を、上村の苦境を救はうと幸子が引き受ける。全体何がしたいのか鍵はかゝつてゐない檻の中で悠然と待つ川上貴史は、幸子から厚封筒を受け取り、植木鉢の陰だなどと、人を馬鹿にしたやうな隠し場所に金を置いて行く頓珍漢な強面、家の鍵か。油断してゐると吹き荒ぶ、清水大敬のプリミティブなフリーダム。陣場虎次郎は朝日の演出家、金で役を売る腐り倒した劇団の体質には反し、別に幸子を手篭めにしたりはしない。そして最早判で捺した如き定位置にドッカと座る森羅万象が、鮫金の上位組織「鮫島興業㈱」の社長・鮫島、どうせ下の名前は権造か権三。カメオではあれ、一幕を堂々と仕切る。改めて数へてみると、森羅万象の鮫島フィルモグラフィーが今作で足かけ六年の七本目。七百本はありさうな気がしてゐた、大御大・小林悟でもそんな撮つてねえ。
 近年は年三本撮らせて貰へてゐた、大蔵の何気な寵愛ぶりを窺はせる清水大敬も、コロナ禍の被弾は流石に回避し損ねたか2020年の二本を更に割り込み、2021年は一本きり作。郡司博史が演出部で、佐々狂も制作部兼任。フィジークばりに絞り込まれた制作プロダクションにも、地味に苦境を覗かせる。景気の悪い話はさて措き、今回上野が大敬オフィス作を公式に、ボリウッドの要領で“ダイウッド”と銘打つてゐるのが爆発的に可笑しい。“尻肉ライダー”に止(とど)まらず、オーピー絶好調すぎるだろ。
 単車乗りのヒロインが、自堕落な同棲相手の身代りに運び屋の危ない橋を渡る。と来ると愛しのCBR400Rと一緒なら勇気百倍、可憐な尻肉ライダーが卑劣な悪党どもと丁々発止渡り合ふ、痛快な娯楽活劇を期待、したかつたところが。普段が常に起き抜けみたいな、寧ろ脱いでからの方が面持ちの安定する心許ない主演女優に、たとへば海空花のやうな骨太のアグレッシビリティを端から望みやうもなく。重ねて、あるいは火に油を注ぐのが。見える見えないの問題ぢやない、危ないんだよボケといふ至極全うな理由で、ふわり結愛がリアルでは絶対にミニスカなんかで運転する訳がない、CBR400Rはそろそろ発進して、おそるおそる停止するのが関の山。正味な話、それでもふわり結愛は無防備な御々足がスースーするのが怖かつたらう。尻肉ライダーといふ画期的にファンタスティックな機軸を謳ひながら、さういふ、実際には情けない体たらくゆゑ、井上真愉見らが単車をバリバリ駆つてゐた、西村卓昭和61年第四作「暴走レイプ魔」には到底遠く及ばず。西村卓にも―“にも”とは何事か―出来てゐたことが何故出来ぬ、といふ遥か原初的な以前に。だから、そもそもバイクを太股も露に運転させる前提なり選択に根本的な無理がある。走らせたら走らせたで、何れにせよオートバイがカッコよく走つてゐる画を、果たして清水大敬に撮れたのか否か甚だ怪しいともいへ、大人しくバイクスーツをフェティッシュに舐める順当な方法論を採れなかつたものか、本質的な疑問は如何せん拭ひ難い。
 半ば潰へるべくして潰へた、バイカー映画は潔く諦めてしまへ、日本も印度だ。一方、ダイウッドに関しては。親子喧嘩の末郡司博史殺害を早とちりした健二は、幸子を追ひ東京に出奔。ツバメかバター犬的に、明美に拾はれる。片や、アル中の父親が粗相した便器を掃除させられた幼少期のトラウマで、鳳は強迫的な衛生観念の持ち主に。自白曰く僅か二滴手洗にヒッかけた―だけの―健二に対し、激昂した鳳は左右にことりと明美を従へ、“お前のためのショータイム”を宣告。グルッと一周したペラッペラさが満更でもないバンド演奏に乗せ、踊り歌ふのが「急ぐ膀胱、急ぐ肛門」、「心静かに、心静かに」。「手を添へて、手を添へて」、「外に漏らすな、外に漏らすな、外に漏らすな」、「松茸の、露!」なる画期的な歌詞の珍曲。ど、どわはははは!うん、言葉を選ぶと頭おかしい。清水大敬は天才にさうゐない、紙一重で惜しい御仁でなければ。ところが、よもやまさかの万が一。もしかすると惜しくないかも知れないんだな、これが。例によつて都合のいゝ奇縁に、足を洗つたことりと、金村の恋路の行方は等閑視される点を除いた全てが自動的な勢ひで導かれる、ピタゴラスイッチ大団円。皆から可愛がられるヒロインが棚から降り注ぐ牡丹餅を浴びるばかりで、実は殆ど全く一件の収束に寄与してゐない万事・エクス・マキナな結末に、斯くも壮絶な迷トラックが重要な呼び水として機能する。余人の追随を許さないプログレッシブ作劇こそが、音楽の富を奇想天外な遣り方で奪取してのけた、ダイウッドのダイウッドたる所以。そこまで見据ゑてのダイウッド命名であつたとしたら、オーピー超絶すぎるだろ。
 最も肝要な、裸映画的にはふわり結愛相手に一旦緩めたかに思へたアクセルを、ビリング後ろ三人で何時も通りベッタベタにベタ踏み。目新しいめりはりを生じさせた返す刀で、隙あらばたとへ敵が大山魔子であつたとて間断なく弾幕を張る、寸暇を惜しんだパンチラと胸の谷間とで画面を埋め尽くす。何よりエクストリームなのが、ことりと金村がアツい一戦をキメた事後、なほシャワーを浴びエモいトランジスタ爆乳を重ねて丹念に堪能させた湯上がり。鮫島周りの外堀をぼちぼち埋める会話がてら、その間もことりがわざわざオッパイにクリームを塗る最早神々しいまでに麗しい、是が非ともお塗りして差し上げたくなる無上のシークエンス。ジャスティス!さう尊ぶ以外に、如何なる讃辞も不要である。必然性だ、リアリティだ片腹痛い能書で、棹が勃つのか。否、勃つものか。観客の、見たいものを見せる。そこに乳尻がある限り、なければ連れて来ればいゝ。清水大敬が貫くまこと漢の姿勢ないし至誠は、断固として正しい。
 「生きてさへゐれば、きつといゝことがある」。かつては木に暗転極大スーパーを接ぎ観客を呆れ返らせてもゐた、鉄の信念は確かに鉄の信念と思しき他愛ないオプチミズムも、別れ際の岡野に幸子と健二には聞こえぬやう独り言ちさせる形で、思ひのほかスマートに処理、褒めすぎたかも。主演女優をまるで孫娘のやうに愛でる清水大敬は、へべれけな雪崩式ハッピー・エンドをも、持ち前の尋常ならざる熱量で力技の南風に無理から固定。下らない詰まらない拙い、ついでに折角のCBR400Rは走らない。然様なあれもこれも、もといあれやこれや、清水大敬にはどうでもいゝ、よかないんだけど。大いに清々しいのが、俺達の清大映画ぢやないか。メイビナットでない、褒めすぎた。


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 「薄毛の19才」(昭和61/製作:多分にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:村上修/プロデューサー:千葉好二/撮影:森島章雄/照明:高柳清一/録音:小野寺修/美術:沖山真保/編集:冨田功/作画:前田博子・むたこうじ/助監督:明石知幸/選曲:石井ますみ/色彩計測:佐藤徹/現像:IMAGICA/製作担当者:藤田義則/撮影協力:HOTEL エルアンドエル《柏インター際》/出演:杉原光輪子《新人》・志水季里子・橘雪子・坂西良太・金田明夫・小池雄介・夏樹かずみ・内藤忠司・小原孝士)。
 ジングルベ的な鈴の音が先行して着火音、炎をサングラスに映り込ませ、吸へない煙草を燻らせる少女が少女マンガ調の成年コミック(前田博子画)にペン入れする。結論を先走ると、逆に、むたこうじに描かせた―筈の―原稿は結局劇中で使用されない。手引きの凄まじいベタフラッシュかと思ひきや、男の陰毛だつたのは微笑ましい勘違ひ、自分でいふな。暗転カマして男の上になつた、夏樹かずみのボリューミーなオッパイが飛び込んで来る。エロマンガ家・白鳥雪彦の作画担当・鮫島雪彦(金田)が、恐らく編集辺りの香村(夏樹)を抱く。初陣では覚束なかつた、濡れ場の演出は夏樹かずみの肉感的な肢体をガツガツ能動的に捉へ、二年空いた間の成熟を早速窺はせる。鮫島と香村はヤリがてら、原作担当の白鳥や、白鳥雪彦の下に原稿を送つて来たNetscape、もとい根スケ女の噂に話を咲かせる。当の野本幸美(杉原)は群馬の浪人生で、鮫島と共同生活してゐる模様の白鳥平吉(坂西)はといふと二人の傍ら、のほゝんと寝こける。窓の外から抜いた幸美の影が暗転して翌朝、改めて幸美がカーテンを開けクレジット起動。何がしたいのか屋根に上がつた幸美が、棟に腰を下して監督クレジット、背中越しに広がる田園風景にタイトル・イン。天候にはスカーッと恵まれる反面、杉原光輪子の長い黒髪をざんばらに乱す、風が些か強いのは地味に否み難い玉に瑕。
 女手ひとつで幸美―と姉―を育てた母・房江(橘)が営む雑貨屋「野本商店」に、ノンクレの土木作業員三人を連れ現場監督ぽい、房江の情夫・大山大三(小池)が現れる。屋根の上から聞こえるのか、大山相手に油を売る房江が放たらかす電話に、軽くキレ気味で幸美が出てみるとよもやまさか憧れの白鳥先生からのお招き。幸美はバス停にダッシュ、一路東京に向かふ。ところで「野本商店」、房江の対大山で橘雪子も爆乳を豪快に披露。爆乳といふか、体全体爆体なんですが。
 配役残り志水季里子は、浮気した夫と別れるのは頑なに拒みつつ、実家に戻つて来る幸美の姉・文。小原孝士は文を連れ帰るといふよりも、離婚に首を縦に振らせるため群馬までやつて来た夫・赤江耕作。矢張りノンクレの観客要員が二名投入される、映画館での―今のところ―夫婦生活。劇伴聞くにロマポだらうといふ見当はつくものの、客席から抜く銀幕には黒人が映つてゐたりする上映作品には辿り着けず。まだまだ修行が足らぬと恥ぢるべきなのかも知れないが、こんなもの一々見切れてゐたらカルトQ出られるだろ、懐かしいなオイ。そして内藤忠司が、一仕事終へたと思しき白鳥が一時的に身を寄せる石田先輩、何か何処かのボイラーマン。
 正直木に竹を接ぎ気味の端役ながら、遂に、あるいは漸く。デビュー作ではクレジットに載りこそすれ、何処に出演してゐるのだか本当に皆目全然判らなかつた、内藤忠司の若き姿をフレームの中に確認出来る堀内靖博第二作。眼鏡外すと、案外男前。
 堀内靖博が三本目にして、依然ピンと来ず。そもそも、律に阻まれ、見せること能はざる“薄毛”を標題に戴く無防備か無造作な負け戦に関しては、この際さて措く、この際もどの際もないやうな気しかしないが。とまれ“19才”がいはゆる大人の階段を上る、的な物語であらう節ならば酌めるといふか、現にさういふ如何にもありがちなお話である割に、会話に於けるこそあどを意図的に詰めない掴み処を欠いた、寧ろ進んで削り取つたが如き遣り取りには終始もやもやを強ひられる。アバンの火蓋を切るサングラスが、実は軽く驚かされるほど重要な小道具。東京に忘れて来たのを、白鳥が届けに来て呉れた幸美いはく「これかけないとエッチになれないんです」。即ち、不似合ひなグラサンが、幸美にとつてマンガを描くのに不可欠なアイテムであるといふのは、それは流石に、最初でなくとも何れかのタイミングで明示しておくべきなのではアルカイダ、もといあるまいか。結局初体験は済ませた幸美が、マンガはどうするのか受験はどうするのか白鳥との関係は継続するのか。一件を経て、ヒロインの向かふ先がさつぱり覚束ないのは何気に壮絶な着地点。藤原竜也似の主演女優が、黙つてそこに立つてゐるだけでフレームを堂々と支へ得る逸材であるにも関らず、行間ばかりガッバガバ、外堀からてんで埋まらずにゐて、本丸に攻め込める訳がない最終的には漫然とした一作。尺的にはちやうど序盤と中盤の境目、幸美が泣きだし未遂に終つた連れ込みの浴室から、カットひとつで豪快に時空を超え夜の明けた波打ち際。藪から棒であれ何であれ、そこで二人が突入する青姦が締めの絡みに値する強度を偶さか備へてしまつてゐたのが、構成上激しく惜しいちぐはぐ。ついでで、決して神など宿しはしない些末。幸美が新たに持参した原稿を白鳥に見て貰ふのが、超絶適当なビルの屋上とかいふ横着か無作為が不条理にグルッと一周しかけるシークエンスには、「欽也かよ!」と液晶に向かつてツッコまずにはゐられなかつた。


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 「名器乱舞 欲情の下半身」(2020/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影・照明:大久保礼司/照明:ジョニー行方/録音:夕梨/ポスター:中江大助/撮影助手:菅田貴弘/助監督:郡司博史/車両部:山梨太郎/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:黒川さりな・桃香りり・松緯理湖・長谷川千紗・里見瑤子・大山魔子・森羅万象・野村貴浩・安藤ヒロキオ・銀次郎・フランキー岡村・野間清史・佐々木狂介・川上貴史・郡司博史・末田スエ子・中野剣友会・海空花)。出演者中、郡司博史と末田スエ子は本篇クレジットのみ。主演女優が最後に来るビリングも、本篇ママ。改めて目を向けると編集をスッ飛ばしてのけるクレジットが、何気に大胆ではある。
 全身紐のパンはおろか紐ボディスーツ、だなどと文字通り包み隠さず、最早見せる目的しかない出で立ちの海空花が、御々尻も御々オッパイも惜し気なく放り出しつつのダンスを一頻り披露した上でタイトル・イン。一欠片の脈略もなく、只々ひたすらにひたすらに、主演女優のダンスと裸を見せるためだけのアバンが真綿色したシクラメンよりも清しい。
 “乱舞”以外特段意味のない、ニュートラルな公開題を明けると「萬芸能事務所」であつた。社長の萬万作(フランキー)が誕生日余興のドッキリ―セクシャル―ダンスの用命を受けたタイミングで、所属タレントの山口裕子(海空)が手渡しのギャラを受け取りに現れる。萬から脊髄で折り返す速さで振られた踊り仕事のオファーを、裕子も水が低きに流れる勢ひで快諾。夢がL.A.ダンス留学なり、その資金稼ぎの倉庫アルバイトといつた裕子の外堀を会話を通して懇切丁寧に開陳。裕子が辞したのち、萬が内縁の妻・殿岡初枝(松緯)と夫婦生活をフルスイングするのが本格的な初戦。一方、「カサブランカ探偵事務所」。いや、ツッコんだら負けなのは判つてゐる、判つてはゐるけれど。観る者見るものに無用のジレンマを強ひる、清水大敬のプリミティブな映画愛についてはこの際さて措き、劇中その他の面子は別に見当たらないカサ探所長の鳳亜里沙(長谷川)に、上村美由紀(里見)が退職後自宅に持ち帰つてゐた経理帳簿を冷蔵庫下に隠したまゝ、風呂場から姿を消した夫・武男(銀次郎)捜しを依頼する。またあちこち面倒臭い案件だなあ、といふのも際限がなくなるゆゑさて措き、後々の遣り取りで武男は経理士とされるものの、あのさ、そこは公認会計士だよね。経理士制度が完全に廃止されたのなんて昭和も昭和のクッソ昭和、半世紀以上昔の昭和42年だぞ、時代劇か。
 配役残り、大山魔子は裕子が働く倉庫の社長・梅若千代菊。一ヶ月後には取り壊すの一点張りで、業務終了後の倉庫を何にでも貸して呉れる豪快か適当な女丈夫。ただ一言釘を刺しておくと、裕子がホットパンツなのは兎も角、御宅の倉庫は従業員にヘルメットと安靴を貸与しないのか。といふか幾ら常温倉庫とはいへ、ホットパンツも“兎も角”ぢやねえだろ。閑話、休題。鮫島とその役名をパチ風に画面一杯大書する駄演出に続いて飛び込んで来る森羅万象が、鮫島工業あるいは興業の会長・鮫島権蔵。黒川さりなが鮫島の秘書的ポジションにあると思しき朱雀で、川上貴史は常時親分の御側に付き従ふ三柴理似の強面。別室にて武男をビッシビシ責める、左足の不自由な安藤ヒロキオが鮫島の息子・ジョージ。桃香りりと郡司博史に末田スエ子は、武男の部下でジョージに犯されたショックで廃人になつた舞悦子と、悦子が収容される施設の医師と看護師。野村貴浩は裕子の洋弓と剣術の師匠にして、男女の仲にもある森田、矢鱈と凄い豪邸に住んでゐる。あと初めて気づいたのが、この人何時歯を治した?野間清史と佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)は、最終的な死因が地味に不明な千代菊の亡夫と、ジョージと二人がかりで野間清史を半分どころか全殺ししかけた、武男拉致の実行犯でもある鮫島部。二人で野間清史をシメる場に介入した森田が、得物―肉切り包丁―を抜いたジョージの足首をヘシ折つた因縁。凶悪犯罪に等しい前作「おねだり、たちまち、どスケベ三昧」(2019/S級戦犯:中村京子/A級戦犯:三橋理絵)から更に一人減つた中野剣友会は、大立ち回りを賑やかす鮫島部。今回ディレクションに専念したのか、平素なら定位置の座をフランキー岡村に譲つた清水大敬が、俳優部的には内トラ程度にも見切れず。
 神を宿す細部を忘れてゐた、鮫島邸が、御馴染白亜のプールつき豪邸、過去形かも。新作がミサトを使ふのも何時以来だろ、と気になり調べてみると。浜野佐知の現状最新兼の最終作、自身四本目となるデジエク第八弾「黒い過去帳 私を責めないで」(2017/原案:山﨑邦紀/脚本:浜野佐知/主演:卯水咲流)まで遡る実に三年ぶりとなる、清水大敬2020年第一作。
 何せ前回の出来が大概もしくは壮絶につき、薄氷を踏む思ひで恐々小屋の敷居を跨いだものである。さうしたところ―多分―大好きな海空花をヒロインに戻したのが功を奏したか、結論からいふと清大大復調。そもそも冒頭のドッキリダンスが、倅のバースデイを祝ふ鮫島の意を酌んだ朱雀の依頼。案外よく考へられてあるのかも知れない顛末で裕子に鮫島家と関りを持たせると、梅若夫婦も消極的な当事者たる、森田とジョージの遺恨は正直無理気味。ジョージの誕生日当日、即ち裕子が鮫島邸内にゐる同じ時間に、偶々、あくまで偶ッ々亜里沙も潜入してゐたりする、のはありがちな偶然。兎にも角にも役者を揃へ、最終的には遮二無二倉庫での大乱闘に雪崩れ込む、限りなく自動的なジェネレータじみたドラマツルギー。正直手に余らう頭数の多さはイントロで既に渋滞傾向、の火に油を注ぎ、フラ岡と松緯理湖(面倒臭い改名をしたex.松井理子)による妙に尺を喰ふ新ならぬ珍喜劇が、逆の意味で見事にピクリともクスリとも面白くない。凡そ素面の劇映画として取り扱はうとする分には爆風感覚の逆風ばかり吹き荒ぶ中、漢清水大敬が展開した正面戦が、寸暇を惜しんで捻ぢ込む、何れも高い煽情性を轟かせる濡れ場の連打。恐らく追求なり精進しようとも端から考へてはゐまい、平然とブツ切りで体位移動を事済ます、繋ぎの雑さに関してはこの際目を瞑つてしまへ。とりわけ強靭に輝くのが、鮫島のゐぬ間に、ジョージが朱雀に対し確信犯的にいはゆる親子丼を求める件。ミサトの吹き抜けも利しての、大敬オフィスにしてはらしからぬかかつてなく様々な角度から意欲的に絡みを狙ひながら、かつ如何なる画角にあつても的確に乳尻でヌき続ける、もとい的確に乳尻を抜き続けるフルコンタクトな撮影が出色。後ろから突かれ悩ましく躍る、黒川さりなのオッパイが狂ほしいほどにエクストリーム。あれやこれや、といふかあれもこれもの疑問やツッコミ処をも、連べ撃つ女の裸で有無もいはさず捩ぢ伏せる。攻撃は最大の防御なりを、地で行く超攻撃的裸映画。狭義の絡みに止(とど)まらず、地を這ひ女の股間に肉薄するローアングルが隙あらば火を噴くのも、近年の大敬オフィス作に於ける十分強力な副兵装。ちなみに仰角の暴力を免れるのは僅かに里見瑤子のみで、脱ぐのは実質三番手に限りなく近い、四番手の松緯理湖まで。寧ろ暫しの大乱闘で一時色気の沈滞する、クライマックスの失速さへ否めなくもない。面白い面白くない、物語だテーマだ技法だ、さういふ話は、余所行つてやつて呉れないかな。黙つて女の裸を浴びろ、能書垂れてないで勃てろ、棹を勃てろ!そんな清水大敬の腹から震へる馬鹿声が聞こえて来たのは、幻聴にさうゐない、病院行け。親を殺されても傑作とはいへないにせよ、ケッサクなのが二番手第一戦の導入。それまで元気であつた鮫島が出し抜けに卒倒するのが、オッパイの禁断症状とか清水大敬の天才を錯覚するほかない、結局錯覚かよ。

 所詮といつては何だが、細かな難癖をつける類の代物でもないとはいへ、一点疑問を覚えたのが鮫島一派を壊滅させる懲悪以外に、勧める善も特に存在しない小粒の大団円。憐れ終ぞ回復することなく、悦子が壊れたまゝ仕舞ひなのは底抜けに陽性のバーゲン大特価娯楽映画をなほ一円安くする、不用意に残された翳りであつたのではなからうか。


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 「渡る世間は欲ばかり」(2019『おねだり、たちまち、どスケベ三昧』のDVD題/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影・照明:大久保礼司/照明:ジョニー行方・石塚光/録音:村田萌・荒木俊一/撮影助手:菅田貴弘・吉井夢人/ポスター・現場スチール:中江大助/助監督:郡司博史・山梨太郎/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:愛原れの・今井まい・長谷川千紗・中村京子・三橋理絵・大山魔子・海空花・森羅万象・山科薫・フランキー岡村・安藤ヒロキオ・折笠慎也・郡司博史・中野剣友会)。出演者中、郡司博史と中野剣友会は本篇クレジットのみ。
 下着姿の愛原れのが更に脱ぎはしないストリップもどきをてれんてれん踊り、唐突か漫然としたタイミングで止めた画にタイトル・イン。ぼんやりしたアバンに、危惧を覚えてゐればよかつたのか。明けてガウンで飛び込んで来るのは、相変らず血色の悪い山科薫。岡野武男(山科)が愛人の山口裕子(愛原)に買ひ与へた―名義は岡野―マンション、にしては、何か会議室みたいな一室、何気にベッドもないんだけど。大敬オフィス的には思ひのほかあつさりした初戦の果て、岡野は裕子の腹の上で死ぬ。清水大敬には、野口四郎の尻の上で死んだ偉大でない戦歴もあるがな。カット跨いで裕子が悄然と手にする岡野のスナップに、お鈴を鳴らす雑なスピード感が堪らない。未亡人ならぬ未亡愛人といふのも、案外斬新なジャンルなのかも。「とつとと出て行けこの売女!」、完膚なきまでに酒で焼けたのか、ズッタボロの発声で岡野の妻・明美(中村)が、清水大敬をも凌駕せん勢ひの凶暴な圧で轟然と大登場。結論を先走ると、その時点でこの映画は詰んでゐたんだ。明美が、といふか中村京子がまるで妖怪のやうな面相で「アタシの主人を腹の上で腹上死させやがつてー!」とか、史上空前に清々しい畳語をカッスカスの金切り声で喚き散らし、下着を拝ませる取つ組み合ひも無駄に仕出かして裕子を―自分が相続したマンションから―放逐する。愛原れのも初めての映画の現場で、相当面喰つたにさうゐない。かと思ふと、微塵も有難くはない、肉がダッブダブの黒下着姿で明美はツバメの山根健二(折笠)を電話で呼びつける。大学院の後期授業料なのか母親の入院費用なのか、結局何のために必要だつたのか真の用途が実は謎な、健二が関係各位に無心する三十万に対し、明美は十発ヤッて呉れたらだなどと非人道的な条件を提示。引き攣つた折笠慎也の表情が、生命の危機にさへ慄いてゐるやうに映るのは気の所為か。折慎にとつても、かつてなく過酷な現場であつたにさうゐない。転がり込む当てはさて措き、ネカフェに一旦避難する小銭にも欠くのか公園で寝る裕子は、岡野の遺影スナも挿したトートを無闇な健脚を誇るレス・ザン・ホームの人(郡司)に奪はれ、まだキャリーケースがある割には全財産を失ふ。一方遂に、終に地獄の蓋が開く。明美が健二を貪る凄惨な正しく地獄絵図に突入、中村京子のガチ濡れ場は、清水大敬の六年途絶えた監督キャリアの復帰作「愛人熟女 肉隷従縄責め」(2008/主演:沙羅樹)以来。といふか中村京子の濡れ場は、CWCでもBWCでもこの際何でもいゝから、兵器禁止条約に追加して国際的に禁じて欲しい。前者を主に深刻な打撃を心身に与へる、残虐極まりない精神兵器である。禁忌に触れた、といふか禁忌そのものの恐ろしい映画が観たいか見たいのなら、こゝにあるぞ。
 基本的にツッコミ処だけで始終が埋め尽くされてゐる以上、際限がなくなるばかりにつき配役残り。改めて途方に暮れる裕子は、“救世主は弱き者に現金を与へる!”なる怪しみ全開の貼紙に誘はれ、雑居ビル地下の「救ひの家」を訪ねる。清水大敬前作の未亡人下宿?第三作から継戦する正体不明の巨漢女・大山魔子が、要は貧困女子を嬢に仕立て上げる出張風俗の非情な女主人・三原山葉子。安藤ヒロキオはチラシ印刷の件で「救ひの家」に出入りする、グンジもとい「新山印刷」社長の新山正義。「救ひの家」にも救はれなかつた裕子を、自らの会社に招き入れる。森羅万象とフランキー岡村は、何屋さんなのか明示はされないが肩書は会長の鮫島権蔵と、鮫島に常時付き従ふ運転手の高橋元伸。高橋が呼びに行かされモサーッと現れる今井まいが、鮫島の娘・美由紀。年が明けると大学受験を控へ、帝都大学入学―学部不明―を切望する鮫島に対し、本人の志望は東南かキョウナン大の教育学部。そして美由紀の家庭教師を健二が務めてゐたりする辺りが、とかくありがちな世間の狭さ。三橋理絵は、明美が二つ折りの古式ゆかしくは別にないフィーチャーフォンを借りる友人・三浦江利子。ゴミみたいな茶髪始め、文字通り上から下まであまりにも汚いゆゑ断言はしかねるが、国沢実1999年第一作「レイプマン 尻軽女を仕置きせよ」(脚本:ブルセラマン/主演:原淳子?)ぶりとなつたのかも知れない、酷似した名義の三橋里絵とは多分別人。帝都大入試問題の入手を目論む鮫島は、銃刀法にガッチガチ触れる得物も用ゐての非合法活動を生業とする癖に、平然と看板を掲げてゐるナンダコリャ組織「機密文書研究所」に赴く。長谷川千紗が簡単な英会話の直後自ら日本語に訳す、「共犯者」(1999/脚本・監督:きうちかずひろ)に於けるギリヤーク兄(内田裕也)のやうな造形の機文研所長・紅満子。心なしか顔が出来上がつて来た気がする海空花が、機文研一の腕利き、ぽい扱ひの銀粉蝶子。とはいへ寮もあるといふ割に、新山と裕子以外劇中猫一匹見切れはしない新山印刷同様、満子と蝶子以外のその他機文研所員は人影すら覗かせない。ポスターにも本クレにも載らない清水大敬は、正義の父の代から新山印刷とは付き合ひのある、帝都大学の中の人・石部金吉。今回三人ぽつちの中野剣友会は、クライマックスの殴り込みに際し、新山が助太刀を乞ふ印刷組合の皆さん。さういふぞんざいな物言ひも語弊しかないが、黙つて立つてゐるだけの頭数でも新山印刷なり機文研に放り込んで最低限の体裁を整へるのが、中野剣友会なり内トラ隊の正しい用兵なのではあるまいか。
 千代の富士の引退会見風にいふと、体力の、限界。否応ない経年劣化であちこちガタも来た、草臥れ倒す痩躯に鞭打ち仕方ないから小倉に出撃するかと駅に向かつたところ、定例イベントの人身事故で鹿児島本線が壊滅。もう一日なくもない―平日の―休日に仕切り直して攻めるつもりでゐたものの、日常の些末なあれやこれやに火に油を注がれムッシャクシャした末、外王で借りて来て済ますDVD戦に切り替へた清水大敬2019年第三作。日曜日の電車を止めるクソは息するのやめて欲しい、実際やめたみたいだが。
 俳優部的には中居ちはるとの出会ひを契機に、清水大敬が監督デビュー実に十六年を経て漸く辿り着いた昨今のそれはそれとしての王道娯楽映画路線を、当サイトはそれなりに生温かい目で見守つてゐる、ものではあれ。流石に、流石にこれは酷い。普通に酷い通り越して、結構酷い。羽勝のヤクザがジョン・カサベテスを知らない女にキレて犯す、カサベテてた時期の唯一無二といへば唯一無二ではある魔術的な破壊力は依然封印したまゝに、通常の範囲内で大概酷い、納まつてるか?
 数少ない、といふか絡みに入ればまだしも安定する、覚束ない二番手の案外豊かなオッパイ以外唯一の見所は、面従腹背の高橋が鮫島に上げ底の腹を常に嗅ぎつけられ、フラ岡らしいマンガ的なメソッドで泣きさうになるのがオチのコント。の、打率自体は決して高くない中、鮫島の風貌をイボイノシシと罵つたのを満面の笑みを浮かべた鮫島こと森羅万象に聞きつけられた高橋は、蛇に睨まれた蛙の風情で「釈明のための論理を整理させて下さい」。わはははは、どうしたのよ清大、気の利いた台詞書くぢやない。ナポレオン所有の辞書が不可能の項目が落丁してるのは知つてゐたが、清水大敬の辞書に論理なんて単語があるのは予想外、御見逸れ致した。ハイ、褒めるの終り。あと高橋が美由紀の志望に理解を示す件に関しては、意見―といふより同意―を求められた高橋がキョウナン大と答へた時点で、鮫島を即激昂させた方がテンポ的によかつたのではなからうか、なんて素人考へ。そこでグジャグジャ余計に右往左往してみせるのが清水大敬、といつそ認めてしまへば完結する議論にせよ。
 執拗に撃ち続ける信長とポスターまで抜く「忠次御用篇」に実質的な意味はまるでない「兵隊やくざ」の、藪蛇なフィーチャリングはこの際等閑視、キリがない。解約に親でも殺されたのか、蝶子が仕事のキャンセルを絶対に許さない一点張りで、大雑把な地図が草を生やす倉庫にて他愛なく繰り広げられる、牧歌的な大立回りに是非は果敢にスッ飛ばして遮二無二突入する頑強な構成は、それでもまだ御愛嬌。帝都大入試問題を巡る子供じみた攻防戦が気がつくと物語の主軸を担つてゐるうちに、覚束ない二番手に劣るとも勝らず心許ない主演―の筈の―女優が、何時しか忘却の遥か遠い彼方に蚊帳の外。時折思ひだしたかのやうに、美しいアンダースローのフォームにも似た、地面を掠めて観音様を仰ぐミニスカ×ローアングルの必殺画角を散発的に叩き込むのは兎も角、裕子が出し抜けなヨガで木に竹を接ぐのには頭を抱へた。ビリング頭に木に竹を接がせる、そんな画期的な映画見たことがない、忘れてゐるだけだとしても。紙一重で激越に惜しい御仁でないのなら、清水大敬の天才に疑問を差し挟む余地はない、あくまで紙一重の御仁でないのなら。
 それ、でも。まだまだこゝまでは、愉快にツッコんでゐられる安全圏。これからが地雷原、あるいは永遠に浄化されはしない絶対の汚染地帯。序盤で蓋の開いた地獄の底をも抜くのが、中盤の明美と江利子のギャットファイト。女同士で争ふキャットファイト、ではない、触れたか踏んだ者の悲鳴がギャーッと上がるファイトである。携帯を投げ壊された江利子が、明美に掴みかゝる。活性酸素の塊の肉塊が組んず解れつする大激突改め点を足して太激突は、筆舌に尽くし難い醜悪さ。といふか、中村京子と三橋理絵のゴアな争ひに言葉を費やすのも最早馬鹿馬鹿しい。常々いつてゐるが、当サイトは今既にあるこの世界が素晴らしいとも、あるがまゝの人生が美しいとも一欠片たりとて認識してゐない。江戸川乱歩いはく、「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」。現し世が現にゴミ以下であるからこそ、夜の夢とそれに準ずる創作物ないし思想の類に、清純な真実を求めるものである、汚らはしい映画を見せるなドアホ。おぞましい映画が見たいか観たいのなら、こゝにあるぞ。もう中村京子が服を着てゐてもムチャクチャで、幾ら清大のブルータル演技指導の存在も幾分は予想され得るとはいへ、へッべれけなハイテンションは泥酔を疑ふどころか、もしかしてこのBBAキマるか壊れてねえかと首を傾げるレベル。そもそもオーピーもオーピー、荒木太郎の梯子を外す暇があるのなら、斯くも悪い意味で攻撃的な代物買取拒否してしまへ。ついでで、相思相愛ながら健二が高校生の美由紀を妊娠させてゐるのは、それは大蔵レイティングには抵触しないのか。てつきり加藤義一が雌雄を決したものかと思ひきや、2019裏ランキングが群雄割拠すぎて眩暈がする。交通費込みで身銭を切り、KMZには悪いが木戸銭を落としてゐなくて寧ろよかつた、怪我の功名とは正しくこのことである。

 先に軽く触れた、通算第八作「双子姉妹 淫芯突きまくり」(2002/主演:安西ゆみこ)から「肉隷従縄責め」まで六年空いた、監督キャリアの空白期間。清水大敬はその間演者としての活動も、「団地の奥さん、同窓会に行く」(2004/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/主演:佐々木ユメカ)くらゐしか見当たらない、何か別の仕事でもされてたのかな。
 もう一点、専ら照明部の印象が強い大久保礼司の撮影部は、確認出来る範囲で国沢実2001年第二作「プライベート・レッスン ~家庭教師の胸元~」(脚本:樫原辰郎/主演:南あみ)での撮影部セカンド、の後に、一般映画「ストーンエイジ」(2006/監督:白鳥哲)の撮影監督があつた。元々は撮影部志望から、照明部に転向したとの来歴。


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 「凌辱ホステス ぶち込まれて」(2019/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:宮原かほり/照明:大久保礼司/録音:荒木俊一/殺陣師:永井裕久/ポスター:田中幹雄/助監督:両国太郎/撮影助手:榮丈/照明助手:藤田洋介/制作助手:四谷丸終/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:海空花・水谷あおい・成宮いろは・望月りさ・藍色りりか・朔田美優・《友情出演》里見瑤子・《友情出演》長谷川千紗・野村貴浩・佐々木狂介・清水大敬・細川佳央・折笠慎也)。出演者中、里見瑤子・長谷川千紗のカメオ特記と、清水大敬は本篇クレジットのみ。逆に、ポスターにのみ中野剣友会が載る。
 適当なロケーションにて、大雑把な大乱闘。顔は見せない大柄な女の、初めから当たらない間合ひの両フックを主演女優がスウェーした画にタイトル・イン。明けて飛び込んで来るのが、細川佳央の遺影。株で作つた借金を遺し死んだ両親(遺影すらスルー)に続き、求婚まで受けた木下達夫(細川)をも交通事故で喪つた山口裕子(海空)が悲嘆に暮れる。ジャスティスなオッパイの大写しで火蓋を切る、事後指輪を受け取る木下との婚前交渉の回想を完遂した上で、残された借金の返済に加へ裕子が学費の面倒も見る、看護系専学生の妹・弘美(望月)が顔を出す。矢継ぎ早に弘美の恋人で医者の卵の吉岡健児(折笠)と、幼少期から裕子が嗜む武道の師匠・桐野利秋(清水)も弔問に現れる山口家を、両親が金を借りてゐた金融会社の用心棒格・谷口(野村)が子分(中野剣友会?)を引き連れ急襲。どうでもよかないが、竹刀をステッキ感覚で持参するへべれけな造形はどうにかならないのか。この人達は悪役です、流石に、幾ら量産型娯楽映画とはいへそこまで判り易くある必要はないと思ふ。さて措き、裕子が働く店内装飾の殺風景な高級―らしい―クラブ。客の中には、国沢実と高橋裕太が殆ど常駐感覚で見切れる、大部屋か。裕子に客を奪はれた明美(水谷)は限りなく憤怒に近い、箍の外れた苛烈な憎悪を燃やし、ママの博子(成宮)がそんな二人の火種に気を揉む。藍色りりかと朔田美優は、その他嬢の藍と美由紀、識別可能なくらゐ近づいて抜かれもしない。
 配役残り、眉はあるいは剃つたにせよ、禿て太つて人相のまるで変つた佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)が件の金融会社社長、と来れば当然のやうに鮫島。長谷川千紗は、弘美バイト先の居酒屋女将・恵。クラブと居酒屋合はせて、客要員は十人超。居酒屋を訪れ、古典的な手口で弘美を誘拐する医師と看護師に扮した男女が、郡司博史と末田スエ子。里見瑤子は、最初は吉岡の子を宿した弘美を診察する、こちらも地味に御馴染の港川総合病院の産婦人科医。若干名の鮫島軍団―のち明美軍団―が中野剣友会、自分から蜻蛉を切つて裕子に投げ飛ばされる、愉快なアクションを披露する。
 併映のエクセス旧作が公式ブログの番組とは違つてゐたため、本当に上映されるのか否か肝を冷やした清水大敬2019年第一作。といふかアカを持つてゐるのだから、小倉名画座はツイッターも適宜活用して欲しい。勝手な話でしかないが、こつちは博多から遠征を出張つてるんだよ。
 義父の性的虐待で壊れた異常者に売られた喧嘩を、自制といふエレメントは一切学んでゐない血の気の多いヒロインが買ふ―だけの―物語は、ただでさへドラマツルギーが平板な上ダンプなり、忠臣蔵といつた特徴的な意匠も欠き、大きいのも通り越して薄味な印象すら強い。そもそも劇中凌辱されるホステスは見た感じ和姦と紙一重の博子一人きりで、ホステスではないが、弘美に関しては言語情報のみで処理される。攫はれた妹の身代りになつた裕子が犯され倒した末に、絡みが一段落するタイミングを見計らつて激昂した清水大敬がその場に漸くカチ込む。新味なり新奇を摸索する柄でもあるまいに、どうしてその手の定番展開に思ひ至らなかつたのか疑問も残る。もしかすると、三作連続の可愛い主演女優を酷い目には遭はせたくない親心的な邪念が、清水大敬に生じたものやも知れない。かつての清大であつたならば、情け容赦も呵責もなく嬲り尽くしてゐたのではなからうか。ついでに執拗な割には単調に繰り返されるばかりで、結局一欠片たりとて深化するでも満足に機能する訳でもない点には逆に吃驚させられる、大丈夫ネタには腹を立てる気も失せる反面、寸暇を惜しまず、不自然なカットも懼れず。事ある毎に女優部三本柱の下半身に文字通り肉迫し際どい画を刻み込み続ける、姿勢ないし至誠は断固として正しい。清水大敬と同じ圧と熱量とを、清水大敬ほどの資質を有さない俳優部にも強要、もとい要求する。狂騒と狂乱の境界線上で、清大映画の業を一身に背負ふのは永遠の二番手・水谷あおい。何時の間にか谷口が明美に籠絡されてゐることに、気づいた鮫島が怪訝な表情を浮かべる。動揺する権力のドラマが起動するのかと身を乗り出しかけたのは、勿論そんな訳がない早とちり。ではあれ、左右から谷口と明美にブッ刺され、鮫島が惨殺されるサプライズには思はず声が出た。修羅場に中野剣友会が持つて来る謎のマイクスタンドが、明美に「Show Time!」のシャウトを一言叫ばせる用途限定といふのは噴飯必至。監督キャリア二十有余年、薔薇族含め本数も三十本を超えてるんだぜ、どうすれば斯くも画期的に頓珍漢なシークエンスを堂々と撮れるのか。無邪気といふか無作為といふか言葉を探すのに苦労するが、兎も角チャーミングな御仁である。


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 「暴行の実録 泣き叫ぶ女たち」(1997/制作:オフィスバロウズ/配給:大蔵映画/監督:柴原光/撮影:真塩隆英・山本寛久・鉾立誠/スチール:青野淳/録音:田村亥次/助監督:佐藤吏・立澤和博/編集:酒井正次・加藤悦子/音楽:野島健太郎/シネキャビン・東映化学・ハートランド・《株》ブーム/協力:上野直彦・森山茂雄・堀井正樹・タンバ・斉藤秀子/協力:松本裕治、椿原久平、ロジャー・トーマン、鈴木達仁、土屋伸一郎、丸世文寿/出演:神戸顕一・霧島レイナ・葉山瑠名・扇まや・杉原みさお・真央はじめ・マニア高橋・榎本元輝・ナベヤン・菅原恵美・吉川理沙・池島ゆたか)。シネキャからブームまでの担当を端折るのと、協力が二つに割れてゐるのは本篇クレジットまゝ。といふか、大事(おほごと)すぎて忘れてた、脚本をスッ飛ばしてのけるのも本篇クレジットまゝ、モキュメンタリーでも狙つた寸法なのであらうか。
 繁華街の夜景、傍らに置かれた、テレビの画面が不意に映る。OMB―大蔵映画放送か―局「ニュースジャングル」のキャスター・辰巳新太郎(池島)が、ニュースを語りだす。トップは江戸川区での、四十五歳主婦強制猥褻事件。刑事裁判で有罪が確定する、以前に起訴されるどころか、逮捕さへされてゐない個人を捕まへて報道が“犯人”といふ用語を使用するのに到底看過し難い違和感を覚えつつ、ここは強ひてさて措き、犯人は関東一円を震撼させ、既に指名手配もされてゐる連続婦女暴行魔・鮫島洸一(神戸)。鮫島の犯行であると特定に至つた所以が、被害者が散歩させてゐた牝犬にも猥褻行為を働いたといふ点に、“動くものなら何でも犯した”列車集団レイプ事件のレジェンド・栗村東パイセン(甲斐太郎)を想起する。辰巳が事務的に次のニュースに移つたタイミングで、タイトル・イン。そのテレビ、まさかとは思ふけど街頭ビジョンと解して欲しいだとかいふつもりではあるまいな。
 明けて本篇突入、トッ散らかり倒した自室でダラーッ寛ぐ鮫島に、巷間を騒がせるお尋ね者の密着ドキュメントを撮影しようとするTV多分ディレクターの、実名登場柴原光(ヒムセルフ)が話を聞く。柴ちやん―と鮫島からは呼ばれる―は基本鮫島と対する話者か撮影者で、声は聞かせど見切れはしないものの、後述するクライマックスでは姿も解禁する。柴ちやんを伴ひ赴いた新宿のスナックで、鮫島が店のママ(扇)を挨拶代りに犯す件。だけ、神戸顕一に髭が生えてゐないのは誤魔化しやうのない凡ミス。
 配役残り正体不明のナベヤンは、何処かしらのターミナル駅通路、サイケデリックなダンボールハウスに今は暮らすナベセルフ、鮫島の旧友。杉原みさおとビリング推定で榎本元輝は、ナベヤン・柴ちやんの三人で土手をぶらぶらしてゐた鮫島に見つかり二人とも犯される、アッちやんとその彼氏、彼氏から犯す辺りの見境のなさが清々しい。葉山瑠名は、保険会社を装つた鮫島に自宅で強姦される、未亡人の佐々木アツコ。例によつて柴ちやんを連れ深夜徘徊する鮫島が、アメイジングな嗅覚でアダルトビデオ撮影中のスタジオに闖入する天衣無縫展開。霧島レイナが大絶賛ハーセルフで、監督は真央はじめ。マニア高橋もヒムセルフで男優、もう一人撮影部が登場する。特定不能の菅原恵美と吉川理沙は、真央組のメイク―はもしかすると斉藤秀子かも―と、鮫島籠城現場のリポーターか。官憲・マスコミ込み込みで、結構な人数の現場要員が投入される、主に協力隊か。マオックスに話を戻すと、仕事を邪魔され当然腹を立てる監督が、逆ギレする鮫島と激突する神戸軍団同門対決が何気な見所。この映画案外、情報量が物凄く多い。
 柴原光1997年第二作にして、ピンク映画第二作。改めて柴原光の略歴を大雑把に掻い摘むと、旦々舎でキャリアをスタートさせ1992年から1994年にかけて薔薇族三本と、1997年から1999年にピンクを同じく三本発表。柴原光が興したAV制作会社として有名な、マルクス兄弟はどうやら目下息をしてゐるのか怪しい一方、ワンズファクトリーの方は普通に活動中につき、監督業の有無は兎も角、戦線には依然留まつてゐる模様。前作のピンク第一作「スケベすぎる女ども」(脚本:やまだないと/主演:三枝美憂)のベストテン六位―薔薇族でのデビュー作はベストテン三位と新人監督賞―に続く、『PG』誌主催第十回ピンク大賞に於ける戦績は作品本体の十位よりも、特筆すべきなのが最初で最後の神戸顕一男優賞。神戸顕一のピンク大賞はもひとつ第六回、神戸軍団(神戸顕一・樹かず・真央はじめ・山本清彦・森純)での特別賞受賞に関しては、寡聞なり浅学以前に、何を以て表彰されたのかこの期に及んでは皆目見当もつかない。
 全体の構成は基本鮫島家でのインタビューと、柴ちやんがカメラを回す暴行の実録を行つたり来たり四往復した果てに、柴ちやんを人質に立て籠つた、八王子中央病院跡地にて雑な小立回りの末に鮫島検挙。兎にも角にも、鮫島のブルータルと紙一重の出ッ鱈目な造形が出色。最初に御職業は?と問はれた鮫島の脊髄で折り返した即答が、「暴行魔」。暴w行w魔wwww、ぞんざいな口跡が、剝き出された可笑しみを加速する。暴行魔の分際で愛をテーマと称し、嘘かホントか知らない―嘘だろ―が、俺にはインディアンの血が流れてゐる。中卒で集団就職した工場を、事務員に対するレイプで馘になつた過去を想起しては、今後が「これはもうレイプしかないな」。時代的には仕方もないとかさういふレベルを超えた、「ポリコレ何それ、ポリネシアで発見された新種コレラか?」とでもいはんばかりのエクストリーム台詞の数々を鮫島が乱打。メチャクチャ面白いといふか、メッチャクチャで面白い。そして端から超えてゐたピリオドの、更にその奥に突き抜けるのがアッちやん篇後の自宅インタビュー。「いい質問だねえ」と唐突に火蓋を切ると、「僕はね、何を隠さうクレイジーキャッツとドリフターズが好きなんだよ」。その話題すんのかよ!―神戸顕一は、それで仕事が取つて来られるクラスのドリフとクレイジークラスタ―と腹を抱へたのも束の間、よもやそれは神戸顕一のリアル自室なのか、ゴミの山、もとい家財の中からドリフの指人形とクレイジーのVHSBOXに続き柴ちやんがサルベージしたのが、まさかの

 『人間革命』。

 途端に鮫島の顔から血の気が引き、みるみるあたふたし始める。その後も必死に矛先を躱さうとする鮫島といふか要は素顔の神戸顕一を、柴ちやんは容赦なく追撃。尊敬する人で荒井注と桜井センリに加へ、池田大作の名前を遂に聞きだす。神戸顕一にその手のデリケート乃至センシティブな演技が出来るとも思ひ難いゆゑ、暴行魔とインタビュアーといふ体(てい)だけ決めて、後はその場のアドリブで回してゐたの、だとしたら。もしも仮に万が一さうであるならば、それまで横柄にブイッブイいはせてゐた鮫島の俺様風情から一転、しどろもどろ狼狽する地金の出た神戸顕一をカメラの前に引き摺りだしてみせたのは、柴原光の神々しいまでに天才的なディレクションと激賞するほかない。重ねて圧巻なのが、数の暴力に屈した鮫島が連行される、娑婆の間際のシークエンス。パトカーに押し込まれながらも、激しく抵抗する鮫島は「俺のことが羨ましいんだらう」とブチ破つた枠の外からフリーダムを叫び、最後は官憲を振り切る形でカメラに寄つてみせた上で、「ざまあみやがれこの大馬鹿野郎!」と三尺玉の如く綺麗に弾け華々しく締めてのける。神戸顕一正しく一世一代の大芝居は、確かに男優賞も大いに頷けるだけの迫力と見応へがある。のに、止(とど)まらず。未だ完結してゐなかつた、神戸顕一畢生の一撃が遂に火を噴くオーラスには、ある程度予想し得るシークエンスにせよ度肝を抜かれるほど感動した。女の裸すらをもこの際忘れてしまへ、リスペクトする荒井注のワイルドビートを見事に継いだ、定石破りのビリングに違はぬ堂々たる神戸顕一主演映画に心を洗はれよ。

 最後に、鮫島が一週間前の死亡記事を基に急襲する佐々木家が、今なほ御馴染津田スタ。ところで、あるいはこれまで。最寄駅の描写から、津田スタの所在地は千葉県南酒々井であると当サイトは認識してゐた。ところが、アツコ篇の冒頭によれば当地は埼玉県東松山。何れにせよ東京近郊―近郊か?―とはいへ、流石に千葉と埼玉では方角から全ッ然違ふ。それこそ正反対につき、もう少し様子を見てみる。


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 「むつちり討ち入り 桃色忠臣蔵」(2018/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:宮原かほり/照明:大久保礼司/録音:荒木俊一・西山秀明/アクション担当:永井裕久/振付師:MASAKO/ポスター:田中幹雄/スチール:中江大助/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:海空花・水谷あおい・藍色りりか・中村京子・倖田李梨・松井理子・長谷川千紗《特別出演》・森羅万象・フランキー岡村・佐々木狂介・ケイチャン・山本宗介・野間清史・中江大珍・郡司博史・清水大敬)。出演者中長谷川千紗のカメオ特記と、中江大珍以降は本篇クレジットのみ。各部助手のみならず、編集なり助監督すらないレス・ザン・インフォメーションなクレジットは、本篇ママ。
 両脇に照明を焚いた山桜高校の教室に、女優部五本柱―ナカキョン飛ばして松井理子まで―が赤のブレザーにミニスカの制服姿で順々に大集合。ダンスを一頻り披露した上で、ポーズをキメてタイトル・イン。明けて一転、三年のお勤めを終へ仮出所する大石蔵子(海空)を、刑務官(清水)が不愛想に送り出す。山桜校ダンス部顧問の恩師・山口裕子(長谷川)に続き、何かと懇意の刑事・岡野(山本)と再会した蔵子が、来し方を振り返る。三年前、上下関係が微妙に不明なダンス部OGの池山玲子(水谷)・杉之本美樹(藍色)とともに、浅野内匠(フランキー)が社長の零細企業「播州赤穂物産」で蔵子はダンス活動も認められ和気藹々と働いてゐた。松井理子も矢張りダンス部OGで、播州赤穂に出入りする清掃員の三原山葉子、役名が何気に絶妙。ところがそこに、大取引先「吉良総合商社」の高圧的な社長・吉良上野(森羅)がダースベイダーの如く来襲、もとい来社、殆ど変らんけれど。サシでの打ち合はせと称して、吉良が玲子を凌辱。何だかんだで刃傷沙汰となつた末だか粗雑な物の弾みで、蔵子は黒マスク×スカジャンで一応素性不詳の、吉良の女用心棒(恐らく倖田李梨の二役)を死なせてしまつたものだつた。フランキー岡村に話を戻すと、ポップを履き違へた陳腐通り越して醜悪なメソッドが、どうしても看過能はず。
 配役残り、改めて倖田李梨は、美樹の伝で蔵子が草鞋を脱ぐ、亡夫(後述)の遺した昨今御馴染「グンジ印刷」を切り盛りする高見アリサ。この人も山桜校ダンス部OG、退学後ストの舞台に立つてゐた御仁。共輔・恭輔に続く、ここに来て三つめの名義となる佐々木狂介は、アリサ亡夫から付き合ひのある、グンジのクライアント・大滝、スーパーか何かの人。そして中江大珍(a.k.a.中江大助)とケイチャンが、借金を残し限りなく自殺に近い交通事故死したアリサの夫と、事実上死に追ひやつたブラック金融・鮫島。野間清史は松井理子の絡みを介錯する、葉子が勤務する清掃会社の社長・石部もとい石山金吉。同じく清水大敬2017年第一作「未亡人下宿? 谷間も貸します」(主演:円城ひとみ/佐々木共輔名義)のある佐々木狂介はまだしも、実に「愛人熟女 肉隷従縄責め」(2008/主演:沙羅樹)以来となる大復帰を遂げた中村京子は、玲子を囲ふにあたり、吉良が実質人質にとる母親・恵子。ビリングの高さに反して、不幸か幸か脱ぎはしない。そしてグンジの真の主たる郡司博史は、吉良邸に突入する浪士ならぬ赤穂女子に、脚立を持つてかれるペンキ職人。その他不明なのが、藪蛇に都合四度繰り出す痴漢電車―三番手に至つては、唯一の脱ぎ場が電車レイプ―に際しての乗客部と、鮫島の連れ含め吉良の手下部―は、中野剣友会の皆さんか―に、岡野が二人従へる刑事部。娑婆に戻つた蔵子に手を出すのは佐々狂にも見えかけたものの、蔵子と大滝が思はぬ、あるいはバツの悪いリユニオンを果たす描写はなし。気がつくと、剥げた頭に思はず目を奪はれてゐた。
 通称・前田有楽こと、六十五年の歴史に幕を閉ぢた「有楽映画劇場」(北九州市八幡東区)の、最終番組に選ばれた清水大敬2018年第三作。清水大敬は暮の薔薇族入れて、今時年四作を発表するキャリアハイの好調ぶり、あるいは重用ぶり。
 主演の海空花は、終始肩に力が入りつぱなしで過剰な熱量が清大映画のヒロインに、如何にもといふかある意味といふか、兎も角相応しいといへば相応しい。逆に、同じ戦ひ方で、他の組でもやつてゐけるのか疑問も残らぬではない。その癖いざ絡みとなるや途端にしをらしくなつてもみせるのが、当人の持ちキャラなのか、清水大敬のさういふ演技指導なり、より直截な理想の女性像であるのかは、とかく、しかもエクストリームなまでのエキセントリックが炸裂するのがこの人の映画の常につき、銀幕の此岸から観てゐるだけでは判別つけかねる。とりあへず、ダンスにせよ殺陣にしても、海空花が体はよく動く。惜しむらくは、それを絡みにも活かすアクロバティックな才覚を、清水大敬に望むべくもない点。
 一度は吉良用心棒の事件でダンス部二十周年のイベントを水泡に帰させた蔵子に、裕子は再起の拠り所にと、今度は山桜高五十周年の舞台を用意する。岡野は岡野で、正式に吉良を立件しようと尽力する。とかいふわざわざ二本立てで設けられた葛藤の種も、清々しいほど事もなげに放棄して、蔵子は一同を引き連れ吉良邸に遮二無二討ち入る。兎にも角にも忠臣蔵、そして何はなくともダンス。テーマはこの上なく明々白々ともいへ、些末にあまりにも囚はれないダイナミックすぎる作劇は、確かに清水大敬ならではの豪胆な力技。これは別に、だからといつて許されるといつてゐる訳では別にか決してない。寧ろ、もしくは挙句に。忠臣蔵とダンス―しかし途方もない二題噺だ―に総力で突つ込み抜いた結果、清水大敬にしては女の裸さへ何時しかついでに堕してゐる。五本柱の濡れ場は何れも完遂する割に、下手な頭数の多さも禍し総じて印象は薄い。各々濡れ場のある五人の赤穂女子が、憎き吉良邸に討ち入りする。死亡遊戯なトラックスーツなる飛び道具をも披露する森羅万象の大暴れ含め、極めて魅力的かつ画期的な大風呂敷ながら、良くも悪くもベタ足が精々持ち味の清水大敬にとつては、些か荷の重い複雑な趣向であつたか。有楽でかゝる最後の映画に、下手に生煮えて呉れやがるくらゐなら、いつそ派手な花火で景気よく大団円。とは流石に強弁し難い、花火といふよりも、爆散したが如き一作である。

 前述した通り本篇クレジット、ならびにポスター、ついでに予告篇に於いてもスルーされつつ、PG公式には、録音助手に勝山茂雄とある。勝山茂雄なんて、同姓同名でないならピンクに参加するのはそれこそ2005年の自身最終作以来だ。高原秀和に続く、よもやまさかの電撃超復帰とかなからうな。もしも仮に万が一、ただその場合大蔵初上陸となつた高原秀和とは違ひ、勝山茂雄には「ドキュメント 性熟現地妻」(1995/撮影:西川卓/主演:摩子)がありはする。

 以下は映画の中身とは一切関係ない、純粋な付記である。今作を観に行つた折、閉館する有楽に、岡輝男からの花が届いてゐた。敷居を跨いで真正面(テケツは真右)、飲料を冷やすオールドスクールな什器の上に置かれた花が最初に目に入り、そのまゝ木戸銭も落とさず一旦名前を確認、「マジか!?」と思はず声が出た。添へられた挨拶の文面は、原文は珍仮名、スペースで改行で「八幡有楽劇場賛江 拙作の数々かけて戴き ありがたうございます 歴史ある劇場で上映されたこと 感佩致してをります 脚本 岡輝男与利」。
 自ら身を退いたのか、干されたものかは知らないが、ピンクから離れて久しい岡輝男がなほのこと通した仁義に、胸が熱くなるサムシングを禁じ得ない。有楽更新の掉尾に、岡輝男の篤実を記録しておく所存である。


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 「美尻愛欲めぐり」(1998/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:小山田勝治/照明:瀬尾進/美術:清水正子/編集:酒井正次/音楽:サウンド・キッズ/助監督:大越朗/撮影助手:新井毅/照明助手:谷盛正幸/編集助手:井戸田秀行/演出助手:児玉隆博/スチール:相沢さとる/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川昭/出演:麻間美紀・槇原めぐみ・浅利まこ・原田なつみ《友情出演》・中村京子・山科薫・土門丈・水海信一郎・大浜直樹・村中豚也・文京周平・花巻五郎・大越朗・児玉隆博・中退みつる・相沢さとる・石部金吉・大海昇造・大谷満・神戸顕一・羽田勝博)。未だ解けない謎が、かつて清水大敬が使用してゐた名義である石部金吉を、継いだのは全体誰なのか。
 大敬オフィスのクレジットに続いて即、清水大敬病発症、仕掛けが早い。“これからは、落ち着いて心穏やかに愛する家族と共に生きていかう・・・”、とか明朝体で大書。テーマを文字情報にするのなら、それで事済むならば映画撮る意味ねえだろ!といふのと、全体この時、清水大敬の心境や如何に。あの清大も偶さか草臥れてゐたのか、何か枯れてないか?閑話休題、都庁から直接ティルト出来る新宿中央公園を、山口泰三(神戸)がぐるぐるジョギングする。妻の裕子(麻間)がスヌーピーのダサいエプロンで登場、朝御飯よと呼びかける。長閑だなあ、東京。とこ、ろが。流石生き馬の目をレーシックするコンクリート・ジャングル、妻の下に駆け寄らうとした山口は、バナナを食べてゐた大木凡人風(大絶賛不明)が無造作に捨てた皮で足を滑らせ、縁石で後頭部を強打。卒倒する山口の、グラグラする視界が暗転してタイトル・イン。バナナの皮で足を滑らせるスーパーポップなシークエンスを、両手を万歳した山口が一旦近づいた裕子から後退する形であれよあれよと20メートルは離れて行く、不自然極まりないカットで表現する清水大敬があまりにも画期的すぎて、アバンで既に切つた身銭の元は取れる。お買得!自棄なのかよ。
 その夜、己の馘どころか、会社ごとの存亡を賭けた大取引を翌日に控へ、緊張を隠せない山口に裕子がビールを勧める。乾杯もそこらに、山口は「ねえ、セックスしたら少しは落ち着くかな」。“ねえ”ぢやねえよ、斯くもどストレートな濡れ場の導入初めて見た。清水大敬は矢張り大天才にさうゐない、だから自棄なのかよ。
 手が届く限りの配役残り、妙に高いビリング推定で恐らく土門丈が、当日朝、心配して山口家に電話を寄こす大山部長。部下に任せてゐないで、手前が行けといふ話である。山科薫と大浜直樹以下計六人は、新宿駅南口に棲息する、古典的な共産主義を標榜するルンペン。清水大敬にしては皮肉が利いてゐる、のかなあ。プレゼンを反芻しいしい歩いてゐたところ、山科薫が楽しみにしてゐた弁当を踏んづけてしまつたため、追ひ駆け回された末山口は上着とスラックスと、持ち金を奪はれる。時に清大をも凌駕する破壊力を誇る漢の中の漢・羽田勝博は、これ見よがしに吊るしてあるスーツを、拝借しようとした山口を捕獲するヤクザ、ネズミ捕りのチーズか。キリスト教はまだしも、イタリア映画「自転車泥棒」(1948/伊)を狂信する途方もない造形。中村京子は、ヤクザの情婦。そして大将の清水大敬と浅利まこが、山口が向かはなければならない商談先・鮫島商事社長の鮫島と、秘書としか呼ばれない秘書、兼愛人。槇原めぐみと水海信一郎に浅利まこの二役目と更にもう一人は、ワイシャツにトランクス一丁で鮫島商事を目指す山口が新宿昭和館(2002年閉館)の表で交錯する、二役目でヒムセルフの清水大敬組スタッフ。槇原めぐみと水海信一郎は、ポジション不明のゼムセルフ。浅利まこはぶつかつた山口が怪我をさせてしまふ女優部で、もう一人は男優部のトマホーク。原田なつみは、代りの女優探しを強ひられた山口が連れて来る、新宿のど真ん中を、洗面器片手に銭湯に行かうとしてゐたハーセルフ、一々細部が斬新でクラクラ来る。大越朗は、清水組助監督のヒムセルフ。貧相な外見が、トマホークと被るのは大越朗は悪くない。
 当サイトが脊髄で折り返して釣られ続ける、バラ売りex.DMMに新着した清水大敬1998年第二作。過去に残すは、次作「制服凌辱 狙はれた巨乳」(1998/主演:椎名みずき)のみ。
 元ネタが何某かあるのか、大事な要件を抱へた男が、諸々の災難に見舞はれ続けどうしても辿り着けないスラップスティック。兎にも角にも、新宿が気違ひしか住んでゐない街かの如く、共産主義的ルンペンと、キリスト教と自転車泥棒を振り回す羽田勝博が圧巻。カサベてた頃の清水大敬に久々で触れるのを楽しみにしてゐたものだが、清大がカサベてるに寧ろ不可欠な俳優部に於ける主力兵装たる、羽田勝博のブチ切れた存在感が尋常でない。面積から広いアクの強い強面と、箆棒な上段から叩きつける大仰な口跡が絶品。山口を情婦に紹介して、「神に見放されたイカレ野郎だ」、お前は神―悪魔かも―に祝福されたイカレ野郎だ。目をヒン剥いた羽田勝博に、「自転車泥棒」監督のヴィットリオ・デ・シーカの名前を教へて貰つた山口は、暫し「ヴィットリオ・デ・シーカ、ヴィットリオ・デ・シーカ」と復唱しながら繁華街を奔走。何時、あるいは何処で山口がドッコイショと言ひだしはしないかと、割と本気で心配した。逆に、羽勝が序盤にして全部カッ浚つてしまつたきらひも決して否めなくはない。元々壊れてゐる劇映画はこの際兎も角、裸映画的には闇雲に清水大敬。壁に照明の影を無防備に映しもする、主演女優は素の表情から硬く、最も印象は薄い。中村京子は羽田勝博を追走し得るキレ具合と貫禄の爆乳を披露し、オッパイもお尻もプリップリの浅利まこは、こちらも表情は乏しいものの、清水大敬相手にコッテコテかつヌッルヌルの一大見せ場を展開。そして何はなくとも、何が何でもなエモーションを刻み込む、槇原めぐみ(a.k.a.槙原めぐみ)の絶対巨乳。甚だ雑な繋ぎは今なほ改善されぬ難点ともいへ、チンコで見る分には申し分ない。眼(まなこ)は兎も角、清大を観るなり見るのに頭なんて要らん。結局開巻に回帰する、昏睡オチは斯くも破壊の限りを尽くした始終に比すと随分おとなしくもあれ、メタな方向に軽く振れてみせる大オチ。粗忽な清水大敬が一瞬フライングしてしまふのが、逆の意味で完璧。何か映画雑誌の企画で、ヴィットリオ・デ・シーカの霊を降ろしたイタコに、この映画見させて感想を訊いて欲しいね。

 一点正方向に目についたのは、編集後残つただけでも、新宿界隈を相当な距離走り回らせられる神戸顕一が、かといつて然程ですらなく呼吸を乱してゐるやうにも見えない点。体躯からはとてもさうは見えない割に、神顕ああ見えて結構スタミナあるのかな。それか、単なるアフレコによる錯覚か。


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 「パンチラ病院 おとうさん大興奮!」(2018/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:宮原かほり/照明:大久保礼司/録音:荒木俊一/助監督:永井卓爾/スチール:田中幹雄/撮影助手:西村翔/照明助手:加藤雄大・石塚光・西山金吉/演出助手:山梨太郎/制作進行:関本一樹/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:海空花・水谷あおい・成宮いろは・さとう愛理・なかみつせいじ・清水大敬・山本宗介・萬歳翁・米山敬子・稲本恵・中村勝則・小坂敏夫・生方哲・周磨ッ波・大利根月男)。出演者中、米山敬子以降は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、即ローションかましてヌッルヌルにしてテッカテカの絡みを轟然と飛び込ませるジャスティス。相ッ変らず繋ぎは雑で、一般映画なりVシネその他方面までは手が回らないものの、少なくともピンクに於いては宮原かほり(ex.宮原かおり)の初撮影部メイン作の割に至つて即物的な画ばかりながら、観客の劣情を刺激する、より直截にはチンコを勃たせることにいの一番に重きを置く清水大敬漢の姿勢、もしくは至誠が清々しい。岡野家での、東日興業社長・鮫島(清水)と元秘書であつた岡野明美(成宮)の、ラーメンで譬へるならば家系な逢瀬。事後、鮫島はその日が誕生日の明美に腕時計を贈る。ここで、その腕時計のブランドでどの程度の品かといふ辺りに―も―てんで目が利かないのが、この男の限界。一方、明美の夫で係長の武男(なかみつ)以下、山口裕子(海空)と名なしの社員要員(中村勝則・生方哲・周磨ッ波・大利根月男)が普通に勤務中の東日興業。暴君の鮫島が帰社するや、一同は脊髄で折り返して恐々とする。鮫島に煙草を買ひに行かされる武男に、裕子が代りに買つて来る助け舟を出す一幕と、武男の娘・美由紀(水谷)と音楽部OBのウェーイな彼氏・玉城(山本)の一戦を経て、鮫島に厳命された明美へのケーキを提げ呆然と歩く武男は萬歳翁が運転する車に撥ねられ、井上病院に担ぎ込まれる。意識を取り戻した武男は、看護師の金山弘美(海空花の二役)が裕子と瓜二つであるのに続き、清掃員の並木隆(清水大敬の二役)ら院内関係者が―ほぼほぼ―ことごとく周囲の誰かしらとソックリであるのに、一々清水大敬一流の、俳優部に自身と同等の熱量と圧力を求めるエキセントリックな演技指導に従ひ、オーバーアクト通り越して狂騒的に驚愕する。
 配役残り山本宗介の二役目は、専門不詳の医師・上田正志。唯一といふか唯二人武男と初対面となる米山敬子と稲本恵は看護師で、上田の指揮でシューベルトの「野ばら」を歌ふ井上病院合唱部。成宮いろはの二役目は並木の妻で警備員の制服を着てゐる癖に、浴室の掃除なんかもしてゐたりする、挙句運動した汗を流しに来た武男のお背中を流すどころかヌイて呉れさへする玲子。普通に考へるとムチャクチャとか破綻といつた言葉ですら片付かない出鱈目なシークエンスも、何故か案外すんなり通る清大映画の魔術。あるいは魔術的映画とかいふと、何だかグッと高尚な代物にでもなつたかのやうに勘違ひしかねない、しかねねえよ。水谷あおいの二役は、フォクスィーなおメガネを披露する以外は、大した働きも見せない神経外科の女医・内山。そしてさとう愛理が、鮫島の援交相手で二十年前武男を車で轢き殺さうとした吉川瞳と、二役目で弘美の姉・恵子。最後に小坂敏夫は、武男の後任係長に座るヒムセルフ。
 2018年はピンク三本に正月薔薇族と、竹洞哲也に次ぎ、関根和美や山内大輔と並ぶ重用を受けた清水大敬第二作。予告に目を通した時点でミッエミエの結末に、一欠片の捻りもなくベタ足で突つ込む無防備な作劇が、前述した、観てゐてなかみつせいじが気の毒になるほどのエキセントリック演出にさんざ搔き回された末に、終盤は煌びやかなほどのダサさが矢継ぎ早に爆裂する。ついでにダサさでいふと、サックスを持つ際の、全身しまむらで揃へました的な主演女優の私服もどうにかならんのか。閑話休題、手放しで讃辞に値するそこそこ複雑な四番手の捻じ込みやうと、実用的な質と圧倒的な量とでゴリゴリ攻めて来る濡れ場の迫力を除けば、素面の映画として世辞にも褒められた出来では全く以てない。尤も全く以てないにせよ、決して幸福とはいへなかつた人生を歩んだ草臥れたおとうさんが、自らに向けられた悪意の存在しない弘美曰くの“私達の世界”で、執拗通り越して偏執的なパンチラに垂涎する。評価するしないは兎も角、斯くもクソ以下の憂世に、せめてもの南風を吹かさうとする清水大敬の心意気、ないし時代認識は理解し得る。玉城に関して山宗にぞんざいな造形が与へられる点には大いに疑問も覚えたが、終に火を噴く仮借なき懲悪のカタルシスを思へば、百歩譲つて仕方がない。頑ななローアングルも強ひられ、晴れの初陣なのに宮原かほりはいはれた通りに撮つてゐるに過ぎない印象も覚えつつ、弘美と武男が「ときめいてますかー」とグルグル踊りだす、抜けた底が宇宙を一周して頭上から降つて来さうなカットにあつては精一杯の健闘を見せ、出し抜けに職を辞した裕子が出た屋上では、抜けるやうな広さを捉へる。何れも、あと数秒尺を割いてゐれば、折角の仕事がもう少し強いインパクトを残せたのではなからうかと、素人目に思へなくもないけれど。何はともあれこの題材で、他愛なくもないゴミ以下のメッセージを仰々しく実クレジットで大書する、悪い病気が鳴りを潜めてゐるだけで及第点。とかいつてしまふと逆に馬鹿にしてゐるやうな気もするが、今の、このタイミングでの清大を、清大の愚直なエモーションを当サイトは支持する。


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 「続・未亡人下宿? エロすぎちやつてごめんなさい♡」(2018/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:小山田勝治/照明:大久保礼司/録音:荒木俊一・大塚学/助監督:清瀬悟朗/スチール:田中幹雄/撮影助手:大江泰介・浪谷昇平/照明助手:石塚光/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:永井すみれ・さとう愛理・玉城マイ・成宮いろは・里見瑤子・三沢亜也・森羅万象・なかみつせいじ・旭丘太郎・永川聖二・フランキー岡村・野間清史・橘秀樹・萬歳翁)。出演者中、旭丘太郎は本篇クレジットのみ。スタッフと俳優部を、左右一緒くたに流すクレジットに惨敗する。
 玄関周り―だけ―は洋風な未亡人下宿、後述する前作の物件は忘れた。大家の山口裕子(ビリングに軽く驚かされた成宮いろは)が、早逝した亡夫・清彦(野間)の遺影に朝の挨拶。も、そこそこに。早速ミニスカの、隙間といふよりは最早射角からパンティ越しに恥丘の膨らみをガッチリ拝ませた上で、縁側から空を仰ぐ止め画にタイトル・イン。明けて賑やかな食卓が、何気に最初の見せ場。食卓を囲ふ面々は画面七時の方角から時計回りに、国立大法学部志望の浪人生・尾崎(永川)と、美大受験生の美由紀(永井)。十二時に裕子挟み年少上がりの保護観察中で、リハビリ施設のヘルパーとして働くex.ヤンキーの里恵(さとう)に、唯一の大学生にして、チアに夢中な就活生。とかいふ、この際寧ろ神々しいまでの閃きで闇雲な設定に辿り着いた弘美(玉城)。特筆すべきが、新田栄ばりの超速で四人分一気呵成に片付ける、手短かつ案外完璧な店子イントロダクション。冗長な説明台詞過多に思へたならば、当サイトは判り易すぎるくらゐで別に困りはしないとする、量産型娯楽映画観を常々唱へてゐるものである。愚直な直線勝負が持ち味あるいは関の山の、清大に斯様な芸当が出来たのかと、素面で感心すると同時に喝采した。もしかして俺は、ショ糖の二百倍甘い、クソ合成甘味料の代表格・アセスルファムKよりも更に甘いのか。
 出演者残り、秘かに美由紀が自室に匿ふなかみつせいじは、美由紀が義父の鮫島権造(森羅)にラブホテルにて犯されさうになつた際、助けに入つた清掃夫の曽根。里見瑤子が、夫が遺した借金のいはば形に、鮫島と再婚した美由紀実母・博子。美由紀と曽根が事実上駆け落ちした顛末が、二人の逢瀬を目撃し鮫島が激昂した、ものの弾みでバナナの皮で足を滑らせ後頭部を痛打。鮫島が死んだものと思つた美由紀と曽根は、慌ててその場を逃げて来た、だとさ。信じられるかいアンタ、二十一世紀もぼちぼち五分の一消化する西暦2018年、平成も終らうつてこの御時世にバナナの皮で足を滑らせる、クリシェ道場にも門前払ひを喰らひさうなシークエンスを堂々と、あるいはのうのうと撮つてのける映画監督がまだこの星の上に現存するんだぜ!事実は、映画よりも奇なり。
 名言をアレンジしたつもりの、閑話休題。裕子の前代大家、そこそこ以上に華のある清彦母遺影の主は、清水大敬が座長を務める劇団「ザ・スラップスティック」に、客演した縁のある平田京子。旭丘太郎と萬歳翁の特定が正直難いが、小さく映る清水大敬次作予告を頼りに恐らく萬歳翁が、美由紀がアルバイトでヌードモデルをする、アトリエの先生。絵筆を採る、生徒要員までは完全に手も足も出ない。唯一である以上、当然俳優部最大のアキレス腱たるフランキー岡村は、里恵の勤務先・医療法人「前田リハビリ・センター」社長の前田昭三。常連の、山科薫を一枚残してるんだけどな。萬歳翁との不完全消去法で旭丘太郎は、未亡人下宿のOB兼、鮫島のパイセンでもある尾崎伯父。削りは粗いが満更でもない貫禄と発声とで、無茶―苦茶―な作劇を補完する大役を果たす。観進めて行く内に、まるで配役が読めなくなつた三沢亜也は、鮫島の母・よね。そしてトリをとる橘秀樹が、誰もゐなくなつた山口家に貸間を求め現れる、既に大学生のニューカマー・米田。尾崎クンとは異なり、ちやんと学ラン着用。昭和を経て、平成と命運をともにするかのやうに一旦力尽きかけた未亡人下宿を、次代に繋ぐ希望の星。
 清水大敬2018年第一作は、三作前2017年第一作の無印前作「未亡人下宿? 谷間も貸します」(主演:円城ひとみ)とは一欠片たりとて掠らない物語の割に、“新”ではなく“続”と銘打つた「未亡人下宿?」第二作。終に語られることもなからうが、はてなの意味は相変らず雲を掴む。
 カットの繋ぎが大雑把ではあるものの、ゴリッゴリした戦闘的な濡れ場の合間合間も隙あらば、否、隙がなくとも意味が判らないほど不自然な脚立をも持ち出し、殆どマンチラと紙一重のパンチラを、執拗に執拗に執ッ拗に刻み込み続ける。ついでに、ちんたらした玉城マイのチアダンスも。残された僅かな間隙を下元哲に迫るアクロバットで潜り抜け、無理ッから鮫島を諸悪の根源に据ゑる大騒動を兎に角構築。限りなくデウス・エクス・マキナな尾崎伯父を放り込み、力技の大団円にヒッこ抜く。カサベテた頃の混沌は今何処、更生した清水大敬が遂に開眼した王道娯楽映画路線は、勢ひ余つた前作を挽回し堅調。不要である以前に、まるで芸になつてゐない映画ネタ。子供の悪戯以下の、ゴッドファーザー作戦。ポップを未熟で履き違へた、コント感覚に安いフランキー岡村のメソッド。となると相手役にも恵まれず、二番手に座りながら遅きに失するさとう愛理の絡みは加へて拙速に堕す。博子が仕掛ける藪蛇な親子丼に関しては、予想外の豪華五番手で里見瑤子が飛び込んで来る、サプライズで免責してしまへ。それにしても、もしかするとそこから逆算しての、曽根のカツ丼好きなのか。もしも仮に万が一だとしたら、改めて清水大敬を侮る勿れ。物語を構築するルートが一昨日か明後日すぎて、逆に余人の追随を許さない。ダメなところを論ふのは、世評に乗つかり城定秀夫を絶賛するより容易い。それ、でも。何となく寄りの多分で、清水大敬も明確に見据ゑてゐるのではあるまいかと思しき、要は一元号丸々ドブに捨てたに等しい、クソな時世に出鱈目だらうと力技だらうと、ユーフォリアを遮二無二叩き込む侠気は断固支持する。尾崎と弘美のカップルが成立する件の、“俺を無視するな”と、“マンガみたいにお目出度い連中だ”。鮫島に書いた二つの台詞に注目するに、どさくさしかしてゐない展開を、流石に清水大敬も自覚してゐるにさうゐない。自覚してなほ、突つ込んで来るのはよしんば優れてはゐなくとも、腰の据わつた作家の証左。清大は清大なりに清大のやり方で、時代を撃つてゐる。少なくとも撃たうとしてゐる、アセKよりもクッソ甘い当サイトにはさう映る。総体的な評価はさて措くにせよ、“シコシコのし過ぎで腱鞘炎”なるスーパーパワーワードを里見瑤子に吐かせる、飛び道具的モチーフに過ぎないものかと思はせた鮫島の偏執的な手コキ強要癖を、満を持して投入した三沢亜也(a.k.a.しのざきさとみ)で回収してみせるのは、ピンク映画2018のハイライトに数へて全然おかしくない実は超絶妙手。いふまでもなく裸は一切捨てずに、清水大敬は過去の継承も踏まへ、現在進行形のピンクを希求してゐる。能力が伴ふ伴はない、結果が成就するしないは、また別の問題。尾崎クンの跡目を米田クンが継ぐ、未亡人下宿?を延々と清水大敬が撮り積もらせていいんだぜ。

 意味が判らないほど不自然といへば、さあこれから皆で飯を食ふぞといふ段になつて、裕子が唐突に一番風呂を浴びると中座するのもサイコー。尤も、以降の風呂場戦を鮫島が山口荘(大絶賛仮名)に殴り込んで来る修羅場の発端に機能させる辺りは地味に論理的で、全体清水大敬といふ御仁が、頭を使つてゐないのだかゐるのだか判然としなくなる、使つてゐない訳ねえだろ。


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 「ハミ尻ダンプ姐さん キンタマ汁、積荷違反」(2017/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/脚本・監督:清水大敬/撮影:中尾正人/照明:大久保礼司・清水領/録音:小林研也/編集:高円寺スタジオ/助監督:阿蘭純司/スチール:田中幹雄/殺陣:永井裕久/撮影助手:坂元啓二/照明助手:葉山昌堤/演出助手:御殿場太郎/着付け:板橋よね/メイク:笹本義雄/装飾:青野装飾/衣装:Mikiレンタル衣装/制作進行:狛江義雄/小道具:劇団カジノ・フォーリー、劇団スラップスティック/脚本協力:中村勝則/仕上げ:東映ラボ・テック/撮影協力:藤ヶ谷建設/トラック協力:阿修羅グループ/出演:円城ひとみ・藍沢ましろ・しじみ・あやなれい・なかみつせいじ・森羅万象・GAICHI・田山みきお・橘秀樹・太三・生方哲、もう二名・中江大珍・中野剣友会/友情出演:池島ゆたか・国沢実/特別出演:篠原ゆきの・里見瑤子・松井理子)。出演者中、生方哲以下四名は本篇クレジットのみ。特別出演組の正確なビリングは、あやなれいとなかみつせいじの間に入る。クレジットに関しては情報量に比して、無慈悲に流れる速度に屈する。
 自ら駆るダンプで山口建設(株)に帰還した社長夫人の裕子(円城)が、ホットパンツからプリップリ弾けるハミ尻で三羽烏的従業員の田原(田山)×佐々木(橘)×森山(太三)を悩殺した返す刀で、再び出撃してタイトル・イン。何しに帰つて来たのかとツッコむのは禁止だ、ハミ尻―とダンプ―を見せに帰つて来たに決まつてるぢやないか!
 タイトル明けてラブホテル、といふ麗しき場面転換はいいにせよ、問題が裕子の女と博打にうつゝを抜かすダメ亭主にして、山口建設社長・山口米造(清水)の、援交相手・美由紀役の藍沢ましろ。平成も強制終了間近の昨今に、全体こんな女何処から連れて来たんだな昭和スメルを爆裂させる、不完全無欠なデ〇スぶりに直截に目を覆ふ、直截にもほどがある。兎も角、凹凸のない肉塊との事後米造はある意味鮮やかに文字通りの腹上死、戦死の悲壮感さへ漂ふ。葬儀を済ませた山建一同が盛大に飲み食ひしたのち爆睡するところに、兄貴とは対照的に実直な弟の武造(なかみつ)が駆けつける。実は米造よりも武造が好きであつた裕子は、武造との情事を遺影に見せつける。
 配役残りあやなれいは、ホステス時代金蔓とロック・オンした米造を、当時同僚の裕子に奪はれた過去を未だ根に持つ現職泡姫・明美。そしてGAICHIこと、森山茂雄ピンク第十一作かつ、2010年代依然最強傑作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)以来の電撃超復帰を遂げた幸野賀一が、ソープの社長・鮫島。六年周期の幸野賀一大復活の興奮はさて措き、歌舞伎町一番街のアーケード挿んで、まづあやなれいの爆乳が画面一杯に飛び込んで来る繋ぎはジャスティス。森羅万象はスピリチュアル詐欺師・ヤマタイのツクネで、しじみがツクネに心酔するメンヘラヤンキー・博子。明美とは煌びやかにダサい上に一欠片の意味もない名乗りで、「まむしの兄弟」を組む兄弟分。国沢実は、太鼓担当のツクネ一番弟子・前田。随時着弾する特別出演部隊、一の矢・篠原ゆきのは、米造が遺した借金を返済させるべく、山建にマンション建設を斡旋する街金・瞳麗子。脱ぎはしないが、これ見よがしに繰り返し組み換へる美脚を、頑ななローアングルで追ふ。生方哲は、ツクネが博子を二穴責めする際前門を担当する二番弟子の宮口。利子だけは月中に払はねばならぬ要に迫られ、裕子が博子がママを務めるクラブの面接を受け、結果何だかんだ博子も撃破した流れで、明美と博子が対裕子の連合軍を組む格好に。特出隊二の矢の松井理子は鮫島が招聘した、山建への殴り込み要員に自身の店の従業員(中野剣友会)を提供する、軍隊クラブ「満州國」ママ・大和撫子。いはゆる「愛の嵐」的な露出過多の衣装を、帝国陸軍風味で披露する。特出隊トリの里見瑤子は棚から牡丹餅を降り頻らせる、米造がかけてゐた死亡保険金の件で裕子を訪ねる保険外交員・鵬亜里沙、里見瑤子に特段のサービスはなし。池島ゆたかはヤマタイのツクネ改め本名:猪鍋吉を検挙する池山刑事、地味な謎が、あと三つ残る名前。明美を呼びに来る鮫島の店のボーイに池山の連れと、頭数は二人くらゐしか見当たらないのだが。
 近年の―それはそれでそれなりに―王道娯楽映画路線が大蔵に評価されてか、2017年は三作を発表した清水大敬の第二作。羽勝が主演女優を、「ジョン・カサベテスを一本も観てねえやうな女はクソだ」と滅茶苦茶な因縁をつけ強姦してゐた頃のカオスが、今となつては懐かしい。懐かしいだけで、観るなり見たいとか再評価されるべきとは、別にでなく断じていつてはゐない。一見どうでもいいか超絶後付け臭しかしないが、監督20周年記念作品「巨乳水着未亡人 悩殺熟女の秘密の痴態」(2016/脚本協力:中村勝則/主演:一条綺美香)と前作「未亡人下宿? 谷間も貸します」(企画・原案:中村勝則/主演:円城ひとみ)に今作の三本で、未亡人トリロジーを成すらしい。ここは木に竹を接ぐ云々とはいはず、量産型娯楽映画に於ける量産性をこの期に及んで健気に希求する、決して純然たる無為に過ぎるものではない酔狂な方便と、案外好意的に生温かく評価するところである。それと、事前には「痴漢トラック 淫女乗りつぱなし」(2000/二作とも小松公典と共同脚本/主演:池谷早苗・町田政則)と、「馬を愛した牧場娘」(2003/主演:秋津薫・町田政則)。関根和美全二作の「デコトラ漫遊記」以来―その前に何かあるのか何になるのかは知らん―のピンク版「トラック野郎」かともときめきかけたものの、よくよく考へてみるまでもなく、公開題に謳ふ通りデコトラではなくダンプである上に、正味な話精々山建に出入りする程度で、ダンプが爆走するシークエンスは設けられない。
 物語的には深遠な含意あるいは殊更な面白さは欠片もないながらに、如何様な白痴でも一回観れば全てのカットを300%理解可能にさうゐない強靭な判り易さは、敷居の低さがプログラム・ピクチャーとして矢張り清々しい。天候にも恵まれた、藤ヶ谷建設敷地内に敷物一枚敷いた長テーブルを置き、豪快なロングで狙ふ意欲も見せる青姦に、ハネムーンにダンプで出発した助手席にて、裕子が武造相手に一節吹く尺八戦。突飛なシチュエーションも適宜盛り込みつつ全篇を通して釣瓶撃たれ続ける濡れ場の数々が、実はことごとくフィニッシュまで完遂に至つてゐる執拗な至誠は、何気に天晴。

 ついでといつては何だが、あるいは久し振りに。2010年代が「あぶ悩」で、それならゼロ年代はといふと。私選ピンク映画最高傑作、そんな―どんなだ―関根和美が叩き出した渾身超絶永遠不滅のマスターピース、「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)である。


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 「未亡人下宿? 谷間も貸します」(2017/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/脚本・監督:清水大敬/撮影:田宮健彦/照明:大久保礼司/録音:小林研也/ポスター撮り:中江大助/助監督:阿蘭純司/撮影助手:島崎真人・高島正人/照明助手:葉山昌堤/演出助手:狛江太郎/着付け師:板橋よね/企画・原案:中村勝則/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:円城ひとみ・京野美麗・橘メアリー・角田清美・あやなれい・扇まや・森羅万象・山科薫・野村貴浩・橘秀樹・佐々木共輔・田山みきお・東大和・鎌ヶ谷俊太郎・末田スエ子・米山敬子・本田裕子・石部金吉・生方哲・井坂敏夫・中野剣友会)。出演者中、田山みきおから鎌ヶ谷俊太郎(=鎌田一利)と、石部金吉(=清水大敬)から井坂敏夫までは本篇クレジットのみ。あと中野剣友会に、ポスターではアクション・チーム特記。
 波紋広がる大敬オフィスのロゴ、こんなだつたつけ?ズンチャカ劇伴が起動して、“下宿 貸間あり”のみの表札の一軒家。縁側を雑巾がけする未亡人大家の山城由美(円城)を、執拗にローアングルで狙ひ倒してタイトル・イン。以後、今作の明確な特徴として、円城ひとみが家事をするに際しては逐一ローアングルにこだはり抜く。それとタイトルに関しては、はてなマークの意味が判らない。何処からどう見るまでもなく何の疑問もなく未亡人下宿でしかないのだが、大蔵から未亡人下宿の看板で出すことに、気兼ねなり気後れしたりする業界的な何某かでもあるのであらうか。
 支度も下から抜いて、朝からワーワー騒がしい朝食。下宿の店子は十浪生!の大崎(野村)に、ex.ヤクザの山口(石部)と米田(佐々木)。二人の現職は建設業で、米田にとつて、山口は叔父貴と呼ぶ間柄。ところで新作では久ッし振りに見た佐々共は、山﨑邦紀の「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」(2009/主演:朝倉麗)以来のピンク復帰。その更に前が池島ゆたかの「デリヘル嬢 絹肌のうるほひ」(2002/脚本:五代暁子/主演:真咲紀子)につき、何か、この人は七八年周期の彗星か。そこに近所のトキワ大学に通ふ由美の娘・美由紀(橘メアリー)も加はり、食卓はますます賑やかに。一同を送り出した由美に、麻矢(扇)をリーダー格とする近所の主婦連・裕子×敬子×末子(本田裕子・米山敬子・末田スエ子の要は四人とも大体ハーセルフ)が出て行けだ何だと、狂つたやうに騒々しく、文字通り狂騒的に詰め寄る。a.k.a.空想科学少女の米山敬子は兎も角、本田裕子と末田スエ子の特定がどうにも不可能。
 配役残り何のクレジットもないまゝになかみつせいじが、六年前に死別した由美亡夫遺影。橘秀樹は、下宿巣立ち時恒例らしい由美に筆卸して貰つた元店子・野島。後述するが、ある意味最大の功労者か被害者の京野美麗は、ホステスあがりの情婦の割に事務所まで宛がはれる、トキワ大学学生部長・鮫島権造(森羅)の懐刀・金城明美。鮫島は山城家の土地に裏金塗れのトキワ大新学生寮建築を目論み、そのために、明美が麻矢らを使つて未亡人下宿を立ち退かせようとしてゐるとかいふ構図。山科薫は、鮫島の腰巾着・山岡薫。明美を貫く鮫島に大声で名前を呼ばれた山岡が、カメラ前にワセリンを差し出し大映しにした上での、連ケツは俳優部の顔ぶれも見事な名チン場面。京野美麗のバタ臭さが、清水組の空気に上手く馴染む。藪から木に竹を接ぐ不脱のあやなれいは、元ヤンで喧嘩上等の野島姉。大蔵初上陸の角田清美と生方哲と井坂敏夫に中野剣友会は、未亡人下宿に乗り込む鮫島子飼ひのトキワ大顧問弁護士(が角田清美)と、謎の武闘集団(残り)、中野剣友会の皆さんは迷彩服で登場。田山みきおと東大和に鎌ヶ谷俊太郎は、明美の事務所に踏み込む刑事。
 好評なのか今年は現時点で既に二作を発表する、清水大敬2017年第一作。監督業二十一年目にして遂に、自身初痴漢電車で新年番組新作の栄誉なるか。未亡人下宿地上げの流れが明らかとなつた時点で、予想し得る始終を1mmたりとて裏切りはしない正調娯楽映画路線と、橘メアリーの大味な体躯がスクリーンに映える由美V.S.大崎戦を筆頭に、ゴリッゴリに押して来る濡れ場は近年従来通り、濡れ場がゴリゴリしてるのは昔からか。加へて今回最も特筆すべきは、デジエク頭二本から久々に完全復活を遂げた、遂げてしまつた必ずしも清水大敬と同等の熱量を有しない者―そもそもそれだけの人間が、どれだけゐるのかといふ話ではある―にも、自らと同じテンションで猛進の“猛”が“盲”かも知れない、ワーギャー猪突猛進する芝居を要求。地力か場数で乗り越えてみせる森羅万象と山科薫に対し、二番手と主婦連女優部はある意味見事に被弾する、エキセントリックを更にどぎつくしたエギゼンドリッグ演出。とりわけ京野美麗のヒステリックぶりは無惨なのも通り越してスッ飛んだギャグの領域に突入、折角の濡れ場に至つても本来乳尻に向けられる筈の興味なんぞとうに霧消してゐる始末。ともいへそれは、あくまで枝葉のチャームポイント。拉致監禁された美由紀がコッ酷く輪姦されるシークエンスくらゐしか不足を感じさせない、全てが既成のフォーマットから逸脱しない王道展開はそれはそれとしてそれなりに矢張り鉄板。プライベートなものでも、概ね清水大敬が自分で繰り出す取つてつけてもゐない、何れにせよ余計なメッセージの不存在は全体的なスマートさを地味に増し、オーラスには主演女優から観客へ年始の挨拶まで披露してのける、いはゆる第二弾封切りの綺麗な綺麗な準正月映画である。

 追記< とか何とか与太を吹き散らかして、ゐたところ。嘘を書いては、読者諸賢に御指摘賜る当サイトの家芸発動。佐々木共輔のピンク出演を、2009年の「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」以来としたものだが、翌年の「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」(脚本・監督:山内大輔/主演:北谷静香)がある旨のコメントをキルゴア二等兵殿より頂戴した。いはれてみれば、恭輔のセンを完全に失念してゐた、粗忽の限りで面目ない。


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 「特務課の星 蜜乳コスプレ大作戦!」(2016/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:増田貴彦/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり・榮穰/照明助手:広瀬寛巳/画面作成:植田浩行/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/衣装協賛:GARAKU/小道具協力:中野貴雄/出演:星美りか・横山みれい・藤宮櫻花・ケイチャン・なかみつせいじ・竹本泰志)。
 赤いチャイナドレスの主演女優、開巻即火を噴くGARAKU(ex.ウィズ)魂。後を追ふ竹本泰志を一旦は早変りしたオレンジのジョギングパンツ姿で翻弄しつつ、続くザ・シークみたいな頭巾に巫女装束といふ正体不明の変装―占者らしい―は、貸衣装のタグがついてゐたりそもそも巫女装束が後ろ前であつたりとボロボロに見破られる。られながらも、警視庁特務課に配属された新米刑事・木更津真美(星美)に教官の浜口健吾(竹本)はコスプレ審査の第一次試験合格を与へ、続く第二次試験はハニートラップ実技。“必殺五段締め”を真美に伝授すると称し、浜口が五段階に突いてゐるやうにしか見えない絡みを経て、何が何だかか何が何でもな勢ひで二次試験も合格。真美は常識を超えた未知なる犯罪者に変装と寝技とで対抗する、特務課刑事に任命される。正義ならぬ“性戯必勝”、真美が特務課の課訓である「性戯は必ず勝つ!」を三回連呼したところで、突如浜口は自身が誰なのかも失したオネエに変貌。ポップに真美が閉口してタイトル・イン、マンガマンガしたアバンが、座付脚本家変更?の不安も吹き飛ばし絶快調に走る。
 警視庁別館の特務課、クリシェにも満たない帰国子女造形が藪蛇な特務課課長の陣内さくら(横山)は、真美に頻発する浜口同様男がオネエ化する怪事件を説明。浜口がマークしてゐた、ジョイトイ会社「OPエレクト」のセールスマン・沼田陽一(なかみつ)の捜査を命じる。ところで回数・分量とも三番手相当の横山みれいの濡れ場は、真美を奔走させてゐる間に、浜口のオネエを色仕掛けで治さうとして果たせずといふ形で処理される。
 配役残り、風間今日子が山﨑邦紀2007年第三作「変態穴覗き 草むらを嗅げ」(主演:香咲美央)以来の超復活―小川隆史の最初で最後作「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009/主演:小池絵美子)に映り込んでゐるかも知れないが―を遂げたのかと本気で見紛つたex.眞雪ゆんとかいふ藤宮櫻花は、旦那がオネエ化した隙間を沼田の訪問販売につけ込まれる内藤聡子。新宿二丁目に消えた旦那のスナップが、何故か菊嶌稔章。沼田×聡子戦はマンション管理会社委託の掃除婦コスで覗いてもとい監視した真実は、沼田が事後帰還した万保母病院―院内には永井卓爾やひろぽんがさりげなく見切れる―に今度は看護婦として潜入。ケイチャンは、元々は違法ドラッグのプッシャーであつたものが、沼田との秘薬を求めてのアフリカ放浪後、万保母病院を牛耳るマイク前島。何か獣の頭蓋骨が被りもの、大蛇を巻いた首から下は豹柄の全身タイツと、少なくとも頭蓋は中野貴雄に借りて来たに違ひないカッ飛び過ぎた扮装の怪人物。全体、この人にアフリカで何があつたのか。
 渡邊元嗣2016年第三作は、「特務課の女豹 からみつく陰謀」(2014/監督・脚本:国沢☆実/主演:伊藤りな)に、「特務課の罠 いたぶり牝囚人」(2015/脚本・監督:関根和美/主演:きみと歩実)。今のところ一年に一作づつ続いてゐる特務課シリーズ第三作にして、約二十年続いた山崎浩治とのコンビは解消したのか!?アニメ・特撮畑を主戦場とする増田貴彦が、「未来H日記 いつぱいしようよ」(2001/監督の田尻裕司と共同脚本/主演:川瀬陽太・高梨ゆきえ)以来のピンク電撃復帰を遂げた話題作。因みに増田貴彦は、渡邊元嗣次作の脚本も担当してゐる。
 男をオカマキナ~ゼ―解毒剤はノンケナ~ゼ!―でオネエ化させ、空いた女にジョイトイを売りつける。風を吹かせて桶屋を儲けさせるが如く暗躍する沼田の目的は、最終的にはジョイトイに仕込んだ高濃縮ガス爆弾を時限爆破させ女々を劇中用語ママでエマニエル化、マイク前島が酒池肉林の王国を築かうと目論むその名も東京ハーレム計画。一方、こちらも劇中用語ママで変身刑事たる真美は、観音様に蓄電したバイブの電力を放電するマミー・エレクロト・バイブレーション。何かよく判らんけど、兎にも角にもオッパイからビームを出すハニーならぬマミーフラッシュ。そして、浜口から授けられた必殺五段締めと、必勝の性戯を駆使して悪に立ち向かふ。と、なると。旦々舎よりも安定した、ナベシネマが崩れるのではなからうか。外野の至らん心配も余所に、うん、全ッ然変らないどころか更に加速してるね。デジタルの果実も嬉々と享受する、真美とマイク前島の最終決戦は星美りかの偉大なるオッパイをも超えるスペクタクルの大輪―スライド乱舞するサバンナが、光の彼方に消えるカットのカタルシスも捨て難い―を咲き誇らせ、チンコ型レバーの珍ガジェットは改めて盟友・中野貴雄とともに、ナベが娯楽映画に込めた下らなさがグルッと一周する熱く固いポリシーを叩き込む。締めの一戦は一旦コッテリと真面目に見させるか勃たせた上で、ガビーン★といふSEが聞こえて来さうなオチが軽やかに駆け抜ける。エモーション要素の絶無はひとつだけ気懸りでなくもないものの、素人のチョロい杞憂なんぞ何処吹く風、何時ものナベシネマ以上のナベシネマであつた。と同時に、逆説的にリアルな革命映画で火蓋を切り水のやうな女囚映画が続いて、今回が普段のナベシネマよりもナベシネマ。特務課シリーズが、各作バラエティに富んでゐて案外面白い。何時か特務課が、慰安旅行で伊豆に行かねえかな。清水大敬に任せると、特務課が鮫島組を壊滅させる頂上作戦か、他愛ない与太が尽きない。

 断じて忘れてならないのは、必殺五段締めを被弾、一段締め毎に悶絶する、ケイチャン(ex.けーすけ)のパ行を多用する愉快奇怪な悲鳴込みのエクストリーム顔芸。五段締めよりも、寧ろこのメソッドが必殺に思へる。


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