真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「三次元透視 SEXウルトラアイ」(昭和59/製作:ハリマ企業らしい/配給:株式会社にっかつの筈/監督:吉岡昌和《第一回作品》/製作:吉岡昌和/製作補:関孝二/監督補:石部肇/撮影:高井戸明/照明:山口一/編集:酒井正次/録音:銀座サウンド/効果:東芸音響/現像:東映化工/スチール:橋本勝成⦅姫路銀影写房⦆/出演:河井憂樹・田代葉子・榮雅美・南条碧・吉岡和子・風見玲香・久保新二・螢雪次朗・立川与之助・堺勝朗)。出演者中、榮雅美と螢雪次朗に立川与之助が、ポスターでは栄雅美と螢雪次郎に立川与ノ助。これが世之介だと2代目快楽亭ブラックの、十一番目の名義にあたる。あとポスターには吉岡昌和と関孝子の共同とされる、脚本クレジットが豪快にも脱けてゐるのは本篇ママ、大体誰なんだ孝子。
 左から右に画面を横切る山陽新幹線にのんびり二十秒回して、カメラが寄つた先は「アナノ産婦人科医院」。オッパイも露に横たはる患者を、院長の穴野助平(堺)が適当に診察、傍らには配偶者の婦長(吉岡)も控へる。ゼロ親等なのか一親等なのかはたまた二親等なのか、特定はしかねるが恐らく、和子は昌和の親族なのではなからうか。それはさて措き全体何故、別に脱ぎもしなければ脱いで呉れなくて構はない、吉岡和子のビリングが風見玲香よりひとつ高い。閑話休題、診察に訪れたラウンジ「キング」のママ・マコ(榮)に穴野は自身の発明による、頑なに名前が呼ばれないゆゑ、あくまで仮称の「ウルトラアイ」を剥ける、もとい向ける。このウルトラアイ、見た目的には真黒の大ぶりな手持ち眼鏡のやうな代物で、カメラのシャッター的に釦を押すと人が着てゐる衣服が透けて見えるはおろか、体内まで覗ける大概なトンデモ・ガジェット。斯くもひみつな道具が説明を一切スッ飛ばした正真正銘のデフォルトで存在してゐる、とかく愉快か底の抜けた世界観ではある。とまれ三次元透視描写を、関孝二の考案にさうゐない要はシースルーを着させた女優部を普通に撮影する、コロンブスの卵感あふれるフィジカル特撮が案外画期的。踏襲した、前例が既にあつた可能性も否定出来ないが。待合室で雑誌を読んでゐる女の、何気でなく見事な爆乳もウルトラアイで拝みつつ、出し抜けに水面を駆ける、吉岡昌和所有の船舶に決まつてゐるクルーザー「KAZU Ⅶ」号に、藪から棒なゴーゴー音楽鳴らしてタイトル・イン。夜の女にしか見えない派手派手しいその他看護婦と、待合室にもう一人。不脱のアバン部はまだしも、裸要員二名のノンクレには不遇の誹りも免れ得まい。
 配役残り、早くね?といふ直截な疑問に対する回答としては、手短に掻い摘むほどの物語も特にないんだな、これが。久保新二と螢雪次朗は、穴野の、劇中本当に遊んでばかりの放蕩息子・のり平と、のり平の先輩にあたる内科の研修医・謙、苗字不詳。先輩後輩とはいへ、この二人実は同い歳。田代葉子と南条碧はともにキングのホステスで、謙と男女の仲にあるミヤと、プレスシートでも参照したのか、役名併記のjmdbにはエミとされる、ものの。どうも久保チンが、カオルと呼んでゐるやうに聞こえるのは気の所為かしら。風見玲香と立川与之助は、是が非でもミヤと一戦交へたいのり平の切望で、四人で入つたラブホテル「さくら」の、隣室で膣痙攣に陥るカップル。ほんでビリング頭にして前半温存される河井憂樹が、田舎を飛び出して来たキングの新人ホステス・さなえ。のり平がミヤにフラれたタイミングで唐突にラウドな選曲起動、酔ふと裸になるとかいふ底の抜けた方便で、脱ぎだしたさなえがいきなり半裸で踊り始めるファースト・カットの無造作さが、要は全篇を支配する最も顕著な特徴。その他キング店内に現地調達したと思しき、客と店員込みで十指に余る人数が投入される。
 今作の十九年後、平成15年(2003)には旭日双光章を受勲してゐる旨石動三六が辿り着いた、姫路の名士・吉岡昌和の栄えある第一回監督作品。次があんのかといふツッコミに対しては、あるんだよ、それが。吉岡昌和の第二回より風かおるの引退作がなほ重要な、凄まじいタイトルの「毛剃り魔」(1989/新東宝)、デビルに魂を売つてでも見たい。と、いふか。nfajがプリント持つてゐるぞ、チャンスが決してなくもない。そ、して。シネポは吉本昌弘と混同してゐる吉岡昌和の、確認し得る最古の量産型裸映画参加が何と、こゝから全てが始まつた山本晋也昭和50年全十八作中第八作、記念すべき無印「痴漢電車」(脚本:山田勉=山本晋也/主演:月丘恵子)の企画・製作。となると歴史の重要な一翼を、人知れず担つてゐたりもする御仁ではある。「毛剃り魔」に話を戻すが、「ケゾリマ」、片仮名で書くと何かイタリアら辺のアート映画みたいだ。
 しかも市井の町医者が発明した、原理の全く謎なクレヤボヤンス装置。なるゴキゲンな機軸を繰り出す、のみならず。公開題にまで賑々しく謳つておきながら、ウルトラアイが展開の主軸を成す訳でもなく。偶発的に女の裸を他愛なく覗いてみるか、そもそも映りから悪くて何がどうなつてゐるのかよく判らない、膣内―模型の―映像で茶も濁し損なふのが精々関の山。足首が細いだの口元に黒子があるだの、人相占ひにのり平が浮足立つ、名器狂騒曲に概ね終始する。カオルぽいエミと話を聞いたマコも、のり平の巨根に色めきたつ。一言で片づけると、兎にも角にも雑な映画で事済む、ともいへ。果たして何が禍したか致命傷を探し始めたが最後、逆にいゝところが一欠片も見つからないある意味壮絶な有様につき、途端に途方に暮れる。背景に姫路城を抜く以外の意図が見当たらない、間の抜けた構図のロングに関しては伊豆ならぬ姫路、御当地映画ならではの清々しさに免じ、寧ろ言祝いでみせるのも一興。なのかも知れない、なのかなあ、自信はまるでないけれど。六日の明くる日は七日、何でも脊髄で折り返して与太を吹くな。
 土台クレジットに於いて、自分の名前だけ頓珍漢な丸ゴシックで差別化を図つてのける、凄惨なセンスから既にチェックメイトの明らかな有様といふかザマなのだが、とかくぞんざいな繋ぎと、点々と打つた点が終に線を成さない、場当たり的な展開。ネタなりメソッドの陳腐さ以前に、会話のテンポはへべれけで、カット割りのリズムも生理的な不快感さへ覚えかねないレベルでぎこちない。風見玲香とex.桂サンQの危機に、のり平が「さくら」に父親を呼ばうとする件。電話口でワチャワチャ大騒ぎする久保チンの背後の、田代葉子と南条碧にも頼むから少しは芝居をつけて呉れ。映画のフレームの中に、手持ち無沙汰なんて見たかないんだよ。劇映画に開いた穴と、裸映画を散らかす粗。宛がはれた白痴造形に主演女優が後ろから撃たれる、率直なところポイントゲッター不在の女優部といふ評価については、百歩譲つて議論ないし嗜好の分れる点にせよ。濡れ場に入れば入つたで、順調にモタつくか躓いてみせるのが逆の意味で隙がない。下手に寄りすぎたかと思へば、今度は乳尻を外す始末。確実におかしな手持ちの画角が、逐一もどかしくてもどかしくて仕方ない。常々思ふのが女の裸を下手に狙ふくらゐなら、思ひきり馬鹿正直に真正面から撮つて欲しい、些末か煩瑣な映画的顕示なんぞ不要である。どうせ吉岡昌和の豪邸で撮影した、穴野家屋上にて観光、もとい敢行される穴野とマコの豪快な青姦。姫路民であればもしかしたらイケる、上つてゐるのか下つてゐるのか景色で判別つけ難い、新幹線が行くのと穴野がイクのを同期させる、こゝは手放しに画期的な“新幹線イキ”シークエンスこそ、的確に引いて十全に見せるべきではなかつたか。所々で俳優部の顔に、照明が満足に当たつてゐない不調法な画も散見される。本職照明部の、石部肇が監督補で名前を連ねてゐるにも関らず。クライマックスは相変らず四人の乱交目的で、のり平が無断で拝借した「KAZU Ⅶ」を、マコと愛艇逢瀬に繰り出すつもりの穴野が、係留所で盗んだ小型ボートで追ひ駆ける、盗人の親も盗人か。穴野らも「KAZU Ⅶ」に合流する形で、怒涛の六人バトルロイヤルに雪崩れ込、めばよかつたのに。延々水上チェイスした末に、結局そのまゝ二艘の舟が瀬戸内海の藻屑と消える別の意味で驚愕のラストには、尻子玉を摘出されるかと思つた、沈んでねえ。強ひて渾身のポリアニズム―愛少女的加点法の意―を振り絞るならば、現場で石部肇に舵を任せるでなく、本当に吉岡昌和が撮つてゐたのね、多分。


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