【巴川の流れのように】

【巴川の流れのように】
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2005 年 10 月 18 日の日記再掲

美空ひばりの『川の流れのように』を初めて聞いたのは山形県社協が主催した障害者月山登山に飛び入り参加した帰りの貸し切りバス内だった。

山交バスの若い女性ガイドが 1 泊 2 日の登山にも泊まりがけで参加し、疲れ果てた顔をして夕暮れの山道で歌ってくれたのだが、なかなか感動的であり覚えやすかったのでその後カラオケに誘われるたびに歌っていた。

大正橋の上から見た藻
DATA:SONY Cyber-shot DSC-F88

何度歌ったか知れないその歌を清水のカラオケでは歌ったことがない。清水の街で「 ♪ あぁ~あ~~川の流れのよぉ~~にぃ~~……」
と口ずさむと巴川を思い浮かべてしまうのであり、その巴川には必ず大きな藻の塊が浮いている。

幼い頃、雨が降って増水した巴川の土手に立つと藻の塊が上流から流れて来た。どこからどのような仕組みで供給されるのかは知らないけれど、今も変わらず雨が降ると巴川には藻の塊が盛大に流れてくるのであり、おそらく太古の昔から雨が降るたびに夥しい量の藻の塊が流れていたのだろう。

港橋の上から見た藻
DATA:SONY Cyber-shot DSC-F88

   ***

昔々、おばあさんが巴川で洗濯をしていると上流から大きな藻の塊が流れてきました。誰も気にとめもしないやくたいもない物になぜか興味を持ってしまうのがおばあさんの愛すべき性格で、今日も今日とてその大きな藻の塊を拾い上げてえっちらおっちら家まで担いで帰りました。

おじいさんは「(わっ、まーたやくてゃあもねゃあもんをひろってきただか)」と一瞬思いましたが、なぜかそんなおばあさんが大好きなのが不思議です。
「おじいさん、おじいさん、雨ん降るたんびにこんな大きな藻の塊ん流れてくるだけえが、いったいぜんたいどけえとこんな藻ん生えててどんなあんびゃあでもって流れてくるずら?」

おばあさんの好奇心旺盛なクリクリした瞳を見ているとおじいさんは何でも教えてあげたくなるほど愛おしいのですが、ちょっと答えに困ったので話題をそらすように
「おや、この藻の真ん中へんに絡まってるのはなんずら?」
と言い、おばあさんも
「おや、なんずらねえ?」
と言いながら二人で力を合わせてかき分けて見ると中から小さな女の赤ちゃんが出てきました。
「も、も、も、藻藻子っ!」

藻から生まれた赤ちゃんは藻藻子と名付けられて大切に育てられ、やがて有名な脱力系漫画家になりましたとさ。

   ***

大好きな巴川が映像として思い浮かぶなら良い気もするが、なぜか清水の街で
「 ♪ あ~あ~~川の流れのよ~~に~~……」
と口ずさむと巴川を緩やかに流れゆく大きな藻の塊が思い浮かんで妙に力が抜けて盛り上がれないのである。

今月に入って東京も清水も雨降りが続き、帰京して橋の上から覗き込んだらやっぱりたくさんの藻の塊が流れている。橋の上に立ち止まって藻の塊を眺めながらシャッターを押していたら「♪あぁ~あ~~」とやっぱりあの歌がやるせなく口をついて出た。

伝言板で巴川を流れてくる藻はアナカリス(オオカナダモ)ではないかと教えていただいた。実験材料として輸入された物が逃げ出して世界各地でも大繁殖し、この現象は《水のペスト》などとも言われているという。日本に帰化して大繁殖が始まったのは大正時代だと言うから僕が幼い頃見たのもやはりアナカリスだったのかも知れない。

【巴川ダイブ】

阪神タイガースが優勝を決め、昨夜は千葉ロッテマリーンズが 31 年振りの優勝を決めた。

今年は道頓堀川への飛び込みを抑止しようとする取り組みのニュースを見た気がするが、猛虎ファンの飛び込みはあったのだろうか。

清水の友人たちと飲んだら、毎年祭りになると巴川に飛び込むおだっくいが一人くらいはいるらしい。巴川を相当愛していなければできないことで、郷土愛、自然愛、環境愛の証に飛び込むとしたら自分はどの橋を選ぶだろう……と真剣に悩んだ清水っ子は多い……かどうかは知らない。

羽衣橋はどうかというと海に近くて深そうで何となくイヤ!、港橋はちょっといいかなと思うけど家から遠いし、富士見橋はちょっと夜になると寂しいし、八千代橋は橋が真新しいので気恥ずかしいし、萬世橋は思い出を汚したくないし、千歳橋は役所に近すぎるし、大正橋は電車や汽車がうるさいし、柳橋は玉川楼の府川さんに笑われそうだし……とあれこれ屁理屈をこねて逃げながら川を遡り、まぁ幼い頃から馴染み深い稚児橋からなら飛び込んでもいいかな……と思って川面を見たら稚児橋の両岸近くは相当に浅い。

写真上:巴川稚児橋東岸
写真下:巴川稚児橋西岸
Data:SONY Cyber-shot DSC-F88

頭から飛び込んだら死ぬ可能性があるし、足から飛び込んだら骨折くらいするかも知れない。

飛び込むつもりにならなければ見えてこない現実が世の中にはたくさんあるので、川に限らず飛び込むつもりになっての下調べは大切だ。

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