オーバースペック


Z7 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

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高校時代の同窓生に、大手メーカーでデジタルアンプICのデジタル回路の設計をしていた人がいる。
その友人にFacebookでいろいろ話を聞いた。
やはり持つべきものは友で、いろいろ興味深い話を教えていただけた。

要約すると以下のようになる。
(ご本人には掲載を承諾済み)

ハイレゾのデジタル入力からデジタル信号処理して全ての情報をパルス信号に変換すると、時間軸分解能が足りなくて、結局一度アナログに変換してから再度パルス信号に変換するしかなかった。
それこそGHzクラスのクロックが必要になり、またその精度でスピーカー負荷をスイッチングできる素子も実現は難しいという理由。
そのため、スピーカーをデジタル駆動する上ではハイレゾ音源は完全にオーバースペックということになる。
論理的には高精度DAコンバーターでアナログに戻してから、高級アンプで鳴らした方が、ハイレゾの情報を余さず使えることになるが、必ずしもその方が音が良いとならないところがオーディオの難しいところ。

一口にハイレゾと括ってしまうと、単位時間当たりの情報量を最終的に1bitのパルスで表現するにはもの凄く高いクロックが必要になってしまう。
でも録音の時に量子化ビット数は16のままで、サンプリング周波数を96とか192に上げていく事の意味はあると思う。
もちろん収録するマイクが80kHzとか160kHzまで拾えるという条件付きだが、これも実は結構難問。
要は192kHzで32bitとかいうと完全にオーバースペックになるという事。

フルデジタル処理の場合、ボリュームコントロールもデジタルということになるが、ここでも問題がある。
デジタル的にボリュームを下げるということは、データの下位の情報を捨てることになる。
全くデータを捨てないでスピーカーを駆動した時の音量が耳にちょうど良いようにアンプの駆動電圧が設定されていればいいが、一般的にどんなアンプも「こんなでかい音出さないよ!」というくらい大音量が出るような設定になっているので、普通に聴くボリューム設定の場合、デジタルでアッテネートされて下位の情報が捨てられている。
デジタルアッテネートではなく、最終駆動段の電圧を変える事でボリューム調整すればいいが、それはそれで最終段の回路が難しくなってしまう。

またデジタルアンプの場合、デジタルフィルターで結構音が変わると思う。
どのタイプのデジタルフィルターか、フィルターの次数などで特性もかなり変えられる。
デジタルフィルターICの仕様書を見ていると、いくつかフィルター特性が仕込んであって、設定で切り替えられるようになっているものもある。
FIRというタイプのフィルターは通過帯域の振幅をフラットに保つ上では優秀だが、インパルス信号を再生するとパルスがいくつもできてしまうという欠点がある。
(正弦波を再生している時はほぼ出ないが、パルスでは顕著に出て、打楽器や弦楽器を弾く音などに影響が出ると思われる)
でもいま世の中にあるオーディオプレーヤーやデジタルアンプに入っているのはほとんどこのタイプ。
これを嫌ってIIRというデジタルフィルターを使う製品もいくつかある。
アナログの方が音が良いと言っている人たちは、このFIRの音を直感的に嫌っている可能性がある。

フルデジタルが出来ないわけではないが、ハイレゾデータの持つ全ての情報を捨てることなくフルデジタルで実現するのは今の技術では難しいということ。
将来的にスピーカーコイルをGHzの周波数精度でスイッチングできるようになれば、一応実現可能ではある。
現状はデータを捨ててはいるが、一応フルデジタルは出来ている、という状態。

・・・以上のような内容。
デジタルアンプなるものが出てずいぶん経つのに、なぜフルデジタルに簡単にいけなかったのかが何となく分かった。
現状のハードウエアでは、音源の持つ品質を完全には再現できない、ということなのだろう。

とはいえ、たとえば高解像度のカメラの画像は、リサイズしてピクセル数を少なくしても、解像度の低いカメラの画像より繊細に見える。(気のせいかもしれないが・笑)
音源のすべての情報を再現できなくても、スペックが上がることで、再生音に何らかの影響は出ているように感じる。
その辺の不思議さが、人がオーディオの世界に夢中になる理由なのであろう。
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