ひと時の休息


D810 + Carl Zeiss Otus 1.4/55 ZF.2

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今日は久しぶりにのんびりした。
朝も遅く起きて、昼過ぎにいつもの散歩に出た。
カメラは持たず軽装である。
ほどほどに楽しんで、早めに帰宅した。
来週からまた大変な日々が待っているのだ。
今日はひと時の休息である。



オールデンのフットバランスラインの543ショートウイングチップ・ブルーチャー。
モディファイド・ラスト。
サイズは7EE。

前回に引き続き手に入れた貴重な幅広のモディファイド・ラストである。
90年代のデッドストック。
ご想像の通り、前回と同じお店で入手した。
遠いところにあるので、滅多に行けないお店である(笑)
ウイングチップとモディファイドラストの組み合わせは、前回のアルゴンキン(2016年4月15日の日記)と並び、オールデンの中では最良のデザインのひとつと言えるだろう。

ロングウイングチップが好きなことを度々書いているが、モディファイド・ラストのロングウイングチップに関しては、デザイン上いまひとつしっくりこないと思っていた。(バーニーズニューヨークのオールデン別注品を持っている。2014年10月19日の日記
小指の根元が大きく湾曲したこのラストのデザインでは、後方にストレートに伸びたロングウイングチップだと、靴全体がひしゃげて見えるのだ。
その点このショートウイングチップだと、張り出した部分が分割されたひとつのパーツに見えて収まりがいい。
まあ、ロングウイングチップの靴を買いすぎて、少々飽きていたとも言えるのだが・・・(笑)



サイズは7のEEである。
前回のアルゴンキンは6のEEEで、僕の足にほぼ完璧なフィッティングを見せてくれた。
今回の7EEは、計算上もそうなるが、少しルーズフィットである。
指先の捨て寸も大きめで、やんわりと履く感じになる。
アルゴンキンの時のような、足に吸い付くような精密なフィッティングとは、また違った感触である。

実は先月お店を訪問しアルゴンキンを購入した際、他にもどちらを買おうか迷った靴が複数あった。
今回はそれを・・と思っていたが、この1ヶ月の間に売れてしまったのだ。
意外に回転が早いことに驚いた。
残念であるが、これも縁なので仕方がない。
やはり古靴は一期一会で、見付けたらその場で確保しないと、二度とめぐり合うことはできない。

それで今回はこの543を持ち帰ることにした。
ルーズフィットではあるが、ワイズDのモディファイドと比べれば、十分に素晴らしいフィッティングである。
もっとも手に取った瞬間、この靴のデザインから発せられるオーラに魅了されてしまったというのが本音である。
実は他にもいいフィッティングの靴が新たに入っていたのだが、543の美しいデザインを見てしまったら、そちらで頭がいっぱいになってしまった。
仮に前回買えなかったモデルが残っていたとしても、こちらを選んだであろう。



オールデンの製品は、ニューイングランドとフットバランスのふたつのラインに分かれる。
ニューイングランドというのは、デザインを優先させて作られた通常の「紳士靴」のラインである。
一方のフットバランスは、元来は医療用を目的として作られた、いわゆるオーソペディックシューズ(整形外科靴)のラインである。

海外では医療用の靴の開発が盛んで、特に米国では足の専門医が興した靴メーカーも多い。
オールデンもその分野で有名で、今でも通常の靴店向けとは別に、オーソペディックシューズの専門店向けに、フットバランス系列の製品を卸している。
そちらは専門知識を持った人が、ユーザーごとに入念にフィッティングして、「患者」にベストの形状を選ぶのだ。
そのためフットバランスラインのモデルは、一般店では販売されていない。
あちらで聞いても、あれは病人用だという人が多いという。

本来オーソペディックシューズとして開発されたモディファイド・ラストであるが、その独特のデザインと他にない履きやすさに目をつけたのが、今や伝説となっているアナトミカのピエール・フルニエ氏で、このラストを使用した一般向けの紳士靴の製造を依頼したというわけだ。
恐らくオールデンでも最初は(もしかすると今でも)その依頼に戸惑ったことであろう。
モディファイド・ラストの独特の履き心地は日本でも人気で、現在では日本の正規代理店を通した製品もこのラスト一色になっている。

ここで留意すべきは、一般向けのニューイングランドのラインは、意識してデザイン優先で作られているということだ。
あくまで脚の疾患への対応を優先したのがフットバランスのラインであり、見た目に格好がよくファッション性が高いのはニューイングランドのラインであると、恐らくオールデンでも思っている。
たまたまユニークで個性的な形状のモディファイド・ラストには、紳士靴として使用しても独特の魅力があった。
しかし靴というものはファッションアイテムであり、履きやすさを少々犠牲にしても、デザインがよくなくては意味が無いと、一般の人は考えているということである。



一度自分の足に完全に合ったモディファイドのフィッティングを経験すると、他のラストの靴がすべて「合っていない」ように思えてくる。
当初はオールデンではベストと思っていたバリー・ラストの靴が、じっくり見直してみるとあちこちが当たっているのがわかり、ただの箱に足を入れているように感じられるようになってしまった。
バリー・ラストの良さは、ドーンという迫力と安定感のあるその外観にあるということだろう。
もちろんバリー・ラストの靴を履かなくなったわけではない。
ただモディファイド・ラストの吸い付くような履き心地は、他のラストとはまったく異なるものであるということだ。

90年代の製品だけあり、現在のものよりアッパーの革質がいい。
しっとりとしたオイルレザー的な手触りのカーフである。
いわゆるバーガンディカラーで、太陽光が当たると赤みが強まって見える。
ブラッシングするだけで艶やかになり、ワックスによる鏡面仕上げも容易に仕上がる。

履き始めからストレスのほとんど感じられない、非常に楽なフィッティングである。
遊びの少ないビシッとした履き心地の6EEEのアルゴンキンと比べると、少し手綱を緩めたような感触である。
しかし、モディファイド・ラストならではのしなやかな包まれ感は、十分に感じられる。
甲革の裏側に布地が張られており柔らかいのも、このしなやかさに貢献しているようだ。

気に入った靴の場合によくやるのだが、おろした日から数日間連続して履いてみて、そのフィッティングを楽しんだ。
ルーズといっても羽根はきれいに開き、デザインが抜群でとにかくカッコいい。
日光を浴びて赤みを増したアッパーが実に美しい。
足元を見るたびに、思わず頬が緩んだ(笑)
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