会話


D4 + AF-S NIKKOR 24mm f/1.4G ED

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会社の帰り道、歩道を歩いていると、少し前を犬を連れた男性が歩いていた。
大き目の雑種の日本の犬だ。
穏やかな顔をした犬で、嬉しそうに舌を出しながら歩いている。
ご主人との散歩が好きなのだろう。

以前僕が飼っていた犬によく似ている。
僕の好きなタイプの犬だ。

犬の後ろを並行して歩いていたが、そっと話しかけてみることにした。
犬の鳴き声を真似すると、ご主人にも気付かれてしまう。
そこでカエル語で話すことにした。

僕はカエル語が話せるのだ。
カエル語なら口を開かないで、音だけ出すことも出来る。
口を尖らせて音の指向性を高め、犬にだけ聞こえるように小さく鳴いてみた。
舌を丸めて2、3度鳴くと、犬が気付いてこちらを振り返った。

犬は僕を見て驚いた顔をして、振り返ったままの体勢でしばらく歩いていた。
僕がもう一度カエル語で鳴くと、犬は困ったような顔をしてむこうを向いてしまった。
人間が変な言葉で話すので、どう対応したらいいのか、わからないようだ。

僕は犬の後ろから、さらにカエル語で話しかけた。
犬は前を向いたままだったが、耳だけが傾いて後方を向いた。
無視するふりをしながら、その実、気になって仕方がないようだ。

しつこくカエル語で話しかけると、犬は困惑した表情でまたこちらを見た。
ここぞとばかり、僕は愛想笑いをしながら、カエルの言葉を投げかける。
犬はあきれたように見ていたが、またプイと前を向いてしまった。

それきり、どんなに話しかけても、犬はこちらを向いてくれない。
ご主人は、そんなことには全く気付かず、散歩を続けている。
犬と僕だけの間の会話だ。

やがて自宅の前にさしかかった。
僕はマンションの入り口の方向へさっと曲がった。
犬が「あれ?」という顔をして、こちらを向いたのが一瞬見えた。
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