タクシー


LEICA X1

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街に出るためにタクシーを呼んだ。
ホテルの前に着いたタクシーの運転手は、窓を通しぼんやりと薄い影のように見えた。
体つきが妙に華奢だが、頭はボサボサの髪に覆われているようだ。

座席に乗り込むと、やはり女性らしいことがわかった。
顔は長髪に隠れ半分しか見えず、真っ白な肌に血のように鮮やかな赤い唇が浮き立つ。
毛足の長い犬のように、目は髪に覆われた暗闇の中で光っている。
表情がまったくわからない。

行き先を告げると、抑揚のない声ではいと答える。
そして走り出しながら、白く細い指にやはり白い手袋を被せた。
シートは極端に前に寄せてあり、リアシートの足元には広い空間が空いている。

この人、本当に人間なんだろうか・・と失礼ながら感じた。
雰囲気が、何だか人間離れしている。
タクシーでお化けに遭遇し、それも運転しているなんてしゃれにならない。
無言の時間が薄気味悪い。

運転に注目する。
案外・・というか、かなり上手い。
実にスムースに狭い道を抜けていく。
もしかしたら、シートを前に寄せているのは、カウンターを当てやすいためだろうかと本気で思った。

目的地に着いておつりをもらう時、初めて顔を見た。
中年のきれいな女性であった。
2、3言葉を交わす。
手袋を外した手から小銭を受け取った時、触れた指が意外にも暖かかった。
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