なっちゃん


D3X + Carl Zeiss Distagon T* 21mm F2.8 ZF

大きな写真

幼稚園に通っていた頃、なっちゃんという女の子が隣に住んでいた。
たしか僕よりひとつかふたつ、年下だった。
夏美・・という名前だったろうか?

なっちゃんのお母さんが、僕の家で働いていたこともあり、僕はなっちゃんとよく遊んだ。
そら豆のような形の顔をした女の子で、何かと言うとすぐにべそをかいた。

僕はなっちゃんといっしょに幼稚園に通った。
引率の先生がついて、二列になって道を歩く。
なっちゃんはいつも僕の隣を歩いていた。

ある日、なっちゃんに「目をつむって歩ける?」と聞いてみた。
なっちゃんは歩ける・・と答えて、すぐにやってみせた。
そして、そのまま道の脇のどぶの中に、横倒しになって落ちた。

当時は、暗渠化されていないけっこうな幅のどぶが、道の横を流れていた。
少しどん臭いタイプだったなっちゃんは、足を踏み外し、目をつむったままその中にまともに倒れていった。
水しぶきが四方に飛び散るのが、スローモーションのように見えた。
そのシーンが、40年以上経った今も目に焼きついている。

水浸しになったなっちゃんは、当然のように大声で泣きまくった。
その後数分間の騒ぎは記憶から失われているが、なっちゃんのお母さんがいる僕の家まで、引率の先生が連れて行ったのだろう。
記憶は、なっちゃんのお母さんが、泣きじゃくるなっちゃんの両肩を掴み、問い詰めている場面に飛ぶ。

一体どうしてこんな馬鹿なことをしたの!と問われたなっちゃんは、オイオイと泣きながら、僕の方を指差した。
僕が目をつむって歩けるかと言った・・そういいつけているのが聞こえた。
顔色を変えた僕の母親が、今度は僕の肩を掴んだ。
もちろんその後、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。

先日母親と話していて、その時の思い出を話したが、母親は良く覚えていないという。
ただなっちゃんのことを、何かというとすぐに泣く子だった・・と回想した。

なっちゃんはその後千葉の方に引っ越して行った。
以降の消息はまったくわからない。
今45歳くらいのはずだが、多分二度と会うことは出来ないのだろう。
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