ノーカントリー


いつもネタばれにならないよう気をつけて書いている。
しかしこの映画の場合、見る前になるべく知識をつけない方がいいかもしれない。
白紙の状態で見たい人は、以下を読まない方がいいと思う。


アカデミー賞主要4部門を受賞した話題の映画。
早速近所のシネコンに見に行ってきた。

ストーリーは非常に単純でわかりやすい。
舞台は1980年代のテキサス。
ベトナム帰りのルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)が、荒野でひとりハンティングを楽しんでいると、麻薬取引に関するトラブルで撃ち合いのあった現場に行き当たる。
死体だらけの中に大金を見つけたモスは、ちゃっかりそれをいただいてしまう。
しかしそれが彼の運命を変えた。
組織に雇われて追ってきた殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)は怪物のような殺人鬼。
事件のほぼ全容を知るエド・トム・ベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)は、モスを助けようと動くが・・・

このストーリーがそのまま進んだら、典型的なアクション映画になってしまい、オスカーを取るほどの作品に仕上げるのは厳しいだろう。
ところがモスと殺し屋シガーの戦いが実に丁寧に描かれており、非常に見応えがあるため、この後どうなるのだろうと、見るものにそうとうの期待を抱かせる。

中でも殺し屋シガーのキャラクターは傑出しており、独自の価値観に基づいて冷徹に動く、まるで悪魔のような絶対的存在の人物。
自分と何らかの接触を持った人物を、それが一般の人であろうとなかろうと、容赦なく全員殺してしまう。
一方逃げるモスの方もなかなかの実力と頭脳を持つ人物で、戦争の殺し合いの中をくぐり抜けた者特有の行動力を持っており、シガーの凄まじい追撃を何とかかわしてみせる。
この二人の戦いは抜群に面白い。
ペキンパーを思わせる演出は、当時のテキサスの雰囲気を生々しいほどに感じさせる。

ところがそれが実は観客を陥れる罠なのである。
これはいうなれば観客の心理をもてあそぶような作品だ。
わかりやすいストーリーが、いきなり難解なものへと変わる。

これは小説的な展開をする作品といえる。
映画の公式をぶち壊しており、ある意味革新的ともいえるだろう。
しかし、こういう演出のやり方が「あり」だというならば、それこそ何でもありになってしまうのも事実だ。
観客は狐につままれたような気分になり、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で劇場から出てくる(笑)

たしかに非常にユニークで見事な作品である。
だがこのやり方を何度も続けられては堪らない。
出来れば今回限りにして欲しいと思う(笑)

正直言うと正攻法でストーリーを進めた作品も見てみたかった。
原作通りだとはいえ、この映画の製作は、一種の賭けであったような気もする。
結果はご存知の通り、ラッキーコインだったわけだが・・・

ところでトミー・リー・ジョーンズはミスキャストではないか?
(1980年代の時点で)時代の変化に取り残されつつある彼ら年配者たちのぼやきが、実は映画のテーマになっている。
しかし保安官の心理描写が不十分だし、何よりトミー・リー・ジョーンズは存在感がありすぎる。
彼なら何かやってのけなければおかしい・・という思いが残ってしまう。
その違和感が狙いと言われればそれまでなのだが・・・

Mrs.COLKIDの評価
「私はアメリカ人ではないので、この映画はよくわからない」(笑)
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