酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

2000Xを穿つ音~PANTAいう名の予言者

2007-10-23 01:07:19 | 音楽
 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン来日公演の先行予約を申し込んだ。果たしてチケットをゲットできるだろうか。

 <レイジこそ世界で最もラディカルかつ知的なロッカー>……。この「常識」を覆す可能性があるとしたら、PANTAをおいて他にいない。横軸(同時性)と縦軸(歴史)を見据えるスケールの大きさ、虐げられし者への共感、揺るぎない意志、狂おしいまでのリリシズム……。PANTAで連想するのは、船戸与一の小説世界だ。

 頭脳警察(72~75年)、PANTA&HAL(79~80年)、ソロ(76~78年、81年~現在)と、PANTAは常に問題作を世に問うてきた。響として発表した最新作「オリーブの木の下で」は重信母娘とのコラボで、パレスチナと日本の絆をテーマに掲げていた(9月5日の稿)。

 <(業田は)何か(神か悪魔?)に憑かれて書かされていたのだろうな>……。これは「BSマンガ夜話」が「自虐の詩」を取り上げた際、いしかわじゅん氏が語った印象的な言葉である。PANTAにも神懸かり、悪魔憑きの時期があった。鈴木慶一がプロデュースしたPANTA&HAL時代の「マラッカ」(79年)と「1980X」(80年)は、コンセプトもサウンド面も世界の最先端を走っていた。

 「マラッカ」のテーマは石油に死命を制せられた日本の在り方で、現在においてもテロ特措法を議論する前提になっている。「さようなら世界夫人よ」に匹敵するバラード「裸にされた街」、マーク・ボラン追悼の「極楽鳥」、官能的な「ココヘッド」、「ネフードの風」など、収録曲のクオリティーは今日も褪せることはない。

 舞台を中東から東京に移したのが「1980X」で、タイトル中の「X」は<天皇の死=Xデー>のメタファーだ。研ぎ澄まされた音と言葉に袈裟斬られ、血が迸り出たような感覚に襲われる。絶望的な孤独を歌った「トウ・シューズ」、ストーカーを予言した「モータードライブ」、Xデーを想定した「臨時ニュース」、試験管ベビーに触発された「ルイーズ」、カード社会におけるアイデンティティー喪失を表現した「IDカード」と続き、テンションが途切れない。

 ♪アメ横でやっと手に入れた 気に入りのナイフが 狂った手許をはじき返す午後の街角 排ガスまみれのグリーンベルトに 投げ捨てられたナイフ……。このフレーズが締めくくる「ナイフ」では、衝動殺人者の心理を抉っている。「1980X」は「2000X」に照準を定めた予言集といえるだろう。

 初期Tレックスにインスパイアされた? 頭脳警察は、精神もスタイルもパンクの先駆けだった。1980年3月に発表された「1980X」をニューウェーヴ的と評するのは、歴史を無視した戯言である。キュアーの2ndアルバム「セブンティーン・セコンズ」は80年8月、エコー&ザ・バニーメンの1st「クロコダイルズ」は同年7月、ニュー・オーダーとデペッシュ・モードの1stはともに81年11月……。ニューウェーヴの主要バンドが形を整える前に、PANTAはUK勢に先行してニューウェーヴ的な音を奏でていた。PANTAは優れたサウンドクリエイターでもある。

 本稿を読んだ方は、「マラッカ」と「1980X」を併せて聴いてほしい。<PANTAこそ世界で最もラディカルかつ知的なロッカー>と確信されることを保証する。


コメント (2)
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