A級順位戦最終局で藤井聡太5冠が稲葉陽八段を破り、菅井竜也八段を下した広瀬章人八段と名人位挑戦を懸けてプレーオフで戦う。藤井は現在、先手番で28連勝中だから、最年少名人に向けた一局は振り駒にも注目だ。竜王、王位を1期ずつ獲得した広瀬も充実期を迎えており、竜王戦の雪辱に気合が入っているはずだ。8日の対局を心待ちにしている。
WOWOWの人気ジャンルの一つは北欧ミステリーだ。ドラマは素通りしているが、同局でオンエアされたデンマーク発のサスペンス映画「特捜部Q」シリーズ(全5作)をまとめて見た。人間の闇と深淵に迫る内容で、ユッシ・エーズラ・オールスンの原作は世界中でベストセラーになっている。
北欧といってもスウェーデン発の「逆転のトライアングル」(2022年)を新宿で見た。同国出身のリューベン・オストルンド監督は前作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続きカンヌ映画祭パルムドールに輝いた。前々作「フレンチアルプスで起きたこと」はブログで紹介したが、ピンとこなかったことは記した通りだ。
「逆転のトライアングル」は♯1「カール&ヤヤ」、♯2「ヨット」、♯3「島」の3部構成だ。冒頭は男性モデルのオーディションで、輪の中心にいたカール(ハリス・ディキンソン)は落ち目という設定だ。ディキンソンは「ザリガニの鳴くところ」(昨年12月12日の稿)でチェイス役を演じている。
ガールフレンドであるヤヤ(チャールビ・ディーン)もモデルで、収入はカールを遥かに凌ぐインフルエンサーだ。南ア出身のディーンは昨年、細菌性敗血症で夭折している。冥福を祈りたい。ヤヤが出演しているファッションショーでは<愛>、<環境>、<ジェンダー>といったテーマを掲げているが、客席の出来事は業界の慣習そのものだ。スポンサーと思しき富裕層が到着すると、主催者は特等席を準備し、はじき出されたカールは後方に移った。
オストルンド監督は富裕層や〝意識高い系〟を揶揄するのが好みで、ファッション界を牛耳る男の「ルックスは内面を反映する」なんて言葉も嗤っている。ショーの後、カールとヤヤはレストランで食事をするが、支払いを巡って一悶着起きる。口論のテーマ<金>は<格差社会>に増幅し、♯2「ヨット」につながっていく。セレブが集まるクルージングにヤヤが招かれ、カールも同伴する。接客リーダーのポーラ(ヴィッキー・ベルリン)は「マネー、マネー」とスタッフにゲキを飛ばす。セレブが下船する際、相応のチップを頂戴するためだ。
肥料会社を経営するロシア新興財閥オリガルヒのディミトリ(ズラッコ・ブリッチ)、愛と民主主義を謳ってカールとヤヤをたじろがせる兵器産業CEOの老夫婦、脳卒中で「雲の中」としか話さないテレーズ(イリス・ヘルベン)、単身で乗船しヤヤに高額のプレゼントを持ち掛けるヤルモ(ヘンリク・トルシン)ら、超リッチの面々に予期せぬ事態が待ち受けていた。
ポーラは飲んだくれのスミス船長(ウディ・ハレルソン)にキャプテンズディナーのスケジュールを提案する際、「低気圧が予想される木曜は駄目」と釘を刺したが、船長は聞く耳を持たない。ディナー開始から間もなく大揺れになり、セレブたちは嘔吐する。トイレから排泄物が逆噴射し、大変な事態になる。体調不良の人には厳しいシーンだ。
船酔いせず議論していたディミトリとスミス船長は、船長室で酔っ払いながら音声をオンのまま話し続ける。〝ロシアの資本主義者〟ディミトリはサッチャーやレーガンを、〝アメリカの共産主義者〟スミス船長はマルクスやチョムスキーを引用しながらの丁々発止となる。タックスヘイブンに向かっていると思われる豪華客船を海賊が狙っていた。兵器産業CEOの夫婦の足元に落ちてきた手榴弾に、「これ、うちの……」と妻が言った直後、船は炎上する。
カールとヤヤ、ディミトリ、ヤルモ、ポーラ、テレーズと一緒に島に漂着したのは機関室で働いていたネルソン(ジャン=クリストフ・フォリー)と清掃スタッフのアビゲイル(ドリー・デ・レオン)だ。この設定に、別稿(1月25日)で紹介した「東京島」(桐野夏生著)を思い出した。同作ではたった一人の女性、40代半ばの清子が女王として振る舞うようになるが、「逆転のトライアングル」でもヒエラルヒーに劇的な変化が起きる。
船内でセレブたちの吐瀉物や排泄物を処理していたアビゲイルが、漁の技術や生活の知恵でリーダーになる。50代でアジア系と思しき彼女は、無能さを露呈したイケメンのカールを所有するようになるのだ。恋人を奪われたヤヤも納得している様子で、アビゲイルと一緒に食糧を求めて島を散策する。
そこは決して無人島でなかったことが発覚し、社会復帰を確信したヤヤは背中越しアビゲイルに語り掛ける。「あなたには感謝している。付き人になって」……。その言葉にヒエラルヒーの再逆転を直感したアビゲイルは、ある行動に出た。ラストでカールは島を猛然と走っていた。どういう状況か想像してほしいというのが、オストルンド監督のスタンスなのだ。テレーズの常套句「雲の中」に放り出された気分になった。
WOWOWの人気ジャンルの一つは北欧ミステリーだ。ドラマは素通りしているが、同局でオンエアされたデンマーク発のサスペンス映画「特捜部Q」シリーズ(全5作)をまとめて見た。人間の闇と深淵に迫る内容で、ユッシ・エーズラ・オールスンの原作は世界中でベストセラーになっている。
北欧といってもスウェーデン発の「逆転のトライアングル」(2022年)を新宿で見た。同国出身のリューベン・オストルンド監督は前作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続きカンヌ映画祭パルムドールに輝いた。前々作「フレンチアルプスで起きたこと」はブログで紹介したが、ピンとこなかったことは記した通りだ。
「逆転のトライアングル」は♯1「カール&ヤヤ」、♯2「ヨット」、♯3「島」の3部構成だ。冒頭は男性モデルのオーディションで、輪の中心にいたカール(ハリス・ディキンソン)は落ち目という設定だ。ディキンソンは「ザリガニの鳴くところ」(昨年12月12日の稿)でチェイス役を演じている。
ガールフレンドであるヤヤ(チャールビ・ディーン)もモデルで、収入はカールを遥かに凌ぐインフルエンサーだ。南ア出身のディーンは昨年、細菌性敗血症で夭折している。冥福を祈りたい。ヤヤが出演しているファッションショーでは<愛>、<環境>、<ジェンダー>といったテーマを掲げているが、客席の出来事は業界の慣習そのものだ。スポンサーと思しき富裕層が到着すると、主催者は特等席を準備し、はじき出されたカールは後方に移った。
オストルンド監督は富裕層や〝意識高い系〟を揶揄するのが好みで、ファッション界を牛耳る男の「ルックスは内面を反映する」なんて言葉も嗤っている。ショーの後、カールとヤヤはレストランで食事をするが、支払いを巡って一悶着起きる。口論のテーマ<金>は<格差社会>に増幅し、♯2「ヨット」につながっていく。セレブが集まるクルージングにヤヤが招かれ、カールも同伴する。接客リーダーのポーラ(ヴィッキー・ベルリン)は「マネー、マネー」とスタッフにゲキを飛ばす。セレブが下船する際、相応のチップを頂戴するためだ。
肥料会社を経営するロシア新興財閥オリガルヒのディミトリ(ズラッコ・ブリッチ)、愛と民主主義を謳ってカールとヤヤをたじろがせる兵器産業CEOの老夫婦、脳卒中で「雲の中」としか話さないテレーズ(イリス・ヘルベン)、単身で乗船しヤヤに高額のプレゼントを持ち掛けるヤルモ(ヘンリク・トルシン)ら、超リッチの面々に予期せぬ事態が待ち受けていた。
ポーラは飲んだくれのスミス船長(ウディ・ハレルソン)にキャプテンズディナーのスケジュールを提案する際、「低気圧が予想される木曜は駄目」と釘を刺したが、船長は聞く耳を持たない。ディナー開始から間もなく大揺れになり、セレブたちは嘔吐する。トイレから排泄物が逆噴射し、大変な事態になる。体調不良の人には厳しいシーンだ。
船酔いせず議論していたディミトリとスミス船長は、船長室で酔っ払いながら音声をオンのまま話し続ける。〝ロシアの資本主義者〟ディミトリはサッチャーやレーガンを、〝アメリカの共産主義者〟スミス船長はマルクスやチョムスキーを引用しながらの丁々発止となる。タックスヘイブンに向かっていると思われる豪華客船を海賊が狙っていた。兵器産業CEOの夫婦の足元に落ちてきた手榴弾に、「これ、うちの……」と妻が言った直後、船は炎上する。
カールとヤヤ、ディミトリ、ヤルモ、ポーラ、テレーズと一緒に島に漂着したのは機関室で働いていたネルソン(ジャン=クリストフ・フォリー)と清掃スタッフのアビゲイル(ドリー・デ・レオン)だ。この設定に、別稿(1月25日)で紹介した「東京島」(桐野夏生著)を思い出した。同作ではたった一人の女性、40代半ばの清子が女王として振る舞うようになるが、「逆転のトライアングル」でもヒエラルヒーに劇的な変化が起きる。
船内でセレブたちの吐瀉物や排泄物を処理していたアビゲイルが、漁の技術や生活の知恵でリーダーになる。50代でアジア系と思しき彼女は、無能さを露呈したイケメンのカールを所有するようになるのだ。恋人を奪われたヤヤも納得している様子で、アビゲイルと一緒に食糧を求めて島を散策する。
そこは決して無人島でなかったことが発覚し、社会復帰を確信したヤヤは背中越しアビゲイルに語り掛ける。「あなたには感謝している。付き人になって」……。その言葉にヒエラルヒーの再逆転を直感したアビゲイルは、ある行動に出た。ラストでカールは島を猛然と走っていた。どういう状況か想像してほしいというのが、オストルンド監督のスタンスなのだ。テレーズの常套句「雲の中」に放り出された気分になった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます