酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「名刺ゲーム」は次世代テレビへの一里塚?

2018-01-10 20:22:15 | 映画、ドラマ
 今年の映画初めは「キングスマン: ゴールデン・サークル」(17年、マシュー・ヴォーン監督)だった。本題の据えるつもりだったが、エンターテインメントゆえ、あれこれ書く意味はない。興趣を削がぬよう、紹介は最低限にとどめたい。

 同作は「キングスマン」(15年)の続編で前作同様、エグジー(タロン・エガートン)とハリー(コリン・ファース)の絆が軸になっている。アメコミの猥雑さと荒唐無稽、製作国イギリスのアイロニーやブラックユーモアが織り交ぜられ、緊張が途切れなかった140分だった。

 フリーハンドの諜報機関であるキングスマンは「ゴールデン・サークル」に壊滅寸前に追い込まれ、アメリカの「ステイツマン」と協力する。ゴールデン・サークルのボス、ポピーを演じたジュリアン・ムーアの妖しいサイコパスぶりも本作の魅力だ。対照的に、アメリカ大統領は取るに足らない小物扱いされていた。

 マーリン(マーク・ストロング)が最期に歌う「カントリー・ロード」、暴れ回るエルトン・ジョン本人、そしてグラストンベリー・フェスがストーリーの進行に大きな役割を果たすなど、音楽の使い方も印象的だった。結末からして第3作はなさそうだが、果たして……。

 2日夜にオンエアされた「新春TV放談」(NHK総合)は興味深い内容だった。〝テレビの未来〟がテーマで、ドラマについての議論に、「名刺ゲーム」(WOWOW、全4回)が重なる。「新春――」では地上波の限界が俎上に載せられ、縛りのないWOWOWドラマが高評価されていた。その先にあるのはネットドラマで、出演していた藤田晋氏(AbemaTV社長)は年内に3本、制作を用意していると話していた。

 帰省中、従兄一家、叔母、親戚たちと語らった。当たり障りない話題といえばドラマで、「相棒」と「ドクターX」は世代や性別問わず人気だが、俺より年長者は「やすらぎの郷」を絶賛していた。一方で、従妹の次男(情報関連企業エンジニア)はテレビと無縁の生活だ。ネットゲームに興じているから、ドラマと無縁とは言い切れないが。

 「名刺ゲーム」の主人公は、地上波で高視聴率を叩き出すクイズ番組の神田プロデューサー(堤真一)だ。神田は冒頭、金網内で目覚める。起爆装置付きの首輪を嵌められ、娘の美奈(大友花恋)も同じ姿で囚われていた。謎の男X(岡田将生)は、床に散らばる名刺を3人の男女に返すよう命じる。間違えたら自分と娘の首が吹っ飛ぶから、神田にとって命懸けのゲームだった。

 原作者が放送作家の鈴木おさむゆえリアリティーがある。神田とX以外に重要な役割を果たすのが片山ディレクター(田口トモロウ)で、格差社会であるメディアの現実が背景に描かれていた。神田が上り詰める過程で歪んでいく様子が、娘の目線で描かれている。資質もあるが、〝視聴率至上主義〟の構造が神田の傲りを引き出したともいえるだろう。

 神田の荒びはある意味、普遍的だ。あなたの周りにも、「万が一、こいつが出世したら堪らない」と思える人はいるだろう。<上・下>でしか人を測れず、自省や謙虚と無縁の〝ミニ神田〟たちだ。スタッフとの打ち合わせで「こんな企画出すなんて、スポンサーのこと考えているのか」と神田が罵倒するシーンがあった。メディアにとって広告代理店の意向は絶対的である。

 WOWOWドラマが秀逸なのは縛りがないからで、その延長線上にネットテレビを据える識者も多い。だが、<縛りがない≒責任がない>は、昨今のフェイクニュースからも明らかだ。「名刺ゲーム」の鮮やかなどんでん返しは、そのまま人権やプライバシーの侵害に抵触する。

 表現の形式が何であれ、メディアが資本と権力に抗うのが困難であることは、3・11後を思い起こせば明らかだ。見捨てられたかに思えたテレビや新聞は、力を増して国民を誘導している。10~30代のネット世代が安倍政権を支持しているという現実を見据えなければならない。
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