北朝鮮の水爆実験、そしてイランとサウジアラビアの国交断交……。頓挫しそうな慰安婦問題の解決、原油価格下落と米国での新車販売増が同時に報じられている。俺は陰謀論者ではないが、底で全てが繋がっている気配がする。闇の奥で何者かがシナリオを書いているのだろうか。
参院選(同日選?)を巡る蠢きはわかりやすい。反自公側は都市部で競い、地方(1人区)で共闘というのがおおまかな構図か。東京地方区(+1で定数6)では社民党、生活の党、生活者ネットワーク、緑の党、新社会党、さらにシールズら様々な市民グループが結集すると推測していたが、社民の単独候補擁立が決まる。比例区で福島前党首、吉田現党首を当選させるための選択に相違ない。雲行きが怪しくなってきた。
追悼の思いを込め、野坂昭如の「オペレーション・ノア」(81年)を年末年始、京都で再読するつもりでいたが、30分ほどで挫折した。フリーター(≒引きこもり)だった頃、2段組みで400㌻の長編を一気に読み終えたが、35年経った今、小さい活字が脳内にインププット出来ない。老いによる衰えをしみじみ感じている。代わりに選んだのが辻原登の「闇の奥」(10年、文春文庫)だった。
映画「地獄の黙示録」の原作「闇の奥」(ジョセフ・コンラッド著)にインスパイアされた本作は、タイトルも拝借している。辻原の作品は現実と幻想が交錯する壮大なメタフィクションであり、南米の巨人たちが構築したマジックリアリズムへの日本からの返答といえる。原点は古来、霊地として信仰の対象になっている出身地の熊野の風土で、本作の基点にもなっている。
〝口熊野〟と称される田辺市出身の三上隆が太平洋戦争末期、北ボルネオで失踪する。三上は京大を出た民族学者で、矮人(小人)族ネグリトの研究に没頭していた。三上の生存を信じる者はマレーシアからチベット、そして熊野の奥地に公私を問わず、何度も捜索団が派遣される。手掛かりは三上自身が口ずさんでいたという春歌「イタリアの秋の水仙」、研究者や現地の人々の証言だが、捜索団は時空を超えたイリュージョン、ブラックホールに誘われ、奇妙な縁を紡いでいく。
まだ半分も読んでいないが、辻原作品で俺の一押しは「ジャスミン」(04年)で、戦前・戦中・戦後の日中関係と阪神淡路大震災を基軸に崇高な愛が描かれていた。本作では太平洋戦争、中国によるチベット弾圧に加え、1998年に起きた和歌山毒物カレー事件も背景に織り込まれていた。ちなみに辻原は同事件の容疑者に強い関心を抱き、「マノンの肉体」でも独特の解釈を記していた。
巨大なジグソーパズルの最後のピースが埋まって「ジャスミン」は結末を迎えるが、「闇の奥」ではジグソーパズルの完成は読者に委ねられている。また、「ジャスミン」の李杏ほどではないが、「闇の奥」にも魅力的なヒロインが2人登場する。三上が「イタリアの秋の水仙」で歌ったウネと、捜索団に加わることになる須永(チベット名ドルマ)だ。
辻原を衝き動かしているのは一体、何だろう。喪失の哀しみ、それとも崩壊の苦しみ? 最初に読んだ「枯葉の中の青い炎」で、辻原は<物理世界と精神世界を秘かに結ぶシンクロニシティは、日常世界にいくらでも起きていることではないか>と記していた。真実とは幻想の淡い影なのか……。虚実の皮膜で迷宮を築く手管に感嘆するしかない。
上記した「オペレーション・ノア」と「ジャスミン」はいずれも文庫版は絶版になっている。他の作家も同様で、出版社の姿勢に疑問を抱かざるを得ない。
参院選(同日選?)を巡る蠢きはわかりやすい。反自公側は都市部で競い、地方(1人区)で共闘というのがおおまかな構図か。東京地方区(+1で定数6)では社民党、生活の党、生活者ネットワーク、緑の党、新社会党、さらにシールズら様々な市民グループが結集すると推測していたが、社民の単独候補擁立が決まる。比例区で福島前党首、吉田現党首を当選させるための選択に相違ない。雲行きが怪しくなってきた。
追悼の思いを込め、野坂昭如の「オペレーション・ノア」(81年)を年末年始、京都で再読するつもりでいたが、30分ほどで挫折した。フリーター(≒引きこもり)だった頃、2段組みで400㌻の長編を一気に読み終えたが、35年経った今、小さい活字が脳内にインププット出来ない。老いによる衰えをしみじみ感じている。代わりに選んだのが辻原登の「闇の奥」(10年、文春文庫)だった。
映画「地獄の黙示録」の原作「闇の奥」(ジョセフ・コンラッド著)にインスパイアされた本作は、タイトルも拝借している。辻原の作品は現実と幻想が交錯する壮大なメタフィクションであり、南米の巨人たちが構築したマジックリアリズムへの日本からの返答といえる。原点は古来、霊地として信仰の対象になっている出身地の熊野の風土で、本作の基点にもなっている。
〝口熊野〟と称される田辺市出身の三上隆が太平洋戦争末期、北ボルネオで失踪する。三上は京大を出た民族学者で、矮人(小人)族ネグリトの研究に没頭していた。三上の生存を信じる者はマレーシアからチベット、そして熊野の奥地に公私を問わず、何度も捜索団が派遣される。手掛かりは三上自身が口ずさんでいたという春歌「イタリアの秋の水仙」、研究者や現地の人々の証言だが、捜索団は時空を超えたイリュージョン、ブラックホールに誘われ、奇妙な縁を紡いでいく。
まだ半分も読んでいないが、辻原作品で俺の一押しは「ジャスミン」(04年)で、戦前・戦中・戦後の日中関係と阪神淡路大震災を基軸に崇高な愛が描かれていた。本作では太平洋戦争、中国によるチベット弾圧に加え、1998年に起きた和歌山毒物カレー事件も背景に織り込まれていた。ちなみに辻原は同事件の容疑者に強い関心を抱き、「マノンの肉体」でも独特の解釈を記していた。
巨大なジグソーパズルの最後のピースが埋まって「ジャスミン」は結末を迎えるが、「闇の奥」ではジグソーパズルの完成は読者に委ねられている。また、「ジャスミン」の李杏ほどではないが、「闇の奥」にも魅力的なヒロインが2人登場する。三上が「イタリアの秋の水仙」で歌ったウネと、捜索団に加わることになる須永(チベット名ドルマ)だ。
辻原を衝き動かしているのは一体、何だろう。喪失の哀しみ、それとも崩壊の苦しみ? 最初に読んだ「枯葉の中の青い炎」で、辻原は<物理世界と精神世界を秘かに結ぶシンクロニシティは、日常世界にいくらでも起きていることではないか>と記していた。真実とは幻想の淡い影なのか……。虚実の皮膜で迷宮を築く手管に感嘆するしかない。
上記した「オペレーション・ノア」と「ジャスミン」はいずれも文庫版は絶版になっている。他の作家も同様で、出版社の姿勢に疑問を抱かざるを得ない。