酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「クリード」~SF的設定をリアルに見せるボクシング映画

2016-01-16 20:52:00 | 映画、ドラマ
 「ナニワ金融道」で中居正広、「古畑任三郎」で木村拓哉、「『ぷっ』すま」で草剛をそれぞれ〝発見〟したが、彼らが同じユニットの一員と知ったのは世紀が変わった頃である。SMAPに全く興味はなかったが、メディアがサンクチュアリ(ジャニーズ事務所)にどこまで迫るかという一点で、解散騒動が気になっている。

 安倍機関(読売、産経など)を批判する識者は多いが、端くれにいる俺はメディアに期待を抱いていない。戦争法案阻止の高まりは伝えても、直結する武器輸出反対の動きはフォローしない。武器絡みのクライアント(大企業)への配慮もあるのだろう。芸能関係ではジャニーズ、吉本、AKBが現在のアンタッチャブルだ。叛旗を翻した4人も、メディアぐるみで潰されてしまうのか。

 歴代随一のヘビー級王者と評されるロッキー・マルシアーノの特集をスカパーで見た。マルシアーノは小柄(179㌢)でリーチも短かったが、49戦無敗(43KO)でグローブをおいた。ブレークしたジョー・ルイス戦、「スージーQ」と称される史上最強パンチで王者になったジョー・ウォルコット戦、ラストファイト(1955年)になったアーチー・ムーア戦を堪能した。

 マルシアーノはイタリア系で、泥臭く粘り強い闘いで人気を博した。尊敬するルイスを倒し、涙を流しながら謝ったというエピソードが印象的だった。対戦相手の3人はいずれも黒人で、厳しい差別、偏見という敵をも抱えていた。彼らを礎に〝反逆児〟ムハマド・アリが生まれたといってもいい。モノクロの画面に滲む闘いの原風景に魅了された。

 不屈のファイティングスピリットを持つイタリア系といえば、誰しも「ロッキー」を思い浮かべる。スピンオフというべき「クリード チャンプを継ぐ男」(15年、ライアン・クーグラー監督)を有楽町で見た。アドニス(マイケル・B・ジョーダン)はロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)と死闘を繰り広げたアポロ・クリードの愛人の子供で、実母の死後、施設を転々とする。暴れん坊だったアドニスを引き取ったのが、アポロの妻アンだった。

 アンの慈愛の下で更正したアドニスはロスのオフィスで働いている。ハングリーと無縁のアドニスには、もう一つの顔があった。メキシコの草ボクシングで拳を交え、15戦全勝の戦績を誇っている。居場所を探していたアドニスは、昇進を伝える上司に辞職を告げ、アポロの二の舞い(リング堝)を恐れるアンの反対を押し切ってフィラデルフィアに赴く。ロッキーに指導を依頼するためだ。

 ポール・ヘイマンが率いた血と汗のECW、屈強なDF陣を輩出したイーグルス、ソウルミュージックの隆盛……。友愛とブラザーフッドが息づくブルーカラーの街というイメージをフィラデルフィアに抱いていた。ロッキーがトレーニング場所に選んだのは危険地帯カムデンにあるジムだが、街全体は治安がいいらしい。

 「クリード」のテーマは友愛であり、タイトル通り信頼である。妻エイドリアンと義兄ポーリーに先立たれ、孤独に加え病魔に蝕まれていたロッキーにとってアドニスは生きる希望で、アドニスにとってロッキーは父への道標だった。トレーニングを通じ、二人は仮想の父子になる。アドニスの恋人ビアンカ(テッサ・トンプソン)は有望なシンガーながら、進行性難聴に罹っていた。続編が制作されれば、愛とそれぞれの闘いがテーマになるだろう。

 後半に進むにつれ、ストーリーは「ロッキー」と同じ展開を辿る。アポロの役割を担うのが、英国の無敗王者、リッキー・コンランだ。ボクシング通なら、パウンド・フォー・パウンド(階級を超えた最強ボクサー)が公式キャリア1戦の選手と闘うなんてありえないと考える。上記のマルシアーノ戦がリアルな伝説なら、本作はお伽噺、いやSFだ。

 だが、そんな風にケチをつけたって仕方がない。「ミッション・インポッシブル」を支えているのは、イーサン・ハント(トム・クルーズ)の超人的であり得ないアクションではないか。「クリード」を傑作と評価するつもりはないが、SF的設定をリアルに感じさせる試合のシーン、紡がれた絆に、ひねくれ者の俺でさえ胸が熱くなった。ちなみにリングアナ役は、リアルにマイケル・バッファーが演じていた。

 旧聞に属するが、内山高志と井上尚弥の試合を大晦日に観戦した。「エキサイトマッチ」(WOWOW)で実感する世界標準を、両者は軽くクリアしている。日本のボクシングは技術的な意味で黄金期を迎えたようだ。ちなみに1930年代、ボクシングはラグビーとともに野球以上の人気を博していた。ファシズムに警鐘を鳴らされる今、闘いを好む時代の空気は当時と似ているのだろうか。
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