酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

暴力とネットが創り上げたイスラム国

2015-03-25 23:41:02 | 社会、政治
 俺は気が多い人間だ。好きな作家、バンド、映画監督を挙げていけばきりがない。浅田彰流にいえば完全な<スキゾ>で、八百万神を崇める十進法思考の多神教徒だ。

 俺の対極に位置するのがイスラム国だ。チュニスの博物館、イエメンのモスクで、彼らに連なる組織が相次いでテロを起こした。多少なりとも理解しようと、「イスラーム国の衝撃」(池内恵/文春新書)、BSスペシャル「追跡 過激派組織ISの闇」、ロレッタ・ナポリオーニ氏のインタビュー(3月18日付朝日朝刊)をテキストに選んだ。

 イスラム国の根本は終末思想と二元論だ。信仰は国家や法を超越し、残虐な行為も神は許す、いや称えるという論理は、民主主義と決定的に相容れない。ナチスドイツやオウム真理教を連想したが、「イスラーム国の衝撃」によれば、終末論は1400年前、開祖ムハンマドの教えに組み込まれていたという。

 1990年以降、アラブ社会で憎悪の対象になったのはアメリカだった。湾岸戦争やイラク戦争時のファルージャ空爆で劣化ウラン弾や化学兵器が用いられたことは、映像や医療関係者の証言から明らかだ。<自由のための爆弾>という建前も、死者とその家族には通用しない。憎しみは拡大して連鎖する。

 中東では原油の利潤は国内の権力者や石油メジャーに簒奪され、格差と貧困が甚だしい。充満する憎悪、怨嗟、憤懣を利用したのがイスラム国といえる。BSスペシャルではイスラム国の起点を、米軍の「キャンプ・ブッカ」(イラク南部)と指摘していた。収容されていたバグダディ(現指導者)は旧フセイン政権のメンバーたちと将来のプランを練っていた。

 「アラブの春」によって強権政治が終焉した国もあったが、その後も混乱が続く。シリア・アサド大統領の判断ミス、アメリカの失態、部族や組織間の対立などが重なり、イスラム国は勢力を伸ばす。財政基盤として、石油や文化財の密売、身代金、サウジアラビアの援助などが挙げられている。常任理事国からの武器は、いかなるルートで流入しているのだろう。

 イスラム国のメディア戦略を評価する識者もいる。後藤健二さんは殺害時、オレンジ色の服を纏っていたが、グアンダモに収容されたイスラム過激派が着せられた囚人服と色もデザインも同じだ。アメリカへの復讐というメッセージが込められているのだろう。

 カリフ制の復活、サイクス・ピコ協定の否定など復古的なイメージを押し出しているイスラム国だが、ネットを利用して<グローバル・ジハード>の概念を世界に拡散している。イスラム国系、あるいはアルカイダ系といわれる組織も、殆どが本体と人的繋がりがない。<上からの指令→実行>ではなく、<ローンウルフ型テロ→追認>のパターンが一般的になった。

 対米より対シーア派に重きを置き、クルド人と対立関係にあるイスラム国の限界を説く声もある。同じくスンニ派のアルカイダとも折り合いが悪い。仮にイスラム国が崩壊しても、ネットに棲みついた思想は継承されていくだろう。日本のネット右翼に形態は似ているが、感染力とスケールは比べものにならない。社会への不満を餌に増殖する〝ウイルス〟を武力で制圧することは不可能なのだ。

 ナポリオーニ氏は国家の形を取ったことに注目している。破壊と暴力ばかり強調されるが、インフラ整備、市場管理、衛生面の拡充に努める<偽装国家>としての側面い目を背けると、イスラム国の本質は見えてこないと語る。併せて人質問題を巡る安倍政権の対応を批判していた。

 アラブ世界について無知だから、何を述べても受け売りになってしまう。「じゃあ、日本のことはわかっている?」と尋ねられても言葉に詰まる。58年も暮らしているのに、3・11以降の4年間の変化を把握しているとは言えないからだ。
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