酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

あなたの拠点とは~「圧殺の海」が問うもの

2015-03-07 14:15:45 | 映画、ドラマ
 品性下劣ゆえ他人を批判する資格はないが、下村文科相の国会答弁に憤りを覚えた。節度に欠けるこの程度の人物が道徳教育を推進しているなんて、ブラックジョークではないか。文科相が居直る一方で、路チューの中川農水政務官は更迭の方向という。同世代のおばちゃんに拍手したい気持ちだったが、門衆院議員とは愛情だけでなく、利権繋がりも指摘されている。

 3・11から4年、日本は最悪の状況にある。震災と原発事故は不幸な出来事だったが、再生の大きなチャンスでもあった。芽吹き胎動した何かはたちまち萎み、閉塞の雲が厚みを増した。かつて社会に根付いていた情、思いやり、矜持は錆びてしまった。

 辺野古移設反対を訴える沖縄県民の闘いを描いた「圧殺の海」(15年、藤本幸久・影山あさ子共同監督)に微かな希望を見いだした。自らの拠点で体を張ってプライドを守る気高い意志が、スクリーンから伝わってくる。

 同じくポレポレ東中野で一昨年8月、米軍ヘリパット建設反対運動を追った「標的の村」を観賞した。両作は目線を共有しているが、カメラアングルの違いが印象を変える。ズームが軸の「標的の村」には和みを感じる場面もあったが、アップを多用する「圧殺の海」はボクシングに例えるならインファイトで、ヒリヒリする切迫感に満ちていた。

 前半はキャンプ・シュワブのゲート前が主戦場で、埋め立て工事用の機材搬入を阻止するための座り込みを追う。後半は海が舞台で、抗議のカヌー隊の奮闘が描かれていた。対峙するのは防衛局、警察・機動隊、海上保安庁だが、戦争反対、自然保護を説く反対派の熱さと比べ、向き合う者たちの表情は醒め目ていた。目に見える敵は若者が多く、被写体であることを意識して言葉遣いは丁寧だ。慇懃無礼な壁は不気味だが、真の敵は安倍政権であり、沖縄の闘いを黙殺するメディアであることは言うまでもない。

 辺野古の海の美しい自然が、インターミッションで映し出される。巨大なブロックが世界遺産に相応しい珊瑚礁を傷つける様子を、「報道ステーション」は繰り返しオンエアしていた。「美しい国日本」を掲げた安倍首相の本音は、「醜い属国ニッポン」だったのだろう。辺野古埋め立て、原発再稼働だけでなく、TPP参加と格差拡大で、日本の景色を根本から変えようとしている。

 本作のハイライトは知事選での翁長氏勝利だ。地道な日々の活動が県民の支持を得たことが勝因だったが、辺野古を巡る情勢に変化はなかった。衆院選でも全4選挙区で移設反対派が議席を得たが、非情な安倍政権は上京した翁長知事を門前払いにする。首相と気脈を通じる歴史修正主義者は、沖縄戦での集団自決は軍が主導したという記述を教科書から一掃しようと試みた。沖縄とは、沖縄との連帯とは、そして戦争とは……、本作は様々なテーマを問い掛けてくる。

 沖縄との連帯とは、自らの拠点で闘うことだ。リストラや馘首反対、年金や福祉、待機児童や高齢者介護、護憲、反差別、反原発、反貧困etc……。それぞれのテーマは底で繋がっている。俺は昨年、イスラエルによるパレスチナ虐殺に抗議するアクションに、何度か足を運んだ。パレスチナの問題が集団的自衛権と連なっていることをアプリオリに理解した人々が集まっていた。

 <格差と貧困が社会不安(差別と排外主義)を胚胎する>という俺の持論を補強してくれたのがピケティだった。<反貧困―反差別―反戦>をセットで捉えるのが、リベラルや左派の共通認識になりつつある。「おまえの拠点は?」と問われると困ってしまうが、日本の政治構造を地方から変えていくという壮大なプラン実現に向けて、微力ながら寄与したいと考えている。

 キャンプ・シュワブ前で、老婆が対峙する壁に戦争体験を語り、「あんたも戦争に加担してるのよ」と詰め寄る。58歳の俺に言葉はリアルに響くが、若い世代はどのように受け止めたのだろう。本作が映し出した衝突は、20世紀の戦争像に重なる部分もあるが、現在はゲームに近い感覚かもしれない。

 前々稿で紹介した「半島を出よ」で、<北朝鮮の艦隊(総員12万人)など、自衛隊なら瞬殺できる>という下りがあった。若者を戦場に送るというと、その手が血に染まるというイメージがあるが、実際はどうか。ボタン一つで、罪の意識もなく大量殺戮が可能という<21世紀型>を踏まえた上で戦争を語る時機が訪れた。自衛隊は日本の得意分野であるITをフル活用した軍隊だという。

 辺野古の動きを伝えるメディアは少ないが、沖縄の地方紙を購入している天皇は、事実を把握しているはずだ。政権と真逆に、護憲、反戦への思いを意識的に発信する皇室は、今やリベラルの旗印になっている。本籍アメリカの安倍首相は迷惑と感じているはずだ。
コメント (3)
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