ひねくれ者のせいか、俺は権威や格式が大嫌いた。世間の人が敬意を表するIMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機関)など、多国籍企業の意を体し世界の富を貪る金融マフィアではないか。さらに質が悪いのが平和を提唱する国連で、常任理事国から流出する武器が紛争拡大の拍車になっている。
〝悪人〟の威を借るつもりは毛頭ないが、国連拷問委は橋下大阪市長(日本維新共同代表)の従軍慰安婦を巡る発言について、日本政府の明確な対応を求めた。安倍首相もさぞかし困っているだろう。首相は2001年、故中川氏とともに従軍慰安婦関連の番組(「ETV特集」)に介入し、内容を変更するよう圧力をかけたとされている。
国連科学委は<福島原発事故による被曝は最小限で、がん患者は増加しない>との調査結果を公表した。日本の再稼働を後押しする<国連=IAEA=アメリカ>の連合体と、現地で診察に当たっている医師たちによるデータは真逆だが、俺が信頼するのはもちろん後者だ。両者を分かつのは人間としての良心と倫理だが、私用と天びんにかけて反原発集会(2日)をパスした俺も、獣の群れに呑み込まれつつある。
一昨日(1日)、シネマート新宿で「殺人の告白」(12年、チョン・ビョンギル監督)を見た。公開初日、そして映画の日……。でも、タカを括っていた。同館は韓国映画を頻繁に上映しているが、常に閑古鳥が鳴いている。「義兄弟」(10年)、「哀しき獣」(同)、「高地戦」(11年)といった傑作群でさえ、1割前後しか埋まっていなかった(スクリーン1のキャパは330人強)。<韓流ブームはドラマだけで、映画には浸透していない>とブログに記したこともある。
ところが、今回は様子が違った。受付横にパク・シフのファンクラブから贈られた花輪が並び、女性たちでごった返している。俺が見たのは6時半の回だが、2回目の観賞というグループもいた。パク・シフが知名度の高い韓流スターであることを、彼女たちの会話で知った。
「息もできない」、「母なる証明」などなど、人間の業と宿命に迫った韓国映画は数え切れない。意地の悪い俺は、「殺人の告白」がその系譜に連なる重くて暗い映画であることを願った。実際はというと、狂気や悪という人間のダークサイドに迫ると同時に、緊張の途絶えない秀逸なサスペンスだった。公開直後でもあり、感想を大雑把に記したい。
1986年から数年間、ソウル近郊で女性連続殺人が起きた。この未解決事件をモチーフにした映画を見るのは、「殺人の追憶」(03年)に次ぎ2作目である。「殺人の追憶」は民主化闘争を背景に、社会と人間の闇を照らす作品だったが、「殺人の告白」でも大統領選挙が大きな意味を持っていた。92年12月、文民政権への移行が決定した直後、主人公は悲しい事件と直面する。
HPには、主人公はパク・シフが演じた告白者イ・ドゥソクと記されている。だが、観賞した人は、真の主人公がチェ・ヒョング刑事(チョン・ジェヨン)であると理解したはずだ。渡辺謙を彷彿させる骨太なチョン・ジェヨン、繊細で謎めいたパク・シフ……。対峙するアンビバレンツな個性が光芒と陰翳を添えている。
連続殺人犯を取り逃がしたチェ刑事は、今も事件を引きずっている。その思いを表すのが唇横の傷だ。公訴時効後、殺人を告白する青年イ・ドゥングが登場する。犯人しか知り得ない事実が記された回想録は大ベストセラーになり、イケメンのイ・ドゥングは一躍、時代の寵児になる。刑事、告白者、被害者家族の思いが交錯する中、ストーリーは結末へと突き進んでいく。
冒頭のアクションシーンに、ジョン・ウーら香港ノワールの影響が窺える。より激しい追跡劇が後半に展開するのもお約束だ。終演後、会場から拍手が沸き起こる。俺の記憶では「ダイ・ハード」と「スピード」以来のことだ。主人公のチェ刑事に? いや、おばさんたちはパク・シフに対して拍手を送ったに違いない。
蛇足と思える部分、ツッコミどころもあるが、多少の欠点をクリアしても余りあるエネルギーと疾走感に溢れた作品だった。根底に流れるのは<愛と慟哭>であり、<法を超越した罪と罰の追求>だ。拍手に値する作品であることは言うまでもない。
〝悪人〟の威を借るつもりは毛頭ないが、国連拷問委は橋下大阪市長(日本維新共同代表)の従軍慰安婦を巡る発言について、日本政府の明確な対応を求めた。安倍首相もさぞかし困っているだろう。首相は2001年、故中川氏とともに従軍慰安婦関連の番組(「ETV特集」)に介入し、内容を変更するよう圧力をかけたとされている。
国連科学委は<福島原発事故による被曝は最小限で、がん患者は増加しない>との調査結果を公表した。日本の再稼働を後押しする<国連=IAEA=アメリカ>の連合体と、現地で診察に当たっている医師たちによるデータは真逆だが、俺が信頼するのはもちろん後者だ。両者を分かつのは人間としての良心と倫理だが、私用と天びんにかけて反原発集会(2日)をパスした俺も、獣の群れに呑み込まれつつある。
一昨日(1日)、シネマート新宿で「殺人の告白」(12年、チョン・ビョンギル監督)を見た。公開初日、そして映画の日……。でも、タカを括っていた。同館は韓国映画を頻繁に上映しているが、常に閑古鳥が鳴いている。「義兄弟」(10年)、「哀しき獣」(同)、「高地戦」(11年)といった傑作群でさえ、1割前後しか埋まっていなかった(スクリーン1のキャパは330人強)。<韓流ブームはドラマだけで、映画には浸透していない>とブログに記したこともある。
ところが、今回は様子が違った。受付横にパク・シフのファンクラブから贈られた花輪が並び、女性たちでごった返している。俺が見たのは6時半の回だが、2回目の観賞というグループもいた。パク・シフが知名度の高い韓流スターであることを、彼女たちの会話で知った。
「息もできない」、「母なる証明」などなど、人間の業と宿命に迫った韓国映画は数え切れない。意地の悪い俺は、「殺人の告白」がその系譜に連なる重くて暗い映画であることを願った。実際はというと、狂気や悪という人間のダークサイドに迫ると同時に、緊張の途絶えない秀逸なサスペンスだった。公開直後でもあり、感想を大雑把に記したい。
1986年から数年間、ソウル近郊で女性連続殺人が起きた。この未解決事件をモチーフにした映画を見るのは、「殺人の追憶」(03年)に次ぎ2作目である。「殺人の追憶」は民主化闘争を背景に、社会と人間の闇を照らす作品だったが、「殺人の告白」でも大統領選挙が大きな意味を持っていた。92年12月、文民政権への移行が決定した直後、主人公は悲しい事件と直面する。
HPには、主人公はパク・シフが演じた告白者イ・ドゥソクと記されている。だが、観賞した人は、真の主人公がチェ・ヒョング刑事(チョン・ジェヨン)であると理解したはずだ。渡辺謙を彷彿させる骨太なチョン・ジェヨン、繊細で謎めいたパク・シフ……。対峙するアンビバレンツな個性が光芒と陰翳を添えている。
連続殺人犯を取り逃がしたチェ刑事は、今も事件を引きずっている。その思いを表すのが唇横の傷だ。公訴時効後、殺人を告白する青年イ・ドゥングが登場する。犯人しか知り得ない事実が記された回想録は大ベストセラーになり、イケメンのイ・ドゥングは一躍、時代の寵児になる。刑事、告白者、被害者家族の思いが交錯する中、ストーリーは結末へと突き進んでいく。
冒頭のアクションシーンに、ジョン・ウーら香港ノワールの影響が窺える。より激しい追跡劇が後半に展開するのもお約束だ。終演後、会場から拍手が沸き起こる。俺の記憶では「ダイ・ハード」と「スピード」以来のことだ。主人公のチェ刑事に? いや、おばさんたちはパク・シフに対して拍手を送ったに違いない。
蛇足と思える部分、ツッコミどころもあるが、多少の欠点をクリアしても余りあるエネルギーと疾走感に溢れた作品だった。根底に流れるのは<愛と慟哭>であり、<法を超越した罪と罰の追求>だ。拍手に値する作品であることは言うまでもない。