酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

妹が生きた証し~悲しみが爆発した葬祭

2012-06-02 10:51:56 | 独り言
 橋下大阪市長が大飯原発再稼働を容認した。<原発こそ利権の温床で公務員改革の本丸>と説いてきた古賀茂明氏(元通産官僚)は、ブレーンとしていかなる思いを抱いているだろう。欲望と拝金から、環境とヒューマニズムへ……。3・11をきっかけにした再生への道のりは閉ざされてしまった。新陳代謝を止めた国に、政官財が主張する〝怪しい現実〟が闊歩している。

 さて、本題。個人的なことは書かない主義だが、前稿に続き妹の死について記したい。感情が露出した駄文に付き合わせるのは申し訳ないが、自身のリスタートのため、以下に思いを吐き出すことにする。

 妹の直接の死因は脳内出血だった。度重なる投薬、透析、点滴で血管はくたびれており、高血圧の症状が顕著だった。自費出版本(童話)の発行日が7月に決まったが、妹は「わたし、その頃、いるやろか」と母に漏らしていたという。突然と映った死を、本人は覚悟していたのだろうか。

 通夜と告別式は、悲しみが爆発した盛大な葬祭だった。高校や短大の同級生、医師や看護師、共に病と闘う人たち、音楽仲間、ピアノの教え子、地域の知り合い、自費出版の協力者……。茶髪ギャルから中高年の男性まで涙を隠さず焼香の列に連なり、号泣と嗚咽があちこちから漏れていた。

 俺が代わりに死んでいても、泣く人の数は親族以外、片手で足りる。妹の訃報をいまだ知らない者を含めれば、軽く20倍以上の差だ。人生で完璧に負けた俺だが、健気さと優しさで周りを魅了した妹を誇らしく思う。

 恥を晒すようだが、 フリーターだった20代、それどころか無職だった05年からの2年弱、妹は帰省した俺に小遣いを渡し、何度も救援物資を送ってくれた。頻繁に手紙をくれ、携帯を持つようになってからは、病床に伏している時もメールで近況を報告してくる。愚兄に対する心配りは、周りに対しても同様だった。

 控えめながらいつの間にか円の中心にいる妹は、上がるということを知らない。10代の頃、「松竹新喜劇に入りたい」と昔気質の父に話したが、一蹴された。実現していたら、通用したような気もする。従兄弟が町議選に打って出た時は出陣式からウグイス嬢を務め、当選に貢献した。歌をCD化し、ショパンやリストのピアノ曲を録音しては親族や友人に聴かせていた。

 そのCDが開式を待つ会場に流れていた。葬祭とミスマッチのポップスは、花や思い出の品を棺に納めるハイライトの場面を彩ることになる。妹の声に琴線を揺さぶられ、棺を何重にも囲む人たちは遺体に取りすがり、泣き崩れていた。何とか堪えていた義弟もついに決壊し、式辞は涙でくぐもっていた。

 湿度が低い俺は「冷たい兄」と映ったかもしれない。俺が心で呟いていたのは、「そのうち会おう」だった。宗教と無縁の俺だが、なぜか死後の世界を信じている。宮沢賢治や小泉八雲の世界に惹かれ、「タナトノート」(ベルナール・ヴェルベール著)、「永遠の僕たち」(11年、ガス・ヴァン・サント監督)に我が意を強くした。

 決定的だったのは妹の臨死体験だ。義弟が担当医から余命いくばくもないと告げられたことが何度もあった。「1週間」との宣告さえあったが、そのたび死の淵から甦ってくる。そんな時、妹の夢枕に立ったのが父であり、祖母だった。「おまえは来るな」と言いたげに、父は妹を追い返したこともあったという。だが、今回は違った。病気と副作用で体を蝕まれながら、ベストを尽くしてきた妹を、父と祖母は不憫に思ったのではないか。「これ以上闘うのは酷だと」……。生きるとは、生き永らえることではないと、妹は身をもって教えてくれた。

 妹の究極の夢は、実家を取り壊した跡に私的なシェアハウスを造り、友人たちと共に余生を送ることだった。屋根裏か地下室かはともかく、愚兄にも居場所が用意されていた。当ブログで小説や映画を紹介する際、<家族を超えた絆>に繰り返し言及した。俺が理屈で気付いたことを、妹は実感として理解していた。

 母は当日、実家に泊まるよう妹を説得しきれなかったことを悔やみ、義弟は激務が妹を犠牲にしたと自分を責めていた。妹の不在で、多くの絆が揺らぐかもしれない。猫のポン太はこの数日、窓際に座って所在なげに外を眺めていた。心待ちしている妹は永遠に現れないのに……。

 学生時代の友人との宴が予定されていたが、みんなが妹を知っている――といっても30年も前のことだが――、哀悼の意を込め延期になった。俺は社員ではないが、仕事先から弔電が届く。メールや電話をくれた人を含め、皆さんの心配りに心から感謝している。

 いずれあの世で、妹と会えると確信している。だが、俺が極楽に行けるとは限らない。今さら善根を積んでも手遅れだけど……。
コメント (4)
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