酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「告白」~心を抉る鋭利なエンターテインメント

2010-09-25 06:33:06 | 映画、ドラマ
 クリントン国務長官が<尖閣諸島は日米安保の適用内>との言質を前原外相に与えた翌日、中国がレアアース禁輸措置に言及した。すると、件の船長が釈放される。財界から政府へ懇請があったのかもしれない。

 人民元切り下げをめぐり対中制裁法案が下院に提出されるなど緊張が高まる米中だが、自動車産業など既に緊密な関係を築いた分野も多い。腹黒い両国のこと、表面の対決ムードに目をやっていると、足をすくわれかねない。尖閣諸島問題は螺旋状にねじれながら、普天間と繋がっている。

 「告白」(中島哲也監督)を先日、池袋で見た。同監督の「嫌われ松子の一生」には遊び心も窺えたが、「告白」は息つく間もない正攻法のエンターテインメントで、心をスパッと抉られた。原作(湊かなえ著)はベストセラーで、映画もヒットした。内容をご存じの方も多いはずなので、ネタバレありで記したい。

 終業式の日(3月下旬)、1年B組担任の森口悠子(松たか子)は衝撃の事実を告げる。自らの娘愛美を殺した2人の生徒を名指しして、警察には通報しない旨を伝えた。

 少年たちはいかにして自らの行為を償い、命の意味を噛みしめるべきか……。<罪と罰>の重いテーマをクラスに突き付け、悠子は学校を去る。2学期の始業式まで5カ月、教室の喧騒と熱は膨張していく。新担任の寺田(通称ウェルテル/岡田将生)の熱血が逆効果となり、空気は狂気の色を帯びてくる。

 主犯の修哉は三島由紀夫の小説に登場しそうなデモニッシュな少年だ。愛に飢える早熟の天才は、善ではなく悪に魅入られる。悠子の内側でも、愛が育んだ憎しみによって悪魔が目覚めた。ラストの悠子の歪んだ笑みに、息をのんだ人も多いだろう。

 深夜の舗道、悠子が蹲って咽び泣く印象的なシーンは、映画独自のものという。相前後して流れたのが主題歌「ラスト・フラワーズ」(レディオヘッド)で、静謐でダウナーな同曲は映像に怖いほどマッチしていた。

 悠子や修哉ほど宿命的な構図に組み込まれてはいないにせよ、人は誰しも喪失、絶望、孤独を背負って生き、同時にささやかな嘘、裏切り、不誠実を繰り返している。復讐譚といえる「告白」だが、勧善懲悪の薄っぺらさとは無縁で、負の感情や行為を重ねてきた俺の心にズシリと響くテーマを秘めている。

 ストーリーの進行を加速するのは、未成熟な人間には毒にしかならないネットやメールだ。IT時代、日本の悪しき伝統といわれる集団への埋没、排除の論理、強者への屈服は若い世代に確実に浸透している。B組の異様な光景は、日本社会の縮図ともいえるだろう。

 松たか子の存在感、「重力ピエロ」における悪魔的青年と真逆の個性を演じた岡田将生、共犯少年の母を演じた木村佳乃に加え、修哉役の西井幸人、美月役の橋本愛も光っていた。

 これまたヒット作の「悪人」を近日中に見る予定だ。映画と読書に浸る日々は続く。
コメント (6)
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