酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「グローバリズム出づる処の殺人者より」~インドの真実に迫る傑作

2009-05-09 02:46:55 | 読書
 「パンデミック」は既に'09流行語大賞の有力候補だが、世界の誰より早く流布させたのは辺見庸氏だ。2月に放映された「ETV特集~しのびよる破局のなかで」で辺見氏は、現在の危機を象徴するキーワードとして繰り返し用いていた。

 先の帰省中、「グローバリズム出づる処の殺人者より」 (文藝春秋)を読んだ。世界を席巻するインド系作家のひとり、アラヴィンド・アディガの処女作にしてブッカー賞受賞作で,「スラムドッグ$ミリオネア」に感銘を受けた人にお薦めの小説だ。本作の語り部バルラム≒ジャマール(「スラムドッグ――」の主人公)と想定して読めば、インド社会の真実が浮き上がってくる。

 殺人によって起業家になるチャンスを得た下層カーストのバルラムが、中国の温家宝首相に半生を綴った手紙を送るという奇抜な設定が用意されている。その語り口は自虐的かつシニカルで、ユーモアと皮肉に溢れている。「うち(インド)もひどいですが、お宅(中国)も似たようなものでしょうね」という論調だ。

 行政機構と警察の腐敗、絶望的な格差、残存するカースト制、はびこる拝金主義と暴力……。描き出される21世紀のインドは闇が濃く、<インドで過ごせば人生観が変わる>といった常套句を、著者は外国人のたわ言と嘲笑していた。

 魯迅は「阿Q正伝」で中国大衆の奴隷根性を抉ったが、アディガは99・9%の大衆がわずか0・1%の支配層に隷属するインド社会を「鶏籠」に譬えていた。バルラムのように殺人を犯し、報復としての家族惨殺を覚悟した者こそが「鶏籠」から逃げ出せるのだ。

 <「きみは人間か悪魔か?」 あなた(温首相)にそう訊かれたら――どちらでもでもない、とわたしは答えます。わたしは目覚めていて、あなたがたはまだ眠っている>……。ラスト近くのこの記述はなかなか刺激的で、共産党一党支配に縛られる中国への揶揄とも受け取れるが、「スラムドッグ――」と重ね合わせると、別の側面も見えてくる。

 インド社会では、下層カーストや貧困層の命の値段はゼロに近い。そのような仕組みに置かれたジャマールとバルラムは、這い上がるために犯した罪を悔いることはない。日本人のヒューマニズム、良心、死生観がインドの現実と相容れないことを、二つの傑作によって知ることが出来た。

 話はコロッと変わる。「グローバリズム――」の舞台バンガロールにちなんで名付けたのが、俺のPOG馬だった。馬のバンガロールは単勝1・7倍に支持されたマーガレットSで4着に終わり、NHKマイルC出走は叶わなかった。気合はゼロに近いが、④と⑯を軸に②⑦⑮を絡めて、馬連と3連単で少額買うつもりだ。




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