酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「新幹線大爆破」~二人の健さんが奏でるエンターテインメント

2009-01-08 00:59:47 | 映画、ドラマ
 ユダヤ原理主義国家イスラエルが連日ガザを攻撃している。被害が国連学校に及んだことで国際世論に配慮したアメリカは、エジプトの調停案を支持する姿勢を表明した。

 和平を求める声が強まっているが、イスラエルは蛮行を継続するようだ。ホロコーストの被害者はトラウマの刃を反転させ、盟友アメリカと並ぶテロ国家の顔をむき出しにしている。

 テロリズムとは<暴力と恐怖で人々の行動を制限、支配すること>で、政治思想に基づかない行為も含まれる。広義のテロリズムを最初に扱った邦画は、先日WOWOWで放映された「新幹線大爆破」(75年、佐藤純彌)かもしれない。壮大なスケールを誇る娯楽作だが、興行的には失敗した。

 「スピード」(94年)公開時、本作との共通点が幾つも指摘された。両作は「暴走機関車」の脚本(黒澤明執筆)を親に持つ“兄弟”だから、似ているのは当然だ。「ヒート」(95年)のラストは「新幹線大爆破」にインスパイアされたのではないか。

 佐藤監督は60~70年代、左翼性を滲ませた映画を世に問うてきた。「組織暴力」、「暴力団再武装」、「実録安藤組 襲撃篇」などで、組合運動や新左翼へのシンパシーをヤクザの抗争に仮託して描いている。佐藤にとって前半期の集大成というべき本作のストーリーを簡単に記したい。
 
 東京発博多行きひかり109号に爆弾を仕掛けたとの電話が入る。80㌔以下にスピードを落とすと爆発する仕組みは貨物列車で実証済みで、1500人の命を守るため警察、国鉄の合同チームが立ち上げられる。前方で事故車が発生して対向車線に切り替えるなど、アクシデントが109号を次々襲う。産気づいた妊婦もいる車内は、パニック状態に陥っていく。

 特殊な爆弾を作ったのは、破産した工場主の沖田(高倉健)だ。元左翼活動家の古賀(山本圭)、天涯孤独の大城(織田あきら)との交遊で、私憤が義憤に拡大していく。完璧に思えた沖田の作戦だが、想定外の連続で破綻が生じてくる。

 ストーリーが進むにつれ、倉持指令室長(宇津井健)の存在感が増していく。109号をゼロ地点(山口の田園地帯)で爆破させるという政府決定、人命より犯人検挙を優先させる警察の方針に怒りを覚える倉持は、佐藤監督の心情と重なっている。表の高倉健と裏の宇津井健……。違った味の二人の健さんが本作を支えていた。

 タイプスリップしながら30年ぶりの再会を楽しんだ。国鉄は公開当時、赤字拡大とスト権ストで世間の冷たい視線を浴びていた。捜査陣の圧倒的な力量は、<後藤田正晴―佐々淳行ライン>による公安警察強化の反映だろう。リメークを望む声も強いが、ネットと携帯が幅を利かす現在に置き換え可能だろうか。

 本作以降、佐藤は邦画界を代表するヒットメーカーになり、高倉健は国民的スターに登り詰めた。「新幹線大爆破」は両者にとって過渡期の作品で、“埋もれた名作”といえるだろう。


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