酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ミューズat東京~進化する孤高のバンド

2007-03-14 03:11:06 | 音楽
 11日(スタジオコースト)と12日(東京国際フォーラム)、ミューズのライブを堪能した。01、04年に続き3度目で、今回は台湾、韓国を含むアジアツアーの一環である。

 ブリットアワードでベストライブアクト、NMEでUKベストバンドに選出されるなど、07年に入って吉報が続くミューズだが、最大の栄誉は「イングランドの魂」ウェンブリースタジアムのこけら落としに指名されたことだろう。数万枚のチケットを40分足らずでソールドアウトにし、同場所で追加公演を行う。仏伊でも同規模の単独ギグが予定され、多くの夏フェスでメーンアクトを務めるなど、欧州全域で<ミューズ・シンドローム>が進行中だ。

 日本での盛り上がりがいまひとつなのは、大阪、福岡、名古屋のチケットが残っている(14日午前2時現在)ことが物語っている。<濃密なレディオヘッド>、<メタリックな様式美>、<ヘビーロックとクラシカルな旋律との融合>、<ニューウェーブの正統な継承者>、<21世紀のプログレ>……。それぞれのキャッチフレーズは確かにミューズの一部分を捉えている。だからこそ、分類好きでセクト的な日本のロックファンの目に、「ヌエ」のようなバンドと映るのだろう。

 前置きが長くなったが、まずはスタジオコーストのライブから。ステージ前では凄絶なモッシュが起きていたようで、後方で構えていた俺の近くで、息も絶え絶えにへたり込む女性もいた。初期の彼らに匂ったスノビズムやナルシズムは影を潜め、ジャム、あるいはブレーク以前のニルヴァーナのように、硬質でパンキッシュなパフォーマンスに徹していた。

 スタジオコーストのセットリストは初日と2日目で大きく異なっていたが、国際フォーラムではコンセプトを丸ごと変え、別の貌でギグに臨んでいた。“Sing For absolution”、“Feelng Good”、“Bliss”など前日演奏しなかった曲で、抒情的な空間を作り上げていく。ライティングや映像とのコラボも完璧で、ミューズの紡ぐイリュージョンに頬を拭うファンもいた。俺もまた、繊細で美しいメランコリアに陶然と立ち尽くしていた。ロックの魅力は最大瞬間風速かつ微分係数だが、ミューズはデビュー以来、<刹那的切なさ>を失っていない。
 
 今回のツアーで感じたのは、マシューのボーカリストとしての成長だ。声量や伸びでは及ばないが、総合力でボノ(U2)の牙城に迫りつつある。ギターとキーボードを自由自在に操る天才マシューを、クリス(ベース)とドミニク(ドラム)のリズム隊がしっかりと支えていた。

 セットリストの中心は4th“Black Hole And Revelations”の収録曲だった。それぞれの骨格を呑み込んでライブに参加したが、凝縮したものが溶け、心身に広がるような快感を味わえた。ミューズの楽曲はライブにおいて完成するといえるだろう。4thでミューズは、新たな領域に踏み込んでいる。“Invincible”に合わせて流れた映像は、変革のため立ち上がった人たちだった。“Assassin”(暗殺者)では「破壊せよ、悪魔の民主主義」とブッシュ政権を攻撃し、「皆で隠れて力を合わせよう」と呼びかけている。東京3DAYSの掉尾を飾った“Knights Of Cydonia”はボブ・マーリーの「ゲットアップ、スタンダップ」の本歌取りといえ、スクリーンに映った“you and I must fight for our rights”の歌詞を、若者たちが大合唱していた。ラディカルなメッセージを掲げたミューズは、メジャーアーティストとして異質な存在になりつつある。

 素晴らしいライブの直後に言うのもおかしな話だが、ミューズの本領は屋外において発揮されると思う。グラストンベリー'04での神々しい瞬間が証明したように、数万の観衆、開かれた空間と闇、カラフルなライティングこそ、ミューズが最も輝く場所である。フジロック'07初日、多くのファンが至高のライブを体感されることを願う。

 と、人ごとのように書いたが、「キュアーがフジロック'07参戦」という衝撃の情報がネット上を駆け巡っている。ミューズは自他共に認める<キュアー・チルドレン>だし、トム・ヨーク(レディオヘッド)はキュアーに絶対的な敬意を払っている。トリがミューズ⇒レディオヘッド⇒キュアーの流れになれば、俺もフジに行くしかない。

 そこは人騒がせのロバート・スミスのこと、フジといっても、「富士スピードウェイ」(ウドー主催)の可能性も否定できないのだが……。

 <追記・訂正> まずはウェンブリーの件。スタジアムの公式サイトで大々的に公表されたにもかかわらず、今月に入り、G・マイケルがミューズの直前にブッキングされたらしい。背景にはいろいろなことがあるのだろう。キュアーのフジロックが決定した。27日とのこと。ミューズが27日のトリという情報を信じて書いてしまったが、ガセだったのかもしれない。2日目以降にずれる可能性もあるが、ミューズ⇒キュアーの流れなら、1日券で済むのでラッキーだけど。
コメント (6)
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